人気脚本家・羽原大介が描く、夢を諦めなかった人たちの物語 戦後の東京を舞台にした「元気になって劇場を後にしてもらえる芝居」

人気脚本家・羽原大介が描く、夢を諦めなかった人たちの物語 戦後の東京を舞台にした「元気になって劇場を後にしてもらえる芝居」

 劇作家・脚本家・演出家の羽原大介による演劇ユニット・羽原組の最新作 戦後80年スペシャル『星の流れに』が11月18日から赤坂レッドシアターで上演される。
 昭和23年の東京上野を舞台にした本作は、誰もが生きるのに必死だった戦後に、着る物も食べる物も住む家も失った絶望のどん底で、夢をあきらめなかった人たちの姿を描く。
 作・演出を務める羽原大介に本作に込めた想いを聞いた。


―――戦後80年スペシャルと銘打たれた本作ですが、どのような思いから企画、執筆された作品なのでしょうか?

 「そもそも、戦争を題材とした作品は意識が高いものだと思っています。変な嘘もつけないし、しっかりと調べて準備しなくてはいけない。なので、これまであまりやってこなかったのですが、たまたま今年、松竹さんのお芝居で、戦時中、正式には記録に残っていない甲子園の物語を書かせていただくことになり、戦時中の高校野球のこと、庶民の暮らしなどを調べていくうちに、自分のところでもやってみようと。今回の芝居は戦後の話ですが、終戦直後の日本人が何を想い、どんな暮らしをしていたのか、1から調べて作ろうと思いました」

―――戦争のお話はこれまであまりやってこなかったということですが、それはさまざまな思いを抱えていらっしゃる方がいるから気軽にできるものではないということですか?

 「襟を正して取り組まなければいけないものだという思いが自分の中にあります。普段よりもギアを上げなくてはいけないなと。それに、原爆投下の是非についてもそうですし、終戦のタイミングもそうですが、いろいろな解釈の仕方がある。誰から見ても嘘のないお芝居にするためには、どのスタンスに立って物語を作れば良いのか。最終的には自分のジャッジで戦争観を描くことになりますが、そうした意味でも、一つひとつのセリフにすごく神経を使います」

―――そうした中でも、戦時中や戦後の時代を描くことの意義や大切さを感じているからこそ本作を書かれたのですね。

 「松竹の作品もこの作品もそうですが、書きながら切に戦争の体験、あるいは戦後の体験を語り継いでいかなければいけないと感じますし、2度と繰り返してはいけないというメッセージを届けなければいけないなと思います」

―――本作を通して、どんなことを観客に伝えていきたいですか?

 「戦争を描くとき、悲しいばかりの話でもいけないし、説教くさく、歴史の授業のような話でもつまらないと僕は思います。チケットを買って観に来てくださるお客さまに『面白い芝居だったね』と言ってもらえるエンターテインメントの中に、『戦争を繰り返してはいけない』というメッセージを忍び込ませられたらと考えています。戦争で被害に遭った話、悲しい話ばかりでは元気が出る芝居にはならない。羽原組で芝居をやるときは、観に来てくださったお客さまが、明日からまた頑張ろうと元気になって劇場を後にしてもらえる芝居を作りたい。経済的にも政治的にも明るいニュースが少ない現代でも諦めないで頑張っていこうと思っていただけたら嬉しいです」

―――今回、主人公の渚を惣田紗莉渚さんが演じられます。惣田さんにはどのような期待がありますか?

 「惣田さんとは数年前に新橋演舞場で上演された『未来記の番人』というお芝居でご一緒しています。僕はそのとき、シナリオを書かせてもらって、そのヒロインが惣田さんだったんです。稽古場も本番ももちろん観に行って、すごく好印象だったので、今回、お願いしました。ストレートに感情をぶつけてくれるようなお芝居が魅力的で、いつかぜひもう一度ご一緒したいと思っていたのですが、今回、戦後80年スペシャルのタイミングでお願いさせていただきました」

―――渚というキャラクターは惣田さんのイメージと合致するところがあったのですか?

 「惣田さんに限らず、お客さまの目線というか等身大のキャラクターが戦争という大きな事件に巻き込まれ、戦後の大変な日常を過ごしていくさまを、庶民の目線で描きたいという思いがありました。惣田さんが演じる主人公・渚に感情移入して観ていただけたらとても嬉しいです」

―――そのほかのキャストの皆さん、今回のカンパニーについてはいかがですか?

 「半分くらいは、前作の舞台『フラガール’23』に出演してくれた仲間で、残りが今回、オーディションを受けてくださったメンバーです。『フラガール’23』は昭和39年から40年の福島県が舞台で、ある意味“時代劇”でもありましたが、今回はさらにそこから20年ほど前の昭和23年ごろの話になるので、出演者のみんなが私の台本をどう解釈し、戦後の日本人として舞台上で生き、演じてくれるのか楽しみです」

―――キャストさんの半分はオーディションということですが、 オーディションではどのようなところをご覧になったのですか?

 「今回は、お芝居とダンス、簡単な面談も行わせていただきました。過去にご一緒して今回もご一緒していただけるメンバーにはない個性が集まってくれたと思っています」

―――演出面では、今はどのようにお考えですか?

 「シナリオ執筆段階で、戦争・戦後については相当な時間をかけて調べて、一度書き上げてからも何度も推敲し、書き直してはまた考え、この場面をもっと膨らまそうとか、減らそうとか、削ってみようということを繰り返しています。ダンスシーンも多いのですが、その選曲も、戦後の歌謡を邦楽洋楽含めてさまざまなものを聞いて選びました。ですが、実際に稽古に入り、生の人間に演じてもらったり踊ってもらったりすると、イメージが変わったり、膨らんだりすると思うので、どうなるのか楽しみにしています。ただし、小劇場の上演時間はできるだけ2時間以内に収めたいので、どこかをプラスしたらどこかを削るようにして、時間配分も調整しながらみんなで作っていきたいと思っています」

―――資料を調べたり、過去に実際に起こったことに照らし合わせたりしながら、物語を作るというところを大切にされていらっしゃるのですね。

 「お話自体は、私自身がいろいろな手記・体験談・映像資料を吸収して学び、その上でフィクションの物語を書かせてもらったのですが、どのエピソードも戦後の日本で実際に起きた現実に限りなく近いことばかりで構成されているので、“嘘のない戦後”をストレートにお客さまに届けられたらと思っています」

―――その“嘘のない戦後”中にも勇気や希望が描かれているというのが本作の素敵なところだと思います。戦後、戦中を描くとどうしても暗い方向にいきがちなので。

 「それは1番意識したところです。辛い話、苦しい話の戦争作品はいくらでもありますし、それはそれで面白いし、必要だとも思うのですが、もう一捻りして、明るいキャラクターを乗せて伝えようとか、話が辛くてどん詰まりになったところは派手な音楽と派手な踊りで一気に場の空気を変えて、次の展開に渡していこうということを意識しています」

―――では、前に進もうと力強く生きる人物が描かれた本作ですが、羽原さんにとっての前に進む原動力は何ですか?

 「私が1番情熱を注げるのが小劇場です。私の本業はドラマや映画のシナリオライターで、主な生活の糧はそちらから得ていていますし、小劇場というのはなかなか経済とはリンクしていないですが、自分の作家活動の軸は小劇場にあるのだと思います。自分で書いて、演出して、演じてもらって、その反応が直(じか)に返ってくる。それを小さな劇場の中で体験できるというのは私にとってとても大きなものです。この作品に限らず、毎度、私自身が一番羽原組の公演を楽しみにしていますし、気合いも入ります。その分、疲れるのですが(笑)」

―――やはり映像と小劇場は違いますか?

 「映像や商業演劇は、分業が行き届いているので。小劇場では、予算的にも空間的にも衣裳や美術にあまり力を入れることができませんが、映像や商業演劇では、美術や装置、衣裳にも力を入れていて、それでイメージが変わるということもあります。一方で、俳優部の熱量が1番、真っ直ぐに届くのが小劇場の魅力だと思っています。私自身、つかこうへいの現場育ちということもあって、そうした現場が好きなんです」

―――最後に改めて読者にメッセージをお願いします。

 「終戦80周年の今年、戦争の作品は巷に溢れていると思いますが、また一味違う復員兵・GHQに頭が上がらない刑事・野戦病院にトラウマを抱える医者・パンパンと呼ばれた女性達が、必死に生きる七転八倒の物語をお届けできると思うので、ぜひ劇場に足を運んでください」

(取材・文&撮影:嶋田真己)

プロフィール

羽原大介(はばら・だいすけ)
鳥取県出身。日本大学芸術学部文芸学科を卒業後、芸能プロダクションでタレントのマネージャーとなる。その後、つかこうへい事務所で運転手や裏方として働く。1992年に脚本家としてデビュー。日本アカデミー賞優秀脚本賞では2006年に『パッチギ!』が優秀賞、2007年には『フラガール』が最優秀賞を受賞。テレビではNHK連続テレビ小説『マッサン』『ちむどんどん』、テレビ朝日『黒革の手帖』『白い巨塔』など執筆。現在は演劇ユニット「羽原組」主宰。

公演情報

羽原組 戦後80年スペシャル『星の流れに』

日:2025年11月18日(火)~24日(月・振休) 場:赤坂RED/THEATER
料:5,800円 公開ゲネ[11/18 14:00]5,000円(全席指定・税込)
HP:https://www.team-habara.com
問:羽原組 mail:team.habara@gmail.com

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