紀伊國屋ホールと新宿シアタートップスの2劇場を役者が行き来し、1つの物語を同時上演するという前代未聞の挑戦をした2008年初演の『ダブルブッキング!』。今回は『ダブルブッキング2nd!』と題して、初演から17年経った2025年の今を舞台にした新作が上演される。出演する久保田秀敏と馬場良馬に作品に対する意気込みなどを聞いた。
―――まずは、出演が決まったときのお気持ちを教えてください。
久保田「新作とはいえ、またアレをやるのかと思いました(笑)。ただ、これまでの『ダブルブッキング!』は真夏か真冬に上演されていたので、4月だ!と思いました。前回が7月だったので、今回は灼熱地獄で人だかりの新宿を歩き回る……ということはなさそう。時代は変わりつつあるなと思ってます(笑)」
馬場「僕はプロデューサーの難波さんと結構長いご縁がありまして。お芝居を色々やってきた中で『ダブルブッキング!』の存在は初演から知っていました。
2劇場を走って移動して、大変だ……というエピソードを聞いて、大変だなぁ……と思っていました(笑)。演劇はアナログですが、それをより突き詰めた究極のアナログをやっていて、『凄いなぁ』とも思ってましたけどね!
僕には関係ないと、他人事として聞いていたんですが、いつの間にか僕も参加することになりました。2008年の初演時のときは僕もまだ若かったので、『走り回って楽しそうだな』なんて思ったりもしましたけど、あれから17年経ったということは、僕も17歳年をとっていますからね! 今の僕にできるのか、不安しかないです」
―――公式ホームページによると、シアタートップスと紀伊國屋ホールの出演比率が、久保田さんは「59%:41%」、馬場さんは「31%:69%」ということで、おふたりとも両劇場を行き来すると思われます。2023年の公演に出演された久保田さん、ずばりやりきるコツは?
久保田「やりきるコツですか? ……もう気合いですね。勢いです」
馬場「気合いなんだ(笑)」
久保田「やればなんとかなる。もう気合いでいくしかないですね」
馬場「両劇場とも4階にあるのに、注意書きに“お客さまが使うからエレベーターは使ってはいけない”と書いてあって……」
久保田「はい、絶対使ってはいけません。エレベーターはいつ来るかわからず、緻密に計算された設計がズレてしまいますから」
馬場「いや〜、しんどいって!」
―――2023年公演のときはどう稽古したんですか?
久保田「稽古場を2箇所借りて、それぞれを紀伊國屋ホールとシアタートップスに見立てて稽古しました。何分何秒後に出るか入るかを、作・演出の堤さんが考えて、それに従ってキャストは両稽古場を行き来しました。スタッフさんがストップウォッチで時間を計ってくれて。堤さんが片方の稽古場で芝居を見ている間、モニターでもう片方の稽古場の様子も見て、それぞれがどう進行するかを把握して……(※今回は三上陽永さんが演出助手として、片方の稽古場を見るそうです)」
馬場「時間を計って稽古していたとしても、実際に劇場入りしないと、階段を昇る苦しみはわからないわけでしょう? 20代が上る階段と、40代が上る階段は全然違いますからね!?」
久保田「(水谷)あつしさん(59歳)がいけたら大丈夫です(笑)」
馬場「そうですかねぇ(笑)。いずれにせよ、初めての経験になりそうです」
―――演じる役についてお聞きします。久保田さんが演じる藤崎竜一は、元天空旅団の役者で、今は作・演出・主演・主宰として「藤雨」という劇団を立ち上げるという役どころですね。
久保田「はい。もともとは天空旅団にいた藤崎ですが、退団後にドラマや映画といった映像の世界にいって、色々な仕事をさせてもらったんですね。劇団側からは、劇団辞めてチヤホヤされて、調子に乗っているんじゃない?と思われて。実際、藤崎も金髪でサングラスやピアスを着けて、ちょっと見下す態度をとる。でも、いざシアタートップスで目の前にお客さんがいる状況を見ると、足がすくんで動けない。
“俺はまたこういうところで勝負したい”ということで、今回のお話に繋がっていきます。天空旅団の主宰・雨宮蘭の遺志を継いで、改めて劇団を立ち上げて、公演を打つわけです。17年前の設定上、やはりチャラい感じを出そうかなと思ったんですけど、心を入れ直した感じが伝わるようにいきたいと思います」
―――久保田さんご自身は、藤崎に何か共感するところはありますか?
久保田「なんだろうなぁ。僕自身こういう外見だからか、今時の若い役者さんなんだ? 頑張っているんだ?と、浮ついた目線で見られがちだったんですけど、今ぐらいの年齢になってくると、だんだん今後のことも考えていかないといけない。そこら辺は藤崎と同じ心境なのかな。“俺、今までと同じではダメだ”、“役者として心新たにやっていかないと”という部分では共感できるので、役には入り込みやすいです。もちろん一度演じたことがあるというのもあるんですけど。今回はふざけず、真面目にいこうと思っています!」
―――馬場さんが演じる菊島永輝は、2.5次元系の舞台で実力以上に持ち上げられることに危機感を持ち、「ジャッカル」というユニットを旗揚げする役どころ。役の第一印象はいかがですか?
馬場「それこそ2008年からの17年間で、演劇界も2.5次元バブルがありましたよね。2.5次元で活躍する役者さんがたくさん出てきて、僕自身も何作品も携わらせてもらって。でもコロナ禍の影響もあって、2.5次元バブルがちょっと落ち着いてきて……。そういう壁にぶち当たる感じ、ちょっとわかるんですよね。年齢を重ねて、今後役者を続けていくならどういうビジョンを持つべきなのか……。
菊島がジャッカルという劇団を仲間と作って、お芝居と1回きちんと向き合って、お芝居で評価されようと足掻く姿は、演じる僕はもちろん、僕や2.5次元舞台を普段から応援してくださっている方々も共感してくださるポイントが多い気がします」
―――そもそもなんですが、おふたりの最初の出会いはいつ頃になるんでしょうか?
馬場「俺ってさ、ヒデくん(久保田さんの愛称)とさ、がっつり共演はしてないよね?」
久保田「はい。がっつりはないですね」
馬場「ミュージカル『テニスの王子様』に出演したという共通項はもちろんあるんですけど……。共通の知り合いの映画監督がいて、その監督主催の飲み会か何かでご一緒したのが最初だった気がします」
久保田「そうかもしれないですね!」
馬場「ちょこちょこ繋がりはあったんですけど、こうしてお仕事で、お芝居で絡むのは初めてだと思います」
久保田「はい、確かに初共演ですね!」
―――そうなんですね。改めてお互いの印象などを教えてください。
久保田「それこそもう『テニスの王子様』の先輩ですから! だから俺、“ジャッカル”と聞いたら、『テニスの王子様』に出てくる“ジャッカル桑原”しか思い浮かばないんだけど(笑)」
馬場「あはは! じゃあ俺はスキンヘッドか(笑)?」
久保田「“4つの肺を持つ男”です……というのは冗談で(笑)。2.5次元という世界がまだなくて、『テニスの王子様』が若手俳優の登竜門の先駆けみたいな感じだった頃に、先に出演した先輩ですからね。“凄い人”という憧れの気持ちもありますけど、同時に『テニスの王子様』の出演者としてどこか家族みたいな感じもあります。
だから改めてご一緒できるのは本当に嬉しいです。お互い色々な作品を経て、経験も積んできたわけで、今回は歌や踊りなどのエンタメ要素なく、言葉と身体だけで演劇を作れるということが、もう楽しみで仕方ないですね」
馬場「僕はヒデくんのことを凄く知っているようで、実は知らないと思うんです。役者ってお芝居を通してのコミュニケーションで、その人の人となりがわかるから、今回こうしてヒデくんとお芝居できるのはとても嬉しいですね。
しかもヒデくん演じる藤崎が『ダブルブッキングやらないか?』と、僕の演じる菊島に持ちかけるところから物語が始まるので、きっといっぱい絡むはず! お互い良い感じに年を重ねてこうして芝居できることが、純粋に嬉しいです」
―――紀伊國屋ホールと新宿シアタートップスで2劇場同時上演の本作。おふたりにとっての両劇場への思いを教えてください。また、これまでの作品をご覧になった方はもちろんですが、今回は新作のため初めてご覧になる方も楽しめると思うのですが、どんな方に観ていただきたいかメッセージもお願いします!
久保田「僕が紀伊國屋ホールに初めて立ったのは、この『ダブルブッキング!』でした。歴史と伝統があって、そんなに簡単に立てる劇場ではないけれど、ずっと立ちたい劇場の1つだったので、お話をいただいたときは嬉しかったですね。トップスも『ダブルブッキング!』を朗読劇とした『トップスまであと5秒!』で立たせてもらいました。『ダブルブッキング!』という作品で、この2つの劇場に立てることは、役者としてとても財産になることですし、プロデューサーの難波さんには感謝しかないです。それに、青空演劇ができたことは新しい体験でした。まさか路上で演劇をするなんて!」
馬場「え? 路上でもやるんですか?」
久保田「そう。紀伊國屋ホールとシアタートップスの間の路上を移動するときも素に戻ってはダメなんです。役でいないといけない。例えば、役者の名前を呼ばれても反応してはいけないんですね。役同士ですれ違ったら、そこで何かアドリブで会話が始まることもあって。ちなみに僕はサインを書いた記憶があります(笑)」
馬場「待って! 天気が悪い日はどうなるの?」
久保田「もちろん天気に合わせて芝居します(笑)」
―――最近はインバウンドの観光客も多いですから、みなさんが行き来する姿を目撃して興味を持つ人も入るかもしれませんね(笑)
久保田「ジャパニーズ、こんな面白いことやっているんだね!?と、思ってくれたら嬉しいですよね。いや、それこそ国境を超えて楽しんでくれたら、嬉しいです」
―――馬場さんはいかがですか?
馬場「僕はトップスで観劇したことはあるんですけど、自分が立ったことはないので、今回シアタートップスに立てることは凄くありがたいなと思います。一方で、紀伊國屋ホールは何回も立たせていただいた劇場です。僕は本屋が好きなので、本屋の中に劇場があるなんて凄く幸せな空間だなといつも思っています。
自分が大好きな劇場の1つである紀伊國屋ホールと、今回初めて立たせていただくシアタートップスで『ダブルブッキング!』。僕の膝が笑わないことを祈るばかりです(笑)。
これだけSNSやインターネットが主流となって、デジタルな社会ですけど、演劇は“どアナログ”なんですよね。そんな中で、2劇場を汗水流して移動してお芝居を成立させるという、演劇の中でもさらにアナログなことをやろうとしているわけです。そこに参加できる喜びはありますよね。
今回は『ダブルブッキング2nd!』ということで新作ですが、初演の『ダブルブッキング!』からみなさんが積み重ねてきたからこその新作だと思います。これまでの出演者やスタッフさんにリスペクトを持ちつつ、2ndも2ndで面白いじゃん! これぞ演劇! これぞアナログ!と、みなさんの期待に応えられるように頑張りたいです」
(取材・文:五月女菜穂 撮影:立川賢一)
プロフィール
馬場良馬(ばば・りょうま)
1984年12月15日生まれ、千葉県出身。2008年、ドラマ『東京ゴーストトリップ』にレギュラー出演し、俳優デビュー。同年、
ミュージカル『テニスの王子様』1st シーズン 手塚国光役で出演。以降、舞台や映画で活躍。近年の主な出演に主演舞台『漫才ギャング-リローデッド-』、『演劇【推しの子】2.5 次元舞台編』など。主演舞台『華の天羽組羽王戦争編-powered by ヒューマンバグ大学』前編を5月に控える。
久保田秀敏(くぼた・ひでとし)
1987年1月12日生まれ、福岡県出身。2012年、ミュージカル『テニスの王子様』2ndシーズン 仁王雅治役で出演し、注目を集める。2013年、舞台版『心霊探偵八雲』斉藤八雲役で主演。近年の主な出演に、キ上の空論 獣三作 三作め『緑園にて祈るその子が獣』、タクフェス第12弾『夕ゆう-』、まつもと市民芸術館プロデュース『殿様と私』など。
公演情報
ダブルブッキング2nd!
日:2025年4月5日(土)~13日(日)
場・料:【紀伊國屋ホール】
S席7,000円 A席5,500円
(全席指定・税込)
【新宿シアタートップス】
8,000円(全席指定・税込)
※2劇場同時上演
HP:https://no-4.biz/db2nd/
問:エヌオーフォー【No.4】
mail:info@no-4.biz