加藤健一事務所で大人気の“口から出まかせ系コメディ” 加藤健一が今度は召使いに! テキトーなウソで舞台上を混乱させまくる

加藤健一事務所で大人気の“口から出まかせ系コメディ” 加藤健一が今度は召使いに! テキトーなウソで舞台上を混乱させまくる

 18世紀のヴェネツィアを舞台に、召使いが2人の主人に仕えたことから巻き起こる騒動を面白おかしく描いた舞台『二人の主人を一度に持つと』。加藤健一事務所が贈る本作は、役者たちが汗を流しながら必死に舞台上を駆け回る姿が笑いを呼ぶ“口から出まかせ系コメディ”だ。
 加藤とともに本作に出演する清水明彦、坂本岳大、小川蓮に本作の見どころを聞いた。

―――“口から出まかせ系”コメディという本作ですが、どんな作品になるのでしょうか?

加藤「1700年代のイタリアのコメディです。シェイクスピアよりも少し後の時代のお芝居ですが、似たような雰囲気を感じていただけると思います。
 (この作品の)劇作家のカルロ・ゴルドーニはその後、演劇の近代化へのきっかけとなるのですが、この頃はまだパントマイムを取り入れた、まるでチャールズ・チャップリンのような要素を感じさせる作品を作っていました。たまにはそうした作品に挑戦するのもいいかなと思って今回、この作品を上演することになりました」

―――かなりセリフ量の多い戯曲ですが、それに加えてパントマイム的な動きもあるのでしょうか?

加藤「それは演出家次第なのでまだ分からないですが、ただ、何か動きを取り入れていかないと間がもたないというのはあると思います。今はシェイクスピアの作品も演出家次第でどうとでも作れますが、この戯曲も同じように(演出の)鵜山(仁)さん次第です。失敗したら鵜山さんのせい(笑)。
 もちろん、すでに美術や衣装の打ち合わせは行っているので、方向性は見えてきていますし、きっと鵜山さんが素晴らしい作品にしてくださると信頼しています」

―――なるほど。では、清水さん、小川さん、坂本さんから、この作品にお声がかかったときのお気持ちや演じられる役柄についてお話しいただけますか?

小川「今回、加藤健一事務所さんに呼んでいただいてすごく嬉しいです。僕は扉座という劇団に所属しているのですが、こうしてガッツリ外部の公演に出るのは初めてなんです。なので、違う現場の雰囲気を楽しみつつ演じられたらと思っています。
 僕が演じるシルヴィオという役は、すごく純粋な男ですが、物語が進むとどんどん変わっていくので、そこをうまく表現できたらと思っています。それから、下北沢の劇場に立つのも初めてで、しかも本多劇場ということで、ありがたいチャンスをいただき、本当に嬉しく思っています。精一杯、舞台上で暴れたいと思います」

清水「僕はイタリア演劇は初めてで、馴染みがないものですから、どんなものなのかと調べてみたら、仮面をかぶって演じたり、帽子をかぶっていたり(笑)。今回は、先ほど加藤さんがおっしゃったように鵜山さん次第なのだと思いますが、どんなものになるのだろうと楽しみです。共演者の方も加藤さんと(加藤)忍さん以外は皆さん初めてなので、そういう意味でも新鮮です。
 僕が演じる役は、パンタローネというクラリーチェのお父さんです。僕が調べたところ、当時のイタリア喜劇は役どころによってこういう人物だという印象が決まっているストックキャラクターという手法らしいんですよ。それによると、僕が演じるのは、金持ちだけど強欲な老人らしいので、そうした役作りをしていこうかなと思っています(笑)。1万円札で汗を拭いたりしてみたいと思います(笑)」

坂本「僕はフロリンドという役を演じさせていただきますが、タイトルにもある『二人の主人』のうちの1人です。僕もイタリア演劇は初めてなのですが、シェイクスピア的な喜劇要素は感じています。
 フロリンドは、忍さんが演じるベアトリーチェと恋仲なのですが、彼女と行き違うという役どころなので、そこだけ見ると『ロミオとジュリエット』のような悲劇的要素もあるのかなと。喜劇なので面白おかしくやることを楽しみにしているのですが、物語の中には振れ幅があった方がより面白くなるのかな、そうなったらいいなと思っています。
 それから、僕はこれまでも加藤健一事務所の作品には参加していますが、加藤さんとこれほどガッツリとお芝居をさせていただくのは初めてなので、僕個人としてはそれも楽しみですし、喜びでもあります」

―――加藤さんは今回、召使いという役柄です。

加藤「2人の主人に内緒で仕えて、2人分稼いで、2人分の飯を食おうという役です。
 この作品のタイトルの原題は『Il sevitore di due padroni』というのですが、直訳すると『二人の主人に仕える』という意味になります。これはキリスト教のマタイによる福音書の中にある『二人の主人に支えてはならない』という一文へのギャグじゃないのかなと、僕は思います。
 福音書に書かれている『二人の主人』というのは、お金と神のことです。なので、その両方を得ることはできないという言葉なのではないか。そう考えていくと、この作品はただの面白おかしいコメディではなく、奥深い物語なのかなと思いますし、そこに到達できるように頑張ってみたいと思います」

―――加藤さんがこの作品に向けて「今回も登れるかどうか分からない険しい山に登ろうとする無鉄砲な挑戦」というオフィシャルのコメントを出されていましたが、それはそうした深みのある作品だからこそなのですね。

加藤「そうですね。それに、イタリア演劇という、僕は初めての国の演劇でもありますし、私はこれまでシェイクスピアのコメディもやったことがないんですよ。なので、そういう意味でも、どうお客さまを楽しませて導いていけばいいのか、まだ全然分からないんです。
 それに、ものすごいセリフ量ですから。しかも、面白さで走らせる作品だと思うので、演出家はセリフをものすごいスピードで話させると思うんですよ。私の年になると、覚えたセリフを脳から出すのに時間がかかる。なので、どれだけ稽古が必要なんだろうと思っています」

―――鵜山さんの演出には、どんな楽しみがありますか?

加藤「繊細でありながら大胆でもあるので、それは楽しみです。それから、きっとイタリアに詳しいと思います。鵜山さんは、小学校の頃からずっと歌を歌っていて、ベルカント唱法という発声で歌われるんですよ。あの有名な畑中良輔先生が『演出させるより歌った方が良い』というくらいの技術をお持ちなんです。
 ベルカント唱法はイタリアの歌唱法なので、イタリアにも詳しいのかなと思って聞いたら、この作品も40年前に観ているそうなんですよ。当時、イタリアの有名な劇団の公演を観て、サーカスのようだったと言っていました。同じような演出はされないと思いますが、それくらい詳しい方なので、楽しみも大きいです」

―――清水さんも鵜山さんの演出は何度も受けられていると思いますが。

清水「劇団の先輩ですので。僕が養成所に入ったときには、鵜山さんはフランス留学から帰ってきたばかりで、飛ぶ鳥を落とす勢いでどんどん演出していました。養成所の授業にもたまにいらしていたので、僕にとっては『先生』という感じがあります。
 ただ、“演出家の先生”という振る舞いではなく、すごくフレンドリーに接してくださる方なので、先生と生徒といっても、お友達に近い感覚で過ごした記憶があります。とはいえ、こうして改めて演出を受けるとなると、何だか授業参観のような気恥ずかしさもありますね(笑)」

―――坂本さんと小川さんは鵜山さんとは初めてですか?

坂本「僕は加藤健一事務所の作品で、(2015年上演の)『ペリクリーズ』に出演したときにご一緒しています。もちろんそれまでもたくさん作品は拝見していたので、ご一緒したい演出家のお一人でした。すごく楽しい稽古でしたので、またご一緒できる喜びがあります。
 論理的で哲学的で理詰めで稽古を進めていくところと、パッと遊んでしまうところの差が激しいというのが強烈に印象として残っているので、楽しみではありますが、同時にドキドキもしています」

小川「僕は初めてなので、皆さんのお話を聞いて、すごく楽しみになりました。不安もありますが、賑やかにできたらと思います」

―――改めて公演への意気込みと読者にメッセージをお願いします。

坂本「喜劇なのでもちろん楽しんでいただくというのが大前提ですが、僕が最初に戯曲を読んだときの印象は『生命力に溢れている作品』でした。自分の役だけでなく、物語全体から活力が感じられるような、生きるエネルギーをお届けできるのではないかと思います」

小川「皆さんのおっしゃる通り面白いお話なので、最後まで笑って、笑いながら電車に乗っていただくくらい笑顔になって帰っていただけるように精一杯頑張ります」

清水「ぜひシルヴィオとクラリーチェ、ベアトリーチェとフロリンドという2組の恋物語も楽しんでもらいたいです。これから稽古がスタートしますが、毎日、きっと笑顔が絶えない現場になると思います。楽しみながら挑みたいと思います」

加藤「普通の人間はカッコいい一面しか見せないものですが、役者というのは多面体で、自分の中のさまざまな面を見せるものです。例えば、自分の中にゲイの素質があるのか、自分の中に“女性”がいるのか、攻撃的なところはあるのか、そうした自分の中にある扉を開けていく作業をします。ただ、その扉は自分では開けることはできない。稽古をしながら演出家と共に作っていき、脚本の力を借りて新しい扉を開けていきます。今回もこんな加藤健一は見たことがないという新しい一面をお見せできればと思います」

(取材・文&撮影:嶋田真己)

プロフィール

加藤健一(かとう・けんいち)
静岡県出身。1968年、劇団俳優小劇場の養成所に入所。卒業後は、つかこうへい事務所の作品に多数客演。1980年、一人芝居『審判』上演のため加藤健一事務所を創立。その後は、英米の翻訳戯曲を中心に次々と作品を発表。紀伊國屋演劇賞 個人賞、文化庁芸術祭賞、読売演劇大賞 優秀演出家賞・優秀男優賞、第38回菊田一夫演劇賞、第64回毎日芸術賞など、演劇賞を多数受賞。2007年、紫綬褒章受章。第70回毎日映画コンクール 男優助演賞受賞。

清水明彦(しみず・あきひこ)
千葉県出身。1986年に文学座附属演劇研究所入所、1991年に座員となる。舞台のほか、テレビ・映画・ラジオドラマ・アテレコ等、幅広く活躍している。主な出演作品は、【舞台】名取事務所 現代カナダ演劇上演 ニコラス・ビヨン2作品上演『屠殺人ブッチャー』、俳優座劇場プロデュース『罠』、文学座3月アトリエの会『挿話~A Tropical Fantasy~』、ミュージカル『おれたちは天使じゃない』、加藤健一事務所 vol.111『叔母との旅』など。【映画(吹替)】『アバター』シリーズ(ノーム・スペルマン役)、『ファインディング・ニモ』(バブルス役)など。

坂本岳大(さかもと・がくだい)
東京都出身。劇団昴出身。舞台を中心に活動する。シェイクスピア作品などの古典劇から現代劇・ミュージカル、文学館・美術館等の朗読公演まで、立つ舞台のジャンルに垣根はない。近年は、浅利演出事務所、加藤健一事務所、演劇集団Ring-Bong、劇団温泉ドラゴン、軽井沢演劇部朗読公演、フランス演劇クレアシオン、劇団スタジオライフなど多数出演。

小川 蓮(おがわ・れん)
東京都出身。2016年、第20期生として扉座研究所に入所。2018年に扉座入団。扉座第67回公演『リボンの騎士2020~県立鷲尾高校演劇部奮闘記~ ベテラン版 with コロナ トライアル』、第75回公演『Kappa~中島敦の「わが西遊記」より~』、幻冬舎Presents 『扉座版 二代目はクリスチャン2023』など扉座の多数公演に出演。

公演情報

加藤健一事務所 vol.117
『二人の主人を一度に持つと』

日:2024年5月9日(木)~19日(日)
  ※他、兵庫公演あり
場:下北沢 本多劇場
料:前売5,500円 当日6,050円
  高校生以下2,750円 ※要学生証提示/当日のみ
  (全席指定・税込)
HP:http://katoken.la.coocan.jp
問:加藤健一事務所
  tel.03-3557-0789(10:00~18:00)

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