野外劇場で誕生し、スロベニアを経て、この冬凱旋公演へ 金森穣の生きる価値観が図らずも出ている。そんな作品だと思う

 Noism Company Niigataがこの冬、金森穣演出振付『マレビトの歌』を改訂再演する。初演は2023年の黒部シアターで、創作の発端を金森穣と井関佐和子はこう振り返る。

井関「Noism 初の野外公演でした。初演の前年、黒部へ下見に行ったら、穣さんが突然『見えた』と言い出して……」

金森「黒部シアターは緑の丘と黒い舞台の境界がはっきりしていて、彼岸と此岸のようだった。その境界をどう捉えるか、そこから創作に取りかかりました」

 主題にあるのは、“彼岸と此岸”、“個と集団”。他界から訪れる“マレビト”を介し、作品は展開していく。舞踊家たちの集団の中で、井関は1人異質な者として舞台に立つ。

金森「集団の中に佐和子が1人来訪する。彼女がどの視座で来るかが大事だから、まず集団を創る必要がありました。完璧な何かを創って、全く関係のないものをぽんと放り込んだ時、何が起こるか。そこでおっ!と思うのが、演出家の楽しみでもあって」

井関「みんなはどんどん振付が決まっていくのに、私1人決まらない。私はどんな存在なのか、穣さんに聞いても『俺もわからないから』と放置され続けて。あれは焦りましたね(笑)」

 装飾は一切省き、身体性に特化。強靱な作品ができたと話す。

金森「使用したアルヴォ・ペルトの曲は宗教音楽で、それは詩編でもある。だから抽象度も含め、作品がポエティック。金森穣にとって何が大事なのかという精神性や、どういう価値観に生きているか、それが図らずも作品に出ていると思う」

井関「物語はないけれど、シーンごとにいろいろなテーマが隠されていて、踊っていると毎回違うテーマが出てくるんです。それは自分自身のその時の気持ちだったりするのだけれど。すごく深い作品だなと思います」

 初演に続き、この夏に利賀村の「SCOT サマー・シーズン」で再演を行い、秋はスロベニアのダンスフェスティバルでの上演が控えている。新潟・埼玉ツアーは凱旋公演という位置づけで、金森も舞踊家として踊る。

金森「初演の時からいいものができた手応えがあった。ただ黒部は野外、利賀は合掌造りの日本家屋が舞台だったので、今度は新たに劇場版を創ることになる。スロベニアで得たものを踏まえ、どんなものができるのか」

井関「上演を重ねどんどん良くなっているのを感じるし、スロベニアでまた変わるはず。舞踊家の内面が確実に変わっていて、その最終形を凱旋公演でお見せできるのはすごく嬉しいですね」

(取材・文:小野寺悦子 撮影:NORI)

11/4は「いい推しの日」。あなたの推しを教えてください(人に限らず)

金森穣さん
「推しの“場所”になりますが、富山県南砺市にある利賀村ですね。山奥にある小さな村で、そこに舞台芸術公園があって、毎年夏に舞台芸術フェスティバルが開催されています。舞台芸術の聖地として世界中から人が集まる利賀村で、新しい日本(忘れられた日本)を発見できると思います」

井関佐和子さん
「“ノンフライヤー”。私の今の推しです。若い頃から揚げ物が大好きなのですが、年齢的にも身体的にも油が気になり始めたときに出会いました。ご褒美に大好きなポテトフライを食べても、軽くて美味しいし、揚げ物以外でも野菜やお肉を調理できるので、今では毎日のように使っています! 後片付けも楽ですし、本当にオススメです」

プロフィール

金森 穣(かなもり・じょう)
Noism Company Niigata芸術総監督。演出振付家・舞踊家。17歳で単身渡欧、モーリス・ベジャール等に師事。ルードラ・ベジャール・ローザンヌ在学中から創作を始め、NDT2在籍中に演出振付家デビュー。2004年4月、りゅーとぴあ舞踊部門芸術監督に就任し、日本初の公共劇場専属舞踊団Noism を立ち上げる。平成19年度芸術選奨文部科学大臣賞、平成20年度新潟日報文化賞、第60回毎日芸術賞、第42回橘秋子賞ほか受賞歴多数。令和3年紫綬褒章受章。

井関佐和子(いせき・さわこ)
Noism Company Niigata国際活動部門芸術監督/Noism0。3歳より一の宮咲子に師事。16歳で渡欧。スイス・チューリッヒ国立バレエ学校を経て、ルードラ・ベジャール・ローザンヌにてモーリス・ベジャール等に師事。NDT2、クルベルグ・バレエを経て、2004年4月にNoismの結成メンバーとなる。2022年9月よりNoi sm Company Niigata 国際活動部門芸術監督に就任。第38回ニムラ舞踊賞、第71回芸術選奨文部科学大臣賞受賞。

公演情報

Noism0+Noism1『マレビトの歌』

日:2025年12月20日(土)・21日(日) ※他、新潟公演あり
場:彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
料:一般6,000円 U25[25歳以下]3,000円 ※要身分証明書提示(全席指定・税込)
HP:https://noism.jp
問:SAFチケットセンター
  tel.0570-064-939(10:00~18:00/休館日除く)

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