葛飾北斎と鳥居耀蔵の対峙を軸に、まったく新しいストーリーに! まだ足りねぇ! 北斎と俳優の貪欲な生き様を重ねて

葛飾北斎と鳥居耀蔵の対峙を軸に、まったく新しいストーリーに! まだ足りねぇ! 北斎と俳優の貪欲な生き様を重ねて

 リーディングやストレートプレイで上演を重ねてきた『画狂人北斎』。この度上演される『新 画狂人北斎』は、引き続き宮本亞門演出、池谷雅生脚本だが、葛飾北斎と鳥居耀蔵の対峙を軸に展開するまったく新しい物語になるという。主人公の北斎を演じる西岡德馬に、本作に懸ける思いや共演する寺西拓人(timelesz)についての印象などを聞いた。


―――『画狂人北斎』は2017年にリーディング公演、2019年にストレートプレイとして上演され、2021年・2023年とブラッシュアップをしながら上演されてきました。今回はストーリーを一新した『新 画狂人北斎』の上演ですね。

 「そうですね。これまでの劇は現代と江戸時代が2軸で展開する舞台だったのですが、観てくれたお客さんから『江戸時代の場面がもう少し観たかった』という声をいただいたんです。それで、プロデューサーや演出の(宮本)亞門さんとも相談して、今回は江戸だけにしようと。それから、1幕劇だったのを今回はがっつり2幕劇にしようということで話を進めていました。
 それで、北斎と対峙する役として鳥居耀蔵が出てくるんですが、耀蔵を寺西拓人くんが演じてくれます。寺西くんがtimeleszメンバーになる前にキャスティングが決まったのですが、いやはや、彼がtimeleszメンバーになってより認知度が上がったのでね。『新 画狂人北斎』のチケットの売れ行きもよく、まさに“うれしい悲鳴”状態ですよ(笑)」

―――そうなんですね。出来上がった脚本を読んでみていかがでしたか?

 「僕が提案した意見も反映されていて、すごく嬉しいです。ただね、ここからまた稽古場で随分変わると思うんです。亞門さんも俺もどんどん稽古場で変えるタイプ。稽古場どころか、本番をやりながらいろいろ変えて、初日と千秋楽ではだいぶ違った印象を受けることもしばしばですよ。もちろん話の筋は変わらないんですが、中身がどんどん成長していくんです。
 芝居ってね、毎回毎回違うんですよ。やっていることもセリフも同じなんだけど、毎回毎回違って、すべてが1回限り。違うものができあがることが僕は舞台のよさだと思っています。『これでいい』となってしまうと、その上にはいけないんです。毎公演毎公演が“本日初日”で、1回きりのお祭りですから」

―――今のお話は、北斎の「足りねぇ足りねぇ、七十になっても……」と言う名台詞に通じる気がします。

 「まぁ、これは北斎に限らず、舞台をやるときに思っていることです。僕は昔から舞台に立つときは、寿司職人になったような気分でさ。いかに新鮮なものをパンッ!と板の上に出せるかが勝負なんです。『ちょっと新鮮じゃないですけど、熟していますから……』ではなく、いつも新鮮なものをお届けしたいと思っています。日々是新(ひびこれあらた)です」

―――ぜひ寺西さんについての印象を教えてください。本作の稽古が始まる前に、寺西さんとは映画で共演されたそうですね。

 「はい。映画『天文館探偵物語』で共演しているんです。その撮影のときに『ご挨拶を……』と来てくれたんだけど、ガチガチに緊張しているわけ。だから撮影が始まる前夜に、1杯だけ飲みに誘ってさ、酒を飲んでいるうちに少し気心が知れるようになったかな。余計緊張したか、リラックスしたかは分からないけど、『北斎楽しみです〜』とずっと言っていたことを覚えています。
 そうしたら、僕の家族がtimeleszのオーディション番組を観てさ、号泣しているわけ。オーディションだから一生懸命やっても落ちる奴もいるし、上がっていく奴もいるから、感動しているんだよ。僕は芝居をしている寺西くんしか知らなかったから、番組を観て、いや、本当に踊りも上手いし、すごいなと再確認しました。
 寺西くんが出るなら、歌と踊りを入れてみる? いや、でも鳥居耀蔵だけが歌って踊るのは変だよな。『北斎もお願いします』と言われるのは勘弁だから、余計なことは言いません(笑)」

―――演出は宮本亞門さんです。

 「彼は大学の後輩なんですが、フィーリングがとても合うと言いますか、お互いどういうことをやりたいか分かってしまうんです(笑)。でもね、僕は『ああしてください、こうしてください』と言われる方が好き。だからどんどん意見を言っていただきたいですね。
 というのも、自分を客観視するのはとても大変で難しいことなんですよ。ゴルフでも、自分ではいい感じにやっているつもりでも、動画を見ると『あれ? こんなはずでは』と思うでしょう? 芝居もそれと同じ。100%客観的な目線で自分を見るのは難しいからこそ、『こういう風にしてみては?』という意見は大切にしたいんです。
 僕も納得できる指摘だったら、どんどん取り入れていきたいです。稽古場ではAパターンも、Bパターンも、Cパターンも提示しつつ、どれがいいか亞門さんの意見を聞いて、丁寧に作っていきたいね」

―――演じる北斎についてはいかがですか? どんな風に役と向き合っているのですか?

 「北斎に限らず、実在の人物を演じるときは、いろいろな文献を読んだりして、いろいろ研究をするんだけど、作っていくのはエンターテインメントだからね。『僕が感じる』北斎、『僕が思う』北斎を作っていきます。ドキュメンタリーを撮っているわけではないんだから。だから、実際の人物という枠は参考程度にして、これから『僕が感じる』、『このチームが感じる』葛飾北斎を作り上げていきたいです。
 北斎は相当偏屈な人というイメージをお持ちの方も多いでしょう。人生で93回も引っ越すし、1日2回引っ越したこともあるぐらいなんですよ。その事実だけ見たら変わっている人だなと思うと思うけど、一旦はそういう枠を取っ払って彼を見たい。北斎は掃除が大の苦手だったそうだから、彼は片付けるのが面倒くさくて引っ越したかもしれない。創作している人だから『気が悪い』と思って引っ越したかもしれない。こんな風にあれこれ想像して、それを形にするのが、役者の面白いところだと思うよ。
 だから当然、全く同じものが出てくるはずがない。僕が考える北斎、僕の身体を使ってできる北斎を生み出していきたいです。その作業が一番俳優にとっての楽しみです。それをお客さんに提示して、『面白かった』と思ってくれる人が多いと、それまた嬉しいけど、みんながみんな『面白かった』というのも絶対にないことだろうから。どうしたらより多くの人が面白がってくれるかも考えたいね」

―――出演されたドラマシリーズ『SHOGUN 将軍』は世界的な評価を得ました。この作品も海外に広めていきたいという思いはあるのですか?

 「あります。パリやロンドンでも北斎の展覧会が開催されるぐらいだから、ぜひこの芝居も海外で上演してみたいですね。きっとフランス人あたりは面白がってくれるんじゃないかな。日仏の文化交流の意味でも、実現したら面白いとずいぶん前から思っていることではあります。
 『SHOGUN 将軍』の“成功”は、一昔前だとあり得なかったと思うんです。ある意味、“白人主義”で、賞を取るのは白人ばかりだったわけですよね。それで黒人も入れないと排他主義的になるとして、黒人も入れて……だけど、我々の日本も含めてアジアの作品はあまり受け入れられてこなかったんです。
 そんな中、『SHOGUN 将軍』は80%ぐらい日本語で喋っているドラマですからね。それをハリウッドが認めてくれたのは大きな一歩だと思うんです。韓国の『パラサイト』の成功だったり、野球の大谷翔平選手の活躍だったり、いろいろなことがあったからこそだとは思うんですがね」

―――この『新 画狂人北斎』も世界で認められるかもしれませんよ。

 「だといいですよね。もともと北斎の絵の魅力を見出したのは、海外の人だそうですよ。荷物のパッキング材として使われていた北斎の浮世絵に惹かれて、それがブームとなって、日本でも逆輸入されたわけです。だから北斎の作品を『素晴らしい』と思ってくれる眼力があるはずなので、あとは我々がうまく説得できるかですよね。本当にこういう人がいたかもしれない、こういうことがあったかもしれないと驚きと説得力を提示できたら、と思います」

―――今回は10月17日の東京・紀伊國屋ホールでの上演を皮切りに、全国をまわります。

 「そうなんです。舞台稽古も含めて、紀伊國屋ホールで6回ほど連続して上演する期間があって、そこを乗り切れるか、体力的に心配なんですが……グッと詰め込んである芝居なのでね。
 昔、劇団にいた頃は、地方公演で各地の名物を巡ったりもしたけれど、今回はそういう時間や体力があるかどうか。とはいえ、あまりお芝居を観たことがない人もいる地域にもいくと思うので、まずは記憶に残るお芝居を精一杯お届けしたいと思っています」

―――ご自身としてもライフワークのように本作を大切に思われていると思います。改めて、観客の皆さんに一言お願いします!

 「僕は横浜生まれで、横浜をこよなく愛しているんですがね。外国船に乗ってきた外国人を目の当たりにして、流行の最先端を行っていた街なんですよ。それと同じような感じで……僕自身もまだまだ貪欲に芝居を続けていきたい。もっと面白いものを、身体が続く限りね。そうだな、200歳ぐらいまで生きられればいいかな(笑)。
 まぁ、朝起きるときついなぁ、何もしていないのに腰が痛いなぁと思うときはあるんです。でも里見浩太朗という10個上の先輩がいましてね。よくゴルフに誘ってくれるんです。先輩がまだまだお元気だから、僕も辞めないでいられるというか、まだまだやってやると思えている。今が1番なんだということを舞台上でお見せしたいと思います」

(取材・文:五月女菜穂 撮影:平賀正明)

プロフィール

西岡德馬(にしおか・とくま)
1946年10月5日生まれ、神奈川県横浜市出身。1970年に劇団文学座に入座。多くの舞台で主演を務め、代表的な役者になるも、1979年に退座。1989年、40歳でつかこうへい演出の舞台『幕末純情伝』に主演し、新境地を開拓。1991年には一世を風靡したドラマ『東京ラブストーリー』でヒロイン・赤名リカの不倫相手の上司役に抜擢され、一躍脚光を浴びる。近年はバラエティ番組でお笑い芸人のネタを全力で披露するなど、コミカルでユーモアあふれる人柄も広く知られるようになる。2020年、芸能生活50周年記念シングル「だろ?」で歌手デビューを果たす。エミー賞、ゴールデングローブ賞など多数受賞したFXドラマシリーズ『SHOGUN 将軍』では戸田広松役を好演。

公演情報

舞台『新 画狂人北斎』-2025-

日:2025年10月17日(金)~22日(水)
  ※他、地方公演あり
場:紀伊國屋ホール
料:12,000円(全席指定・税込)
HP:https://no-4.biz/hokusai2025/
問:エヌオーフォー【No.4】
  mail:no.4.stage@gmail.com

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