「戦争」が近づく昨今に送る、重厚な俳優による台詞劇 現在をストレートに描きだした川村毅待望の新作

「戦争」が近づく昨今に送る、重厚な俳優による台詞劇 現在をストレートに描きだした川村毅待望の新作

 劇作家・演出家の川村毅の戯曲を上演するティーファクトリーの新作は、久しぶりの川村の真骨頂、6人の俳優による台詞劇。すでに戦争が近くに来ている世界で、「戦争」の芝居を作ろうとしている劇作家(田中壮太郎)と演出家(月船さらら)。そして作品に参加しつつも未体験故の違和感を感じている俳優(加藤虎ノ介)が言い争っている。さらに彼らを取り巻く人々が出入りする中で、突然戦争はやってくる。「日本人と戦争」というテーマに、真正面から取り組む3人から話を聞く。


―――新作初稿を読ませていただいて、淡々としたストレートな芝居と感じましたが、皆さんは物語や役柄を通してどんな印象を持たれましたか?

田中「僕は劇作家で、なおかつ繁華街にある飲み屋の店主でもあるという役柄ですが、そんな人物が、実際に日本が戦争に巻き込まれたらこうなるのかぁ、と読み進めていきましたが、その実感を持とうとしてもなかなか持てませんでした。戦争を体験していませんからリアルな想像は難しいです、理屈ではなんとなく分かりますけど」

―――劇作家という役柄については理解し易いんじゃ無いですか?

田中「僕は演出側なんで、むしろ作家に恐る恐る変更を提案する方です。この前ある事情で自分自身が(脚本を)一部分書くことになったんですが、やってみて初めてその怖さを知りました。全然違うんだなと思って」

―――月船さん、加藤さんはどうですか?

月船「最近怖いじゃないですか。数年前よりずっと「戦争」が近くてその足音を感じるところがある。その中で戯曲を読みましたが、やっぱり実感は湧かない。でももしかしたらやんわりとその世界に入ってしまうのかもしれない。そんなことを予感してしまって怖かったです。こんな風に始まっちゃうのかなと……ゾッとしましたね。役柄の演出家のように、戦前は反対を叫んでもいざその時になったらどう生きるんだろうとも考えますね」

加藤「面白いなと思いつつ読みました。以前川村さんの『4』というお芝居に出演した時、それがすごく難解なので、川村さんに『考えなくていいですよね』って言ったら 川村さんがにっこり『うん』って言ってくれて、そこからこれの前にやった『カミの森』というお芝居も そんな感じでやりました。今回もきっとそんな感じで、川村さんの戯曲の中で伸び伸びと生き、呼吸ができたらなと思っています 」

―――加藤さんと田中さんはティーファクトリーの作品に何作か出られていますね。

加藤「3回目ですかね。演出家としての川村さんは割と何も言わないですよね。言わずにニコニコ観ている 。川村さんは自分の書いた言葉が 俳優という楽器を通してどんどん いろんな音に変化するのを楽しんでる感じですね」

田中「川村さんが演出だけの作品も入れたら5回ぐらいですか。僕は川村さんの本も稽古場も大好きで、オファーをいただいたらいつも二つ返事な気持ちです」

―――月船さんは今回初めてですね。

月船「戯曲を読むと、そこからいろいろなことが透けて見えて来ますよね。それがすごく楽しみです。あと台詞が口から出やすいですね。ノーストレスで出るというか、生きて喋れる台詞たちだからスルッと読める。内容は決して甘くない印象ですが、とてもストレートに正直に伝わってくるものがあってすごく楽しみです」

―――台詞について川村さんは、基本的に俳優との相性だけれど、初期の頃は自分の観念をそのまま観念的な言葉として書いていたのが、最近はなるべく普通の言葉で伝えるようになっている。と話してくれました。だとすると皆さんとの相性はいいんでしょうね。……さて、戦争の足音が聞こえてくる。そんな昨今を皆さんはどう感じていますか?

田中「この役をいただいて思いましたが、戦争になったらそれまで保っていた自分のスタンスが保てなくなるって。生物としての人間の要素が大きくなり本能的になるような。それは怖いなって思うこともあります。でも実際には全然想像できていませんけれど」

月船「いかに自分が意見を持っていなくて行動に移せないのかっていうことを感じて、恥ずかしくなることを最近特に思いますし、それと同時に、なんか本当に自分にとって大切なものっていうものが変わってきたと思います」

加藤「本当にその時になってみないとね。今は実感はないです。今の自分のいるその場所で何かが起きない限りは、少し離れた場所での何かに対してもどこかピンと来ていない所はあるかもしれません。今現在はまだ実感が湧かないですね」

―――実感が湧かない。でも可能性は高くなっている。皆さんもそんな印象のようですが、そんなタイミングでこの作品を書いた理由を川村さんに伺いました。最後にそのメッセージをご紹介します。

川村「これだけいろんな戦争がおきていて、日本も台湾有事でもあればリアリティのある話になっている。だからこれは作家として何か書かなきゃと思ったんです。23歳の時に書いた『ニッポン・ウォーズ』を1984年に初演してるんだけど、あれも架空のサイエンスフィクションではなく、東西冷戦時代、核戦争の勃発というリアリティがあった。それが今はまた違うリアリティを持って迫ってきてるから、こっちも合わせて「わたしたちの戦争」をストレートに書きました。そんな新作ですが、名優たちを得て、ともかく面白い作品になると思ってます」

(取材・文・写真:渡部晋也)

プロフィール

田中壮太郎(たなか・そうたろう)
東京都出身。カナダの大学を卒業後、俳優座の研究所を経て1995年、劇団俳優座入団。劇団公演に出演するほか、翻訳、演出も手がけ、2007年に演劇企画体ツツガムシを旗揚げする。2015年に俳優座を退団後、舞台・映画・テレビなどで幅広く活躍している。

加藤虎ノ介(かとう・とらのすけ)
大阪府出身。大学在学中から舞台を中心に活動。2007年、NHK連続テレビ小説『ちりとてちん』で高い注目を浴びる。2025年、舞台『反乱のボヤージュ』『SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE ハイヒールとつけまつげ』、現在、NHK大河ドラマ『べらぼう』に出演中。ティーファクトリーの作品でも重要なキャラクターとして出演している。

月船さらら(つきふね・さらら)
滋賀県出身。1996年、宝塚歌劇団入団。男役として活躍し2005年に退団。2007年、『さくらん』で映画デビュー。翌年『世界で一番美しい夜』でヒロインに。現在は演劇ユニットmétroを主宰し、第15回公演『REAL』(https://sarara.asia/metro)9月公演予定。

公演情報

ティーファクトリー『ロンリー・アイランド』

日:2025年10月10日(金)~19日(日)
場:下北沢 ザ・スズナリ
料:椅子指定席5,000円 前方ベンチ自由席3,500円
  ※他、バリアフリー回あり。詳細は下記HPにて(税込)
HP:http://www.tfactory.jp
問:ティーファクトリー mail:info@tfactory.jp

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