今秋、生誕100周年となる三島由紀夫。それを記念して音楽とバレエのコラボレーションによる「フィリップ・グラス『MISHIMA』―オーケストラとバレエの饗宴―」が開催される。横尾忠則による美術を背景に、現代を代表するアーティストたちが集結。フィリップ・グラスが音楽を担当した映画『MISHIMA』の楽曲を中心に、ピアニスト滑川真希が「ピアノとオーケストラのための協奏曲『Mishima』」を演奏する他、バレエダンサー上野水香が新作を踊り、ヴァイオリニスト 川井郁子が「アメリカン・フォー・シーズンズ」を奏でる。滑川・上野・川井は、それぞれどんな“三島観”を持っているのか。
滑川「外国に長く滞在することなく、島国の日本に生まれ育った三島由紀夫が、海外の言語・文化、そして芸術を崇高なレベルで習得し深く理解していたことに圧倒されます。そして日本の美しき文化や精神を、如何に後世に受け継ぐべきかを真摯に受け止め活動していた点においてパイオニア的存在でした」
上野「三島さんとの接点といえばベジャールの『M』ですが、公演の度に三島さんの存在を再認識します。『M』で私が踊るのは男勝りな“女”。まだ日本の女性が控えめだった時代に、三島さんは自立した強い“女”を書かれていたようですね」
川井「強烈な男性らしいイメージと同時に、作品には女性への深い洞察と共感を感じます。また、品位の高い世界と人間の本能的な泥臭さが両立しているのも魅力ですね」
本公演では三島と親交のあった横尾忠則が美術を担当。
滑川「横尾作品に登場する三島由紀夫は非常に生々しくて人間くさく、眼を閉じれば彼の匂いさえ漂ってきそうで鼓動が速まります。フィリップ・グラスの衣を纏わないストレートな表現の『Mishima』と、三島が賛美した横尾忠則の“三島由紀夫”のコラボレーションは世界でも稀に見る電撃的なものとなるに違いないでしょう」
上野「横尾さんとは以前、対談の機会をいただきまして、三島さんとの貴重なお話をたくさん聞かせてもらったんです。『M』で三島さんの“美”のアイコンをモチーフにポスターのデザインもされていて、それがとても素敵でした」
川井「横尾作品には三島作品に繋がる、両極の要素が混在しつつ、深い印象を残す魅力を感じます。強烈な印象と、内省的な深さの両方をいつも感じます」
それぞれの世界で突出した才能が三島由紀夫を軸にせめぎ合う、そんな公演になるだろう。
(取材・文:渡部晋也 撮影:平賀正明(上野水香のみ))
プロフィール
滑川真希(なめかわ・まき)
長く海外を拠点に演奏活動やピアノの指導を行う。室内楽奏者として世界中の音楽ホールや音楽祭などで現代作品を演奏し注目を集める。また、作曲家 フィリップ・グラス作品を数多く演奏していることでも知られている。
上野水香(うえの・みずか)
5歳でバレエを始め、ローザンヌ国際バレエコンクールでスカラシップ賞を受賞し、モナコのアカデミーに留学。2004年、東京バレエ団にプリンシパルとして入団。モーリス・ベジャールから直接指導を受けて『ボレロ』を踊ることを許された世界でも数少ないダンサーの1人。2022年に芸術選
奨文部科学大臣賞、2023年秋に紫綬褒章を受章。
川井郁子(かわい・いくこ)
国内外の主要オーケストラをはじめ、指揮者 チョン・ミョンフンやテノール歌手 ホセ・カレーラスなど、世界的音楽家たちと共演。さらにバレエダンサー ファルフ・ルジマトフや熊川哲也、フィギュアスケーター 荒川静香らとも共演。ジャンルを超えた音楽世界を創り上げている。
公演情報
三島由紀夫生誕100周年記念 フィリップ・グラス 『MISHIMA』―オーケストラとバレエの饗宴―
日:2025年11月14日(金)19:00開演(18:00開場)
場:東京オペラシティコンサートホール
料:SS席11,000円 S席9,000円 A席7,000円(全席指定・特製パンフレット付・税込)
HP:https://classics-festival.com/rc/performance/mishima-2025/
問:パシフィックコンサートマネジメント
tel.03-3552-3831(平日10:00~18:00)