アニメーションにおいて動画のバックに流れている音楽はとても重要なものだ。もしも音楽がなかったら作品の魅力は半減するといっても言い過ぎではないだろう。それならばその音楽をクローズアップしてみたらどうなるか。作曲家の和田薫が企画するアニメ・オーケストラのシリーズは、そんな発想からのプロジェクト。アニメの音楽をクラシックのオーケストラが演奏し、声優の演技と映像をホールのスクリーンで楽しむ。実に壮大なプロジェクトだが、既に2回の公演を成功させ、次を待ち望むファンも多い。第3弾となる今回は、アニメに使われたクラシックに焦点を当て『銀河英雄伝説』、『プリンセスチュチュ』の2作品を特集。『プリンセスチュチュ』の総監督佐藤順一が新たな朗読劇を用意したというファンなら大感激する好企画。和田と佐藤にこの企画について語ってもらった。
―――このアニメ・オーケストラシリーズはVol.3とのことですが、そもそも和田さんが企画されたシリーズなんですね。
和田「1回目は『犬夜叉』で2回目はサスペンスということで『金田一少年の事件簿』、『文豪ストレイドッグス』を採り上げました。アニメーションに使う音楽を通称“劇伴”と言いますが、それをオーケストラの生演奏で体験してもらおうという企画です。そして3回目は『アニメmeetsクラシック』。使われた音楽がクラシックを中心にした作品をということで、『プリンセスチュチュ』と『銀河英雄伝説』を採り上げます。アニメとクラシックとはそもそも相性が良いのですが、それを本格的なオーケストラ、素晴らしいホール、大きなスクリーンに映し出す映像を観ながら楽しんでいただきます」
―――なるほど。『プリンセスチュチュ』はクラシックバレエがモチーフで、『くるみ割り人形』をはじめとするバレエ音楽がたくさん登場しますが、監督を務められた佐藤さんは企画段階から、クラシックをどんどん盛り込んでいこうと提案されたんですか?
佐藤「この作品はもともと伊藤郁子さんというキャラクターデザインや作画監督をされるアニメーターさんの企画で、“オリジナルでやりたい”とずっと練っていらっしゃった作品なんですよね。それをアニメーションに仕立てる中で、そもそものモチーフがバレエでしたので、バレエ音楽を本編で使うことになりました。そこでまず製作委員会で使えるクラシックの音源を用意してもらって、その中にあった『展覧会の絵』などのバレエ音楽以外のクラシックも盛り込み、全体をクラシックで統一したらいいんじゃないか、と進めました」
―――『銀河英雄伝説』には関わっていらっしゃらないんですね。
佐藤「全然タッチしていません」
和田「あの作品は、一番最初が劇場版『わが征くは星の大海』で、それはもちろん観ていますが、制作には全く関わっていません。その後OVAという形でたくさんシリーズ化されていますが、大きな特徴はクラシックをオリジナルで使った最初のアニメではないですかね。僕はクラシック畑の人間なので、マーラーやラヴェルといった作曲家の楽曲をふんだんに使った凄いアニメがあるというのは知っていました。なにしろ全編通して使っていますから」
―――その時の音楽担当の方はお知り合いですか?
和田「それはないです。僕が仕事を始めた頃はすでに伝説の音響監督・明田川進さん、巨匠でしたから」
―――つまり相当先鋭的なことに挑んだアニメ作品だったわけですね。
和田「かなり冒険的です。クラシックをそのまま使おうと思って難しいのは、劇伴は使いやすいサイズにしたものを何曲か作るのですが、既存のクラシック曲は大体みんな長尺なので、これをドラマの中に落とし込むのは、かなり大変なんですよ」
―――ところで今回目玉になりそうな企画として、声優さんによる朗読劇があるとのことですが。
和田「はい。この企画の特徴として、毎回声優さんに生で演技をしてもらい、劇伴も生オーケストラでつけていく点があります。それを今回は『プリンセスチュチュ』でやります。『銀河英雄伝説』はさすがに作品が古いし、誰が脚本を書くんだって話になりますから。そこで新しい台本を佐藤監督に書いていただきました」
佐藤「でも本編はもう物語が着地してますから、新しいお話を書くのは結構難しいんですよね。ただ20年以上ぶりの新作というと言い過ぎかもしれませんが、ファンにとっても新しい物語に触れる機会ですから気合を入れて作りました。ドラマ本編からのスピンオフ的な部分もあるかもしれないですね。書くにあたっては冒頭に話した伊藤さんにアイディアをいただきましたし、出ていただく声優さんが主人公・チュチュ役の加藤奈々絵さんと、猫先生という独特のキャラクターの松本保典さんですから、生だからこそ面白いところでしょう」
―――『プリンセスチュチュ』は2000年代初めのアニメですよね。
佐藤「でもキッズステーションというところでの放送だったので、地上波じゃないんですよ。特殊なオンエア形式なので、意外と観られてないと思ってました。でも20年ぶりにファン向けイベントをやったらたくさん集まってくれて、しかもほとんど女子。20代から30代ぐらいの、当時子どもだった人が来てくれて、本当に楽しそうに参加してくれました」
―――『銀河英雄伝説』はこの前地上波再放送がありましたよね。
和田「やっていましたね。でも今も新しいシリーズを展開していますし、それこそサブスクで観ることができる時代ですから。だから若い子たちもこうした古い作品に触れる機会が多いですよね」
―――さて、東京公演は生演奏をパシフィックフィルハーモニア東京が務めます。どんなオーケストラかご紹介いただけますか。
和田「パシフィルさんはやはり若いメンバーが中心ですが、技術的にも非常に高いメンバーが揃っています。クラシックっていうと堅苦しいイメージがあると思うんですけど、彼らは凄く柔軟に対応してくれます。また、メンバー自身がアニメやゲームを好きな人も多いですから。こうした企画も通常のプログラムと同じように、むしろそれ以上に熱演してもらっているというところがありますね」
―――では最後におふたりからのメッセージをいただけますか。
佐藤「『プリンセスチュチュ』のオリジナルスタッフが協力して、ファンの人に楽しんでもらえるものをと、色々アイディアを絞って作り上げますので、きっと楽しんでいただけると思います。これがうまくいって、さらに第4弾、5弾と続いていければいいなと、我々は思っていますので、ぜひ来ていただいて楽しんでいただきたいです」
和田「先ほども申し上げましたけれども、やはり生での音楽を体験して、素晴らしいホール、素晴らしい演奏、そして声優さんもいらっしゃいますし、大きなスクリーンで映像も観ながら……。そうなれば、作品を2倍も3倍も4倍も5倍も楽しめると思います。ぜひ会場で体験していただきたいと思っております。ぜひお越しください」
(取材・文&撮影:渡部晋也)
プロフィール
和田 薫(わだ・かおる)
山口県出身。17歳から独学で作曲法、和声法などを学ぶ。東京音楽大学に進み、首席で卒業後渡欧し、アムステルダムを中心に各国オーケストラの活動や運営について視察。また、当地の現代音楽の活動に参加しながら作品を発表。1988年に帰国した後は、アニメ・映画・テレビ・舞台・CDドラマ・イベント音楽など幅広く活動を展開。『金田一少年の事件簿』、『犬夜叉』、『ゲゲゲの鬼太郎』、『墓場鬼太郎』、『ムシキング』、『D.Gray-man』などのアニメーション作品や、正月時代劇『忠臣蔵〜決断の時』、『花のお江戸の釣りバカ日誌』、『ミスター・ルーキー』、『ラストゲーム 最後の早慶戦』、『空へ—救いの翼RESCUE WINGS』などの映画作品、劇団青年座『ブンナよ、木からおりてこい』での舞台音楽など、数多くの劇伴音楽を担当。1995年には松竹映画『忠臣蔵外伝四谷怪談』で、日本アカデミー賞 音楽賞を受賞。
佐藤順一(さとう・じゅんいち)
愛知県出身。日本大学藝術学部映画学科アニメーションコースを経て、中退して東映動画に演出として入社。アニメーション制作に関わり、25歳で『メイプルタウン物語』で東映動画史上最年少のシリーズディレクターに抜擢。その他、『美少女戦士セーラームーン』、『おジャ魔女どれみ』、『ケロロ軍曹』などの人気作品を立ち上げたヒットメーカーとして知られている。現在も制作の現場で活躍する一方、後進の育成にも力を注いでいる。
公演情報
アニメ・オーケストラシリーズ Vol.3『アニメ meets クラシック プリンセスチュチュ×銀河英雄伝説』
日:2025年8月15日(金)18:30開演(17:30開場)
場:東京オペラシティ コンサートホール
料:SP特典付きS席12,800円
S席8,800円 A席7,800円(全席指定・税込)
HP:https://ppt.or.jp/concerts/anioke-ptutu-gineiden/
問:パシフィックフィルハーモニア東京
tel.03-6206-7356(平日10:00~18:00)
※SP特典付きS席は、この日、この席でしか手に入らない完全限定プレミアムグッズ&パンフレット付き