永遠のマスターピースに挑む“見惚れる男”たち 演劇らしさを追求し、真髄に迫る舞台の幕が開く

永遠のマスターピースに挑む“見惚れる男”たち 演劇らしさを追求し、真髄に迫る舞台の幕が開く

劇作家・演出家。時には俳優としても活躍するキムラ真が主宰する劇団、ナイスコンプレックスには2本の作品ラインがある。ひとつはキムラの作・演出による作品群。そしてもう一つは既存の作品をキムラが演出するプロデュース公演という作品群。この夏、彼らは後者として『12人の怒れる男』の上演を予定している。12人の陪審員が集う部屋を舞台とする密室劇として、さらに法廷劇の代表作として知られるこの作品。実はもう4年連続の上演となる。彼らが最近手がけている演劇の枠を超えたエンターテインメントとも言える『YAhHoo!!!!』や人気の絵本を舞台化した『えんとつ町のプペル』といった作品からは対極とも言える名作を、4年間連続上演している意図はどこにあるのか。キムラ真と劇団員の濱仲太、赤眞秀輝、そして準劇団員の篠原麟太郎の3人に話を聞いた。


―――――『12人の怒れる男』は4年連続の上演になりますが、こうしたシリアスな作品を取り上げたきっかけを教えてください。

キムラ「ナイスコンプレックスでのプロデュース公演というのは良質な戯曲を取り上げる企画なのですが、そもそもウチは実際にあった出来事や事件をモチーフに、その根底にある人間愛を描き出す作風なんです。だから『12人の怒れる男』はとても自分たちらしい作品だと言えます。2018年にこの作品に取り組もうと思ったのは、いろんなジャンルの中で仕事をしていると、芝居が好きな役者と沢山出会います。イイ役者達と芝居だけにドップリと浸かれる期間を作りたいと思ったんです。当時は劇団の過渡期でもあって、これからはやりたいことをやろうと思い、濱仲に何がしたいか訊いたら『ストレートプレイをやりたい』と言ったんです。それで芝居が大好きな役者が集う場所を作ったんです。夏の暑い時期に2週間ドップリと」

―――――今までにも沢山上演されてきたこの作品を選んだ理由は?

キムラ「僕の翻訳台本で2時間。ワンシチュエーションでずっと役者も出突っ張り。そんな作品はなかなかありません。だからこそ観客も役者も芝居浸けになれる。“ザ・芝居”と言うべき作品だからでしょう。しかも今回で4度目ですが毎回新しい解釈が生まれるんです。大口を叩きますが、僕はこの作品を世界で一番読み込んでいる演出家だと思っています」

―――――濱仲さんと赤眞さんは初演から続けての出演で、篠原さんは今回初出演ですね。この作品に参加するそれぞれの気持ちを教えてください。

濱仲「同じストーリーでもメンバーが替わると変化するものですが、毎回とても濃いメンバーが集められていますし、しかも今回はさらに濃いメンバーになっていますから、もう大変です」

赤眞「1、2回目は比較的同じキャストだったのが、前回は2チームになって新たなメンバーも増えたのでだいぶ変化がありました。役者が変わった途端に、感じ方が全然違いますから。ゴールは同じなのだけどそこに行くまでが変わっていくようなものですね。それがまた楽しみでもあります。今回も同じ気持ちですね」

篠原「まだナイスコンプレックスの『12人の怒れる男』を観たことなかったですし、もともとの映画版も観てなかったので、今回探して観たのですが、自分が演じる陪審員2号は割と自分に似ているかなと思いました」

キムラ「彼が演じる陪審員2号はこんな話し方をするんです(笑)。篠原はまさに2号だなと思いまして」

―――――当て書きではないですけれど、登場人物のキャラクターに合わせた配役を決めたということですか。

キムラ「そういった部分もあります。物語ではまず反対意見を述べる8号が孤立して次に無罪に賛同するのが9号。そして6号、2号と続くんです。初演の時は僕が6号で出演していたので、たまたまですが劇団員から順に賛同するような流れになりました。劇団メンバー皆で濱仲を支えているようにも見えるかも知れないですね」

―――――その他にも個性の強いメンバーが揃いました。

キムラ「僕が一緒にやりたい人ということで選びましたが。なんといっても今回は上杉祥三さんが大きいですね。学生時代を釧路で過ごしていたのですが、釧路までなかなか演劇が来ることはないんです。だからビデオとかを取り寄せて沢山観ていました。そこに出演されていたのが上杉さんでした。若い役者達にとって、上杉さんとドップリ芝居できるなんて、良い刺激になるでしょう。あと初演からから参加していただいている声の出演の黒田崇矢さん。他の現場でご一緒したのがきっかけでお願いしたのですが、一番カッコイイ男の声だからというのが理由です。結局全員、一番カッコイイ男というのが選んだコンセプトですね。ビジュアルでも勝負していますね。」

―――――さて、この作品は殺人事件の裁判のために集められた12人の陪審員が登場人物です。それぞれの役柄と自分と比べてみた印象を教えてください。

濱仲「陪審員8号はまず最初に無罪を主張するわけですが、そこに確信がある訳ではなく、まだ疑う余地があるのではないかと考えてのことなんです。それに対して他の陪審員が凄く怒りながら迫ってきて、そこに立ち向かうわけですね。正直言うと素の自分は流されやすいので、彼の姿には格好良さを感じます。初演は必死でしたが回を重ねていくに従って役は充実してきました。それをまた乗り越えていくのが自分の課題ですね。いつも新たな8号を見せたいと思います」

赤眞「9号も8号に賛同しますが、同じく確信はありません。ただ賛同するだけというのは素の自分にも当てはまりますね。まあ9号というのはこの風貌のお陰でもありますけれど(笑)。でも回を重ねる毎に精神年齢が上がってきている気がします。普段も身体の不調とかね(笑)、ガタが相当来ていますから」

キムラ「赤眞さんは見た目と違って、新宿と池袋間をキックボードで移動したり、劇団の中でも一番身体が効くんです。9号は後半になると興奮してアクティブになるんですが、そんなギャップを表現できる面白さがあります」

篠原「2号は自分の意見を持っていないわけではないんですが、その場の雰囲気を見て動くんでしょうね。きっと気持ちは8号に近いところにあったんじゃないかと思います。言いたいことは一杯あるけどなかなか表現ができないというか。やっぱり似た部分はありますね」

―――――4回目ということで俳優の皆さんにとってもだいぶ掘り下げているようですね。もう定番レパートリーと言ってもいいのではないですか。

キムラ「ナイスコンプレックスの『12人の怒れる男』はそろそろブランド化し始めていると思います。実際に俳優事務所側からのオファーも増えていますし、良い役者も集まってきている……それが4年目の印象です。これが続いていくと『今年は誰が出演?』というような噂話が出回るようになるでしょう。役者によっては1年間頑張って、その成果をこの舞台で見せたいという人もいて、そういった言葉には助けられます。ある意味1年間の通信簿みたいなものですね」

―――――こういった作品が定番レパートリーになることは、劇団にとって大きな特色であり、同時に凄いパワーになる気がします。ありがとうございました。


(取材・文&撮影:渡部晋也)


プロフィール

キムラ真(きむら・まこと)
東北出身北海道育ち。
劇作家・演出家としてだけでなく俳優としても活躍。2007年にナイスコンプレックスを旗揚げ。以降、ほぼ全作品の脚本・演出を担当。俳優として出演することもある。演出家として多くの外部作品に参加している。特徴は「観る者を選ばないココロを動かす創造力」に特化している事。

濱仲 太(はまなか・ふとし)
東京都出身。
ナイスコンプレックス所属。劇団公演に2013年から客演を重ね、2016年3月に入団。その他、極上文學シリーズ、椿組『ドドンコ、ドドンコ、鬼が来た!』、舞台『黒薔薇アリス』などにも出演している。

赤眞秀輝(あかま・ひでき)
鹿児島県、奄美大島出身。
2010年、ナイスコンプレックスに客演、その後2012年に正式入団。以降の劇団作品に出演する他、極上文學シリーズや、teamキーチェーン 企画公演 無言劇『空蝉』、K-FARCE『キミはつらい時、大丈夫と言って笑う。』などの公演に出演している。年齢不詳の風貌から老人役が多いが、劇団主宰のキムラによれば劇団で一番身体が丈夫だとのこと。

篠原麟太郎(しのはら・りんたろう)
玉川学園芸術学部で声楽(バリトン)を学び、在学中にオーディションを通過して演奏会に出演。その後、舞台スタッフとして働きつつ、LIVEミュージカル演劇『チャージマン研!』のオーディションに合格、出演を果たす。ナイスコンプレックスの準劇団員として初出演。


公演情報

ナイスコンプレックス
ナイスコンプレックスプロデュース#6
12人の怒れる男~東京公演~

日:2021年8月12日 (木) ~15日 (日) 
場:赤坂RED/THEATER
料:Nシート[お土産付・前売のみ]10,000円
  一般席:6,500円
 (全席指定・税込)
HP:http://naikon.jp/
問:ナイスコンプレックス 
  mail:info@naikon.jp

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