「キ上の空論」が紀伊國屋サザンシアターで繰り広げる、ヒリつく会話劇 心の内にひっそりストレスを抱える者たちの、様々なドラマを描く

「キ上の空論」が紀伊國屋サザンシアターで繰り広げる、ヒリつく会話劇 心の内にひっそりストレスを抱える者たちの、様々なドラマを描く

 中島庸介主宰のユニット「キ上の空論」が、6月に新作『人骨のやらかい』を上演。中心的キャストとして迎えるのは、藤原祐規と町田慎吾だ。年代が近くプライベートでも遊んでいるという気心の知れた3人に、新作への想いや「キ上の空論」の魅力を語ってもらった。

―――『人骨のやらかい』は、どこから着想を得てプロットを考えていったのでしょうか。

中島「僕は悪いニュースやSNSにストレスを感じ、へこんでいってしまうタイプ。演出助手の保坂(麻美子)も似たタイプで、歯を食いしばるクセがあり、奥歯が割れているらしいんです(笑)。そして僕自身もあるとき歯医者さんから『食いしばりがある』と指摘され、“噛む”“飲み込む”といったことが意識に残り、調べていくうちに異食症という症候を知ったことが本作の着想になりました」

―――今回、藤原さんと町田さんにお声がけをした理由を教えてください。

中島「2018年から出演していただいていて、信頼のあるおふたりというのが1つ。また、フッキー(藤原)さんもまっちー(町田)さんも、日頃からストレスを感じている方たちかなと」

町田「見抜かれていますね。恥ずかしい(笑)」

藤原「何の否定もできないです(笑)」

中島「周りを気遣う優しいおふたりで、同時に内に抱え込むものも多そうな印象が今回の作品イメージと重なり、お声がけしました」

町田「僕も歯ぎしりがすごいんです(笑)。普段からいろいろ考え込むタイプなので、中島さんとは近いものを感じています」

藤原「僕も一緒ですね。ニュースやSNSで悪いニュースを目にするとしんどくなって“もらってしまう”のが分かっているので、自発的に消すようにしています」

中島「すごく分かります」

藤原「まっちーさんは一緒に稽古をしているとき、芝居が変わるのをいいなと思って『めっちゃステキでした』と言うと、だいたい『俺なんてクソだよ』という返事が来るんです」

中島「そうそう。そうですよね!」

町田「そんなこと言っちゃダメですね(笑)」

藤原「ダメなんですけど、でも、そういうふうに言うとても控えめなまっちーさんが僕は好きなんです」

町田「でも、フッキーも同じだよ? 『すごいステキだね』って言うと、『いやいや、俺なんか……』って絶対言うもん(笑)。僕もそこが好きなんですけど」

―――今回、中島さんが『人骨のやらかい』でおふたりに託したい役どころとは?

中島「まっちーさんがお笑いトリオのリーダー。ネタを作り、演劇の公演もやっている“話を書ける人”で、売れるためにどうすればいいかを考えている人物。そしてフッキーさんが異食症ですね。2人とも外には見せないけれど、深く考えながら生活している……という設定です。
 実は2人をどちらの役にするかとても迷ったのですが、最終的にこの形に落ち着きました」

町田「僕は芸人さんなんですね」

中島「はい。室(龍太)くんと、さとちゃん(佐藤永典)とのトリオです。まっちーさんとさとちゃんの組み合わせをぜひ見たかったので」

町田「個人的には、フッキーとさとちゃんと一緒にできるのがすごく嬉しいです」

藤原「俺も嬉しいです」

町田「本当に? ウソじゃない?」

藤原「ホントホント。佐藤とも話していたんですよ。前にまっちーとさとちゃんの二人芝居も観ていたから、3人で一緒の現場というのは嬉しいねって」

中島「フッキーさんは富田麻帆さんと夫婦役。子どもができ、そのプレッシャーや仕事やお金、生活などの重しがどんどん乗っかっていき、大丈夫なのか……と自問して孤独に陥るというような役どころです」

町田「想像したけど、フッキー、すごくステキ!」

藤原「早いから! まだ何もやっていないから!!(笑) でも富田麻帆ちゃんもキ上の空論に出会って、今までやってこなかった芝居に触れ、自分の芝居を考えるきっかけになったと話していたんです。『全く知らなかった世界に挑むことで、もっとうまくなれる』という展望を持っている人と共演できるのは、楽しみです」

―――藤原さんと町田さんは「キ上の空論」へ度々出演されていますね。

町田「初めてご一緒させていただいたときに中島さんにベタ惚れしまして! 才能が素晴らしく飛び抜けていて、すごいなと尊敬しています。ずっと繋がっていたいと思っている方からのお声がけは、嬉しいです。中島さんの描く世界を忠実に表せるよう、全力で誠実に演じたいです」

藤原「初参加時、“日常会話を舞台に上げる”という中島さんの手法に衝撃を受けました。以来、他の現場でもリアリティのある芝居にトライして、再びキ上に参加するときに答え合わせ、をずっと繰り返しています。僕にとってはとても大きな出会いでした。
 今回は様々なプレッシャーがのしかかり、孤独になっていく役柄だそうで、不安もありますが楽しみです」

中島「まっちーさんはプライベートでも遊んでいるんですよ。花火したり、グランピングしたり。フッキーさんは基本、断るタイプなんですけど(笑)」

藤原「え? 俺、誘われました?」

中島「今度、行きましょう! フッキーさんとはパスタを一緒に食べましたよね」

町田「え、ずるい! じゃあ、今度は3人で!」

藤原「ぜひぜひ!」

―――中島さんが「一緒に作品を作りたい」と思うのはどんなタイプですか?

中島「お芝居の技術はもちろんですが、僕は現場の空気感を大事にしていて。役者さんの芝居に対する気持ちや、シンプルにいい人かどうかというのを重要視しています。いい人たちが集まると、カンパニーの力が自ずと強くなっていくんですよね。おふたりに何度もお声がけしているのは、間違いなくいい人たちだから、ということになります」

藤原「“いい人”って言われると『そんなことないのに……』って思っちゃいますけど(笑)」

中島「きっと毒もあると思うんですけど、それすらも純粋なモノだったりするので、そういうところに惹かれるし、またやりたいという気持ちになるんです」

町田「いや、ありがたいです!」

―――おふたりが考える、中島さんの作品や演出の魅力とは?

町田「中島さんはリアルを求めている方。それも表層的なリアルではなく、人が密かに心の内で思っているようなリアルを丁寧に描き出すから、観る人の心にグッサリ刺さり、共感できるのだろうと思います。流れをしっかりと汲んだ脚本や単にド派手にするわけではない、肉体を用いた意表を突く演出に、刺激を受けます。みんな、芝居が上手ですし」

藤原「そうそう。『キ上の空論』に出演される方は、本当にみんな上手でいつもびっくりします。『世の中には、芝居がうまい人っていっぱいいるんだな』と教えてもらった現場でもありますね」

中島「ウチの現場は必ずオーディション枠を設けています。オーディション枠の方々は『やってやるぞ!』という熱量が高く、現場に相乗効果をもたらしてくれるんです。今回も2人の方が加わり、いい空気感を生み出してくれると思います」

藤原「中島さんの描くキャラクターにはいい面も悪い面もあり、人間くさいところが好きです。『人間ってそうだよな』と思いますし、『この役、共感できるな』と思って観ていると、思いがけない面が出てきて『あれ……?』となるなど、キャラクターのいろいろな顔を見て心を搔きむしられ、転がされるのが醍醐味かなと」

―――中島さんが考える、おふたりの役者としての魅力についてお聞かせください。

中島「おふたりのことを舞台で観ていて、まっちーさんは発する言葉や状況の説得力があると感じます。また、僕がどうしたいかということをすごく汲もうとしてくださる。それはご自身が演出もやっているからだと思いますが、僕に寄り添ってくださる俳優という印象です。ステージ上での華があり、お客さんも共演の俳優さんたちも魅了されています。
 『町田さんと共演してよかった』という話をよく聞くんですよ。稽古場で会い、本番を袖で観て『めちゃくちゃステキな方ですね!』という言葉が若手やオーディション組から出てくる。それがまっちーさんの人柄だと思います」

町田「(小声で)誰が言っていたか、後で教えてください。お礼の連絡をします(笑)」

藤原「確かに、俺もそういう話を聞きますよ」

町田「俺の話はいいですから……!」

中島「フッキーさんに関しては、まず声が好き。ボソッと発するセリフでも、遠くまできちんと通るんです。僕の台詞ととても相性のいい声を持っていらっしゃる方だなと思っています。会話のバランスがよく、しかも誰にでも合わせられる瞬発力のある方。
 また、人のことをすごくよく見ていて、『今日の芝居、よかったよ』など声をかけているそうで、そこもステキだなと。そして、何でもやって楽しんでくださる(笑)。『これ、ほかの役者さんにはお願いできないけど、フッキーさんなら……』とお渡しすることが多いですね」

―――今回の公演では、どのようなことにチャレンジしていきたいと考えていますか?

中島「これは毎回のテーマですが、舞台上での生々しい会話を目指したい。僕は会話劇の劇場の限界を知りたいとずっと思っていて、少しずつ劇場の規模を大きくしています。今回は紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAという規模感での会話の声量や肉体のバランスを探りつつ、日常的な会話や風景を演出していけたら。
 またいろいろなところから集まるキャストの芝居のバランスを揃え、1つの世界をきちんと見せられるかも課題ですね。いつもよりもシンプルなセットにし、役者さんの力だけで勝負できたらと思っています」

藤原「『キ上の空論』では、自分の中にある感情をどれだけ大きく作り、どの程度アウトプットするのか、繊細な調整が求められます。中島さんがやりたい範囲内、お客さんが楽しめる範囲内で、自分のやりたい表現ができたらベストだなと。その結果、また新しいところにいけたら幸せだと思うので、こだわり続けていきたいですね」

町田「とても難しいけれど、楽しさを味わえる作業でもあるよね。中島さんとも相談しつついろいろ探っていけたら。僕はどの舞台でもそうですが、求められるものにできるだけ近づけていけたらと思っています」

中島「最近の僕の中では『まっちーさんに舞台で想いを吐き出して欲しい、フッキーさんには孤独になっていて欲しい』という想いがあって(笑)。今回の作品では、そういうおふたりの姿を観てもらえると思います」

藤原「昔は逆でしたよね。いちばん明るい役を僕がやり、いちばん苦しむ役をまっちーさんがやっていましたから」

町田「僕、今回は笑っていて大丈夫ですか?」

中島「うん、大丈夫です。まっちーさんは真面目で、苦しむ役どころのときは口内炎が8個できたそうです」

藤原「痛いから食事を摂らず、エナジードリンクを飲んで集中していた姿を覚えていますから」

中島「今回も、確実にいいものができると確信している布陣なので、稽古が楽しみです!」

藤原「キ上の空論に参加すると、『他では観られないことをやっているんじゃないか』と感じるので、今回も唯一無二の作品ができるはず。上手な役者さん揃いで、本当にその場で行われているかのような錯覚を起こす、そんな会話劇が繰り広げられると思うので、ぜひより多くの方に観ていただければ」

町田「『頑張ります!』の一言に集約されますが、楽しみながらも自分に厳しく、皆さんにご迷惑をおかけしないように稽古場にいられればと思います」

中島「これが町田慎吾です(笑)」

(取材・文:木下千寿 撮影:間野真由美)

1日限定で変身出来るとしたら、何に変身しますか?

藤原祐規さん
「まず、人間以外の生物に変身すると、捕食される危険性があると思いました。肉食獣なら大丈夫かとも思いましたが、この地球は人間が支配しているので、人間にやられる可能性もあります。つまり、無機物なら死ぬ確率は低いのではないでしょうか。でも、例えばカーブミラーとかに変身しても、1日楽しくないかもしれません。では警察署の取調室の監視カメラならどうでしょうか。死ぬ危険も少なく、取り調べしているところを見学できて、暇しなさそう……え、でも夜暇そう!! 怖い!! やっぱり人間がいいかも」

町田慎吾さん
「『仏のような人だった。』私の祖父を知る人は、みんな口を揃えてそう言います。幼い頃にはわからなかったその偉大さが、年齢を重ねた今、わかるようになりました。あたたかく、人を包み込むような存在。私も祖父のような、仏のような人になりたいと、いつからか思うようになりました。でもなかなか難しいです。なので、物理的に大仏様になりたいです。ぜひ手を合わせに来てください。あたたかく、包み込みますね。心を込めて」

中島庸介さん
「100メートル走のメダリストですかね。最近、陸上選手の方とお会いする機会がありまして。その走りの軽やかさに、ただただ見惚れてしまいました。僕も学生時代は短距離走が得意なほうだったんですが、やはり本物は違う。体の使い方、重心の移動、全てが洗練されていて、メダリストから見える景色って、どれほど澄んでいるんだろうと想像してしまいました。あと……シンプルに、185センチの身長ってどんな感じか、一度でいいから味わってみたいですね(笑)」

プロフィール

藤原祐規(ふじわら・ゆうき)
1981年4月24日生まれ、三重県出身。2002年より俳優・声優として活動を開始。キ上の空論作品では、2018年『みどり色の水泡にキス』、2019年『ひびのばら』、『紺屋の明後日』、2020年『脳ミソぐちゃぐちゃの、あわわわーで、褐色の汁が垂れる』、2023年『幾度の群青に溺れ』、2024年『除け者は世の毒を噛み込む。』、『緑園にて祈るその子が獣』に出演。

町田慎吾(まちだ・しんご)
1981年3月25日生まれ、東京都出身。1994年より芸能活動をスタートさせ、コメディからストレートプレイまで、多彩な舞台作品にて活躍。また、振付や演出も手掛けている。キ上の空論作品では、2018年『みどり色の水泡にキス』、2019年『紺屋の明後日』、2023年『幾度の群青に溺れ』に出演。

中島庸介(なかしま・ようすけ)
1985年9月19日生まれ、岐阜県出身。2013年にユニット「キ上の空論」を立ち上げ。以降、コンスタントに作品を発信し続けている。また、外部公演の脚本や演出も担当している。

公演情報

キ上の空論『人骨のやらかい』

日:2025年6月12日(木)~17日(火)
場:紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
料:前売7,800円 当日8,300円
  U-30割[30歳以下]4,500円
  ※要身分証明書提示(全席指定・税込)
HP:https://kijyooo2013.com/jinkotsu/
問:キ上の空論 mail:info@kijyooo2013.com

Advertisement

インタビューカテゴリの最新記事