時代を超えて愛される昭和の人情コメディ 久々の舞台化決定! OSKのスターが“なにわ最強の猫”に!? 「かけがえのない場所で思い切り暴れたい」

 1978年に誕生してから今もなお愛される人気漫画『じゃりン子チエ』。昭和の大阪を舞台に、ホルモン焼き屋を切り盛りする小学5年生の女の子 チエと、不器用ながらも明るい家族、彼らを見守る周囲の人たちが繰り広げる人情コメディだ。その『じゃりン子チエ』に登場する人気キャラクター、チエの飼い猫・小鉄を、OSK日本歌劇団特別専科の桐生麻耶が演じるということで、ネットでは早くも「猫がイケメンすぎる」と話題に。また本作が上演される大阪松竹座は、桐生にとって強い思い入れのある劇場とのこと。かけがえのない場所で、一体どんな“ひと暴れ”を目論んでいるのか、今の想いを聞いた。


―――桐生さんから見た『じゃりン子チエ』という作品の魅力について教えてください。

 「時代的にすごく人情味がある。人と人が関わらざるを得ない時代だったと思うので、そういうのが懐かしい感じがしますね。人間のいわゆる根本的な部分っていうのが、『じゃりン子チエ』にはあるんじゃないかと思います」

―――『じゃりン子チエ』は、大阪が舞台の物語です。桐生さんは栃木県のご出身ですが、大阪での生活もだいぶ長いですよね。

 「阪神淡路大震災があった年の4月に学校(当時のOSK付属の養成機関・日本歌劇学校)に入学しているので……1995年ですか! 怖っ!(笑) もともと大阪に行きたいという願望があったので、大阪が舞台の作品に携われるというのはすごく嬉しいです」

―――大阪のどういうところに魅力を感じていらっしゃったんですか?

 「人。とにかく人です。温かいというか、よくおせっかいとかいう風に言われることもあるかと思うんですけど、とにかく人のことを放っとかない。そういうところがとても好きです」

―――「猫の小鉄役で」とオファーを受けた時はどう思いましたか。

 「最初はどういう風に演じればいいんだろうと思ったんですけど、アニメを観ていくうちに、なるほどなって思う部分もあったりして。“小鉄はイメージ的に桐生さんだってなった”っていう話をお聞きして、ちょっとわかるところもあるかなと」

※小鉄は野良猫界隈では有名な侠客猫だったが、いまは飼い猫となってチエを守り、チエが切り盛りするホルモン焼屋の手伝いもしている。

―――小鉄は「なにわ最強の猫」なんですよね。

 「そうですよね! そう思うと“小鉄はイメージ的に桐生さんだ”って、おかしいですよね。喜んでいいんだか、なんなんだか。原作のファンの方に“小鉄はそうじゃないだろう”って言われないように、ちゃんと役作りをしていかないとなって思います。
 絶対変顔しようとは決めてるんです! OSKの舞台では難しいことをやろうと。誰も観ていない端っこでもやってやろうと思ってます。邪魔にならない程度にね。それは楽しみです」

―――『じゃりン子チエ』の世界観は、今の若い方の目には逆に新鮮に映る気がします。

 「そうかもしれませんね。私、SNSにあまり詳しくないんですが、『じゃりン子チエ』の時代は、当然ですけど、そういうものが一切ないじゃないですか。そうなった時に、人と人との関わりが大事っていうメッセージになればいいなっていう思いはあります。
 『じゃりン子チエ』の時代は、辛いことが具体的ですよね。現代の人たちの辛さって、私の中で、フィルターにかけられている、みたいなイメージがあって。具体的じゃないんですよね。人対人じゃない。あやふやで、曖昧な気がするんです。何に対して傷ついているのかとか、何を突破していけばいいのかとか、具体的なことが見えない。だから今回、この作品を観てくれた人が、こんなストレートな時代もあったんだなって、擬似体験とまではいかなくても、面白おかしく体験してくれたらいいなって思います」

―――今回、桐生さんご自身が楽しみにされていることはなんでしょうか。

「外部に出演させていただく時にいつも思うんですけど、作品を創る取り組み方が歌劇とは違うので、そこが面白くて。あと、皆さんの役作りの仕方とか、そういうものを間近で見られるのは楽しみですね。キャラクターが濃い方たちが勢揃いなので、大人しくしておこうと思います」

―――大阪松竹座は、桐生さんにとって特別な思いのある劇場とうかがいました。

 「大阪松竹座があって、今の桐生麻耶がいる。本当にたくさんのことを教えてくれるお父さんみたいな場所です。『春のおどり』で松竹座の舞台を踏まなかったら、素敵な先生方、スタッフの方々、舞台を愛している松竹の方々には出会えませんでした。私を育ててくれる、かけがえのない場所ですね。
 (大阪松竹座は来年、2026年5月に閉館することになったが)私が他の劇団員より、今回の分だけ松竹座の舞台を多く踏ませていただけるというのは、なにか理由があるのではないかと思っているんです。松竹座は私の根っこの部分。舞台に立てるかどうかわからない時に手を差し伸べてくださった。毎年目標にしている劇場なので、思いっきり暴れないとなって思っています。OSKという劇団を知らない方もたくさん観にいらっしゃると思いますが、今回をきっかけに、OSKというものにも興味を持っていただけると嬉しいですね」

※「春のおどり」は、OSKにとって毎年恒例の名物公演。OSKは、親会社である近鉄の業績悪化に伴い、2003年に一時解散を余儀なくされたが、団員が自ら存続活動に奔走、2004年4月、大阪松竹座での66年ぶりの「春のおどり」公演復活を機に再出発した。

(取材・文:前田有貴 撮影:河西沙織)

プロフィール

桐生麻耶(きりゅう・あさや)
栃木県出身。1997年、OSK日本歌劇団に入団し、同年『上海夜想曲』で初舞台を踏む。2003年、劇団の存続危機の際は「OSK存続の会」メンバーの一員として尽力した。2004年、「New OSK日本歌劇団」旗揚げ以降、劇団の中心的役割を担う男役スターとして活躍。2018年8月にトップスターに就任。2021年の「春のおどり」をもって、特別専科に異動。2022年より、自身の出身地である栃木県真岡市のアンバサダーも務める。

公演情報

松竹創業130周年『じゃりン子チエ』

日:2025年11月15日(土)~25日(火)
場:大阪松竹座
料:1等席12,000円 2等席7,000円
  3等席3,000円(全席指定・税込)
HP:https://www.shochiku.co.jp/play/theater/shochikuza/
問:大阪松竹座 tel.06-6214-2211(10:00~17:30)

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