「ふざけた社会派」として、時事ネタや社会問題などを不謹慎に笑い飛ばすブラックコメディを発表し続けてきた劇団チャリT企画。そんなチャリTが、戦後80年の節目に放つ新作のテーマは「戦争」と「愛国心」だ。タイトルも、ずばり『パトリオット』(愛国者)とストレート。しかも旗揚げ28年目、本公演39作目にして初の外部演出家、橋本昭博を迎える。その経緯と本作にかける思いを主宰の楢原拓と橋本昭博に聞いた。
―――そもそもお2人の出会いは何がきっかけだったのでしょうか。
楢原「今回出演する熊野善啓くんがきっかけなんですけど、彼はうちの元劇団員で、在籍中に橋本さんがやっている劇団「Moratorium Pants」の公演に呼ばれて出たことがあるんですよ。それを私が観に行って、その後も橋本さんの演出する商業系の舞台なんかも観に行くようになって、橋本さんもうちの公演を度々観に来てくれて、そんな感じでお互いに行き来しあうようになりましたね」
―――今回、外部演出家を迎えることにした理由を教えてください。
楢原「旗揚げして今年28年目になるんですけど、劇団史上初めて、よそから演出家を呼びました。旗揚げからずっと私が作と演出を兼ねてたんですけど(当初は「chari-T」というペンネーム名義)、数年くらい前からちょっとマンネリのようなものを感じるようになってきてて、あと、自分が書いたものを他の人が演出するとどうなるのかな?っていう興味もあって。色々な人に相談したんですけど、みんな口揃えて『いや〜楢原の作品は楢原じゃないと演出できないよ』とか言われて、でも『そんなことないだろ!』って思ってて。そんな時に橋本さんがうちの演出にすごい興味をもってくれて、それならばぜひ!って感じでついに実現することになりましたね」
―――橋本さんを選んだ決め手はなんだったのですか。
楢原「作風がすごいポップですよね。フィジカルな表現もあって、ビジュアルにもこだわりがありますし。そういうのって自分はあんまり持っていない要素なので、自分の作品がどれくらい橋本色に変わるのかな?っていう化学反応が楽しみなところがあります。
うちの劇団のキャッチコピーみたいのがあって、劇団ロゴにひっそりと書かれてるんですけど、『バンカラ・ポップ』っていうんですね。それはおしゃれで『ハイカラ』なものに対するアンチみたいなのがあって、それで『バンカラ』なんですけど、元々早稲田の学生劇団からスタートしたっていうのもあって、『早稲田=バンカラ』というイメージも好きで、それに乗っかったって感じですね。でもちょっと今風に『ポップ』にしようみたいな。
劇団を旗揚げした90年代後半って、バブルの名残みたいなのがまだあって、私らより少し上の世代の演劇ってすごいおしゃれでハイセンスな感じがあったんですね。そういうのに対してバンカラを復興するぞ!みたいな。バンカラ・ルネッサンスみたいな、そういう気持ちがあって、それが今でも劇団のカラーになってるんですけど、もうちょっとおしゃれになってもいいのかなと。そうしたら裾野が広がるのかなと。でも、どこまでそれが許されるのか、どこまでだったら劇団のカラーが失われないのかなっていうのもあって。でも実際に橋本さんの演出作品を何本か観て、これなら任せられるかなって思いました」
―――橋本さんは、それを聞いてどう感じましたか。
橋本「嬉しかったですね。僕としては以前からチャリTの舞台が好きで観に行っていたところから始まったので。楢原さんと仲良くさせてもらうようになって、僕の舞台も観てもらいつつ3年くらい前から楢原さんから『いつか誰かに演出してもらいたい』と聞いていたんです。
そこから始まって、去年の9月くらいに楢原さんに『来年どんなのやるんですか?』と聞いた時に『来年は戦後80周年だから、戦争を題材にしたい』という話がありました。僕自身、演劇を始めるきっかけが12歳の初舞台で戦災孤児の役を演じたことにありました。その後も戦争をテーマにした、『ひめゆりの塔』などの作品に参加したり、10年前の29歳の時には、被爆者と共に彼らのヒバク証言を25カ国に届けるという世界一周の旅をしたんですよ。『戦争の歴史を継承していく』ということが、自分自身が演劇作品を創っていく時の1つのテーマにもなっているので、今回のこのテーマを聞いた時には『これはちょっと、いよいよじゃないか?』という思いがありました。それで、僕から楢原さんに『演出させてください!』と声をかけ、快諾してくれた時はめちゃくちゃ嬉しかったです」
―――そもそも劇団チャリTの魅力はどんなところにあると思っていますか。橋本さん自身が一番惹かれるポイントを教えてください。
橋本「ちゃんとエンタメにしつつ、ちゃんと社会派で『ふざけた社会派コメディ』と謳ってる通りブラックコメディなんですよ。少し前から今の日本のメディアが置かれている状況は色々と規制が厳しくなっているじゃないですか。モラハラ、パワハラ、セクハラと色々な縛りがある中で『よくぞこれをやり続けてくれてるな!』と毎回ハラハラしながら観てますが、けれどだからこそ、小劇場でなきゃ絶対に観れない作品!というのが、『チャリT』だなと。
僕も元々モラパン(モラトリアムパンツ)という劇団をやっていて20代は小劇場でがんばっていたんですが、今は演出助手もやりながら商業の舞台や、公共劇場の舞台、2.5次元舞台の演出などもさせてもらったりしていて、30代は割と小劇場から離れて活動していました。小劇場も観に行くことはあるんですが、当たり外れが多すぎて『何を見せられてるんだ?』というのもあるじゃないですか。『うわ、これは何なんだ? 全然面白くないぞ』みたいな。
そんな中でチャリTさんは唯一外しちゃいけないなというかスケジュールが合う限りは必ず行くようにしている劇団です。演劇じゃなきゃやれないってことを追求してるというか、まずもってテレビじゃできないよね、っていう作品をやってくれているのが一番の理由ですね。今、YouTubeやネトフリにしろ色々なコンテンツがあるじゃないですか。みんなが時間が足りない中で、わざわざ今回のトップスや前回の下北沢のような地下の小劇場まで、足を運ぶ理由がある演劇をチャリTさんはやり続けていると思います。
社会派の劇団は他にも色々あると思いますが、やっぱりエンタメとして笑いをもって仕上げて、それこそ笑いながら素手でお客さんに殴りかかってくるような劇団はないと思います。後味は悪いんだかいいんだかわかんないけど、爽快感はあるし、いや狂ってるな〜と(笑)。
28年目、39作目にして劇団史上初で、新しい風も吹かせなければ僕が入った意味もないと思っています。まぁただ今までのチャリTの歴史もありますし、楢原さんの台本もあるので、それはもう台本自体の力を信じつつ、頼れる劇団員に加え客演の俳優さんも素敵な方々が集まったので、みんなと創作していけば、あんまり変えよう変えようとせずとも、きっといいバランスになっていくんじゃないかな、と思っています。共同演出なので、そこは一緒に『これ大丈夫ですかね?』と言いながら笑いながら創れたらいいなと思っています」
―――「笑いながら殴りかかってくる爽快感」! 確かにそうですね。事前資料でいただいていた動画で『ネズミ狩り』(非公開)を視聴したのですが、まさにそんな印象で、X(旧Twitter)などで匿名で交わされているような本音が登場人物の口から語られていて、衝撃を受けました。
楢原「『ネズミ狩り』は、まだ上品な方ですよ。大学でやっていた時のネタなんかは、今のSNSの時代では絶対に表に出せないものもいっぱいありますし、つい最近も世間的に大問題となっていた某芸能事務所を茶化すようなことしたりしてて、その時はあまりにもまずかったので、知り合いから忠告されて、ネット配信を断念したりもしましたね」
―――作品紹介に「謎の超小型飛来物の襲来により、地下に逃げ込んだ市民たち」とありましたが、この設定に関して何かヒントになった出来事などはあったのですか。
楢原「1つのアイデアとして現代の人たちと過去の人たちが交錯する場所みたいのがありました。新聞の記事に上野の地下街で戦災孤児がいたことや『火垂るの墓』のような、戦災孤児の話があるんですけど、地下だと日常からかけ離れたところに行けるのかなと。演劇のどこか日常じゃない体験を登場人物もお客さんも共有することで、何か別の視点を持てるようになったらいいな、と思うところがあったのかなと思います。
どこか潜在的にあったのは、ウクライナで地下のシェルターに避難している人を見たっていうこともありますよね。しかも地下だと色んなとこへ行けそうじゃないですか。あとは、これはちょっとネタバレになってしまいますが、エレベーターが出てきます。あとはシアタートップスという空間を考えた時にボックスになっているというか、広がりはないけど高さはある。そういう空間を考えた時にエレベーターはいいんじゃないかと。という感じで今進行してるんですよ」
橋本「今、戦後80年と言っていますが、いつ戦争が始まってもおかしくない状態だと思うんです。演出家として作品を届けるにあたって、どうしても今の時代に何かを生む時に、戦争のことを取り扱っていない作品でも、戦争というものは繋がってくると思っています。映像作品ですといつでも観られますが、あえて、『この時代の、今、お客さんに直接届ける』ということに意味があると思うので。
戦後80年の今、チャリTでこのテーマを演出するっていうのは恐ろしさもあるんですが、僕は最初に話したように戦争を扱った演劇がルーツで大事にしているテーマでもあるので、やりがいもありますし、恐れずにどう闘えるのか楽しみです。
あとは僕、『ライフ・イズ・ビューティフル』という映画が好きで、表現活動をする上でのルーツにもなっています。ユダヤ人への弾圧をヒューマンコメディとして描いている作品です。悲しい話を悲しいままで伝える作品。もちろんドキュメンタリーや、他の演出家がやっているお芝居では必要だと思うんですが、僕はやっぱり演劇はエンタメであるべきだなと思っていて、2時間だか3時間だかの上演時間の中でしっかりお客さんを楽しませる。それが喜劇にしろ悲劇にしろ、笑いがなくとも音楽だったり視覚効果であったり色々なことで、楽しませないと今のお客さんは観てくれないと思っています。楽しませた上で笑いながらぶん殴るにしろ、お涙頂戴にするにしろ、ちゃんと払ってもらったチケット代以上のものは、演出家として提供しなきゃな、と思っているのでそこはすごく大事にしています。壮大な悲劇を描いたとしても、悲劇は喜劇なわけであり『人生は美しい!』と思ってもらえるような作品創りを心掛けています」
―――最後にチャリTの演劇を初めて観にいくお客さんにメッセージをお願いします。
楢原「チャリTはちょっと変なイメージを持たれてるのか、名前は知ってるんだけど……と二の足を踏まれることが結構あって、でも全然そんなことはなく楽しい劇団なのでぜひ気軽に観にきてください(笑)」
橋本「小劇場に関してはチャリTにしかできない演劇体験をさせてくれるので、ぜひ皆さんにこれを味わっていただきたいですし、楢原さんの才能も知ってほしいですし、若い人にも観て欲しいと思うんです」
―――そうですね。チケット料金も25歳以下2,500円で高校生以下1,000円と安いですよね。
楢原「どうしても自分がお客さんだったらということを想像しちゃうんですよね。もっと気軽に劇場へ足を運んでもらいたくて、本当は一般の料金を3,000円台でやりたかったんですが、やっぱり今のご時世、いろんなモノの値段が上がって製作費も膨らんでしまって。ブラック企業ならぬブラック劇団っていうのもまずいじゃないですか(笑)。ちゃんと出演者にもギャラ払いたいですし。でも一般でも前売り4,000円ですよ。小劇場で6,000円とか1万円近くとるようなところもある中でこの安さ! でも芝居の中身は安くありませんから、ぜひ安心して観にきてください」
(取材・文&撮影:新井鏡子)
プロフィール
楢原 拓(ならはら・たく)
埼玉県出身・在住/早大卒/劇作家・演出家・俳優 在学中、双数姉妹、東京オレンジを経て、1998年、早大劇研を母体にチャリT企画を旗揚げ。以後、全公演の作・構成・演出を担当。代表作:『ネズミ狩り』佐藤佐吉賞最優秀脚本賞(2009年)、『絶対に怒ってはいけない!?』日本コメディ映画祭優秀作品賞(2022年)
橋本昭博(はしもと・あきひろ)
茨城県出身/演出家。 2011年に演劇プロデュース ユニット Moratorium Pantsを旗揚げし、全作品の企画・演出・出演を手掛け、谷川俊太郎氏の作品やオリジナル作品を上演。演出補、演出助手、表現教育指導者、WSファシリテーターとしても活動。 近年の演出代表作には、とよはし芸術劇場『リア王』、水戸芸術館『ミュージカル水戸黄門』、サンシャイン劇場『Change The World』などがある。
公演情報
劇団チャリT企画『パトリオット』
日:2025年6月25日(水)~29日(日)
場:新宿シアタートップス
料:一般4,000円 初日割[6/25]3,500円
U25[25歳以下]2,500円
高校生以下・障がい者1,000円 ※U25・高校生以下・障がい者は要身分証明書提示(全席指定・税込)
HP:https://www.chari-t.com
問:チャリT企画 tel.:070-6450-4167