非日常の心の旅に皆様と共に出かけたい! スタジオライフが8年ぶりに挑むシェイクスピア『お気に召すまま』

非日常の心の旅に皆様と共に出かけたい! スタジオライフが8年ぶりに挑むシェイクスピア『お気に召すまま』

 劇団スタジオライフが、7月15日~23日にウエストエンドスタジオで、シェイクスピアの『お気に召すまま』を上演する。
 劇団結成20周年を機にシェイクスピア作品に取り組んで以来、『夏の夜の夢』、『Romeo&Juliet』、『十二夜』、『じゃじゃ馬ならし』を上演してきたスタジオライフにとって、5作品目にあたる。しかもセットを造りこまず、衣装もシャツとジーンズという、演出家・倉田淳と、俳優たちにとって演劇の原点に立ち返る大きな挑戦の作品となる。
 そんな舞台にヒロイン・ロザリンド役で出演する関戸博一と、劇団代表でジェイクイズ役などを演じる藤原啓児が、新作への思いと、スタジオライフのシェイクスピア作品上演史すべてに出演してきた経験から感じる、劇団とシェイクスピアの親和性について語り合ってくれた。

如何になにもない空間を楽しんだ祝祭劇にできるか

―――シェイクスピアの『お気に召すまま』上演決定の経緯から教えていだたけますか?

藤原「ある種の納得のいく終わり方をするハッピーエンドの作品だということが、まず大きかったと思います。やはり3年以上コロナ禍が続いて、演劇だけではなく日常生活においても様々な制約がありましたよね。まだどうなるのかわからない部分も大きいですが、ひとつの区切りを迎えるというところで、是非それが良い方向に向かって欲しいという願いを込めて『お気に召すまま』をやろうということになりました。
 主人公のロザリンドが非常に明るくて朗らかで、最後には幸せになる。そういう全てが明るくて開放的な作品をやるのはこのタイミングしかないだろうと、劇団の総力を挙げてコロナ収束祈願の思いも込めて、楽しくやりたいなと思っています」

―――関戸さん、いまのお話を聞かれていかがですか?

関戸「なるほど!と思いました。シェイクスピア作品に取り組むのは結構久しぶりで、2015年に『夏の夜の夢』をやって以来ですし、新作となると『じゃじゃ馬ならし』以来なので13年ぶりなんです。ですからここでシェイクスピアの新作をやるということに驚いていたので、いまの藤原さんの話から僕自身も思いが深まった感じです」

―――しかも、今回は装置も作り込まず、お衣装もシンプルなシャツにジーンズが基本と伺い、すごい挑戦だなと。

藤原「倉田がピーター・ブルックの著書『なにもない空間』に共感したというのがまず根本にあると思います。なにもない空間って演出がさらけ出されることにつながるのですが、そこに自信があるというのではなく、如何になにもない空間を楽しんで開放的にできるかというところを目指していて。ですから役者たちもどれだけ自分を解放してやっていけるかにかかっていると思うので、ちょっとドキドキしています。
 元々先代の劇団代表・河内喜一郎が、『シェイクスピアをやるには色々なやり方があるけれども、僕らは“大先生”として崇めるのではなくて、身近にいる“シェイクスピアおじさん”という感覚でやりたいね』と言っていたんですね。ですからこれまでの上演記録のなかで『夏の世の夢』や『十二夜』などは特に、子供の遊びと言いますか、自由に遊ぶ感覚でやることが僕たちのやりたいシェイクスピアなんだと。
 そういう精神は今回の『お気に召すまま』でも皆の中に浸透しているので、倉田自身がなにもない空間にすごく可能性を感じて何ができるかとワクワクしているのと同様に、僕たちも子供のようにその空間でどうやったら遊べるのかなと思っています」

関戸「やっぱりコロナがあって、演劇ってなんだろう、とみんなが考えたことに通じているなと思うんです。これまでスタジオライフでは、鬘や衣装には相応の予算をかけてきましたし、それは倉田さんもすごくこだわりを持って、大事にしてきた部分なんですね。でもコロナ禍で演劇は生きていく上で優先されるべきものじゃないという流れが広がっていたなかで、それでもやっぱり演劇は必要なものだ!という信念に立ち返った時に、演劇ってお金をかけなければできないものなのか?という思いが生まれて。
 物価も上がっていますから、かかる経費も当然上がっていて、チケット代もどうしても高くなっていっている。お金をかければ確かにゴージャスなものはできあがりますが、そうではなくて役者と演出の力でお客様に何ができるのか? 何が伝えられるのか?という、演劇の可能性をもう1回探りたいねと。スタジオライフとして、ウエストエンドスタジオというこの小さな空間でどれだけのことができるのかに、このタイミングだからこそ倉田さんが思いを馳せて、考えに考えた結果が、今回の形なんだと思います。
 そういう意味ではすごく大きな挑戦ですし、藤原さんが言ったように、なにもない空間で役者がいかに楽しめるか、遊べるかにかかってくるなと。絶対苦しい稽古になりますし、間違いなくしんどい。やっぱりビジュアルから作りこめば役者として演じやすいのは確かなんです。そういう視覚的な助けが何もないなかで、どれだけ楽しめるか、遊んでいけるかというところで、本当に演劇の原点に立ち返ることだと思うので、楽しみと緊張感の両方があります」

―――なにもないからこそ、逆に豊かだということもありますよね。

藤原「そうなるためには、絶対にこちら側に高い熱量が必要なので、お客様に届けられるように頑張りたいです」

男装した女性を男優が演じる面白さ

―――そうしたなかで、演じるお役柄についてはいかがですか?

藤原「(関戸に)ロザリンド役は早くから決まっていたから、色々話せるよね?」

関戸「いえいえ、これ本当に決まっているのかな、変わるんじゃないのかな?と思っていたので(笑)。まぁでも、ロザリンドはやっぱり男装する女性というのが大きなポイントなので、それを演じられるのは幸せだなと思います。
 『お気に召すまま』は色々なカンパニーやプロダクションで上演されていますが、男優劇団のスタジオライフでは、男優が女性を演じるのがごく普通なことですから、そこで『男装する女性を男優がやる』という、ある意味でごちゃごちゃになる面白さというのは確実にあると思います。
 その面白さを表現できたらいいですし、スタジオライフとしても『十二夜』で男装する女性役を松本(慎也)がやっていたり、(山本)芳樹さんもやっていたり先人たちがいてくれます。僕自身としても久しぶりに実年齢より若い役になるので、自分の中の若さと経験値とを組み合わせて、素直な気持ちで瑞々しさを表現できたらなと。
 今回の座組は、若手から先輩達まですごくバランスが良いので、周りが僕をシャツにジーンズでもきっとロザリンドにしてくれると信じて、劇団員だけで演じる強みを発揮して、全員で作品を作っていけたらと思います」

藤原「僕は全体で何役を演じるのか、まだ完全に決まっていないのですが、今決まっている役としてはジェイクイズとフレデリック公爵です」

関戸「フレデリック公爵は当然として、藤原さんがジェイクイズを演じるというところが、今回かなりキーポイントじゃないかな?と」

藤原「まぁ、確かに普通に考えたら僕の年代だとまずこない役柄だよね(笑)。でも倉田はキャスティングにあたって、役者の実年齢は全く考えない人だし、役者の質を普段からよく見ていて、それをピンポイントで役柄にシンクロさせるのが上手いので、ジェイクイズを持ってきたというのは、僕の中に何かが見えているんだと思うから、それは出していかないとな、と思っています。
 ジェイクイズって面白い人物でしょう? 偽善者に間違えられてもおかしくないようなところがありつつ、言っていること自体は案外正しかったりもする。その彼が何故森にいるのか、最後の祝祭、大団円でお祝いをする結末の場面からは、すっといなくなるということも含めて非常に興味がありますね」

関戸「その最後の祝祭場面にいないっていうところに、すごく意味があると思うんです。倉田さんがいつもかなり大事にするポジションですよね。基本的には全員ハッピーエンドで、みんな幸せに暮らしましたなんだけど、そこに参加できない人が実はいる。そこが結構キーマンなんじゃないかと。だから藤原さんなんだと思います。
 あと特に今回は1幕ものにするということで、一応上演時間100分を目指しているそうなんです。まぁ100分ではさすがに収まらないんじゃないか?と思いますけど(笑)、かなり倉田カラーのオリジナルな要素が出てくるでしょうし、いまのところ道化は出さないつもりと言っていて」

藤原「道化出てこないの?! それ僕も知らなかった」

関戸「まだ決定ではないと思いますけど、今日の取材のために話した時に『出さないつもり』と言っていましたから、道化の要素も藤原さんが担う可能性があるな、ジェイクイズの役割がさらに大きくなるんじゃないかなとちょっと思ってます」

藤原「ますますドキドキしてきた(笑)」

シェイクスピアには男優が女性を演じる必然性がある

―――先ほどもお話が出ましたけれども、スタジオライフさんの男優だけで全てを演じるというところは、シェイクスピアの時代と同じですが、そういう共通性を感じることはありますか?

藤原「うちでシェイクスピア作品をやる時には、必ず松岡和子さんの翻訳でやらせていただいているのですが、その松岡さんが舞台をご覧になってくださったときに『なぜシェイクスピアが男優だけで演じられていたのかがわかった気がする』とおっしゃったんです。
 それはやっぱり今回のロザリンドであれば、男装している女性を男優が演じている、結果的に男性が男性を演じるということになるわけですよ。そうすると大胆になるし、結局は自然な演技になるんですね。
 しかもお客様が、男優が演じているけれども、女性の役だということを理解して観てくださるので、そこにひとつのイリュージョンが生まれて、世界がどんどん広がっていく可能性があると思います」

関戸「僕がはじめてシェイクスピア作品に出たのが2006年の『夏の世の夢』のヘレナ役だったんですが、ハーミアと大喧嘩をするシーンで、お互いに女性の役なんですけど男優同士で戦うことで、肉体的な強さとか面白さがすごく有効活用できました。これを本当の女性同士でやったらちょっと見ていられないかな?というくらいの喧嘩でも、男優同士だということを共演者もお客様も共有しているところで、面白く観られるんです。
 スタジオライフってずっと男優だけでやっているので、普段のお芝居では男優が女性を演じている要素が、特に作品には必要だという感覚はなくなってくるんですが、シェイクスピアだけはちょっと違っていて、演じているのは実は男優なんですという要素が明確にある気がするんです。特に喜劇に関してはそうで、僕らがいつもは当たり前に感じている部分、男優が女性の役を演じるということが、元々の戯曲に必要なこととしてすごく立ち上がってくる面白さがあるのがポイントですね」

―――そのスタジオライフのシェイクスピア上演史の全てに出演されているお二人ということで、ご自身で好きだった役、またお互いで1番印象に残っている役柄を教えていただけますか?

関戸「どの役も全部苦しんだなという経験で、全部鮮明に覚えているんですけど、ひとつの役を挙げるとすれば、やっぱり、『夏の夜の夢』のヘレナです。
 入団3年目の頃、初めて頂いた大きな役でもありましたし、3回演じているんですけど、3回同じ役をやったのは、あとは『Romeo&Juliet』のベンヴォーリオくらいかな?というところでもあるので、色々とできなかったことがたくさんある、という気持ちも含めてやっぱり僕の中では大事な役のひとつとして残っています。
 藤原さんが演じた役だと同じ『夏の夜の夢』のクウィンスです。もうクウィンスなのか藤原さんなのかわからない(笑)というくらい役柄と一体化していらして、森で職人たちに演技指導しているところが、劇団で若手達を指導する藤原さんそのもので! シェイクスピアという括りを抜きにしても藤原さんのやった役の中で、ベスト3に入るんじゃないか?と思いますし、未だに映像として目に浮かびます」

藤原「それは僕も同じかな。と言うのは、初めてシェイクスピアに挑戦した時には、まだ先代団長の河内喜一郎が健在で、河内と倉田がニコニコしながら僕のところに歩いてきて『お前にぴったりの役があるんだよ』って言ってね。
 ちょうどその頃、スタジオライフも初めてオーディションをやって劇団員をどんどん募集していた時期で、新戦力を含めた公演を打つ為に必死で新人たちを育成していた中心的なポジションに僕がいたので、そのままの形で役にいけたというか。回数も演じさせていただいていることもあるけれども、河内の笑顔の記憶とストレートにつながっている、僕にとって大切な役です。
 関戸の役としては、これ全部一緒になっちゃうけど、やっぱり『夏の夜の夢』のヘレナですね。特に初演、シアターサンモールでのヘレナが忘れられないです。Wキャストで組んだのが客演のベテランの役者さんで、入って3年目で役者としてはまだまだよちよち歩きの彼が、初めてのシェイクスピアでしかもベテランの方と同じ役というのは当然苦労しますよね。でもその苦労の仕方が清々しかった。稽古場でのそんな苦労がそのまま本番に出たヘレナは、やっぱり忘れられないです。お客様にウケた瞬間に瞳孔が開いていましたから(笑)。まるで高校球児のようでね。技術もないし、経験もないからこそできた表現として、印象に残っています」

―――奇しくもお互い同じ役柄を挙げられているというところで、やはりスタジオライフとシェイクスピアの親和性はとても高いのだなと感じます。

藤原「そうですね。ちょっとまた手前味噌的な話になってしまって恐縮なんですが、初めてシェイクスピア作品を手掛けたときに演劇評論家の扇田昭彦さんが観にいらして、『スタジオライフは金脈を見つけましたね』と言ってくださったんです。僕は案内係で河内の隣で聞いていただけですが、その言葉だけは忘れられなくて。
 河内も倉田も本当に喜んでいたので、シェイクスピア作品は折に触れてずっとやっていきたいと思っていますし、『お気に召すまま』に関しても倉田はもう20年くらい温めていたので、今回いよいよ取り組むことになって身が引き締まるところでもあります」

―――コロナ禍の3年間で、はじめは先ほどもおっしゃったように不要不急論も出た演劇ですが、やはり精神の幸福のためには絶対に必要なものだ、ということがわかった3年間でもあると思うので、今回の演劇の想像力を信じた上演を本当に楽しみにしています。
 では最後にお客様にメッセージをいただけますか?

関戸「倉田さんともメッセージのやり取りをしたり、電話でも話したのですが、この3年間で幸福の価値観も変わったところが結構あると思っていて。この作品でも王宮に暮らしている貴族たちと、アーデンの森で暮らしている庶民とで、どちらが幸せなのか?というと、実はアーデンの森の人たちの方が人間らしく暮らしていたりする。そういう『幸せって何だろう?』という問いかけも潜んでいる作品だと思います。
 全体には喜劇なんですが、そういう含みのある要素を倉田さんは絶対に逃さない人なので、お客様にはただ純粋に笑って楽しんでいただける芝居を作れればいいですし、そこから伝わっていくものを大切にしたいです。“シェイクスピアおじさん”というスタンスは変わらないので、気楽な気持ちで、ぜひ楽しみに劇場にいらしてください!」

藤原「『お気に召すまま』は喜劇で、喜劇ってやはりお客様を日常生活から非日常の世界に、ひと時解放させる心の旅だと思うし、お祭りだと思っています。ロザリンドは形としては宮廷から追放されるのですが、実はこれは追放ではなくて、喜劇の世界へ向かっているお祭りなんだ、という捉え方ができたらいいなと思っています。
 シェイクスピアの喜劇は決してアドリブだったりパロディの笑いではなくて、人が一生懸命に生きている、その姿が自然に笑いにつながっていくものなので、笑いながら大切なものに気づいていけるという作品を、何もない空間で演出と役者の力で作りたいと思っています。文句なく楽しい、でも家に帰る途中色々なことに気づける舞台にしていきたいので、是非ご一緒に心の旅に参加してください!」

(取材・文&撮影:橘 涼香)

プロフィール

関戸博一(せきど・ひろかず)
神奈川県出身。2004年、劇団スタジオライフ入団。数々のヒロイン役を含め、近年では多彩な役柄を演じ、また声優としても活躍している。主な出演作品に『トーマの心臓』、『死の泉』、『アンナ・カレーニナ』、『なのはな』、『VANITIES』、『はみだしっ子~White Labyrinths~』、『ぷろぐれす』などがある。

藤原啓児(ふじわら・けいじ)
三重県出身。劇団スタジオライフに37年間在籍し、2014年から劇団代表も務めるスタジオライフの要のベテラン俳優。軽妙な役柄から重厚な役柄まで幅広く演じ、外部出演、また後進の育成にも努めている。主な出演作品に『トーマの心臓』、『死の泉』、『アンナ・カレーニナ』、『なのはな』、『11人いる!』『TAMAGOYAKI』などがある。

公演情報

劇団スタジオライフ
『お気に召すまま』

日:2023年7月15日(土)~23日(日)
場:ウエストエンドスタジオ
料:一般6,500円
  学生3,000円 高校生以下2,500円
  ※学生・高校生以下は要学生証提示
  ※7/23 13:00のみ、特別イベント付・
   各+1,000円
  (全席自由・入場整理番号付・税込)
HP:https://studio-life.com/stage/okini2023/
問:スタジオライフ
  tel.03-5942-5067(平日12:00~18:00)

Advertisement

インタビューカテゴリの最新記事