19歳で燃え尽きたジャンヌ・ダルクを同じ年齢の注目女優が演じる 復権裁判の最終日を描く“生声・生音”劇団ミュ最新作

19歳で燃え尽きたジャンヌ・ダルクを同じ年齢の注目女優が演じる 復権裁判の最終日を描く“生声・生音”劇団ミュ最新作

 劇団ミュOp.4 ミュージカル『Jeanne d’Arc -ジャンヌ・ダルク-』が10月2日より東京・ウッディシアター中目黒で上演される。
 劇団ミュは、朗読劇『私の頭の中の消しゴム』、ミュージカル『音楽劇 李香蘭 -花と華-』、『フランケンシュタイン-cry for the moon-』などを手がける劇作家の岡本貴也が主宰するミュージカル劇団だ。マイクなし、スピーカーなし、すべて“生声・生音”でお届けするミュージカルとして、2024年1月の旗揚げ公演以降、これまで3作が上演された。
 本作は、15世紀のフランスで起こった百年戦争で祖国を救うために戦うも、わずか19歳で火刑となったジャンヌ・ダルクの死後に行われた復権裁判を中心に描く、壮大な歴史スペクタクル・ミュージカル。Wキャストで上演される本作で、主人公のジャンヌ・ダルクを演じる、共に19歳の笠井日向と川嵜心蘭、シャルル七世(フランス王)を演じる東山光明と多田直人に、台本を読んでの感想や本作の見どころなどを聞いた。


―――まず出演が決まった時の心境を教えていただけますか。

笠井「出演が決まった時はワクワクしました。もともと伝記モノが好きで、ジャンヌ・ダルクのことは知っていましたし、彼女が亡くなった年齢が私と同じ19歳という共通点もあって、どんなふうに台本が書かれてあるのかすごく楽しみという気持ちでした」

川嵜「皆さんと比べて舞台の経験はあまりないので、最初にジャンヌ・ダルク役と聞いた時は、『えっ?』というのが第一印象で、正直『出来るかな……』とちょっと思ったんですけど、徐々に『頑張ろう』という気持ちになりました。このインタビューもすごく緊張していますが、素晴らしい共演者の方々から色々と学び、成長しながらしっかり役として皆さまにお見せ出来たらいいなと思っています」

多田「素晴らしい共演者かどうかってまだわからないよ。つまらない奴らばっかりかもしれないし」

一同「(笑)」

川嵜「そんなことないと思いますけど……」

多田「そんなことはないと思うよ」

一同「(笑)」

―――舞台の経験はあまりないとおっしゃっていましたが、舞台出演は何作目になりますか。

川嵜「プロのミュージカル作品は今回が初めてです」

多田「そうなんだ!」

東山「忘れられない作品になりそうだね」

川嵜「はい、もう一生忘れられないものになると思うので、大切に演じたいなと思います」

東山「(演出の)岡本さんと最初に出会ったのが約20年前で、そこから何度か一緒になりましたが、今回『ジャンヌ・ダルク』という作品に、まさか僕に声をかけていただけるなんて、本当に嬉しかったです。劇団ミュはこれまで2作品観させていただいて、今回どんな作品になるのか楽しみです」

多田「僕はストレートプレイ畑でやってきた人間ですが、ミュージカルには憧れや尊敬はもともとあって、ミュージカル作品に出させていただくようになってからまだ数年くらいしか経っていないので、仲間に入れてもらえて光栄だなっていう感覚です。ミュージカル俳優と言われている皆さんの中に入れてもらえるのが嬉しいし、ミュージカルを作っている団体の方たちに僕のことを知ってもらえて、声をかけてもらったってところがまず嬉しかったですね」

―――このインタビューの数日前に台本が完成したということで、皆さん台本を読んでみての感想を教えてください。

笠井「ジャンヌが処刑された後の名誉回復の裁判を軸にして、ただ英雄として書かれているだけじゃなくて、ジャンヌの死後に周りの人々が彼女をどういうふうに評価したのかが書かれてるところは、すごく印象的でした」

川嵜「このシーンはどうやって演出がつくのか気になる部分がたくさんあって、演じるのがすごく楽しみだなと思ったのと、随所にジャンヌの回想シーンがあって、時間軸が前後するので、気持ちをその時その時で切り替えてやっていかないといけないなと思いました」

東山「ジャンヌ・ダルクの作品と聞くと、僕はミラ・ジョボヴィッチ主演の映画が印象に残っていて、当時映画館で鑑賞した記憶があります。今回の台本は、史実をもとに描かれてるという印象で、もちろん有名なエピソードはちゃんと書かれていますし、戦闘シーンをどう描いていくのかはすごく楽しみだなと思います」

多田「第一印象としては、人間の悪意や欲、それに弱さみたいなものが詰まっていて、とても素敵だなと思いました。劇場には物語を観に行きながらも、人間を観たいと僕は思っていて、人間を観るときに、綺麗なものばっかり見せられても、もうこの歳になると引いちゃって。人間って悪いところやずるいところとかついつい出るよなって、常にそう思っていました。シャルル7世は、常に迷っている、疑っている、打ちひしがれているみたいな印象で、権力のある地位にありながら、すごく弱さを持った人間だなと感じました」

―――これから稽古が始まるということで、それまでに役作りをする上でこんなことをやってみたいというのはありますか。

笠井「私自身、正義感やこれって決めたら信念を曲げないところは、ジャンヌと似ている部分ではあると思うんです」

東山「私とジャンヌ・ダルクが似ているって言えることがカッコいいよなぁ」

一同「(笑)」

笠井「誰かを信じたり、誰かを愛したりすることは、ジャンヌよりも全然わからない部分が私自身の中でありますし、“処刑台に立たされても、神を信じているんだな”と台本を読んで感じたので、“信じること”という部分をもっと追及していきたいです」

川嵜「今回演じるジャンヌ・ダルクは私と同じ19歳の役ですけど、私自身の17歳~19歳の2年間と、ジャンヌ・ダルクの17歳~19歳の2年間は、全然違うものだと思っていて。普通の女の子がわずか2年間で国を率いることなんて、普通に生きてたらありえないじゃないですか。年齢は同じでも、全然同じじゃいけないなと思いながら、心境の変化の大きさを表現したいです」

東山「台本を読んで、『なるほど!』というぐらいシャルル7世の心情とかの発見が多かったです。ジャンヌのような信じ抜くタイプの人間とは正反対に、シャルル7世は優柔不断でひ弱な人間。でも自分は王としていなければならない中、このまま王として存在していいのかという葛藤をどういう風に見せ方をいけばいいのか、演出の岡本さんと意見を出し合いながら作っていきたいです」

多田「時代も文化も今と全く違うので、まずそこを理解しないしとかないといけないなと思います。当時のフランスは、神様をすごく強く信じていた時代だったから、今の日本人の感覚と全然違うはずで、そういう意味では、当時の時代背景を事前に知っておかなきゃいけないなと思うんです。でも文字がいっぱい書いてあるような歴史書を読むのは嫌なので、『漫画で読むジャンヌ・ダルク』みたいな本を探すことろから始めようかなと思っています(笑)」

―――本作の見どころや注目ポイントを挙げていただけますか。

笠井「マイクを使わない生の声のみという舞台は初めてなので、“生の迫力”というところを注目していただきたいですし、戦闘シーンが結構多めで、私自身殺陣はほぼ初めてなので、そのところを頑張りたいです」

川嵜「前回の劇団ミュ公演を観劇しまして、今回と同じウッディシアター中目黒で行われたんですけど、舞台上と客席との距離が本当に近くて、ちょっとした息遣いや目線がよく伝わるんですよ。観ている人に『ここちょっと変だな』と思われないように、最後まで気を遣いながら演じていきたいです」

東山「笠井さんが話していた生声も見どころですけど、鎌田(雅人)さんが担当する音楽にも期待して欲しいです。鎌田さんとはこれまで何度かご一緒させてもらったことがあって、今回どんな曲でジャンヌ・ダルクを表現してくださるのかすごく楽しみです。
 あと、お芝居の基礎を作ってくれたのが岡本さんで、自分でどう演じたらいいのか分からなかった時に、岡本さんから感情の出し方やアドバイスを教えていただいたんです。あれからだいぶ月日が経ちましたが、その間に作り上げたものを出しつつ、また違った色の作品になればいいなと思います」

多田「戦いがある物語において、歌はすごく相性がいいなと思っていて。今の現代では考えられないような高揚感や殺気が当時にはあったはずで、軍歌というものがあるように、戦いに行く前に歌を歌って、気を引き締めたり、統率感を図ったりして、戦地に赴く人たちにとっての歌はすごく重要だったんじゃないかなと思います。そういったものが、お芝居全体を通して空気感が纏えたらとてもいい作品になるんじゃないかなと思うので、そこをうまくやりたいです」

―――ありがとうございます。先程笠井さんや東山さんが話されたように劇団ミュの公演は、マイクやスピーカーがなくすべて生声・生音でお届けするのが特徴ですが、そこで舞台、ミュージカル、アーティスト活動などで活躍されている皆さんに、声や喉を常にベストの状態にキープするために普段からされていることや、本番にされていることなどありましたら教えてください。

笠井「絶対に喉を乾燥させないために、普段からコンスタントに水を飲んでいます」

―――どのぐらいのペースで飲まれるんですか。

笠井「15分に1回は飲みますね」

―――確かにこちらでご用意したミネラルウォーターを見ると少し減っていますね。

笠井「ミネラルウォーターは必ず持ち歩いてます。あと声帯を守る吸入器を持っていて、本番で歌い続けるとどんどん乾燥していくので、本番前は必ず吸入します」

川嵜「寝る時、無意識に口が開いちゃったりとかするので、耳鼻科の先生にアドバイスをいただいて、内側のポケットに濡れたガーゼを入れるマスクをつけて寝るんですけど、朝起きるといつも顔の横にマスクがあって……」

一同「(笑)」

東山「普段はあまり考えてない感じですけど、本番中や喉に負担がかかるような時は、マスクをつけたり、僕も川嵜さん同様に寝ている時は口が開いているので、口呼吸の予防に、口元に鼻呼吸テープを貼ったりします。これだけでも全然違うんですよね。あとはストレッチで体のケアをしています」

多田「僕は、本番中いかに声に頼らないで演技するかってことを常に念頭に置きます。数千人規模の大きい劇場ならしょうがないですけど、中目黒ウッディーシアターのような100人前後の劇場なら、“顔で歌う”・“体で歌う”・“心で歌う”といったように心がけます。“声だけで表現しようとはするな”と思いながらやるようにして、負担をかけないように本番を過ごそうと思います」

―――なるほど、色々な対策や手法があるんですね。では最後に公演を楽しみにされている方に向けて、メッセージをお願いします。

多田「今回は完全Wキャストで2チームあるんですが、僕、Wキャストすごく大好きなんです。片方のチームしか観られない方もいらっしゃると思いますけど、ぜひ良ければ2チーム観ていただきたいなと。2チームあるということは、2つの作品が出来上がることとほぼ同じ意味を持っています。同じ物語ですけど、ぜひ見比べてそれぞれの感想を持っていただきたいです。よろしくお願いします」

東山「劇団ミュ公演は、毎回Wキャストというコンセプトで、本当にどっちも観ていただきたいです。僕自身、多田さんの芝居を勉強させていただこうと思っていますし、劇団ミュでしか味わえない作品をお届けしようと思っていますので、ぜひ足を運んでいただけたらなと思っています」

川嵜「私にとって初めてのミュージカル作品出演ということで、もしかしたら不安になっちゃう人もいるかもしれませんが、本当に全力で頑張るので、記念すべき私の初ミュージカルはどんなものかなと思っていただいたら嬉しいですし、キャストと間近で芝居を観ることはなかなかない機会だと思うので、ぜひ観に来てください」

笠井「今回、主役をやらせていただくということで、毎公演、毎公演、来てくださるお客さまと、携わってくれる全ての方に感謝して、大事に一生懸命演じて、皆さんを引っ張っていけるように頑張ります」

(取材・文:冨岡弘行 撮影:間野真由美)

 

自分を主人公にするなら、どんなストーリーにしますか?

笠井日向さん
「たくさん悩んで、立ち止まることもある。だけど胸の奥には、ずっと消えない夢がある。どんなに不安でも、その夢があるから前に進める。そんな主人公の物語を描きたいです。
 私自身、将来に対して迷いや葛藤を感じながらも、「舞台に立ちたい」という想いが常に支えとなってくれました。舞台に立つたびに、「ここにいたい」と心から思える。その実感が、今も私を前へと導いてくれています」

川嵜心蘭さん
「小説を読むのが好きなので、明治時代のいわゆる文豪と呼ばれる人物になってみたいです。もちろん当時はコンピュータもありませんから、手書きで執筆をして。人の字には性格が表れますから、主人公の書く原稿には拘りたいです。波瀾万丈な人生の中で命をすり減らしながらも、物語を完成させることに全て懸ける。
 これを舞台作品にするなら、幼少期から晩年までしっかり描きたいです。私自身、後の世に残る名作を生み出す人の思考はどのようなものなのか、すごく興味があります。役として演じることで少しだけでもその世界を覗けたらいいな、と思います」

東山光明さん
「映画『インファナル・アフェア』のような物語で、潜入捜査や裏切りなど“正義を演じる悪人”、“悪人の仮面を被る正義”みたいなものが描かれたスパイ劇をやってみたいですね。しかもそれが兄弟だったみたいな。アクションもあり、また心理描写が多めのハードボイルドミュージカル(笑)。男は一度はやってみたい設定だと勝手に思っています」

多田直人さん
「私の半生を描いてもらおう。中学生編、高校生編、大学生編、若手劇団員編、現在。5編の短編にしてもらおう。傲慢、嫉妬、色欲など、7つの大罪に塗(まみ)れた1人の男の半生を炙り出してもらおう。自意識と偏見で形成された、何の変哲もない平凡な男の物語」

プロフィール

笠井日向(かさい・ひなた)
2005年11月11日生まれ、東京都出身。主な出演作に、ミュージカル『アニー』、『アルプスの少女ハイジ』、『えんとつ町のプぺル』など。

川嵜心蘭(かわさき・みらん)
2006年2月6日生まれ、静岡県出身。「歌唱王 2023」準優勝。「Musical Lovers 2024」ディーバ出演者オーディショングランプリを経て、2024年にプロデビュー。

東山光明(ひがしやま・みつあき)
1980年5月22日生まれ、大阪府出身。主な出演作に、ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』、『キングアーサー』、『RUN TO YOU』など。

多田直人(ただ・なおと)
1983年12月17日生まれ、北海道出身。主な出演作に、『演劇【推しの子】2.5次元舞台編』、舞台『刀剣乱舞』十口伝 あまねく刻の遥かへ、『祈りの幕が下りる時』など。

公演情報

劇団ミュOp.4
Musical『Jeanne d’Arc -ジャンヌ・ダルク-』

日:2025年10月2日(木)~13日(月・祝)
場:ウッディシアター中目黒
料:最前列特典付きベンチシート9,500円
  一般8,500円(全席指定・税込)
HP:https://www.gekidanmu.com
問:劇団ミュ mail:gekidanmu@gmail.com

Advertisement

インタビューカテゴリの最新記事