小劇場ブームと言われた1980年代後半に“ネオかぶき”を掲げてシーンに飛び込んできた、加納幸和率いる「花組芝居」。それ以来、歌舞伎を下敷きにした独自のセンスで創り上げた作品で存在感を示してきた。そんな花組芝居がこの度、積極的に客演を迎えて創作する新たなブランドを立ち上げるという。その名も「花組ペルメル」。
第1弾に選ばれたのは、劇団員時代に女形として活躍し、現在は自ら主宰する「あやめ十八番」の座付き作・演出家でもある堀越涼。タイトル『長崎蝗駆經(ながさきむしおいきょう)』だけだと、まるで新作歌舞伎のようでもあるが、いったいどんな物語なのか、加納と堀越の2人に話を聞いた。
―――まず加納さんから、「花組ペルメル」について詳しく聞かせてください。
加納「1980年代に旗揚げした花組芝居は昔の新劇やアングラの影響を受けていて、抱えている劇団員を中心に出演しますが、そのカラーがハッキリしているので役者の取り替えがきかない訳です。でもそれ以外の人たちともやってみたいと以前から考えていました。そして僕もいい歳になったし、劇団も40周年が近いので、そういったことをする枠を作ろうと思ったんです。
“pêle-mêle”はフランス語で“ごちゃまぜ”といった意味で、いわゆるプロデュース公演になりますが、内容はしっかりさせたかったので、お互い手の内をよく知っている堀越くんに台本をお願いしました。この手の公演だとよく全国区のスターをいれて集客を狙うことが多いですが、ここは実力重視でということで、3人(客演の間瀬英正・熊野善啓・長橋遼也)には申し訳ないですが(笑)、ちょっと地味、でも実力派のメンバーを揃えました」
―――脚本を担当する堀越さんは花組芝居のメンバーでもあったんですよね。
堀越「花組に在籍中の作・演出を始めた頃から加納さんに脚本を提供したいと思っていたので、お話を頂いて即決でした。加納さんと何をやるかを相談したところ、三島由紀夫の『近代能楽集』みたいな『現代歌舞伎集』というアイデアをいただきましたが、僕はあまり歌舞伎に詳しくないので、原案になりそうな演目を加納さんに送ってもらいました」
加納「1幕ものから選ぶことにしまして、例えば『毛抜』・『対面』・『夕霧由縁の正月』・『平家蟹』といった作品のあらすじを送ったんです」
堀越「その中で1番面白そうだと思ったのが岡本綺堂の『平家蟹』でした」
―――『平家蟹』は明治から戦前に活躍した劇作家 岡本綺堂による新歌舞伎と呼ばれた作品の1つですね。
堀越「ええ。平家蟹が大量に出てくるところに着想を得ました。ちょうどその頃、アメリカでバッタが大量発生して困っているという話を聞いたんです。バッタは潰すとその時に出るフェロモンのせいでさらに集まってくるそうで、殺すことも出来ず、莫大な被害が出ているというニュースです。そこで平家蟹が発生する歌舞伎からバッタが大量発生する芝居にしようかと思って書きました」
―――そうなると『平家蟹』からは創作のヒントをもらっただけですか?
堀越「そうです。ストーリーも全く違いますし、現代語で演じる現代劇ですよ。歌舞伎調のセリフも採り入れた方がいいのかな、と思ったら加納さんからそれは一切使わないでくださいといわれました。歌舞伎を題材にはするが、歌舞伎のセリフは使わず。
でも観終わったときに確かにこれは歌舞伎だった、と思わせたい。そんな非常に高尚なことをおっしゃるんですよ」
加納「歌舞伎のセリフを入れちゃうと歌舞伎風の肉体を入れなくてはいけなくなる。でも客演の方にそれは無理ですから。これからも花組ペルメルは現代語の会話劇を条件にすると思います」
―――堀越さんは花組芝居にどのくらいいらっしゃったのですか?
堀越「15年いました。俳優として凄く学んだし、その間にあやめ十八番を立ち上げてさんざんお世話になりました。たくさん意見も頂いたし、公演では花組の役者さんにも出ていただいた。そんな関係です」
加納「稽古や本番を観ていてダメ出しをしてました。でも何本目かでいい感じになってきて。まさに羽ばたいたというイメージですね」
―――それだけよく知る相手に書いていると、加納さんがどう演出するかを予想して書くものですか?
堀越「演出家でありプロデューサーでもある訳ですから、こういう感じのものを求めているかなと考えていましたが、途中からお任せでいいことにして、好き放題書きました。ト書きを書いていて、どう(演出)するんだろうと思いましたけどね」
加納「ト書きがたくさんあるんです。でもまあ意図したものに上がってきましたから。今は修正をお願いしているところです。
設定を近未来にして、更に何か趣向が欲しくなり琵琶の演奏を入れることを思いつきました。歌舞伎の『平家蟹』も琵琶が入る演出もありますからね。そこから探したら、俳優の吉野悠我さんが弾かれることを思い出してお願いしました。迫力のある薩摩琵琶です」
―――どうやら全く新しい方向の作品になりそうですね。
加納「ええ。新しい展開や可能性を探りたくて始めるわけですから、花組芝居についているイメージは取っ払っていただいてご覧いただきたいですし、いままで食わず嫌いだった方も、これをきっかけにして足を運んでいただければと思います」
堀越「劇団員でもあった僕をこの企画に呼んでもらえたのは嬉しいですし、まるで加納さんとイチから劇団を立ち上げている気分です。色々な可能性を秘めた花組芝居の新基軸。その旗揚げですから楽しみにしていてください」
(取材・文&撮影:渡部晋也)
プロフィール
加納幸和(かのう・ゆきかず)
兵庫県出身。日本大学藝術学部卒業。1987年、『ザ・隅田川』にて「花組芝居」を旗揚げ。かぶきの復権を目標にした男性だけの劇団として活動を開始。小劇場ブームの終焉期に登場した個性派劇団として注目を集める。2022年に創立35周年を迎えた劇団の座長として、脚本・演出を手掛け、自らも女形で出演。西瓜糖 第7回公演『ご馳走』、花組芝居『毛皮のマリー』で、2019年前期の読売演劇賞 演出家賞にノミネート。座外への客演・演出・脚本提供や、映像にも進出。女形指導、母校の日藝・カルチャースクールでの講師、NHK歌舞伎生中継の解説も務めるなど、多方面で活躍。
堀越 涼(ほりこし・りょう)
青山学院大学卒業後、「花組芝居」に俳優として入座し、加納幸和氏に師事。2012年に自身が作演出を務めるユニット「あやめ十八番」を旗揚げ。以降、歌舞伎・能・浄瑠璃など、様々な日本の古典芸能のエッセンスを作品に取り入れ、“擬古典”と称し、日本人特有の文化・風習・宗教観などを主題とした作品を創作している。外部では新作狂言の脚本提供なども行っており、古典と現代劇の両方を得意とする。また、後進の教育にも力を入れており、学生向け演劇講座や、ワークショップの講師を務めるほか、昭和音楽大学ミュージカルコースで演技メソッドの講師を務める。
公演情報
花組ペルメル vol.1 『長崎蝗駆經(ながさきむしおいきょう)~岡本綺堂「平家蟹」による~』
日:2024年11月20日(水)~26日(火)
場:下北沢 小劇場B1
料:一般5,500円 U-25[25歳以下]2,000円
※要身分証明書提示
(全席自由・入場整理番号付・税込)
HP:https://hanagumishibai.com
問:花組芝居 公式HP内よりお問合せください