横山拓也による演劇ユニット「iaku」の新作はラブコメディ 社会的テーマを色濃く表現しつつ、エンターテインメント性を意識した作品

横山拓也による演劇ユニット「iaku」の新作はラブコメディ 社会的テーマを色濃く表現しつつ、エンターテインメント性を意識した作品

 『エダニク』、『粛々と運針』、『あつい胸さわぎ』などで知られ、エンタテインメントとユーモアに富んだ会話劇に定評がある劇作家・横山拓也による演劇ユニット「iaku」の新作公演『はぐらかしたり、もてなしたり』はズバリ“ラブコメディ”。身近にある社会的な問題を取り上げるこれまでのiakuと少し違うアプローチでお届けする。「自分が面白いと思うものをつくる」をテーマに手掛けた本作の注目ポイントを横山拓也に聞いた。


―――iakuとしては約2年ぶりの長編新作となります。

 「そもそもiakuの立ち上げ当初から、できるだけ自分が納得のいく戯曲を作って、繰り返し上演が望まれるようなものを発表していくスタンスで、近年は1年ごとに新作と旧作を交互に上演しています。2年前の『モモンバのくくり罠』が新作、昨年の『流れんな』が再演という順番で、今年は新作という流れです」

―――気になる新作は、ラブコメディとのことですね。

 「これまでiakuで描いた長編新作では、1つの大きな主題を置いて、人間関係の濃い人たちが1つの方向に向かって走っていくという物語を作ってきたんですけど、今回は少し趣向を変えてみようかなと思っています。オムニバス形式というわけではありませんが、いくつかのエピソードを渡り歩いて、最初は無関係に見えた人たちがいつの間にか繋がっていくというスタイルの作品になります。
 Iakuでコメディを全面に出したことはありませんが、これまで通り社会的なテーマを色濃く表現しつつ、今回は間口を広くといいますか、エンターテインメント性を意識した作品にしていくという括りが自分の中ではあります」

―――『はぐらかしたり、もてなしたり』というタイトルは、どのような思いでつけられましたか。

 「“はぐらかす”や“もてなす”は、すごく日本人的な振る舞いのような気がしていて。人と関わる時に“もてなすマインド”を持っている人は多いと思うんですけど、その一方で、あまり本当の自分をすぐには晒さないというか、本質的な部分をあまり見せない人もいますよね。そういう人たちが右往左往してるようなものをドラマにできればいいなという思いで、こういうタイトルにしました」

―――本作では8人のキャラクターが登場します。

 「今回は、20代・30代・40代・50代とバランスよく登場人物がいて、しかも男女比も半々で、そういう意味でも、自分の経験や現状に当てはまるようなことがたくさん感じられるのではないでしょうか。
 ただマナーやルール、特にジェンダーに関しては、世代によって感覚が違うというのはあると思います。上の世代の人ほど無自覚であり、アップデートに時間がかかるのが現状で、デリケートな問題の扱い方には最新の注意を払わなければなりません。僕の年齢は48歳ですけど、そういった部分を恐れて、作品の中で踏み込めないことが最近あったので、敢えてそこにチャレンジはしてみたいですし、かといって時代にそぐわないものを作るつもりはありません。
 恋愛にまつわる失敗談や恥ずかしいエピソードをコミカルに描きつつも、少子化の問題や、結婚に対してポジティブになれない現実など、今の若い世代も含めて抱えている恋愛や結婚全般にまつわる難しさを、エンターテインメントに落とし込んで、みんなで見つめてみようという作品にしたいです」

―――本作の注目ポイントを教えていただけますか。

 「キャスティングという点では、これまでiaku公演に出演してくれた役者さんや、ワークショップで知り合って、ご一緒してみたいと思っていた役者さんもいます。
 それと、竹田モモコさんは僕が大学時代の同級生と立ち上げた劇団売込隊ビームに入ってきた後輩で、僕が15年以上かけて受賞した劇作家協会新人賞をわずか2年で受賞した優秀な劇作家としても今注目されています。自分がまだまだ未熟だった頃に、役者として関わってくれた竹田さんと、今回久々に“作・演出”と“俳優”という関係で創作するということで、関西でずっと応援してくれた人にもアピールしたいですね。あと、彼女は東京でも注目され始めているので、どんな俳優なのかなという部分でも興味持ってもらえたらと思っています。
 また、初めてiakuの舞台を観劇される方への注目ポイントとしては、すごくとっつきやすい作品になっていますので、自分の持ち味だと思っている対話の面白味や、観ているうちにいつの間にか舞台上で自分もその会話に参加してるような感覚になれるところを、シンプルに楽しんでもらえるかなと思っています」

―――大阪府吹田市出身の横山さんにとって、吹田市文化会館 メイシアターで行われる大阪公演は地元凱旋という意味合いもありますね。

 「僕自身の楽しみになってしまうんですけど、懐かしい顔に会えることや、地元に文化を還元できる喜びみたいなものがあるので、演劇にあまり馴染みのなかった人たちに楽しんでもらいたいという思いはあります」

―――横山さんといえば、昨年から今年にかけて、第27回鶴屋南北戯曲賞と第59回紀伊國屋演劇賞 個人賞を受賞されました。

 「鶴屋南北戯曲賞に関しては、5回目のノミネートでようやく受賞することが出来ました。最初の頃はノミネートしてもらっただけでも有り難かったのが、5回もノミネートとなると『またノミネートされてしまった』という思いになってしまって(笑)。結果発表当日は、他の仕事に集中しようとするも、ずっと心の中がざわざわして、気持ちがどこかに持ってかれてしまう苦しさというのがあるんです。なので受賞した時は、喜びよりもあの苦しみから解放されたという安堵感の方が大きかったです。
 紀伊國屋演劇賞に関しては、『まさか自分が!』というのが率直な感想でした。自分が関わった作品の役者や演出家が紀伊國屋演劇賞を受賞するのを客席側から見ることは何度かありましたが、こんなに早い段階で自分が賞をもらう側になるとは思いませんでした。過去のiaku作品に何度も出演していただいた緒方晋さんも同じ年に受賞して、一緒に壇上に上がれたということもすごく感慨深いものがありました」

―――受賞する前と後で気持ちの変化などありましたか。

 「別に賞を取るために書いてきたわけでは全くないんですけど、いわゆる社会的な問題をきちんと扱った方が賞にどこかで繋がるんじゃないか、みたいな邪念的なものは頭の片隅にあったかもしれません。受賞したことによって、ノミネートが続くことによる苦しみから解放されましたし、『自分が面白いと思うものをつくる』という純然たる思いに立ち戻れたという意味でも、受賞させてもらった効果があったのかなと思います」

―――さて『はぐらかしたり、もてなしたり』というタイトルにちなんで、これまでに受けた“おもてなし”で印象的に残っているエピソードがあったら教えていただけますか。

 「あまり面白いエピソードないですよ(笑)。昨年末に岐阜県可児市で行われた南果歩さんと小倉久寛さんのリーディング公演で、地元のスタッフさんから焼肉やうなぎといった高級料理をご馳走していただいたことですかね。南さんと小倉さんのご相伴にあずかった形ですけど」

―――では、“はぐらかす”に関するエピソードは?

 「“はぐらかす”に関しては、しょっちゅうです(笑)。脚本の進捗状況を確認された時のはぐらかし方、というより“ごまかし方”になるかもしれないですけど、経験すればするほど、どんどん技を手に入れてしまうといいますか。全部で何ページになるかわからないのに『40ページまで出来ています!』と言ってみたり、成果はあまり出ていないのにポジティブなことを言ったりして。
 演劇界の中では、比較的締め切りを守れる方だという認識をしてもらってはいますが、書いている最中はいつも不安ですし、ついついはぐらかすようなことを言ってしまいますし、そういうのはどんどん大人になるに連れて上手くなっちゃいますよね(苦笑)」

―――きっと読者の中には、はぐらかすことが苦手な方もいらっしゃると思います。そういう方に向けてのアドバイスがありましたら教えて下さい。

 「ないです(笑)。覚悟しなきゃいけないのは、どんなに上手くはぐらかせてる人、ごまかせてる人でも、相手はすごく観察してるので、絶対バレていると思いますよ。
 例え上手に嘘をついているつもりでも、それを気づいてないフリをしてもらっていることの方が多いでしょうし、“大人のやり取り”というのは、もう気づいてるけど気づいてないふりをし続けて成立していると思うんですが、だんだん時間が経つと成果が見えて、着地点を迎えた時には、ごまかし合ってきた時期も懐かしい思い出になっていくんじゃないでしょうか。
 はぐらかしたりごまかしたりしてる姿はみっともないけど、人間味が溢れて愛らしいですし、気づかないふりをしてあげ続けるという日本社会って、僕は愛しいと思うんです」

―――では最後に公演を楽しみにされている方に向けてメッセージをお願いします。

 「誰もが何らかの形で経験してきた恋愛にまつわるいろいろなことを面白おかしくエピソードとして並べた“ラブコメディ”を純粋に楽しんでもらえたらいいなと思っています」

(取材・文&撮影:富岡弘行)

プロフィール

横山拓也(よこやま・たくや)
大阪府出身。劇作家・演出家。2012年3月、演劇ユニット「iaku」を立ち上げ。身近にある社会的な問題を取り上げながら、エンタテインメントとユーモアに富んだ会話劇に定評がある。2024年、『モモンバのくくり罠』で第27回鶴屋南北戯曲賞を受賞。2025年、『流れんな』の作・演出と『ワタシタチはモノガタリ』の作で、第59回紀伊國屋演劇賞 個人賞を受賞した。

公演情報

iaku『はぐらかしたり、もてなしたり』

日:2025年7月12日(土)・13日(日)
場:吹田市文化会館 メイシアター 中ホール
料:一般4,500円 U-30[30歳以下]3,500円
  大学生以下1,100円
  ※各種割引は要身分証明書提示
  (全席自由・税込)
HP:https://www.iaku.jp
問:iaku mail:contact@iaku.jp

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