LGBTQ+を題材に、すべての人が少しずつ寄り合い「心のままに生きる」世界を描く

LGBTQ+を題材に、すべての人が少しずつ寄り合い「心のままに生きる」世界を描く

 花言葉をテーマにオリジナル作品を作り続けている「teamキーチェーン」は、2011年にAzukiがユニットとして結成し、2016年に劇団化。今回はセクシャルマイノリティを題材に、下町の居酒屋に集う人々の「素直に生きることの難しさと楽しさ」を紡ぐ。脚本・演出のAzuki、出演する伊藤萌々香・三澤康平・岡田奏に意気込みを聞いた。

―――なぜ今回、セクシャルマイノリティを題材にしようと思われたのでしょうか。その思いを教えてください。

Azuki「このコロナ禍で、日本の情勢が急激に変わったと思うんです。もちろん変わらないところもあるんですけど。
 例えばマスクの着用が任意になりましたが、マスクを外している人に対して『ダメだダメだ』と言ってきた人たちが、次はマスクを着けている人たちに対してものを言う。つまり『多数派』が『少数派』に圧力をかけているような状況が生まれているんですよね。
 私はそれぞれの考え方や価値観を尊重しあえれば、別にどっちでもいいやんと思うんです。前作では障害の方を題材に扱いましたが、今回は性別のマイノリティの人たちを取り上げて、その人たちの考え方や価値観を描くことで、多数派の意見と少数派の意見と両方を尊重できるような世の中にしていきたいなと思っています」

―――脚本を読まれた感想を教えてください。

伊藤「まだ1回しか脚本を読んでいないのですが、私の役はLGBTQの人や性的マイノリティをとりまく問題にあんまり詳しくなくて、どちらかというと、この話の中で知っていく役柄だと思います。なので、観に来てくださる方の多くと同じ目線で見られる気がしています。
 個人的に今回初めて(team)キーチェーンさんの作品に出演するのですが、今まで私が出演してきた作品とは全く違った系統の作品なので、戦いの日々になりそうだなと思っています。どうなるのか楽しみです」

三澤「今回はLGBTQ+が題材ですが、中に登場する人物はそれぞれにいろいろな悩みを抱えています。例えば不妊治療していたり、親権問題で揺らいでいたり、いろいろな人のいろいろな悩みが居酒屋に集まっているんです。
 でも、台本を読んだ感想で言うと、みんなが明るくて、前向きで、明日に向かって今を生きている。それが俺はすごく好きでした。観てくれる人にもその思いが届くように、自分がまずは理解をして、向き合い、その場に生きられればと思います」

―――三澤さんの演じる役は、女性の体を持ちながら性自認は男性である「FtM」の役ですね。どの辺りから役づくりをしようと考えていますか。

三澤「僕、さきほどAzukiさんが話されていたマスクの話を聞いて思い出したんですけど、マスクの着用が任意になった初日に、マスクなしで外を出ていて電車に乗ったんですよ。周りはみんなマスクをしていて、人の目がすごく気になったんです。一瞥して『あ、この人マスクしていない』と思われているなと。その人はそう考えていないかもしれないけど、僕はそういう風に見られていると感じた。
 LGBTQ+の話とは全然違うことですけど、FtMの方が抱えている、ある種のマイノリティな気持ち――本当は周りはそう思っていないかもしれないことを思ってしまう気持ちが分かるかも、と思ったんです。
 まずは知ることが第一だと思っています。そしてあまりステレオタイプ的に考えず、役と向き合って、役と一緒に歩んでいければなと思っています」

―――岡田さんは脚本を読まれていかがでしたか?

岡田「僕は『オカマ』を今回演るんですけど、LGBTQ+がメディアで取り沙汰されるようになるより前からあるジェンダーだと思うんです。太古からずっと変わらずにあったのに、なぜこれまで取り沙汰されなかったんだろうと考えたら、多分『オカマ』の皆さんが、それはそれでいいんじゃないかと考えていたのかなと思うんです。例えば今回の『オカマバーのママ』という設定のように、それを職業にしている時点で、その個性を強みにしているなと思うんですよね。
 もちろんマイノリティの全員が全員、そういうメンタルになれるかといったら、そういうわけじゃないとは思います。それでも僕は、この作品の『オカマ』のように、当たり前のように存在できたらいいのになと思っています。
 僕の友達にもLGBTQ+の人がいて話を聞くんですけど、その人も全然気にしていないタイプなんですよね。作中でも、僕の役はマジョリティ側にもマイノリティ側にもどちらかに寄ったことを言うわけでもない。お客さんが『こういうスタンスでもいいんやな』と思えるような役になれたらいいなと思っています」

―――Azukiさんは脚本を書かれる上で、いろいろ取材などされたと思いますが、最近増えているLGBTQ+関連の作品にインスピレーションを受けたものはありますか?

Azuki「LGBTQ+を扱っている作品は、海外のものも日本のものも、ほぼほぼすべてを観てきたと思いますが、どれも私の中ではピックアップしていないですね。どうしてもテーマとしてLGBTQ+を扱うと、私には『その人たちが苦悩や弊害に苦しんでいるから、みんな優しくしようね』というメッセージに見えるんです。
 私は、多数派や少数派は関係なく、今生きてる人たちが対等な位置で生きる世界を作っていきたいと思っている。だからLGBTQ+にそんなに特化して描こうとは思っていないんです。もちろん作品の中では出来事が起こるし、知識のない人間が傷つけてしまうことはあるんですけど……。
 この世には色々な考え方の人がいるし、悩みや苦しみは人それぞれです。どちらかに優しくしなければならないということはなく、お互いに思い合いたい。観に来たお客さんたちももちろんいろいろな方がいると思います。この作品を観た人がこの世の中は生き心地がいいなと思えるような世界をつくり出したいと思っています」

―――teamキーチェーンという団体についてはどんなイメージをお持ちですか?

伊藤「実はAzukiさんとは5,6年前に別の現場で出会っていて、何度か作品を観させていただいて、ずっと出たい出たいとお話ししていました。キーチェーンさんの作品は、観終わったあとに、なんか忘れていたものを思い出させてくれるような感覚があるんですよね。
 私は原作がある作品に出演してきたので、ストレートの作品に出たことがないんですけど、いつかこういう世界に絶対足を踏み入れたいと言い続けて、言い続けて、やっと叶ったんです。
 岡田さんも三澤さんも今日初めてお会いしましたし、他のキャストさんのこともこれから知っていく段階なんですけど、今日お話ししただけでも、気を張らずに話せるメンバーだなと思いました。私の役も、舞台となる居酒屋に集まる人たちの一員なので、そういう温かさみたいなものが出せていけたら」

三澤「僕は前作にも出演させていただいたんですけど、他の劇団さんと比べて思うことは、上から目線に聞こえたら申し訳ないんですけど、主宰のAzukiさんがすごく愛に溢れていて、劇団員の仲がすごくいいんですよ。安心感があるんですよね。
 毎回、役としっかり向き合える環境を作ってくれるので、本当に嬉しいですし、今回も何も不安なく役と向き合うことができると思います。そういう環境をAzukiさんや劇団員の方々が作ってくださるので、本当にすごいなと思っています」

―――Azukiさんと岡田さんはいかがですか。

岡田「前回は吉祥寺シアターで7公演上演しました。劇場のキャパシティが広がったこともありますが、teamキーチェーン史上最多動員数を達成しましたし、すごくご好評をいただいたんです。
 なのでそれに続く本作が、それを超えなくてはいけないと、特にAzukiは思っていると思います。僕も前作を超える作品になれたらいいな、超えるようにしていかないといけないなというプレッシャーはありますよ」

Azuki「ずっと新作を作り続けてる身からすると、もちろん前作を超えなければと考えることもありますが、自分が伝えたいこと、世の中に訴えかけたいことを作品を通じてお客様に感じ取っていただいて、それでお客様の気持ちが豊かになって、ひいては世界平和に繋がっていけばいいなと常に思っているんです。その気持ちは書き続けているうちは変わらないと思います。
 前作でお客様にそれを感じ取っていただいて、ご好評いただいたことは大いに自身になりました。この気持ちのままで書いていれば、伝えられるんだと確信を持てたんです。だからあまり力を入れすぎず、いつも通り書いていこう、作っていこうと思っています」

―――最後に来場を楽しみにしているお客様に一言お願いします!

伊藤「私のことを知ってくださっていて、観に来てくださる方の中にはキーチェーンさんの作品を初めて観るという方も多いと思います。
 前回、私がキーチェーンさんの作品を観たときに、自分の今までの考え方や向き合い方を振り返りながら『こうした方がいいんだ』という気づきがあったんです。あのときに感じたことを今回は私がみなさんにお届けできたらいいなと思って。
 理解をしていく側の役なので、お客さんと同じ目線だと思います。何か持ち帰ることができるものが1つでもいいから投げられたらいいなと思います」

三澤「僕の考えですが、この劇を観て『LGBTQ+ってさ……』というような感想をいただきたいとは、全く思っていなくて。前回の『朝ばらけ』のときは障害を題材にした作品でしたが、 会場が温かい空気に包まれていたんですね。最後はみんな笑っている。それがすごく演劇の良さだな、素敵な空間だなと思ったんですよ。
 だから今回も、この居酒屋の日常を見届ける空間が生まれることを目指しています。そのために稽古も頑張っていきたいなと思います」

岡田「今回のテーマは旬な話題で、テレビ・ドラマ・映画などですごく取り上げられているから、『正直もうええわ』と思っている人もいるかもしれない。でも今回は、そのLGBTQが何か大きなものを乗り越えて変わっていくとか、恋愛がどうとか、そこを描くわけではなくて。乗り越えた後の共存していく話。だから他とはまた違うかなと思うんです。
 いろいろな個性を持った常連客たちがたまたま集まる居酒屋なだけだし、それはすごくみなさんにとっても身近なことだと思うので、あまり構えずに観に来てもらえたら絶対に感じ取れるものがあると思います。ぜひ気軽に観に来ていただきたいと思っております」

Azuki「LGBTQ+を扱っているということを特別視するのではなくて、日本の日常、みんなが生きている様を観ていただきたいと思っています。観た結果、得られるものがお客様の中に生まれて、知識から気持ちが豊かになっていって、『心のままに生きる』ということが派生していったらいいなと思っています。劇場でお待ちしています」

(取材・文&撮影:五月女菜穂)

プロフィール

伊藤萌々香(いとう・ももか)
1997年12月15日生まれ、埼玉県出身。ダンスボーカルグループ「フェアリーズ」のメンバーとして、2011年にデビュー。2020年にフェアリーズが活動を終了してからは、個人として活動中。近作は、朗読劇『陰陽師』恋ぞつもりて篇。

三澤康平(みさわ・こうへい)
1994年12月24日生まれ、東京都出身。俳優。最近、YouTube「ぺちゃくちゃ倶楽部」を開設。

岡田 奏(おかだ・そう)
1990年3月3日生まれ、京都府出身。teamキーチェーン副代表。

Azuki(あずき)
1982年2月12日生まれ、大阪府出身。teamキーチェーン代表。脚本・演出、監督、舞台監督、制作、演出助手、演出部、役者とマルチにこなす。

公演情報

teamキーチェーン第18回本公演
『雨、晴れる』

日:2023年5月3日(水・祝)~8日(月)
場:すみだパークシアター倉
料:前売4,600円 当日5,000円
  (全席指定・税込)
HP:https://www.teamkey-chain.net
問:teamキーチェーン
  mail:teamkey_chain@yahoo.co.jp

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