エレキチェロによるオリジナル独奏曲と、現代アートの共演 世界初の組み合わせによる、また新たなる宮沢賢治の世界

エレキチェロによるオリジナル独奏曲と、現代アートの共演 世界初の組み合わせによる、また新たなる宮沢賢治の世界

 スペイン、バルセロナを拠点に活躍する現代アート作家、九十九伸一。しっかりとした黒い線による抽象化された輪郭に、鮮やかな色彩が被さってくる独特の作風が非常に印象的な作品を多数発表している。

伸一「1980年にミラノに渡り、版画(エッチング)を主体に制作しましたが、エッチングの黒い線が物質を表現する上での元になっています。1986年にバルセロナにアトリエを移してからは油彩画が主体になりますが、スペインの色彩豊かな環境に影響を受け、色彩表現が充実しました。ミラノ時代の黒い線の立体的表現にバルセロナの色彩が加わり、現在の絵画作品に至っています」

 そんな彼の息子はチェリストである九十九太一。幼い頃からチェロの音色に惹かれ、演奏だけでなく作曲家としても実績を積み重ねている。

太一「3歳くらいでチェロの柔軟で温かい音色が好きになったようですが、生まれ育ったバルセロナはチェロ界の巨匠・カザルスの出身地でもあってチェロはメジャーですし、両親もクラシックや現代音楽が好きで、いつも音楽が流れていたので自然とチェロを手にすることになりました」

 さらに、ここ数年はエレキチェロを手にして活動を展開している。

太一「2018年からです。現代的で新しいチェロ独奏曲を作りたいと思って新たな可能性を模索していた時、バルセロナでエレキの弦楽器をオーダーメイドで作っている職人がいる事を知り、コンタクトを取りました」

 そんな2人が宮沢賢治の『セロ弾きのゴーシュ』をモチーフにして、アートと音楽のコラボレーション『GOSHU』を開催する。太一のエレキチェロ独奏曲に、伸一の作品によるデジタル紙芝居が共演する、ユニークなコンサートになる。

伸一「6作目の絵本を思案していた折、太一より宮沢賢治の『セロ弾きのゴーシュ』を提案されました」

太一「父から新たな絵本の話を聞いて思い浮かび上がったのは、以前から考えていた『セロ弾きのゴーシュ』の独奏曲を作る事でした。ようやく自分が求める独奏曲も生み出せる様になりましたので、挑戦を決めました」

 音楽とアートによって2人が表現する宮沢賢治の世界。そこには現代人が振り返るべき何かが描かれているようだ。

伸一「コロナやウクライナの戦争、地球規模の異常気象など、人間が原因でもたらす様々な出来事や現代人の傲慢に対して、宮沢賢治の思想哲学は重要なメッセージを伝えているような気がしています」

(取材・文:渡部晋也)

勝負の日に身に着ける、勝負色はありますか?

九十九伸一さん
「私は勝負する時に身に着ける色は特にありません。強いて言えば私の名字が『九十九』なので、『百』に一つ足りない……ということで『白』を選ぶ事があります」

九十九太一さん
「私の好きな色は『青(群青)』です。自分にとって勝負と言えばステージの上で演奏する事ですが、衣装も曲のイメージや会場の雰囲気に応じて様々な色の衣装を選ぶようにしています。クラシックのコンサートでは『黒』や『白』のスタンダードな衣装を着ますが、単独ライブでは、少し冒険的な色や形を選ぶこともあります」

プロフィール

九十九伸一(つくも・しんいち)
福岡県出身。1980年にミラノにアトリエを構え、メキシコ・プエブラ文化省の招待による「メキシコ国内巡回展」に参加。各地の美術館で個展。1986年、バルセロナに拠点を移し、彫刻家 エドゥアルド・チリーダ氏によってその作品が認められる。2001年、スペイン国際現代美術展ARCOにてフォアン・カルロス国王陛下の賞賛を受ける。以降スペインと日本を往復して作品を発表。各地で大規模な企画展を開催している。

九十九太一(つくも・たいち)
スペイン・バルセロナで生まれ育つ。幼少期からチェロの音色に興味を持ち、7歳でチェロを学び始め、12歳でカタルーニャ州立バルセロナ高等音楽院に入学。15歳から作曲とチェロを両立させながらチェロ界の巨匠、マルサル・セルベーラ氏、エンリコ・ディンド氏、ピーター・ティーマン氏に師事。2011年、バルセロナ・リセウ音楽大学チェロ科卒業。卒業リサイタルでオリジナル・チェロソロ曲を発表し異例の高評価を得る。西洋と東洋を融合させた神秘的なリズムとハーモニーを形而上的に組み込む音楽スタイルを中心に、自然や様々な時代の芸術作品からも刺激を受け、創作活動を続けている。

公演情報

九十九太一 GOSHU エレキチェロ・コンサート

日:2023年8月30日(水)14:30開演(14:00開場)
場:やまと芸術文化ホール サブホール
料:2,000円(全席自由・税込)
HP:https://www.s-tsukumo-kan.jp/
問:ギャラリーおがわ tel.046-267-0077(10:00~18:00/月火休)

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