新境地を拓いた「時代劇×同時刻同時進行コメディ」待望の続編! 瓦版屋の娘「お紙」が挑む難事件!? 今度の舞台は大衆歌舞伎興行だ!

新境地を拓いた「時代劇×同時刻同時進行コメディ」待望の続編! 瓦版屋の娘「お紙」が挑む難事件!? 今度の舞台は大衆歌舞伎興行だ!

 劇団6番シード2022年冬公演は、2019年に「時代劇×同時刻同時進行コメディ」という新ジャンルで絶賛を浴びた『なまくら刀と瓦版屋の娘』の待望の続編。江戸から近い宿場町を舞台に、瓦版屋の娘「お紙」が事件を解決する痛快時代劇コメディは、舞台を180度回転させて表の半刻(1時間)と同時刻の裏の半刻見せるという画期的な2幕構成に注目だ。
 新作では宿場町にやってきた旅回りの大衆歌舞伎一座の開演半刻前から起こる珍妙な出来事の数々を表と裏で描く。脚本・演出の松本陽一、そして主演のお紙役の椎名亜音に作品への意気込みを聞いた。

―――画期的な演出が光る本作ですが、どんなアイデアから生まれたのでしょうか?

松本「元々はお客さんからの『時代劇もの』・『バックステージもの』が観たいというリクエストを掛け合わせて生まれた作品です。これまで6番シードでは時代劇をあまり多く出していませんでした。テレビでも時代劇が少なくなっている印象もありましたし、何より自分で編み出した“同時刻同時進行”という舞台の表と裏を同時に描くアイデアを時代劇に乗せることで、面白い世界観を見せられるんじゃないかと思ったことが始まりです。
 初演の反応はとても良くて、昔、NHKで放送されていた公開収録の『コメディお江戸でござる』をやっているようなライブ感と、ドリフの『8時だョ!全員集合』のような会場との一体感があり、僕らも楽しみながら上演することができました。
 初演の千秋楽で早々と続編をやりますとタイトルまで発表していて、コロナ禍もあってタイミングを計っていたところで、ようやく上演にこぎつけました。
 前回は瓦版屋の軒先と裏手を舞台にして描きましたが、続編を発表した時にはすでに、旅回りの大衆演劇一座を取材に行った瓦版屋の娘のお紙が事件に巻き込まれるという構想が浮かんでいました。宿場町という様々な旅人が行き交う舞台に旅回り一座という集団を入れることで取材対象としても膨らみますし、街の人達も芝居に気軽に参加できる設定を作ってそれがまた問題を起こすという感じで広がっていきます。
 そういう意味ではバックステージものがさらにバックステージものになるというか、より舞台の表と裏を描く感覚になると思います」

―――主演のお紙を演じる椎名さんにとって、本作の印象はいかがですか?

椎名「3年前の前作では、とにかく走り回ってわめいて叫んでを表でも裏でも繰り返して、舞台をはけた瞬間には息も上がってまるでスポーツをやっている感覚でした(笑)。実際に舞台監督さんからはスポーツドリンクの補給がありましたね。でもやっていてすごく楽しかったです。
 あれから3年。その時のワクワクと40歳を前にして果たして体力が持つのだろうかというヒヤヒヤが混ざり合った感覚です。前作では周囲に求婚者が沢山現れるのに、一切目もくれずに仕事にまい進するキャラクターでしたが、今回はもうさすがにその要素はなくて、この人は結婚を諦めたんじゃないかと思っています」

松本「でも3部作の最後は結納現場の表・裏を描いても面白いかと思うんだよね」

椎名「え! 結婚相手みつかるんですか? てか、3部作!? 怖い怖い怖い!!」

―――椎名さんが主演のハイテンション舞台と言う意味では、『天気と戦う女』が挙げられます。

椎名「そうですね。『天気と戦う女』は45分ずっと1人で戦っているのですが(笑)、本作は上演時間が倍近くある分、共演者の方とチームプレーで走る感覚があります。パス回しをしながらいくみたいな」

松本「確かにそれはありますね。表の現場のワチャワチャもありながら、裏でも実際に物語が動いているので、その連携や出捌けのタイミングなどはかなりチームプレーが必要です」

椎名「前作での共演者の皆さんとはとてもチームワークが良くて、皆で走って皆でゴールしたという達成感がありました。その時から続投の方もいれば、新しい方の参加もあるので、また新しい作品ができると思うと楽しみですね。私から見たお紙は破天荒なキャラクターで、好奇心があって行動力があるけど、結果、騒動に巻き込まれてしまう。文句言いながらも、いやいやそのトラブルの原因は貴女にもあるでしょ?と、突っこまれ要素がかなりあるキャラクターだと思います」

―――本作の最大の見どころである“同時刻同時進行”について教えていただけますか?

松本「これは一言で説明するのが非常に難しいんですが、簡単に言えば、第一景で表側の1時間を描いて、舞台が180度ひっくり返って、その頃裏側ではこんなことが起きていましたという感じで進行します。1時間の経過を2度描くと思って頂ければ分かりやすいと思います。
 書き手からすると難しいのですが、パズル要素があってそれがつながった瞬間は刺激的ですね。お客さんの感想の中には第二景がすべて伏線回収になっているというのがあってなるほどなと。脚本家とすると、伏線回収というと正確ではありませんが、お客さんの中にもそういう感じで立体的に観る面白さみたいなものがあるんじゃないかと思いました」

椎名「第一景の開演直後に登場人物がふすまを開けて奥に入っていって閉めたあと、30秒ぐらい舞台に誰もいないというシーンがあるんですよ。お客さんは『え?事故?』とザワザワし始めるのですが、第二景ではふすまの奥で何が起きていたかが明かされて、なるほどね!とつながるわけです。この演出はかなり勇気が必要だったと思いますよ」

松本「第一景におけるお客さんの1時間の記憶に信頼を置くことが前提となりますが、分かりやすい景色やビジュアルを沢山つくりました。それをお客さんが思い出しながら見てもらう楽しさがあると思います」

椎名「例えば謎のポーズをしたキャラクターがいて、それが解決されないまま進行して、第二景でなぜそうなったか分かるといった具合に色んな仕掛けが次々に明かされていくのは痛快でしたよね」

松本「そうなると第一景が難しくなってくるんです。ただ謎をばら撒いて終わるのではモヤモヤでしかない。ばら撒くけども、お客さんがあまり気にならない状態をつくるさじ加減が難しいですね」

椎名「でも演じる側にはそこまで戸惑いはなかったですよ。あの時、ここで終わったから続きはこっちねという感じで、役者みんなで協力して線をつなぐ作業が楽しかったですし、混乱もありませんでした」

―――この演出手法は1つのジャンルとして確立できそうですね。

椎名「それはありますね。現代劇でも松本陽一の同時進行モノとして枠があってもいいと思います」

松本「確かにそうですね。でも僕自身はこの作品の世界観が好きなので、瓦版屋でシリーズものにするつもりです。オオダイラ隆生と高宗歩未の新劇団員も加わりましたし、今回のゲストも面白い方々ばかりですのでけっこうなお祭り感がある作品になりますよ。一方で大人な雰囲気のキャストが多いので、コメディ要素に加えて少しミステリアスな謎解き要素も含めてこの世界を膨らませたいと思っています」

―――公演会場が築地本願寺ブディストホールというのも興味深いです。

松本「10数年ぶりにこの会場を使います。あそこはミニシアターというよりも、ホール感がある作りで、本願寺の敷地内にあることでより時代劇感が高まりますね」

椎名「たまに舞台袖につながる廊下でお坊さんに出くわすことがあります。お邪魔させてもらっていますという感じがまた面白いです」

―――コロナ禍での活動も丸2年が経ちましたが、いかがですか。

松本「まだまだ厳しさは続いています。また突然、公演中止になるかもしれないという恐怖との戦いでもありますし、お客さんにも気兼ねなく劇場に来てもらうという空気感にもまだなっていない。スポーツなどで少しずつ客席の声出しなども解禁されてきてはいますが、まだ従来のように心から楽しんでもらえる状況になっていないのが歯がゆいですね。
 だからこそ、僕達が得意とするコメディで楽しんでもらえたらなと。今、公演終了後に、配信で反省会を兼ねたアフタートークをやったら面白いんじゃないかというアイデアも出ています。現在のルールの中で色々模索して、出来ることはどんどんやっていくつもりです」

―――最後に読者にメッセージお願いします。

椎名「前作を観てくれたお客さんからSNSで『待ってました!』という反応を頂きました。何かと後ろ向きになりがちなご時世ですが、また笑いの渦に引きずり込んで大いに笑ってもらえる作品にしたいです。個人的にはパート2が始まる前にもうパート3があるような雰囲気があって恐怖を感じておりますが、前作を観て頂いた方に限らず、初見の方もきっと楽しんで頂けると思いますので、皆様のお越しを劇場でお待ちしています!」

松本「老若男女問わず、スカッと楽しめる痛快時代劇コメディをお約束します。今回は特に斬新に思える構成にお祭り要素と時代劇とドタバタコメディを掛け算にしていますので、本当にお腹一杯になってもらえるはずです。6番シード2022年を締めくくる作品、皆様には是非笑って年越しを迎えて頂ければ嬉しいです。是非、ご期待ください!」

(取材・文&撮影:小笠原大介)

プロフィール

松本陽一(まつもと・よういち)
1974年9月18日生まれ。広島県出身。脚本家・演出家・劇作家。劇団6番シード代表。スピード感あふれるノンストップコメディを中心に、これまで50作品以上の脚本・演出を担当。映画『Deep logic』、『夜明けの記憶』、『パニック4rooms』などの映像作品の脚本のほか、数多くの演劇ワークショップを開催。舞台『独房のルージュ』で池袋演劇祭 豊島区長賞受賞。

椎名亜音(しいな・あのん)
1982年生まれ。東京都出身。2003年に劇団6番シードに入団。同年、『ペーパーカンパニーゴーストカンパニー』でデビュー。作品ごとに精密機械のように演じ分けるバイプレーヤー。同劇団の作品だけでなく、ENG、CROWNS、Bobjack Theaterをはじめ、数多くの劇団やプロデュース公演に出演。イベントMCとしても活動中。

公演情報

劇団6番シード 第75回公演
『火消しの辰と瓦版屋の娘』

日:2022年11月30日(水)~12月4日(日)
場:築地本願寺ブディストホール
料:6,500円(全席指定・税込)
HP:http://www.6banceed.com
問:劇団6番シード
  mail:web@6banceed.com

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