合同会社 劇団虹色くれよんが大人気医療漫画を舞台化 新生児集中治療室での奮闘を2チーム制で上演 「医療に対してのあり方を考えていただけたら」

 仕事や子育てで忙しい人たちの「舞台に立ちたい、芝居に関わりたい」気持ちをかなえたいと創立された、合同会社 劇団虹色くれよん。最新作となる舞台『ブラックジャックによろしく』が2月26日から上演される。佐藤秀峰による同名漫画を原作にした本作は、総合監督を漫画『ザ・シェフ』や『女医レイカ』などを手掛けた剣名舞、脚本・演出を小堀智仁が担当。ダブルキャストによる2チーム制で作り上げる。本作に出演する細井ゆうた、矢ヶ崎花音、櫻井太郎、原子咲愛に公演への意気込みを聞いた。


―――上演が決まったときのお気持ちを聞かせてください。

細井「僕は以前から『一緒にやろう』とお声がけいただいていて出演することになりました。時間もあったので原作を何度も読み返したり、ドラマ化もされていたのでそれを観たりと勉強してきましたが、この作品のことを親や知り合いに話すとやはり反響が大きくて。これまでも原作のある作品に出演させていただいていますが、特にこの作品はすごく有名なのだと実感し、これまで以上に責任を感じています。初めて主演をさせていただくということもあり、なんとか形にしないといけないと思いながら今、稽古に臨んでいます」

矢ヶ崎「私の姉が医師で、叔母や友人が看護師をしているということもあり、私自身、医療の現場を描いた作品に興味がありました。周りに医療従事者が多い環境で育ってきて、病院が感覚的に近い存在だったので、いつかそうした医療現場を描いた作品に出演したいと思っていたんです。そんなときに、この作品のオーディションを見て、率直に出たいと思って応募し、今回、出演が決まりました。すごく嬉しかったですし、全力で頑張ろうと思います」

原子「原作を読んで、社会的にも訴えるものがある、余韻のある作品だと感じました。主人公の英二郎はどんどん成長して自立していきますが、同時にまだ子どもの部分もあって、感情的で。私もまだ21歳で幼い部分があると思うので、その気持ちもすごく理解できますし、同情するところもあり、そして、英二郎がこの後、どう成長して大人になっていくのかすごく気になりました。なので、ぜひこの作品に出演したいと思って、オーディションを受けました。この作品を通して命や生きることについて、英二郎がどう向き合っていくのかを問いかけていければと考えています」

櫻井「今回は、僕はキャストというよりは、この舞台を一緒に作るという思いで参加させていただきました。(脚本・演出の)小堀さんが作る作品ということで信頼しています。今回は、僕は座組みの中で年齢が上の方なので、みんながうまくこの舞台を作っていけるよう場を繋いでいく役割をしなくてはいけないと思っています。とにかくいい環境を作れるように関わっていけたらと思います。劇中では、斉藤英二郎の指導医という役柄ですが、座組みの中でもみんなを引っ張って、面倒を見ながらいい作品を作っていきたいです」

―――それぞれが演じる役柄について教えてください。

細井「僕は、主人公の斉藤英二郎を演じます。最初に台本を読んで、ひたすらまっすぐな人だなと感じました。正直、僕がもし同じ環境にいたら、彼のことを疎ましく思ってしまうかもしれません。ですが、英二郎を理解しようと思い、台本を何度も読んでいるうちに、英二郎にとっての医者という職業は、僕にとっての芝居と同じことなのかもしれないと気づきました。これまで英二郎が人生を賭けてやってきたことの結果が医者であって、彼はその先で何者かになりたくてもがいているのだということが伝わってきて、そう考えるとすごくシンパシーを感じるところもありました。そうしたことをいかにお客さまにも同じように感じていただけるかを意識して演じたいと思います。表面だけを見ると、不謹慎な言動をしてしまったり、気持ちだけで突っ走ってしまったりする英二郎ですが、その裏側には彼なりの信念があることを伝え、だから周りの人が動いていくということをしっかりと形にしなければいけないと考えています」

矢ヶ崎「私は皆川という看護師役です。医師と看護師は同じ医療現場で働いていますが、立場は違います。なので、そこで生まれる皆川の葛藤をしっかりと演じたいと思います。それから、看護師は医師よりも患者さんに近い存在だと私は思います。どれだけ患者さんに寄り添えるかが大事なのかなと。皆川はNICUで働いているので、話ができない赤ちゃんと関わって愛情を持って接しています。そうした姿から、人間の温かさ、そして矛盾を表現できたらと思っています」

原子「私は未熟児を抱えたお母さん・田辺佳子役を演じます。まだあまり母親役を演じる年齢ではないと思っていたので、この役をいただいて驚きましたし、戸惑いもありましたが、同時にとても演じがいのある役だなとも思います。本読みで、母性と夫に対する愛、そして未熟児に対するさまざまな葛藤があることを感じました。ただ、(取材時点では)まだお稽古が始まったばかりなので、未熟児に対する想いも決めきれていなくて。これからお稽古の中でイメージを膨らませて、『原作の中の佳子になる』というよりは、自分が思うオリジナルのお母さんを作り上げていきたいと思っています」

櫻井「今回、僕が演じるのは、高砂という斉藤英二郎の指導医です。原作の強面で仕事中はおしめをかぶっているというイメージよりも、未熟児に対して思い入れが強い人物というところがポイントかなと思っています。原作でも、指導医として斉藤を成長させる人物ですが、逆に斉藤の熱意に揺るがされることもあります。田辺佳子の夫が手術を拒否したときには、最後には嘘をついてまで子どもを助けようとする人物です。今回、僕は、僕の稽古場での居方と役のあり方はあまり変わらないのかなと思っています。僕は指導医のようにみんなを支えて、場を作っていかなければいけないと思っていますし、最終的にみんながより良い環境になるよう、芝居を通してみんなとコミュニケーションをとっていかないといけないと思っています。
 それから、今回は、NICUを舞台にしているので未熟児や障害者も出てきます。僕は毎年、健常者と障害者が共にミュージカルを作る団体の『ホットジェネレーション』の活動に参加しています。今年、20年目になりますが、そうした活動を通して障害者の方の気持ちも分かっているつもりです。特に、未熟児を産んだ母親、障害のある子どもを持つ母親の気持ちも間近で見て感じています。そうしたことも今回の役に生きてくると思います」

―――医療現場を題材とした作品を舞台で上演するのはなかなか難しいことだと思います。この原作を舞台で上演する面白さ、舞台ならではの魅力については、皆さんはどうお感じですか?

櫻井「医療現場といっても舞台上で手術をするというのとはまた違うので、人間としての生き方を膨らませて描いていく物語なのかなと」

細井「人の温度感を見せていく舞台ですよね。それから、原作にはない小堀さんの演出もあるので、より観やすくなるのかなと思います」

櫻井「双子の赤ちゃんが登場して、その子たちがストーリーテラーとして物語を進めていくという、原作とは違うオリジナルな要素もあります。まだ僕たちは最終的にどうなるかは分からないですが」

矢ヶ崎「ドラマは画面越しに観るので、どこか客観的に見えがちだと思いますし、自分とは別世界のことだと感じるかもしれませんが、舞台は自分がその世界に入り込めるというのが良さだと思います。今回は医療ドラマなので、緊迫した瞬間やお母さんの悲しみ、キャラクターの感情の起伏を生で感じられるというところが、舞台で医療者をやる意味なのかなと思います」

原子「生きることは、私たちには当たり前になってしまっていますが、こうした医療の世界を舞台で上演することによって、臨場感や緊迫感を観客も含めて一体となって感じられると思います。私たちは、そう感じていただけるように作品を作り上げていけたらと思っています」

―――(取材当時)お稽古が始まったばかりということですが、稽古場やカンパニーの雰囲気、小堀さんの演出を受けて感じていることを教えてください。

原子「まだ共演者の皆さんと話せていないのですが、皆さん、すごく個性的で、全く違う境遇からいらっしゃった方たちなんだろうなと感じているところです。きっと演技に対する考え方も人数分あると思うので、コミュニケーションをとって、この座組みでしかできない舞台を作っていけたらと思います」

矢ヶ崎「小堀さんがそのキャラクターが持っている心情や抱えているものについて説明してくださったときに『こうしたらいいよ』ではなく『こっちの方向だよ』と導いてくださったのが印象的でした。座組みの皆さんがすごく若い方が多くて、アットホームな雰囲気で、とても話しやすくて楽しいです。向上心がある方ばかりなので、とてもいい雰囲気の稽古場だなと思います」

細井「僕はこれまでにも小堀さんの作品に出演していますが、今回は初めての方が多いので、緩くなりすぎなくていいなと思います。これまで演じた役は、物語の途中までしか登場シーンがないことも多かったのですが、今回、初めて芝居で引き締めることができる立場にいるので、そうしたことを意識して一生懸命やればまとまるのかなと思っています。いつもと違って新鮮な空気が流れているのですごく楽しみです」

櫻井「小堀さんは、自由にやらせてくれる方です。なので、僕たちは原作を読んで、自分はこう演じたいというイメージを膨らませて、稽古場でそれをやって見せたら、小堀さんから『こうしたら』と素晴らしい案が生まれる。なので、自分がしたいことをしっかり提案すればいいんだと思います。今回は、多くの役がダブルキャストですが、小堀さんは、ダブルキャストだから同じことをするようには絶対に言わないんですよ。同じ役でも違う作り方をしていい。
 僕は、この団体に出演するようになって4年目ですが、稽古ではあれもこれも挑戦して、くだらないこともとにかくやって、作っていくようにしています。小堀さんは役者たちの良さをうまく引き出してくれるので、まずはこちらが投げていかないといけないなと思います」

―――改めて公演への意気込みや本作の見どころをお願いします。

細井「扱っている題材はすごく重く、決して無視できない話で、丁寧に演じなければ嫌な気持ちにさせ兼ねない作品だと思うので、先ほども話したように、主観的に観ていただけるように作っていかなければいけないと思います。僕を通して英二郎を感じていただき、少しでもこの作品が持っているメッセージを伝えていければと思っています」

矢ヶ崎「このお話は、若い方から年配の方まで幅広い方に影響を与えることができる作品だと感じています。だからこそ丁寧に一つひとつの言葉を紡いでいかなければいけないと思っています。私は今回、看護師役ですが、きっと観客の皆さんは患者として病院に行くことで医療現場と関わる人が多いと思うので、この作品を観ることでお医者さんや看護師さんとの関わり方や捉え方が少しでも変わったらいいなと思っています」

原子「医療の世界に限らず、社会で生きていく上では、不条理なこともあると思います。どんな職業の方でも、理解してもらえるところがあると思いますし、自分ならどうやって生きていこうと自分自身に問いかける舞台を作っていきたいです。私は、母親としての苦痛や辛さのエッセンスをその中に入れ込めればと考えておりますので、フルテンションで演じていきたいと思っています」

櫻井「原作の通り、大学病院の矛盾に対して斎藤英二郎が真っ直ぐにぶつかっていく姿が描かれています。今回の見どころは、NICUです。僕の友達のお母さんも未熟児を育てている人がいますが、障害は“問題”ではなく1つの“個性”だと僕は思います。この作品を通してそうしたことをお客さんに感じていただけたらと思います。そして、斉藤英二郎の姿を見て勇気をもらえ、医療のあり方を考えていただけたらと思います」

(取材・文&撮影:嶋田真己)

プロフィール

細井ゆうた(ほそい・ゆうた)
2000年3月25日生まれ、千葉県出身。2019年にadidasのCMで俳優デビューし、BS NHK『1億円のさようなら』でドラマ初出演。2021年にマイナビティーンズ全面バックアップのもと『YADHARA』のメンバーとしてアイドルデビュー、2022年まで活動。同年、剣名舞のメガヒットコミックが原作の舞台『ザ・シェフ2』(劇団虹色くれよん)で初舞台を踏み演劇の世界に足を踏み入れる。2024年には映画『あなたはわたしですか』で映画初主演を経験し、現在は映像から舞台まで幅広く活動している。

矢ヶ崎花音(やがさき・かのん)
2001年3月25日生まれ、山梨県出身。上智大学を卒業後、俳優としての活動を始める。近作に舞台『風を切れ2024』、『福子、福ちゃんの夜明けに飛べ』、『REGRET』、『群青に散りゆく』など。TikTokやYouTubeでも活躍中。

櫻井太郎(さくらい・たろう)
1981年9月1日生まれ、青森県出身。主に舞台を中心に活動中。出演作にミュージカル『レ・ミゼラブル』、『ミス・サイゴン』、『Endless SHOCK』、音楽劇『赤いハートと蒼い月』、舞台『女医レイカ』、『死刑島』、『ノスタルジアの贖罪』、喜歌劇『こうもり』、オペラ『愛の妙薬』、映画『あずみ』、東京ディズニーシー・パイレーツサマーバトルなど。ジャンルを問わないマルチプレイヤー。

原子咲愛(はらこ・さえ)
2003年11月16日東京都出身。舞台演劇は初挑戦。中学3年の時に部活動で演技に触れ、感銘を受ける。実力のある俳優、本物とは何かを常に様々な表現から模索している。

公演情報

合同会社 劇団虹色くれよん 
ブラックジャックによろしく』

日:2025年2月26日(水)~3月2日(日)
場:シアターグリーン BOX in BOX THEATER
料:S席6,000円 A席4,500円(全席指定・税込)
HP:https://kaitu0.wixsite.com/nijiiro
問:合同会社 劇団虹色くれよん tel.080-3411-3509

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