台詞のない演劇──いわゆる”ノンバーバル”の手法で笑いを生む。笑いと演劇を愛する石田明(NON STYLE)が脚本・演出を手がけ、出演までする舞台『結-MUSUBI-』が2月に東京・大阪で上演される。しかし沈黙の一方で、アクション、ダンス、サプライズ、ド派手な舞台演出など“賑やかな”パフォーマンスが繰り広げられる。この「しゃべらないけどうるさい」を実現するために、オーディションを経て様々なメンバーが集められた。劇団EXILEの小野塚勇人、モデルの中村里帆、株元英彰、廣野凌大、杉江大志、久保田創、さらには芸人の天竺鼠・瀬下豊、守谷日和らとともに、海外でも勝負できるコンテンツとして構想4年。「相撲」をテーマにした舞台が2月に幕を開けます。
0点か120点──大失敗か大正解を狙う覚悟です!
―――今回の作品は海外進出を意識しているそうですね。
「そうですね。今まで何度も『海外で漫才やってくれ』というオファーがあったんですけど、そうなると言語を変える必要があるじゃないですか。でも、言語を変えると漫才のクオリティーが下がってしまう。下げてまで日本のお笑いを伝える意味って何があんねんやろ?と思って、やっぱり1から作った方がいいんじゃないかという発想です。それで、言葉のない、どんな人でも楽しめるものを作ってみたいなぁと前から思っていたんですよ」
―――言葉のない演劇(ノンバーバル)ということで、どのように準備を進めたんでしょう?
「まず、国内では、パラリンピックの開会式を演出されたウォーリー木下さんが立ち上げた京都のノンバーバルシアター『ギア-GEAR-』を観に行って、どういう風に上演しているのかお話を伺いました。海外でもいろいろ観ましたが、韓国の『NANTA』では立ち上げた制作の方にどうやってヒットしていったのかなど聞かせてもらって、すごく有意義な時間でしたね」
―――どういうところが参考になりました?
「ノンバーバルの作品って、どれもなんとなく笑いの取り方が似ているんですね。観客とやりとりをしたりと、お笑いでいう客イジリで笑わせたりする。なので僕は、そこではないところ、皆がやっていないことに挑戦したいな~と。それでどれだけ笑いをとれるかが、一番面白いポイントかな。それに、日本らしさも出せるんじゃないかと思うんですよ」
―――日本らしさ?
「そうです。日本人ならではのリアクションを大事にしたくて……全員を志村けんさんと加藤茶さんにしようと思ってるんですよ(笑)。あのお2人のような動きを活かしながら、外国のようなちょっと派手なリアクションもして、フィジカルでしっかり笑いを取っていきたいですね」
―――「相撲」の設定はなぜですか?
「いくつかあった中での1つなんですよね。他にも庭師だとかいろんなテーマがあったんですが、日本の文化を意識しつつ、ギャップも楽しめるのが相撲かなと。やはり相撲取りと言えば、肉体が大きい。でも今回の出演者は、まぁ、どちらかと言うと華奢な人達を集めました。あと、力士って体幹がしっかりしてるイメージですけど、この物語に関しては、常に重心があってないような、重心がズレているような演出をしようと思っています。そういう違和感を作りながらバタバタさせていきたいなと。そうやってうまれるギャップも楽しんでいただけうるように、基本的には笑い優先で考えていますね」
―――『結-MUSUBI-』というタイトルにはどういう思いがありますか? 最初は違うタイトルだったそうですが……。
「最初は、海外の人向けのタイトルやったんですよね。『YOKOZUNA(横綱)』という。でも、やっぱり日本の人にも観てもらいたい。まず日本でヒットしないといけない、ということで『結-MUSUBI-』にしました。この言葉は『結びの一番』と言ったり、『結婚』の文字でもあったり、『口を結ぶ』=喋らない(ノンバーバル)という、いろんな意味合いがある。皆が『終結』していくという意味もあって、すごく良いタイトルやな~と決めました。タイトルのデザインも、まわしを締めているイメージが重なります」
―――水引のようにも見える気がします! ちなみに、いつもはどうやってタイトルを決めているんですか?
「いろんなタイプがあるんですけど、結構、台本の中にある台詞の一言とかを引用したりします。でも今回は台詞が無いので(笑)。今回はすごく長考しましたよね!」
―――企画から、構想4年ですもんね! いったいどんな台本なんでしょう。台詞が無いというのは……。
「基本はト書きなんですけど、僕としては“ガイドライン”のつもり。たぶん稽古場でむちゃくちゃ変わっていくでしょうね。まずはエチュードみたいに『やってみて』というところから始めようかと。というのも、俳優はすでにガイドライン(台本)を読んでしまっているので、自然と、書いてあるように動いてしまうと思うんですね。でも、相手の動きが伝わってから動き出さないと、お客さんには伝わらない。だから、先走って動いてしますのをどれだけ止めるかが、今回の演出としては一番大事かなと思ってます。
あとは、外国の方のような派手なリアクションをすると日本人はスベッてしまうと思うので、やっぱり志村さんや加藤茶さんのような日本人らしい動きも大切にしたいですね」
―――オーディションでも、動きはかなり重要だったんですか?
「ええ、台詞なんて一度も言わなかったですから。大切だったのは、前もってどういうオーディションをするかを言わないこと。ノンバーバルの舞台は特に、生で起きた現象に対してリアクション取ったり、行動を決めたりするので、用意しないリアクションが見たかったんです。オーディションでは、僕が『じゃあ教室に入って来て下さい』とか言って、それに対して瞬時にリアクションしてもらう。『はい、座って下さい』『ゆっくりしていてください』『あ、おかんからLINE来ました』『今日の晩御飯なんですか?ってLINEでした』と言い続けて、それに対して動き続けてもらう。他にも『あ、めちゃくちゃ好きな人が来ました』『話しかけたいけど、話しかけられませーん』とか(笑)。その中で大切にしたのが、ちゃんと理解力があるということと、自分で仕掛けようとしてくる人。たとえば小野塚(勇人)くんなんて、自分からどんどん仕掛けてくるんですよね」
―――作品として自分からアクションを起こす俳優が重要ですし、稽古を通して一緒に創作するメンバーとしても、自分から提案してくれる俳優がいいんだろうなと思います。
「はい、そうなんですよね。やっぱり、舞台セットを公園やと思ってもらって、全員でどんだけ遊んで楽しめるかが重要ですよ。お芝居が固まってしまったら負けやと思うんで。結局、毎日がナマモノで、毎公演をまったく違う物語にしたい。これまでもやってきましたが、劇中に、誰が何されるかわからへんブロックがいくつかあるんですよ」
―――そのブロックは特に毎日違うんですね!
「そうなんです。相手が何をするかでその後のリアクションが変わってくるし、たとえば何かをされたら『じゃあ次は仕返ししたろう!』という感情が生まれるし」
―――石田さんもかなり出演シーンが多いそうですね。
「なんやったら、一番出るんちゃうかな! 侍の国士無双という役で、もともとは違う人にお願いしようと思っていたんですよ。でも殺陣とお笑いがかなりある役なので、僕が内側に入って渦を起こすことで『もっと遊んでいいねんで』という空気を作れたらいいかな。僕がむちゃくちゃにしたら、まわりも『あ、ここまでやってええんや』って思うと思うんです。ほんまはね、演出って外側から見たいなという感覚もあるんですけど、皆には思いっきり遊んでほしいので、僕がめちゃくちゃふざけてやろうと思ってます」
―――めちゃくちゃ遊ぶのに、台詞がない。まさに「しゃべらないけどうるさい」ですね!
「ほんとに無音が多い舞台になると思うんですよ。出演者もお客さんも、変に緊張したりするんじゃないかな。それがすごく楽しみですね」
―――石田さんは漫才でも沈黙の時間をつくるのが好きですよね(笑)
「はい(笑)。やっぱり無言って面白いんですよね。無言で無音だと、皆が笑いたくて仕方がなくなる状況っが生まれるから。
実は、音楽ってね、お笑いと相性が悪かったりするんですよ。音を止めた瞬間に笑いが起きることってあるんですけど、お芝居でもコントでも、本来は無音の方が笑いとの相性が良い。稽古場は無音で不安もうまれるとは思うんですけど、それはそれで学ぶことが多いでしょうね」
―――また実際に観客の前に立つと、無音の中にいろんな反応が感じられて、演技にも影響があるかもしれませんね。
「お客さんが鞄を落とすことがあるかもしれないですしね。そしたら舞台上の皆でバッと見て、もうしつこいくらい皆で見つめたりするかもしれません(笑)」
―――一方で、ダンスもあるとか!
「あります。けど、ちょっとでもカッコ良く踊ろうとしたら、すぐ怒りますんで。とにかく、お客さんをどれだけハッピーにさせられるかということを考えています」
―――この『結-MUSUBI-』、石田さんにとってどんな作品になりそうですか?
「芸歴20年を越えて、ほんとはここから収まっていくような時期だと思うんです。でも、新しいことをやっとできるようになってきている年齢でもある。体力が追いつかなくなってくる頃でもあるけど、出演者の中でも一番動くつもりです。やっぱり、ここで新たにもうひとつ攻めたいんですよね。大失敗するぐらいの意気込みでやろうとすら思ってます。60点か70点を取りにいこうというつもりはなくて、0点か120点かを狙います。置きにいきたくない。大成功か大失敗かのどっちかやと思ってますので、見届けに来てほしいですね」
(取材・文&撮影:河野桃子)
プロフィール
石田 明(いしだ・あきら)
1980年2月20日生まれ 大阪府出身 吉本興業で相方の井上裕介とお笑いコンビ「NON STYLE」として芸人活動を行う。2008年M-1グランプリ優勝。漫才師としての実力だけではなく、数々の舞台にも出演し俳優としても活動中。芸人養成所講師やプロデュース業など多彩な才能を持ち脚本・演出としても多くの作品を手掛ける。
公演情報
『結 ―MUSUBI―』
日:2022年2月4日(金)~6日(日) ※他、大阪公演あり
場:渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール
料:1階席7,500円
2階席6,500円(全席指定・税込)
HP:https://musubi.yoshimoto.co.jp/
問:FANYチケット問合せダイヤル
tel.0570-550-100(10:00~19:00)