テネシー・ウィリアムズの傑作戯曲を再演 小劇場だからこそ感じられる既視感と没入感と男性キャストならではの魅力を届ける

テネシー・ウィリアムズの傑作戯曲を再演 小劇場だからこそ感じられる既視感と没入感と男性キャストならではの魅力を届ける

 劇団スタジオライフの演出家の倉田淳が長年憧れ続けた、テネシー・ウィリアムズの戯曲『ガラスの動物園』。2024年3月に上演された本作が、劇団創立40周年となる今年、一部キャストを変更してBlueチームとRoseチームの2チーム制で再演される。
 本作は、1930年、不況時代のアメリカを舞台に、セントルイスの裏町にあるアパートに暮らすウィングフィールド家の日常を繊細に描き出した作品。語り手となるトム、その姉のローラ、母親のアマンダ、そして靴倉庫で働くトムの同僚のジムの4人の繊細な心を紡ぐ。
 Blueチームでローラを演じる吉成奨人、ジム役の鈴木翔音、そしてトム役の奥田努に話を聞いた。


―――初演から1年3カ月という短いスパンでの再演です。初演で実際にステージに立たれてみて、どんなことを感じましたか?

鈴木「有名な戯曲でしたので、出演者は戯曲をもともと知っている人が多かったのですが、スタジオライフでは初めて上演する作品でした。誰かが死ぬわけでもないですし、抑揚もそれほど大きくないお話を、ウエストエンドスタジオという小劇場で上演して、お客さんがどれくらい楽しんでいただけるのだろうか。僕たちも分からない状態で稽古をしていましたが、本番の幕が開いたら、お客さんが集中して観てくださっているのを感じ、劇団としても演出としてもこれはいけるのではないかと思えました。スタジオライフは再演をする作品も多いですが、その中でも1年という短いスパンで再演するのはあまり多いことではないので、今回も絶対に成功させたいと考えております」

吉成「初演で僕は大先輩に囲まれてお芝居をしました。有名な戯曲で、4人芝居。先輩との芝居の中でどういう変化が見られるのかなと思いながらやらせていただいてきましたが、役者としてまた1歩成長できたのではないかと思います。翔音さんも言っていましたが、小劇場の空間にお客さまが入るとどういう形になるのか分からないまま本番を迎えたので不安はありましたが、お客さまの反応をしっかりと感じられて、楽しんでいただけたのかなという手応えはあったと思います」

奥田「僕は手応えは正直分かりませんが、有名な戯曲ですし、僕たちの公演前に有名な方々も同じ戯曲を上演していたので、勝負したいなという気持ちはありました。ただ、初演ではまだ少し浅いのではないかという感覚があったので、今回の再演では、もっと深い、フルボディなものにしていきたいと思います」

鈴木「さらに今回は、客演として坂本岳大さんに出演していただきますし、Roseチームにはローラ役で青木隆敏も入りますので、新しい風が吹くと思います。それもまた新しいところだと思うので、これまでご覧いただいた方にも楽しんでいただけるのではないかと思います」

―――吉成さんは今回、新たにBlueチームに入りますね。

吉成「そうですね、今回、僕はチームが変わって、前回とはご一緒する方も違うので、新たなローラが生まれるのかなと思います。前回感じたことを今回に活かし、きちんと深掘りして、さらにローラをしっかりと作り上げてお客さまにお伝えしていきたいと思います」

鈴木「そもそも男性が『ガラスの動物園』のローラを演じることはなかなかないと思うんですよ。そこはほかの公演と絶対的に違うところですね」

吉成「そうですね。自分の中では、悲劇的になりすぎないように演じたいという思いがあります。前回、演出の倉田と、ローラはコンプレックスを持っているけれども、男性が演じることによって、それを出し過ぎたり、マイナスに見せ過ぎないところがあるのではないかという話もしました」

鈴木「戯曲自体、悲劇に見られがちではありますが、スタジオライフが上演するとそれともまた少し違った印象を与えられるのかなと思います。それはきっとローラが男性だからなのかなと思います」

―――奥田さんはいかがですか?

奥田「僕自身は、(吉成とも)稽古を一緒にしていたので、あまり新しいチーム編成だからという感覚はないですが」

―――なるほど。昨年と全く違うということでもないんですね。

奥田「そうですね。そこはあまり気にしていないです」

鈴木「きっとBlueチームはその感覚が強いかもしれないですね。Roseチームの方が新キャスト+客演の方をお呼びするので、お客さん的にも目新しいのではないかと思います」

―――奥田さんは再演に向けて今、どのようなことを考えていますか?

奥田「やはりとてもうまい戯曲だと思います。みんなそれぞれ背負っているものがあるので、どうしても重いものを見せないとそれが伝わらない。でも、日常は続いていく。普通の暮らしの中で、その背負っているものをどう見せるのか。トムが物語を語るという構成になっていますので、そうしたことをより深く考えて演じたいと思っています。物語を語っているトムと、その物語の中の若いときの自分。その違いがうまいこと出せたらと考えています」

―――今のお話にも通じると思いますが、それぞれの役柄についてはどのように今、考えていらっしゃるのですか?

鈴木「僕はジム・オコナーという人物を演じますが、最初にこの戯曲を読んだときに嫌いで嫌いで仕方なかったんですよ(笑)。この人はなんでこんなことを言うんだろうと理解もできない。お客さんはこれを観て、どう思うんだろうとずっと考えていて、演出にも『この人嫌いです』と言っていたのですが、稽古と本番を重ねて、ジムは決して悪い人間ではないということがだんだん分かってきました。最終的に、好きにはなれなくても『ジムっていいやつだよね』くらいまではいけたんです。今回、どう演じ方を変えるかということは考えていないですが、2幕で深く絡むローラ役の吉成と新たにジムを作っていきながら、もっとジムのことを好きになれたらと思います。そうすれば、きっともっと『ガラスの動物園』のことを好きになれて、もっとお客さんにこの作品の魅力を伝えられると思うので、そこを目指して頑張りたいと思っています」

吉成「最初に戯曲を読んだときは、ローラにどうしてもマイナスな印象がありました。引きこもりで自分の意見を言えないのかなと。ですが、演じていく中で、本当は自分の意見もあるし、強い子なんだなと思うようになりました。教室に行かないということもそうですが、やらないことに対してしっかりと意見を出して、頑固なところもある。ローラがこうなるまでの経緯を掘り下げたり、彼女がどうしてそうした行動をするのかを考えて、自分の中ですり合わせていけば、さらにローラに近づけるのかなと思います。それから翔音さんがおっしゃるように2幕はジムとのシーンになるので、ジムからもらうものが大きいと思います。ジムとのやり取りで固まった心が溶けていくので、それを翔音さんと演じたときにどうなるのかなと今は楽しみにしているところです」

鈴木「ちょっと緊張するよね(笑)。改めて一緒にやるとなると」

吉成「緊張しますね。この2人でどこまでいけるのか、探っていきたいです」

奥田「僕は、トムを演じるにあたって、もっと倉田さんといろいろとお話をしていきたいと思います。これまでも稽古の中でたくさん話してきましたが、ほかのどの『ガラスの動物園』より良かったと言ってもらえるものにしたいです」

―――改めてこの作品の魅力はどんなところにあると思いますか?

鈴木「スタジオライフが上演する『ガラスの動物園』が、他のカンパニーさんと違うのは、既視感(デジャビュ)があることだと僕は思います。他のカンパニーさんのものは、どこか違った世界で起こっている話のように感じました。それも1つの魅力だと思いますが、スタジオライフの『ガラスの動物園』は、よくある家族の話で、よくある会話が展開していきます。なので、観てくださる方は、既視感(デジャビュ)があるのかなと。しかも、小劇場という空間も相まってより没入感がある。お客さんは、家の中をのぞいているような感覚になったのではないかなと思います。それは、昨今の商業演劇にはなかなかない魅力だと考えています」

吉成「何か大きな事件が起こるっていうわけでもなく、アクションがあるわけでもなく、ただ日常が繰り広げられている作品です。家族の中で問題が起きますが、きっと他人から見たらそれは小さなことなのだと思います。でもそれは誰にでも身近に感じられることで、数あるトラブルやボタンの掛け違いという日常を見られるのがこの作品の魅力でもあると思います。そして、2幕で家族ではないジムが入ってきて、プチ事件が起こる。それが物語のスパイスとなっていきます。派手なものがないけれども、日常をのぞいているような感覚というのはこの作品の魅力なのかなと思います」

奥田「観終わった後に家族に連絡したくなったり、普段は言えないような言葉を言いたくなったり、ありがとうと言おうと思える作品になったらいいなと思います。誰にでもさまざまな人間関係があります。僕たち小劇場の仲間たちも、昔は毎日のように『飲むぞ、飲むぞ』と言われてきましたが、最近は終わったらパッと帰ってしまう。昔は嫌だなと思っていましたが、今となっては飲みにいかないのも寂しい。それと同じように人間関係にはさまざまな側面があるのだと思います。この戯曲は、暗い話だと思われているかもしれませんが、そうではなく、大事な人を思いやれる作品になるのではないかと思っています」

鈴木「奥田さんが演じるトムは信じられないくらい話しますよ。すごいセリフ量ですよね」

奥田「そうだっけ? 公演が終わっちゃうと忘れてしまうんで、また台本を読み直します(笑)」

鈴木「でも、全員セリフが多いですよね。4人芝居なので。そのセリフの多さも楽しんでいただけたらいいなと思います」

奥田「どこがどうというよりは、セリフが自然に入っていくような努力はしたいですね」

―――先ほどRoseチームは新しい風とおっしゃっていましたが、Blueチームはどんなチームになりそうですか?

鈴木「今回は、ベテラン勢がRoseチームに入っているので、ちょっとビターな感じになるのではないかと勝手に想像しています。相対的にBlueがフレッシュで、若さがある」

奥田「絶対に違いは出てきますからね。ただ、僕はBlueチームの方がいいと言わせたいです。お互いに相乗効果でより良いものになれたらと思います」

吉成「初演も楢原さん、奥田さん、翔音さんは一緒で、僕だけが新たに入ったので、僕自身はすごく新鮮な感覚があります」

―――ちなみに皆さんはどの役柄に一番共感できますか?

鈴木「トムです。自分で逃がしどころを作っているというところに共感できます。ジムはあまり共感できないと先ほど言いましたが、きっと同じ大学にジムがいたら友達にはなっていないと思います(笑)。そういう意味でも共感するのはトムです」

吉成「僕はやっぱりローラです。自分が演じるということを除いても、ローラが姉として弟やお母さんに対して思うことは理解できます。僕自身も弟がいるので、親と弟の間に立ってフォローをしてあげたりすることも多かったので、長子の立場というのは共感できるところです。それに、僕も頑固なところがあるので、引けないところは引けないというローラの強さにも惹かれます」

奥田「トムはみんなが共感しやすいと思います。ただ、僕は意外とジムのことは分かるんですよね。良かれと思って優しくしたけれども、相手はそうは思っていなくて傷つけてしまったということはこれまでにもあったなと。そう考えると、生きているとそうしたことばかりしている気がします」

鈴木「人たらしなんですよ、奥田さんは」

奥田「例えば恋愛でも、もしかしたらそうしたことをしちゃっていたのかなと」

鈴木「それは共感というよりは実体験です(笑)」

―――最後に公演に向けての意気込みと読者へのメッセージをお願いします。

鈴木「舞台セット、小道具一つひとつが、トムの追憶の世界に相応しいものができたと思っております。今回さらにパワーアップしたものをお見せしたいと思っておりますので、ぜひ再演も楽しんでいただけたらと思います」

吉成「1年という短い期間での再演になります。初演の稽古と本番の感覚がまだ残っていますが、それを追わずに、今回、感じるものを生かして演じていきたいと思います。全員男性キャストですので、男性キャストならではの魅力をお客さまに感じていただけたらと思います。今回も精一杯やらせていただきますので、よろしくお願いします」

奥田「別のカンパニーの『ガラスの動物園』を観たことがある人にこそ観てほしいなと思います。ストーリーが分かっているから、1回観たことがあるからいいやではなく、他を観ていてスタジオライフのものを観たらどう感じるのか。その違いを知りたいですし、ぜひ教えていただけたらと思います」

(取材・文&撮影:嶋田真己)

プロフィール

吉成奨人(よしなり・しょうと)
茨城県出身。朗らかで明るい持ち味で女性役を含め幅広い役柄を演じ、劇団期待の若手として躍進している。主な出演作品に劇団スタジオライフ公演では、萩尾望都原作『音楽劇・11人いる!』、吉田秋生原作『カリフォルニア物語』、三原順『はみだしっ子』、倉田淳脚本『ぷろぐれす』等があり、外部公演では岩﨑大20周年企画公演Supported by東京ジャンケン『bastidores-楽屋-』、明治座アートクリエイトプロデュース公演『雪やこんこん-湯の花劇場物語』等がある。

鈴木翔音(すずき・しょおん)
神奈川県出身。劇団スタジオライフ公演に加え、外部公演にも出演している。主な出演作品に『11人いる!』、『トーマの心臓』、『WHITE』、2.5次元ダンスライブ『ツキウタ。』シリーズ、『毒薬と老嬢』、『ロミオ&ジュリエット-薔薇の名前-』など。

奥田努(おくだ・つとむ)
静岡県出身。劇団スタジオライフ公演に加え、外部公演にも多数出演。劇団の同期で結成した演劇企画集団「Jr.5」(ジュニアファイブ)代表。演劇ユニットヤマガヲクのメンバー。主な出演舞台にチーズtheater『海と日傘』、ONEOR8『千一夜』、『甘い傷』、ミュージカル『イヴ・サンローラン』、ヤマガヲク『エダニク』、地下空港『暁の帝〜壬申の乱編〜』、新宿公社『少女地獄』、江古田のガールズ『パル子の激情』、亜細亜の骨『ミラクルライフ歌舞伎町』など。

公演情報

The Other Life vol.13 『ガラスの動物園』

日:2025年6月19日(木)~29日(日) 
場:ウエストエンドスタジオ
料:一般6,500円 アンダー28[28歳以下]4,000円 
  学生3,000円 高校生以下2,500円
  ※アンダー28・学生・高校生以下は要身分証明書提示(全席自由・整理番号付・税込)
HP:https://studio-life.com/stage/glass2025
問:スタジオライフ 
  tel.03-5942-5067(平日11:00~16:30)


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