念願の公演に100%で挑み、自分たち自身も新たな何かを掴めたら 感動や衝撃、観た人の心にずっと残る何かを届けたい

念願の公演に100%で挑み、自分たち自身も新たな何かを掴めたら 感動や衝撃、観た人の心にずっと残る何かを届けたい

 役者として様々な舞台・映像作品に出演するとともにプロデュースも手掛けている宮下貴浩と、多彩な作品を生み出す劇作家として注目を集めている私オム。そんな2人が2018年からライフワークとして毎年オリジナル作品を上演している宮下貴浩×私オム プロデュース。その第8回公演『月農(げつのう)』の上演が決定した。宮下貴浩と私オム、そして今作の主演を務める和田雅成にインタビューを行った。


―――まずはオムさんと宮下さんに、今回の企画についてお伺いしたいです。

私「和田さんとの作品をやりたいという話は、宮下さんとずっとしていて。ようやく念願叶ってできることになりました」

宮下「“ついに降臨した”と書いておいてください」

一同「(笑)」

宮下「何年も前から、和田くんが出てくれるような企画になったらいいなと思っていました。“時が来た”という感じです(笑)」

和田「元々、おふたりと作品の話をすることが多くて。作品も何度も観に行って、もし僕が出るならこんな作品がいいという話もしていたんです。オファーが来たというよりは、話していたことがやっと実現するという感覚ですね」

―――3人でどんなお話をされていたんでしょう?

宮下「以前、私オムが書いたお笑い芸人のボケの方が認知症になってしまう『忘華 ~ボケ~』も、世間話をしている時は和田くんがツッコミ役みたいなイメージでした。オムさんの中では“こういう役をやってほしい”というのが色々あったんじゃないかな」

オム「今回は何をしよう?という凄く贅沢な悩みを抱えています。和田雅成という人間をどうしてやろうかと妄想して楽しんでいる段階ですね」

一同「(笑)」

宮下「今回ストリップの話なんですけど……」

和田「違うから(笑)。書かなくていいですよ(笑)」

オム「どういうのがいいとか何がやりたいとかを聞こうと思って、ジャブを打つんですが、何も出してこない(笑)」

和田「(笑)」

オム「いざとなったら、『オムくんのやりたいのをやるよ』と言われて。そんなスタンスの和田さんをギュッとして、形を作っていこうと思います」

宮下「でも、昔から泥臭いのをやりたがっていたよね」

和田「もちろん今まで演じた役はどれも素晴らしいですが、綺麗な役やクールな役などを色々やらせてもらう中で、自分の感情や色々なものを爆発させる作品に出会いたいと思っていました。それで“床を舐めるような芝居をやりたい”とずっと伝えていて」

宮下「だからどちらかというと、重い悩ましい役になってくるのかなと思います」

オム「トラウマを抱える男が、田舎の街で自給自足しながら生きているという話にしようと思っています」

―――キービジュアルとスポット映像は、地方に行って撮影したそうですね。撮影時のエピソードや、どのようなイメージで撮影したかを教えてください。

和田「僕もまだ、役についてざっくりとしか聞いていませんが、畑で働いている男です。宮下さんの地元・長野県でお友達が営んでいる畑にお邪魔して、オムくんが色々なシチュエーションをディレクションしてくれる中で撮影しました。最初に出たキービジュアルの撮影中は雨が降っていたんですが、この場所で一瞬でも晴れたらいいねというタイミングでちょうど雲が切れた。オムくんに『ここは懺悔するような思いで』と言われて、僕が懺悔し始めた瞬間に後光が差したんです。その時にこの舞台は素敵なものになると感じました」

宮下「合成だと思われてるもんね」

和田「キービジュアルって色々修正をすることが多いですが、あれはそのまま使ってほしいということになりました」

宮下「デザイナーさんが色々素敵な加工をしてくださった写真を見たのですが、結局生に戻した。それぐらい凄い光景でした」

オム「撮影中はまだ脚本を書いていないから抽象的にしか伝えられなかったけど、ディスカッションしてイメージを伝え、それを和田さんが表現してくれて、稽古が凄く楽しみになりました。その最中、宮下さんは地元の友達と喋ってました」

一同「(笑)」

宮下「それも仕事なんですよ(笑)!」

オム「いい座組が作れそうだなと思いました」

―――今のところ脚本はどれくらい進んでいるんでしょう。

オム「今10ページまで進み、爪を切るシーンを書きました。本当にパチパチ音を鳴らしたいけど、爪が足りるかな(笑)」

和田「途中で足の爪になるかも(笑)」

オム「劇場の関係でできるかわからないけど、舞台上で和田雅成を泥まみれにしたいし水をかけたい。感情も見た目も泥まみれになっている和田雅成を観に来ていただけたらと思います」

宮下「ボロボロになっているのを撮りながらオムくんが、『やっぱりいいなぁ』って言っていましたね」

オム「あと、キービジュアルの撮影で和田雅成が力強く耕し過ぎて借りたクワを壊してました(笑)」

和田「『もっと強く』って言うから(笑)! クワが壊れて“終わった……”と思ったら、『よくあることだから大丈夫』と。宮下さんの地元の友達に気を遣わせてしまいました」

―――改めて、和田さんから見た宮下さんとオムさんの魅力、お二人から見た和田さんの魅力を教えてください。

宮下「真面目ですよね。シンプルですがそこが好きです。目標に向かってまっすぐに向かっている。仕事への熱量やブランディングを含めていいなって思う人です。僕は知り合いの舞台を観にいく時に、知り合いであるということをできるだけリセットして、初めましての感覚で観ることがあるんです。そんな時でもやっぱり惹きつけられるものがある。とてもリスペクトしている方と自分たちのプロデュース公演をできるのは楽しみですし、座長としてどう引っ張っていってくれるのか。お芝居は座長で変わりますからね」

私「和田さんの印象や魅力……」

和田「ギンギラギンでしょ」

私「(笑)。僕が6年前くらいにお手伝いした作品に出ていて、凄く尖ってる人がいるなと思ったのが和田さんでした。その時は関わる機会がなかったけど、宮下さんなどを通して一緒に過ごす時間が増えました。今でもソリッドな部分はそのまま、懐が深くなった気がします。でもまだ彼のことを全然知らないので、楽しいです。一言ひとこと気を遣って話してます(笑)」

一同「(笑)」

和田「作品を観る前におふたりの人となりを知りました。舞台を観に行って、“自分にはよくわからないな”と思う作品もたまにあるけど、オムくんの書く脚本は人間関係やお客さんに寄り添うフックもしっかりしているし、演出もわかりやすくて飽きない。僕が舞台を作る上で大切だと思っているものが、どの作品にもあります。そして、そこにしょーもないスパイスを毎回入れるおじさんがいる(笑)。観ていてちょっとしんどくなりそうな瞬間に出てきて和ませたり締めたりしてくれるのが宮下さん。でもそれはオムくんの信頼あってのことだと思いますね。そして宮下さんの舞台上でオンになった瞬間のシリアスな部分が本当に素敵です。ただ、2人ともプライベートはつまんないです」

一同「(笑)」

―――今回の公演で楽しみなことはありますか?

宮下「さっきの話と被りますが、和田くんがオムくんの脚本を演じるということ自体が念願だったので、それが一番楽しみです」

和田「一応、舞台『PSYCHO-PASS サイコパス』とかで一緒に仕事する機会はあったけど、オムくんが僕のためにガッツリ脚本を書いてくれて演出してくれるのは初めてだからね」

オム「最近、頭の中にずっと和田雅成がいるので、今日本物がいて嬉しいです」

一同「(笑)」

宮下「安里くんとか、いつも僕らの公演を支えてくれる仲間に外から観てもらえる。どう感じてもらえるのかも楽しみです」

オム「和田くんと話したのは、頑張るのは当然、必死になるのは当たり前だから、エンジンをかけすぎてぶつからないようにしようということ。お互いいつも仕事は頑張るんだから、いつも通りの意識でやろうという話をして、そうだなって思いました」

一同「(笑)」

和田「ずっと、いつかやろうと話していて、その“いつか”が来た。どうしても力が入っちゃうじゃないですか。でも、いつもの舞台も100%だから、変に気合を入れ過ぎずにいつも通り100%でやろうねと話しました」

オム「そういう会話ができた時に、いいものを一緒に作っていけそうだと感じましたね」

―――オムさんから役者としてのおふたりに期待することはなんでしょう。

オム「うーん、難しいな」

和田「宮下さんのどこに魅力を感じるの?」

オム「恥ずかしい」

一同「(笑)」

―――前回カンフェティで『愚れノ群れ』の取材をした際は、「今日は言いません」とのことだったので、今回はぜひ。

オム「もちろん信頼しています。脚本を書いていて、展開に困った時やお客さんと作品の距離を縮めたいと思った時は、宮下さん演じる役が軸になるように書く。そこでお客さんをキャッチしたらあとは主役にバトンを渡すことになるんですが(笑)。今回も宮下さんが前半でその役割を担い、主役の和田さんに最後作品をドンと落としていただければ。それ以上に期待することはありません」

宮下「私オム作品ですから笑えるシーンも、もちろんあるでしょうから、重い話だと思わずに観てもらいたいです」

―――他のキャストさんについて、楽しみなことや期待していることはありますか?

和田「プライベートでも仲の良い武子直輝が出ます。役者としても真面目で、まっすぐにぶつかってきてくれるタイプ。久しぶりの共演が楽しみです」

宮下「武子くんは以前から作品を観に来てくれていて、社交辞令かもしれませんが、『出たい』と言ってくれていました。ずっとチャンスを伺っていたものの、なかなかタイミングが合わず。和田くんが初めて出演するこのタイミングでスケジュールが合うというのも面白いし楽しみですね」

オム「武子は、僕が脚本を書いてないっていつも言いやがる(笑)。ゴーストライターがいるだろって」

和田「面白いからってことね」

オム「そういう褒め方は嬉しいけどね。『オムさんがこれを書けるわけない』って」

和田「こんな人間からこんな作品が生まれるかって(笑)」

オム「『まだ信じてないです』と言われているので、今回で信じてもらえたら嬉しいです(笑)」

―――最後に、楽しみにしているみなさんへメッセージをお願いします。

宮下「いつだって最新作が一番面白いと思ってやっています。たまたま隣にいた人の脚本が面白くて、たまたま一緒に公演をやって、どんどん面白い脚本になっていって。全部好きな作品ですが、最近なら『愚れノ群れ』が一番良かったとちゃんと思えている。今回はそれ以上に面白い作品になると思っています。楽しみにしていてください」

オム「刺激的な日々を過ごしたいと思いますし、お客さまに刺激を与えられるように頑張ります」

和田「自分自身もそうですが、ふたりにも新しい感覚になってほしいという思いがあります。お客さまには直接関係ない部分かもしれないけど、仲の良いふたりが二人三脚でやっている中に僕が入ることで風穴を開けてやろうかなと。袂を分かつとかじゃなく、自分自身もドライブをかけたいし、ふたりにとってもそうなったら良いなと。オムくんも言ったけど、お客さまの心に“素敵な舞台だった”とか、これは実現できるかわからないけど“泥まみれになるなんて初めて見た”とか、何かがずっと残っていく作品になればいいなと思っています。あとはもうオムくんに任せて、稽古場で切磋琢磨していきたいです」

オム「今後“宮オム”がなくなったら、和田が解散させたと思ってください(笑)」

和田「“和田オム”か“和田宮”になってる可能性がある(笑)」

宮下「ただ1つだけ。演劇の火は消さないです」

和田「ダサいなぁ(笑)」

(取材・文:吉田沙奈 撮影:友澤綾乃)

プロフィール

宮下貴浩(みやした・たかひろ)
2018年から劇作家・私オムとの共同企画をスタートし、毎年公演を開催している。2021年、新国立劇場で行われた水野美紀× 矢島弘一『2つの「ヒ」キゲキ』では企画・プロデューサー・出演。東京芸術劇場で行われた水野美紀主宰のプロペラ犬『僕だけが正常な世界』でも出演のほか、プロデューサーを務めた。

私オム(わたし・おむ)
身近な日常からドラマを生み出し、笑いを挟みながら会話劇で展開する作風はテレビ関係者からの評価も高い。2023年に開催された「演劇ドラフトグランプリ2023」では脚本・演出を務めた作品がグランプリを獲得。近年では原作のある作品の脚本・演出のオファーが相次いでいる。

和田雅成(わだ・まさなり)
主な出演作は、舞台『刀剣乱舞』シリーズ、舞台「呪術廻戦」、ミュージカル「ヴィンチェンツォ」など。ドラマでは、「あいつが上手で下手が僕で」や「REAL ⇔ FAKE」シリーズに出演。2024年は、映画『この動画は再生できません THEMOVIE』、主演ドラマ・映画『神様のサイコロ』、ドラマ「バントマン」などへの出演を控える。また、2025年には舞台「花郎~ファラン~」をはじめ、舞台「きたやじ オン・ザ・ロード〜いざ、出⽴!!篇〜」への出演が決定している。

公演情報

宮下貴浩×私オム プロデュース 第8回公演 舞台『月農』
日:2024年10月9日(水)~19日(土)
場:シアターサンモール
料:8,500円(全席指定・税込)
HP:https://www.ruby-parade.com/lp/miyaomu8/
問:公式HP内よりお問合せください

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