単なる記録ではなく、オンライン配信を前提にした劇団univalize 新たな表現手法で挑む、新世代の演劇を3ヶ月連続で。

単なる記録ではなく、オンライン配信を前提にした劇団univalize 新たな表現手法で挑む、新世代の演劇を3ヶ月連続で。

 昨年初頭から世界中で猛威を振るい、未だに収束を見せていない新型コロナ感染症の蔓延。解決策が見えたかと思うと新たな変異株が発生してさらなる感染拡大を起こすなど、なかなか先を見通すことができていない。
 その影響はエンタメ業界や飲食店に大打撃を与えているが、その一方でインターネットを利用したリモート勤務の促進やキャッシュレス決済の普及などについてはものすごい勢いで進化した。ある意味で新時代が来たと言っても過言ではないだろう。そして演劇界においても時代の先端ともいえるオンライン専門劇団、劇団univalizeが10月に旗揚げする。永く映像制作に関わってきたプロデューサーの難波稔典と、メイクアップアーティストMaikoの2人によって構成され、公演ごとにメンバーを集めるスタイルで、10月から3ヶ月連続で福島県飯舘村から作品を配信するという。新時代の演劇表現を模索する彼らの考えや想いを、Maikoと一連の作品で作演出を担当する為国孝和に話してもらった。


―――10月から12月まで3作品を連続上演されるわけですが、演出を手がけられる為国さんはこれまでにも多くの舞台に関わり、且つご自身もLink Projectという演劇ユニットを主宰していらっしゃいますね。この劇団、というかプロデューサーの難波さんとの接点はどこでしょうか。

為国「10年くらい前のことですが、自分の脚本を見直してみたいと思ったんです。それまでずっと舞台をやっていましたが、僕は基本的に映像が好きなんです。それで映像の脚本を学ぼうと思い入った脚本クラスで(プロデューサーの)難波さんと出会って、その後の付き合いの中で今作を手がけることとなりました」

―――これまで為国さんが関わった作品では、ただ演劇だけでなくダンスや舞踏などいろいろな要素を盛り込んで、殻を打ち破った作品が多い気がしますが。

為国「僕の作品は基本的に場所に拘ってます。そこに当てはまる作品を選び、役者さんを当てて行くわけです。難波さんは何か新しいことをやってみようということで僕に話を持ってきてくれました。先の見えないことをするのって楽しいじゃないですか」

―――Maikoさんと為国さんは今回の話が動き出した時に始めて会われたのですか?

Maiko「その少し前ですね。昨年の11月に為国さんが演出、難波さんがプロデュースの舞台があって、そこにメイクで入ったときが初めてです」

―――じゃあ、随分と短期間の間に話が進んでいるわけですね。

為国「univalizeとしての具体的な動きは今年に入ってからなんです」

―――この劇団univalizeは中心にメイクアップやアートディレクションが加わっているという非常にユニークなスタイルだと思いますが、為国さんから見てこのスタイル、つまりメイクアップアーティストであり、アートディレクターであるMaikoさんが深く関わっていることでさらに優れたアートが生まれる予感はありますか?

為国「(予感は)ありますね。これから本格的に作品を創り上げていくわけですが、Maikoさんからはメイクも、そして衣装も見合うものを出してもらえると思います。凄く仕事に対して熱意がある方なので、良い方向に行く予感はしています」

Maiko「私のメイクや衣装を演出家がどう活かしてくれるかではなくて、私が演出を活かさないといけないと思ってます。もともとunivalizeは人間の内面的な部分を表現したいと思っています。私はその後押しをしたいと思っています。衣装については、私自身プロではありませんが、自分でポートレートを撮ることがあるので、魅せ方は理解していると思いますし、これまで色々な作品も観てきましたので、そういった部分から発想していこうと思います。そしてメイクですが、私は服が決まらないとメイクは決まらないと思っています。だからやはりまず衣装からですね、結構練らないと決まりませんから」

―――飯舘村での3公演はホームセンター跡地や廃校となった小学校で行われるそうですね。配信だけですから、お客さんがいる場所はないわけですね。

為国「地元の人はいらっしゃるかも知れませんが、客席はありません。もう舞台というより完全に映像演出ですね。だからセリフの言い方一つにしても変わってきます」

―――そして観客の視線はいくつも用意されるカメラになるわけですね。

為国「カメラ位置が非常に難しいです。あくまでも演劇ですから、いわゆる長回しをするわけで、後から編集はできません。いくつもの視点を持つことができるけれど、うっかりするとカメラマンが見切れちゃったりしますから好き勝手ができない。思っていたよりも不自由ですね。先日、短い作品を創ってみたんですが、スタッフが凄く疲れていました(笑)。失敗できないという緊張感が凄いです」

―――現場の緊張感ですか。それはもの凄そうですね。Maikoさんはどうでしょう。

Maiko「私も緊張していましたが、担当するヘアメイクについて緊張するというより、スタッフの緊張が伝染してきた感じです。メイクや衣装はリハーサルもあるし、直したいところは先に手を入れていますから、本番ではそれほど緊張はなかったです」

―――普段の舞台とは違った問題点や緊張感がありそうですが、逆にそれを越えた可能性に満ちてもいます。

為国「ともかく劇場でなければいけないという場所の縛り”が緩くなるのは強いですね。しかも個人配信の延長みたいなもので、小規模に色々な表現が可能ですから。1本映画作るのって大変じゃないですか。組織も必要だし。でも配信は小規模でできる。今の時代に合っていると思います。映像と舞台って正直接点はないんですが、その融合ができるのが配信だと思います」

(取材・文&撮影:渡部晋也)

プロフィール

為国孝和(ためくに・たかかず)
福井県出身。27歳でメソード演技に興味を持ち、役者として演技を学び始める。その後、養成所の講師に「役者より演出家に向いている」と言われ演出家に転身。1997年に Link Projectを旗揚げ。毎年意欲的に作品を発表。オリジナル作品からスタートして、やがて紀勢の戯曲にアレンジを加える方法で独自のスタイルを築きあげる。更に寺山修司作品や、唐十郎『少女仮面』、『盲導犬』を取り上げ、ダンスを大胆に取り入れた作品を創り上げる。
2006年には T・ワークショップを立ち上げ。講師としても演技を教え始める。一般的な演劇の法則や概念を崩し、音や身体表現、映像、光を深く作品にリンクさせ、新しい方向からその作品が持っている世界感・空気感を追求。シンプルでスタイリッシュな、五感に響く作品創りで定評がある。

Maiko(まいこ)
千葉県出身。メイクアップアーティスト。昭和女子大学健康デザイン学科を卒業して栄養士免許を取得後、単身でニューヨークへ留学。Makeup Designory ニューヨークでメイクの基礎を学びながらコレクション等でtemptuのエアブラシアーティストSylviaのアシスタントとして経験を積む。帰国後は東京を拠点に延べ5000人のヘアメイクを行う傍ら、フォトグラファーやレタッチの技術も取得。2020年に独立。活動の場をスチールから映像作品に切り替え、2021年よりunivalizeのアートディレクターに就任。

公演情報

劇団univalize『旗揚げ公演 at 福島県飯舘村 Vol.2【配信公演】』

日:2021年11月6日(土)・7日(日)
料:【配信チケット】1,000円(税込)※Confetti Streaming Theater
HP:https://www.univalize.com/team-univalize/
問:劇団univalize tel.03-5340-7549
※文化庁「ARTS for the future!」補助対象事業

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