巨匠・ベジャールが『仮名手本忠臣蔵』をベースに、東京バレエ団のために創作した『ザ・カブキ』が、新たな顔ぶれで再演される。その中で今回、顔世御前役のデビューを飾るのが、金子仁美だ。
「背の高い人がやっているイメージだったので、『私ですか!?』と驚きました。(芸術監督の)斎藤友佳理さんに『いろいろ経験してきたあなただから、今出せるものがあると思う』と言っていただき、心が決まりました」
顔世御前は、殿中で抜刀した咎で切腹させられる塩冶判官の妻。哀しい運命を背負う女性として、孤高の存在感を放つ。
「顔世はあまり踊らず、佇まいや振る舞いなどから芯の強さを伝えることが求められる“静”の役どころです。また白塗りをするので、ほかのバレエ作品に比べて表情が見えづらい。その中でどんなことを表現できるかがカギだなと思っています」
振り付けや所作などに日本舞踊の要素も多く取り入れられており、古典バレエとは異なる新鮮な魅力を味わえる。
「“日舞”ならではの顔のつけ方、ポワント(トゥシューズ)ですり足をしたり正座で座ったりといった所作は、二代目花柳壽應さんから細かく教わりました。私は塩冶判官切腹後の鞠歌の踊りと、クライマックスの討ち入りシーンが好き。実は討ち入りをはじめさまざまな場面で黒子が重要な役割を果たしていて。以前に黒子をやっていたので、そこにも思い入れがあります」
ダンサーやバレエ愛好家を魅了し続けているベジャール。彼の作品のやりがいとは?
「全身で音楽を感じ、動きに持っていけるところが楽しいです。身体の使い方がユニークで、踊ると必ず全身筋肉痛に(笑)。不思議なポーズも多いのですが、一つひとつに意味があり、踊り続けることで見えてくる彼の想いに引き込まれます。『ザ・カブキ』には日本文化が西洋のバレエと融合することで見えてくる、和の世界の美しさや面白さがあると思います。由良之助がタイムスリップして忠臣蔵の世界に入っていくように、お客様も一緒に物語に入り込み、楽しんでいただけたら」
バレエ団創立60周年を記念して上演される本作。金子自身も入団14年目を迎え、バレエ団への気持ちは変化してきた。
「若手の頃は振りを追うので精一杯でしたが、踊りを重ねるごとに作品の深みが見えてきて、追究したいという欲が出てきます。顔世も友佳理さん、(上野)水香さんなど偉大な先輩方が踊り、受け継いでこられた作品ですから、次に繋げていくために私もしっかり踊らなければと、気持ちを引き締めています」
(取材・文:木下千寿 撮影:間野真由美)
プロフィール
金子仁美(かねこ・ひとみ)
群馬県出身。6歳よりバレエを始め、2011年に東京バレエ団へ入団。2012年、子どものためのバレエ『眠れる森の美女』で初舞台を踏む。現在は同バレエ団ファーストソリストとして、2023年初演『かぐや姫』影姫、『眠れる森の美女』オーロラ姫など、多くの公演で重要な役どころを務めている。
公演情報
東京バレエ団 創立60周年記念シリーズ10『ザ・カブキ』全2幕
日:2024年10月12日(土)~14日(月・祝)
※他、大阪公演あり
場:東京文化会館 大ホール
料:S14,500円 A12,000円 B9,000円
C7,000円 D5,000円 E3,000円
※他、各種割引あり。詳細は団体HPにて
(全席指定・税込)
HP:https://www.nbs.or.jp
問:NBSチケットセンター
tel.03-3791-8888(平日10:00~16:00/土日祝休)