小説に場を移しての活動を越えた、CR 岡本物語3年振りの新作 現代が抱える問題点につながるファンタジーな物語

小説に場を移しての活動を越えた、CR 岡本物語3年振りの新作 現代が抱える問題点につながるファンタジーな物語

 劇作家、演出家のCR岡本物語が主宰する空想嬉劇団イナヅマコネコは、現代の小劇場シーンで横行する不条理を正す試みを実践しつつ、着実に成果を上げている劇団だ。岡本が書き下ろす諸作品は、その時点で最高クオリティを示すという気持ちで作り込まれている。だからこそ岡本はこれまでに書いた作品を「第1作、第2作」とは呼ばず便宜上の記号としてナンバーを振っている。つまり今作『隠れの魔女のカクシゴト』は作品No.7ということになる。新作への想いから、力を蓄えてきた劇団について、岡本とプロデューサーであり俳優でもある堀雄介に話を聞く。


―――新作は3年振りですが、そうなった理由は?

岡本「新作としてはね(時間が空いたのは)書きたいテーマが無かったからです。ウケを狙って書くのは嫌だし。誰にでも刺さる安直な感動や恋、愛を並べるのでは無く、現代日本に即したメッセージを敢えてファンタジーでやる方が、逆にやりたいことをやれると思ってます。剣と魔法が出てくる話なのに、実は核兵器について描いているとか」

―――その期間。傍で見ていた堀さんはどう思っていましたか。

堀「岡本が書きたいものが出てくれば新作が出ると思っていましたし、一方で彼は小説投稿サイトで昨年1年くらい毎日書いていて、創作活動としてはそこで新しい展開をして随分といい作品を書いていて、腕上げたな、と思いました。新作を読みましたが、3年熟成させた甲斐がありましたね。小説の継続投稿という修行のような1年が演劇作品に結実しています。本人が言っているように中世の剣と魔法が存在する世界観の中で描いているんですけど、現代の身近な問題を連想させる作品になっていると思います。読んでみてうなずくしか無かったです」

―――あらすじを拝見して、少し方向性が変わった気がしました。今までは生と死の間の狭間の世界だったり、非現実な世界が舞台になっていて……。

岡本「今回もあり得ない世界ですよ(笑)」

―――その通りではありますが、非現実な“シチュエーション”から、“存在”にシフトしてませんか。

岡本「そこは余り意識してません。僕の興味が移り変わったんでしょう。以前は“死”について書いてました。共感性が高くない話は受け入れてもらいにくいからです。例えばキリスト教徒とムスリムの争いを日本でやっても、そうなんだ、へぇーで終わっちゃう。近くないからね。だから誰しもが近い、家族、死や死別、災害だったり、その上でみんなが書いたことないような作品を書こうと思っていました。それが4作目ぐらいまでで。 5作目にヴァンパイアの話をやって、6作目の『影と刻罪のテュシアス』は現実の政権に腹を立てて、最高の絶対王政があれば民主主義よりいいんじゃないかと思って書いた話でした」

―――では今回は魔女がモチーフ、というかキーパーソンというか。どこかに3人の魔女とあった気がしますが……『マクベス』みたいですね。

岡本「それは関係ないです。僕はシェイクスピアへのリスペクトは全くないので。そして出てくる魔女は3人だけじゃなくて、ストーリーの起点となったのが3人の魔女というだけです」

―――物語が進むと、現代につながっていくわけですか?

岡本「今の日本という現代ではないですが、まずこの3人が少女時代に魔女狩りというか焼き討ちにあう。彼女たちはそこから逃げ出してそれぞれ別の選択をするんです。そして現代に至るとその選択がどう影響するか。魔女というのは核兵器みたいなもので、数多く抱えればその国は絶対的に強くなる。でもそうなったら逆に魔女を放棄するとか、いろいろな選択肢が出てくるわけです」

―――今回も2チーム編成で、片方は主役級に劇団員(春野遼子、杉乃前ネイティ)が入っています。もう一つのチームは?

岡本「これまで客演いただいた役者さんにもいい方がいるので、それを僕がはめていったんです。ただ劇団員の人数的な振り分けは両チーム同じにしておかないと、当日の運営スタッフが足りなくなって大変ですから、そこはバランスを取っています」

―――顔ぶれにはもはや常連格といえる劇団新派の喜多村次郎さんもいらっしゃいますが、比較的年配の役者さんも多いような気がします。オーディションされたんですよね。

岡本「還暦前後の役者さんが結構居ます。前作で水上あやみさん、葉山奈穂子さんというベテランさんが出てくれましたが、それをお客さんとして観た役者さんが参加してくれました。でも前作で水上さんは僕等のようなダークファンタジー作品に出て、来てくれたお客さん……もちろん皆さん還暦前後ですが……から今までで 一番面白かったという評判をもらって、カルチャーショックを受けたらしいです」

―――今の60代って野田秀樹や鴻上尚史とかで育ってきた演劇ファンだから、親和性は高いかもしれませんね。そして役者も観客もだんだん拡がっていきますね。

堀「僕らの場合は、まず根本的な作品力があるし、運営もしっかりすることが出演者や観客にも伝わっているから、出演者や観客も広がっているんだと思います。いい形で持続・発展できていることを客観視して思います。今回のキャストの顔ぶれにもそれが現れていると思います」 

―――でも年配の、ベテランの役者さんを起用することに、ちょっとしたためらいがあったり、勇気のようなものは要りませんか?

岡本「全然ありません。20歳でも60歳でも、年齢でハードルを設けてるわけじゃないので、素直に役にはまるか。そして人として話をして、いいなと思ったら、素直に採用してます」

堀「若い子から学ぶこともあるし、年上でもひどい人はたまにいる。まぁプロデューサーの立場としては多少気は使いますが、基本フラットです」

岡本「どんなにすごい役者さんが来ても、僕の演出プランと100%がっちり当てはまることは多分ない。演技プランを持ってきてもらっても、尊重しつつこちらの意図に当てはめる。それを理論立てて言うので解ってもらえます」

―――3年ぶりの新作。完全別キャストの2チームキャスティング。俳優陣の幅の拡大。そして現代につながるファンタジー。どんな仕上がりになるか、楽しみにしています。

(取材・文・写真:渡部晋也)

プロフィール

CR岡本物語(しーあーる・おかもとものがたり)
俳優・声優・脚本・演出・ライター。空想嬉劇団イナヅマコネコ主宰。過去に劇団ぺピン結構設計、さらに劇団ポップンマッシュルームチキン野郎に所属しほとんどの作品に出演。イナヅマコネコ旗揚げ以降は座付き作家、演出家として作品を発表している。また効率の悪い稽古や遅れることが既定路線になっているような脚本など、小劇場系劇団のスタイルを是正すべく、自ら実践を続けている。

堀 雄介(ほり・ゆうすけ)
年間に100本前後の演劇作品を観る観客から、役者として活動を拡大。2012年までは某大手企業の駐在員としてニューヨークに赴任。ブロードウェイ・ミュージカルをはじめとしたステージを客席で体験する。空想嬉劇団イナヅマコネコで俳優、プロデューサーとして活躍するが、企業の社員としても職務を継続している。

公演情報

空想嬉劇団イナヅマコネコ 作品No.7
『隠れの魔女のカクシゴト』

日:2025年9月6日(土)〜15日(月・祝)
場:上野ストアハウス
料:5,500円 平日昼割[9/8・9・12 14:00]5,000円(全席指定・税込)
HP:https://inaneko.ciao.jp
問:空想嬉劇団イナヅマコネコ
  mail:inaneko@p-hit.net

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