様々な演劇スタイルの俳優が集まり、唯一無二の個性的な作品に 復讐の炎に煽られ次々に人を殺めていく。それは悪か正義か?

 山本周五郎の代表作の1つ『五瓣の椿』。1959年の雑誌連載に始まり、1964年に野村芳太郎監督/岩下志麻主演で映画化、1969年には布施博一脚本/若山勉演出/藤純子主演でドラマ化、1976年には小幡欣治脚本・演出/十朱幸代主演で日比谷芸術座にて舞台化されるなど、長らく親しまれてきた作品。
 そんな名作を脚本家・プロデューサーの有賀沙織が脚本を立ち上げ、演出に演劇集団円の大谷朗を迎え、三越劇場で舞台化する。様々な演劇スタイルで活躍する俳優・スタッフが集まった座組で、それぞれの経験が相互に作用する、演劇の化学反応が楽しめる舞台になりそうだ。そんな多彩な出演者の中から、栗原沙也加、岡森諦、丹羽貞仁の3人に、作品の魅力を訊いた。


―――この物語は山本周五郎が1959年に書いた時代小説ですが、まずは皆さんそれぞれが受けた作品の印象を伺います。

丹羽「20年ほど前に明治座で菊川怜さんの主演で上演したことがありまして、そこに僕も関わっておりました。役は今回とは違いますけれど、その時に読んだ原作のイメージが、今になってみると感じ方が違うんです。そこに歳月を感じています」

岡森「凄い作品ですよね。周五郎先生は沢山の女性を描いてきた、いわば大家な訳ですが、この物語の主人公は、その中でも1つを極めた形になるんでしょう。でも僕はまだ理解に及んでいません。どうしてこれほど人を殺めるのかが理解できていない。だからこそ稽古が楽しみなんです。僕の役(主人公“おしの”の父親・喜兵衛)はすぐに死んでしまうので、この短い滞空時間で何を残せるかですね」

栗原「私はミステリーや推理小説、殺人事件を扱った作品が好きで、この作品もワクワクしながら読んだのですが、ちょっと共感できないところもあるんです。演じる“おしの”は母と通じていた男たちを次々に殺めるわけですが、法では裁けない相手に恨みを持ち、裁きを下す点は理解できます。そこから理解を進めていきたいですね」

丹羽「殺害される男たちの職業はバラバラなんですね。共通点は主人公の母親と通じてしまったということ1つ」

岡森「そう。要するに普通の一般庶民なんですよ。それが“おしの”の母・“おその”と通じていたというだけで殺されてしまうのはどうも、と思いますね」

丹羽「法で裁けないから自分で復讐する、ということは罪では無いのか?ということを考えさせられます。“おしの”としては正論なのでしょうが、僕もまだ共感できていません」

岡森「時代劇にありがちな分かりやすい勧善懲悪ではなく、あくまでも“おしの”なりの正義を貫いている。ただ“おその”が他の男と密通するのも“彼女なりの人生の楽しみ方”と考えると、それは果たして悪なのか?と思います」

栗原「でも私は“おしの”の立場で物語を読んだせいか、これはハッキリとした勧善懲悪の話だと思いました。男女の受け取り方の違いかも知れませんね。だって通じていた男たちは“おその”を既婚者だとわかっていたわけでしょう。これはアウトですよ(笑)。ただ復讐心を持つだけでなく、それを実行するわけですから、どれだけの強い想いがあるのかともおもいますね」

―――それぞれ役の立場で見え方が変わるのは面白いですね。ところで今回18名のキャストは、商業演劇から新劇、小劇場、ミュージカルなど様々なジャンルの皆さんが集められていますね。

丹羽「僕はメインが商業舞台で、他のジャンルの方とご一緒する機会は少ないですね。昔は文学座の方がいらっしゃることはありましたが、今は少ない。ただお客さまを喜ばせる気持ちは一緒ですが、それぞれアプローチが違います」

岡森「僕はいわゆる小劇場出身ですが、いろいろなジャンルの人が集まると楽しいですね。まだ本読みの段階なので、みなさんから色々なアドバイスを頂ければいいなとおもっています」

栗原「私はミュージカルが多いし、ストレートな舞台そのものが久しぶりなんです。ここには業界の先輩方が集まっておられるし、しかもお芝居一本で続けていらっしゃる方が多いですよね。私はミュージカルということでダンスも歌もお芝居も、といった風に両手拡げてかかえてますから、お芝居一本の方と比べると1/3しかできていないという引け目があります。これからご指導を頂いて、必死にやっていきます。それに時代劇も初めてなんです」

―――ジャンルが違うと舞台もよく立つところ、そうではないところと色々ですよね。今回の三越劇場はいかがですか。

丹羽「僕は、明治座や新橋演舞場と行った客席1,300席ほどの大劇場での出演も多いのですが、三越劇場に立つことも多々ありまして、客席は500席ほど。大劇場と比して、舞台と客席とがとても近いですから、メイクからして違ってきますからね」

栗原「私は初めてです。ミュージカルの公演では、日比谷芸術座の後に出来たシアタークリエに昨年出演させていただきました」

岡森「僕は3回くらい三越劇場に出演していますが、伝統のある劇場は温かみがあるので凄くやりやすいです。これだけ古い劇場というのは……。諸先輩方が暖めていてくれたんだなぁと思います」

―――これから稽古を通して深めていかれる皆さんから、抱負やメッセージを頂きたいです。

丹羽「この作品はいろいろ考えさせられる深みのある作品だと思います。今日のこのインタビューでも、垣間見えるように、人によって、捉え方が全然違うのかもしれません。そこが面白いところです。昭和の時代に書かれた時代劇といえど、現代に通じる普遍的なメッセージが込められていますから、ぜひ色々な方に観に来て頂きたいです」

岡森「山本先生による時代劇でありながら、よくある勧善懲悪の物語では済まされない、と私は感じています。だって、理屈ではない、人の弱さや脆さがあることは仕方がないことでしょ。そこが伝わるように演じられたらいいな、と思っています。面白い作品ですから、是非お運びください」

栗原「この作品が劇場で上演されるのがもう20年振りとのことです。錚々たる方が演じてこられたこの役を、この私が演じる。しかも三越劇場で! 正直、不安な気持ちでいっぱいですが、この機会に諸先輩方から多くのことを教えていただきたい、と思っています。どこまで理解を深められるか……。原作ファンや演劇好きな方はもちろん、普段ミュージカルしか観ない方にも、これをきっかけに作品に触れていただきたいと思っています」

―――いろいろな演劇に携わってきた皆さんが、どんな舞台に仕上げるのか。楽しみにしています。

(取材・文&撮影:渡部晋也 取材協力:浅草大黒家)

プロフィール

栗原沙也加(くりはら・さやか)
東京都出身。子どもの頃からミュージカル俳優を目指し、『アニー』、『葉っぱのフレディ』などに出演。小学校から成城学園に通い、成城大学に進む。在学中から本格的に俳優の道を進み、ミュージカルを中心に多くの作品に出演するほか、映画・ドラマでも活躍。近年の主な出演作に、ミュージカル『SHINE SHOW』、音楽劇『ハムレット』、ドラマ『不適切にもほどがある!』などがある。

岡森 諦(おかもり・あきら)
神奈川県出身。県立厚木高校演劇部で全国大会に進出。その時の仲閒である横内謙介・六角精児たちと善人会議(現・劇団扉座)を立ち上げる。『愚者には見えないラ・マンチャの裸の王様』の名演技など、劇団公演では作品を支える役を多数演じる。さらに個性派俳優として、つかこうへい事務所、劇団方南ぐみなどの外部舞台作品にも出演。また、NHK大河ドラマ『風林火山』、『青天を衝け』にレギュラー出演するなど、ドラマにも数多く出演している。

丹羽貞仁(にわ・さだひと)
京都府出身。明治大学卒業。時代劇から現代劇まで、商業演劇を中心に数多くの舞台に出演するほか、NHK大河ドラマ『春日局』、連続テレビ小説『かりん』・『甘辛しゃん』の他、多くのテレビドラマに出演する。父・大川橋蔵の大ヒット作『銭形平次』にも子どもの頃に出演したほか、大川にオマージュした後の銭形平次シリーズにも出演している。

公演情報

KASSAY第16回公演『五瓣の椿』
日:2025年2月14日(金)~16日(日)
場:三越劇場
料:S席[前10列センターブロック・2階最前列]10,000円
  A席8,500円 B席6,500円(全席指定・税込)
HP:https://camellia-with-five-petals.studio.site
問:KASSAY HP内よりお問合せください

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