『MISSION IN POSITIVE(ポジティブ)』をテーマに、毎年夏に下北沢で公演を続ける「エンターテインメント風集団 秘密兵器」の第31回本公演『HANA -熟練の素人-』が8月に上演。岩田有弘、五十嵐和弘、新實啓介、三浦文太郎、野田博史、森本圭吾の劇団メンバーに加え、客演に若林美保、手塚早愛、吉川茉優、原田えりか、淀静香、東拓海を迎え、5本の短編喜劇(コント)とロングストーリーを披露する。主宰の岩田有弘、昨年メンバー入りした森本圭吾、そして客演の東拓海、原田えりかに公演の見どころや意気込みなどを聞いた。
―――よろしくお願いします。秘密兵器は、2001年の旗揚げ以降、約20年間夏に本公演を続けて、今では“下北沢夏の風物詩”と呼ばれるようになりました。
岩田「本当に有り難いことです。最近ではお客様が『この時期は秘密兵器の公演があるから予約しなきゃ』と言っていただくことが多いですし、会場の下北沢「劇」小劇場さんからも『毎夏は秘密兵器』ということで会場を抑えてくださりと、お客様や劇場が秘密兵器を育ててくれたんだなという思いはあります」
―――まだ劇団をあまりご存知でない方に、「秘密兵器」の特徴を教えていただけますか。
岩田「旗揚げ当初は、メンバーがそれぞれ好きなことやっていたんですよ。僕はダンスをやりたいからバックストリート・ボーイズの曲をただ踊るとか(笑)、他にもコントや歌など各々やりたいものをただ集めただけ。途中から主宰をやらせてもらうようになって最初から最後までで一本の作品として見応えのあるものを創るようになりました。役者自身ってそれぞれ「自分がみせたい表現、お芝居」というのがあると思うんですけど、見せたくないお芝居もあっていいんじゃないかなと思っていて、それが多面的に人間味が出てくるような表現になっていけば、特にお客様から近い小劇場だと余計伝えられると思った結果、今は役者による短編喜劇(コント)を数本やった後に本編へと繋がっていくというエンターテインメント風な作品構成が出来上がりました」
―――その秘密兵器に昨年11月に加入したのが森本さんです。昨年の本公演では客演として出演されていましたが、その時がきっかけで入られたんですか。
森本「去年の本公演が終わった後に岩田さんから『入ってみない?』とお声がけをいただきました。昨年初めて本公演に出演して、初めて自分の芝居ではっちゃけられましたし……物語も魅力的で、本当に忘れられない夏になったから。というのと、劇団の運営にも興味があって、劇団員になれたら舞台の創り方を裏側から知ることが出来ると思って、入団を決めました」
岩田「彼とは別の団体で初めて一緒になった現場で、すごい芝居が好きないいヤツだなと思っていて、それ以来の昨年の本公演に出演してもらったら、この歳でここまで幅広く計算もできる芝居ができるのはなかなかいないと感じたのと、僕たちヘンなおじさんたちと絡めたら面白いことになるんじゃないかなとは思って声をかけました。これから共に成長しながら、いずれは秘密兵器を背負ってもらって、彼がプロデュースする舞台に僕も出てみたいなと思うぐらいとても期待しています。見た目は清純っぽく見えますが、実際はなんか変わっているんですよ。そのギャップもいいなと思って(笑)」
森本「僕自身、全然自覚がないんですけど……(苦笑)」
岩田「幼少から12歳までフランスに住んでいたこともあって、きっとそんなところも彼の個性として大きく影響していると思っています(笑)」
―――客演のおふたりにも聞いてみたいと思います。東さんは初めての秘密兵器本公演になりますね。
東「はい。本当にありがとうございます(お辞儀)」
岩田「こちらこそありがとうございます(お辞儀)」
東「一昨年に上演した『MoM』のDVDを観させていただきまして、冒頭から『何やってんだろう?』と思いつつ、とても面白いなというテンポのまま進んでいって、最後は泣いてしまいました」
―――原田さんは、東さんがDVDでご覧になられた『MoM』以来の本公演出演になります。
原田「岩田さんから『原田さんがハマると思う役なので』という連絡をいただいて、『それなら是非お力添えさせてください!』と返事して、それからトントン拍子で出演が決まりました。私自身「客演」と言われるのがちょっとこそばゆくて、前回の出演から秘密兵器さんは家族みたいな存在で、『ただいま‼』という気持ちです」
岩田「うわーお帰りなさい!」
―――取材日の前日に顔合わせがあったということですが、どんな印象を持たれましたか。
東「DVDで見たまんまの人たちがそのまま稽古場にいたというのが第一印象で(笑)、各劇団員のキャラクターを踏まえた上で岩田さんが思い描いたものを皆さんが演じていて、のびのびとした稽古だったんだと感じました」
原田「改めて個性が強すぎという印象でした(笑)。自己紹介で家族構成をみんな話し始めてて、いろんなことまで詳しく知ることが出来た顔合わせでした」
―――自己紹介で家族構成を話す顔合わせは初めて聞きました。
岩田「夢もない誰も聞きたくないような現実的なエピソードを顔合わせから話すわけですよ(苦笑)。生活味というか、人間味を全て曝け出すような現場かもしれません。みんな本当に人がいいんです。そこだけは自信を持って言えますね。客演さんに関しても特別大好きな人を呼んでいますし、新たな融合が今からとても楽しみです」
―――本作は「花」をテーマにしているということですが、役どころを教えていただけますか。
岩田「ネタバレに気をつけてね」
皆「……」
岩田「キャストそれぞれに好きなお花のことも聞いていて、そのイメージに合った役を演じてもらうことにしました。東さんは修行中の料理人を演じてもらいます」
東「現時点では、これ以上の情報は入っていません(笑)」
岩田「ちゃんとお伝えしてなくすみません(苦笑)。東さんは僕が演じる大将兼オーナーの元、10年以上修行している設定です。東さんは特に幅を広く演じてほしいので、料理人としてのストイックな部分とそうじゃない柔らかい部分の両方を見せてほしいなと思っています。
原田さんの役は今回のテーマである花屋さんでアルバイトをしている子を演じます。森本くんはそんな原田さんに興味があり近づく役を演じてもらいます。秘密兵器のメンバー同士、長く時を過ごしていると、見た目的にも年齢的にも演じられない役がどんどん出てくるんです。大劇場なら誤魔化せるところもあると思うんですけど、小劇場だと、目の前に実在するおっさんたちが若作り、厳しいじゃないですか(笑)。なので、脚本の五十嵐も言ってましたが、今の僕らでは到底できない初々しい若々しいものを作りたく、彼女らにしか出せない笑いや勢いを観せて欲しいですね」
森本「台本を読んだ限りだと、かなり変なヤツという要素があるかなと思いました(笑)」
岩田「ちなみに原田さんは花屋のアルバイトをしながらアイドル活動もやっているという役になります」
原田「えっ、本当ですか?」
岩田「うん。俳優業以外にも原田さんは人狼パフォーマンスユニット『ベイビーウルフ』でアイドル活動をしていて、本作ではそんなバックボーンも活かせたらと思っています」
原田「台本に「持ち歌」と書いていたのは、そういうことだったんですね」
岩田「頑張れ‼(笑)」
原田「はい‼(笑)」
―――先ほど岩田さんが「キャスト全員に好きなお花を聞いた」とお話されていましたが、ちなみに森本さん、東さん、原田さんは何の花と答えたんですか。
森本「僕は「藤」です。フランスから日本に帰ってきた時に見た藤がすごく綺麗で、ゴージャスな美しさではなく静かな感じなのに美しいなと思って、今でもあの時の印象が心に残っています」
原田「私は「フウセンカズラ」と答えました。『好きな花は?』と聞かれたんですけど、今まで考えたことなくて、ネットで「花」「種類」と検索して調べて、見た目が丸っこくて可愛かったからというのが理由です。はい、以上です」
――そんなに思い入れはなさそうですね(苦笑)。
岩田「実は原田さんには別の花がモチーフの役を演じてもらうことになりました」
原田「そうなんですよ。なので『あれっ、フウゼンカズラは却下かな?』って。
岩田「はい、却下です」
一同(笑)
―――東さんはなんてお答えしたんですか。
東「「アルメリア」という花です。僕、花言葉を調べるのが好きで、ファンの方から送られる花の花言葉が何なのか気になるんです。どういう思いで送ってくださったのかというのも知りたいですし、ただ綺麗だけという理由で送ってきたとしても、僕自身気になっちゃいますね。ちなみにアルメリアの花言葉は「思いやり」「同情」という意味です」
岩田「ピッタリです」
一同(頷く)
―――花と言えば、本作では本多劇場グループと提携している花屋の花定が特別に全面協力するそうですね。
岩田「花定さんとは普段からとても仲良くさせていただいていて、スペシャル協力という形で一緒に作品を作らせていただくこととなり、今回「花」がテーマにもなりました。生きることって追求する事だと思っていて。綺麗に咲き誇りすぐに枯れてしまう花は一番“生”を感じられるもの、花のように一瞬の輝きを逃さないようなストーリーや舞台にしたいという思いです。ちなみに『セットの花は造花ではなく、全部生の花を使いたい』と花定さんに要望したら、『わかりました』と笑顔で言っていただきまして、どんな形になるかまだわかりませんが、すごく楽しみです」
―――本作の見どころや注目ポイントをそれぞれ挙げていただけますか。
森本「僕がメンバーとして初めて本公演に関わります。秘密兵器の歴史はすごい長いので、僕を受け入れてもらえるかという不安は正直ありますけど、面白いおじさんたちに混ざって、僕も秘密兵器の一員だというのを見せつけられるような公演にしたいと思っていますし、これまで出演した作品は、誰かの反応を受けたり、ナチュラル寄りなお芝居をすることが多くて、自分から場を動かす役やキャラクターの強い役を演じることがあまりなかったので、そういったキャラクターにチャレンジする姿を観てもらいたいです」
原田「今回、花定さんの特別協力がすごい力になる舞台だと思うので、お花さんの力と、お花屋さんの力といろいろな命を抱きしめながら、演じたいなと思っていますし、この夏の楽しみの1つとして盛り上げるお力添えができればいいなと思っています。それとパズルのピースを1つずつ観て、最後にパーンとハマる感覚が癖になるので、初めての方も期待して欲しいし、これまで観劇したことある方も、ぜひまた新しい気持ちで楽しんでいただきたいです」
東「僕が『MoM』を観て率直に感じたのは、「悔しい」という気持ちでした。僕が今どうやったって出来ないお芝居を秘密兵器さんの皆さんがやられていて、ただ俳優を続けているだけじゃなくて、生活を大事にしながら、そして生活の中でいろいろことがあった上で、年に1回ここで芝居をするんだっていう情熱が説得力に変化していた姿に、僕は泣いてしまいました。秘密兵器さんがこんな長く続いているのは、メンバーの皆さんの姿が観ている人に勇気と力を与えているからだと率直に思ったので、今回非常に楽しみですし、観劇される方は是非その部分に注目してください」
岩田「僕はこの仲間がすごく好きだし、この仲間と舞台を作りたいなとずっと思いながらここまで続けることが出来ました。僕自身「芝居に嘘つかない」という思いで活動しているんですけど、秘密兵器にいるとそれがすごく体現出来るので、客演さんも含めみんなの輝いている瞬間を切り取られたらいいなと思える作品になっています。また、100年以上続いている花定さんが初めてこのような形で舞台に関わってくれるということで、作品の作り方も新しいアプローチができるかなと思っています」
―――ありがとうございます。では最後に公演を楽しみにされている方に向けてメッセージをお願いします。
原田「私の出来る最善を尽くして、作品と役の魅力を伝えられるように精進したいですし、顔合わせの時点から終わる時のことを考えちゃって、ちょっと切なくなっちゃったくらい本当にあったかい仲間たちと楽しみながら作っていけたらいいなと思っています」
東「本読みの段階からこれまで作り上げてきた秘密兵器さん特有のテンポがあると感じていて、まずはそれに合わせることを第1目標に頑張って、8月までには仕上げたいと思います。応援のほど、よろしくお願いします」
森本「今年も観てくれる方が楽しんでもらえるように、そしてお芝居する僕たちも全力でお芝居を楽しめるように打ち込んで、この夏を盛り上げていこうと思います」
岩田「『熟練の素人』というタイトルが、秘密兵器の作品そのもので、熟練なところを見せるだけなら、かっこいいだけなんですけど、その熟練と得意じゃないところも見せた上で、1人の人間としてもっとキャスト皆の唯一無二の魅力を見せられたらなって思っています。お客さんにはこの作品を見て楽しい夏の思い出にしてもらって、また来夏も秘密兵器の公演に行きたいなと思ってもらえるよう、熱く全身全霊を注ぎますので、今年の夏もどうぞよろしくお願いします」
(取材・文&撮影:冨岡弘行)
プロフィール
岩田有弘(いわた・ありひろ)
東京都出身。「エンターテインメント風集団 秘密兵器」主宰。他にも舞台プロデュースユニット『銀岩塩』代表、劇団「大人の麦茶」劇団員、舞台製作チーム”OWARI NO HAJIMARI”メンバーとしても活動。主な出演作品に、『神ノ牙-JINGA-』、『華衛士F8ABA6ジサリス』、『木曜日にはココアを』など。
森本圭吾(もりもと・けいご)
フランス出身神奈川県育ち。2024年11月「エンターテインメント風集団 秘密兵器」に入団。主な出演作品に『ABSO-METAL2 ~群盲の逆襲~』、『白か、黒か。』、『OL Assassin』、熱海殺人事件『サイコパス』など。9月には『ポオの眷属たち』への出演を控えている。
東 拓海(ひがし・たくみ)
1997年3月10日、東京都出身。ハイパープロジェクション演劇『ハイキュー!!”進化の夏”』にて舞台デビュー。主な出演作品に『12人の怒れる男』、『おとぎ裁判』シリーズ、『ロッカールームに眠る僕の知らない戦争』、『六道追分』など。
原田えりか(はらだ・えりか)
2002年11月30日、千葉県出身。2019年、人狼パフォーマンスユニット「ベイビーウルフ」に加入。主な出演作品に映画『あたおかあさん』(主演)、舞台『MoM~親の顔がみたい~』、百合ショートムービー『感染するリビドー』など。
公演情報
エンターテインメント風集団 秘密兵器
『HANA -熟練の素人-』
日:2025年8月6日(水)~11日(月・祝)
場:下北沢 「劇」小劇場
料:前売5,500円 当日6,000円
U-30[30歳以下]4,000円 学割3,000円
※U-30・学割は要身分証明書提示
(全席自由・税込)
HP:https://www.himitsuheiki.com
問:エンターテインメント風集団 秘密兵器 mail:himitsuheiki.swp@gmail.com