旗揚げた年の秋に発表した作品を、7年の年月を経て再演 もしもあの時、別のアプローチがあったなら ホラーテイストで綴る戦慄の物語

旗揚げた年の秋に発表した作品を、7年の年月を経て再演 もしもあの時、別のアプローチがあったなら ホラーテイストで綴る戦慄の物語

 演劇公演を打つに当たって、自分たちの作品のクオリティに自信を持つのは当然のことだが、その後ろ盾になるのは観客の評価だ。観客との相互作業によって劇作家も劇団も成長していくわけだが、CR岡本物語が主宰する空想嬉劇団イナヅマコネコは旗揚げ以来、着実にそのプロセスを積み重ねていると思う。さらにイナヅマコネコは、これまでうやむやにされがちだった小劇場の様々な非効率的なシステムを明確化し、稽古時間の効率化やクオリティ向上による券売の促進などに成果を上げている。
 そんな彼らの次回公演は作品番号No.2『ノスタルジアの贖罪』。主宰の岡本と俳優兼プロデューサーである堀雄介へのインタビューは、いつものことではあるが、作品の話題を越えて様々な話題に波及していく。

―――イナヅマコネコさんがユニークなのは、作品にNo.1、No.2という番号が記されているものの、それが1作目、2作目という順番を示す物ではない。つまり、作品それぞれが独立したものだという考え方をされているところですね。
 今回の『ノスタルジアの贖罪』はNo.2で7年振りの再演となるわけですが、その7年が作品に与えた影響はありますか。

岡本「当時は100点だと思って書いていますが、実際は現在の70点くらいだと思うんです。この期間を経て言語化できる様になったことが増えて、役者にも具体的に説明できる様になりました。だから1番の変化は僕の演技指導のレベルが凄く上がっていることですね。出演する役者は楽になっていると思いますよ」

堀「キャスティングからいうと、初演に居たキャストは5人ですが、同じ役は3人ですね」

岡本「やはり年齢的に難しくなったこともあるので、そういった方にはより難易度の高い役にトライしてもらいます」

堀「オファーした方だけでなくオーディションも行いましたけれど、若手は10代から、上を見ると60代までいます」

岡本「初演は劇団が出来て間もない頃だったので、キャスティングについて僕達が自由に選べる状態ではなかったんです。でも今はオーディションにも数十人が応募してくれますから、かなりレベルの高い座組が出来ました」

堀「今回は僕達をずっと観てくださっている役者さんもオーディションへの応募を経て参加してくれています」

―――脚本に手を加えた、書き加えたところは?

岡本「それはほぼないですね。書き加えは大っ嫌いなんです。書いた当時の僕に対する冒涜ですから」

―――記録を見ると、旗揚げからこの作品までは日本が舞台で、そこから先は異国が舞台になっています。その前後で岡本さんの中で変化するきっかけがあったのでしょうか。

岡本「むしろ作品No.4『ソリチュードタウンの死神』までは普遍的なテーマとして“死”を掲げていました。それ以降は恋愛や政治などを取り上げたので、僕の中では『ソリチュードタウン~』までがワンセットみたいな所がありますね」

―――初演のチラシではダーク・ファンタジー・ミステリーということですが。

岡本「ホラーテイストですね」

堀「普遍性のある思い出、記憶の物語。見え方は違うけど、観客それぞれに当てはまるメッセージが詰まっています。初期の作品ですがその点で不朽の名作だと思います」

岡本「訴えかけないと演劇をやっている意味がないですから」

堀「僕自身にとってもイナヅマコネコの舞台に初めて立った作品です」

岡本「堀さんを劇団員にしたくて、思いきり口説いている最中でしたね(笑)」

―――No.4『ソリチュードタウン~』は前回再演されましたね。

堀「おかげさまで動員は1,400を越えました。初演の時も劇場(上野ストアハウス)のキャパシティを越えるお客さまにおいでいただいたので、シアターグリーン(BIG TREE THEATER)にしたのですが、それでもとてもいい評判をもらいまして。客席の湿度が高くてね」

―――湿度?(笑)

岡本「客席が爆泣きだったんです。キャストのみんなも嬉しかったと思います。久々に面会も出来て、熱い反応を直に受け取ることが出来ました。キャストにとってもいい体験になりました」

―――コロナ禍が明けた影響もありますか?

岡本「明けましたけれど、劇団の運営は大変ですね。明けたら何とかなると思っていたけれど、そうはいかない。生き残ってクオリティは保てているかどうか。まあ今まで義理で買われていたチケットは無くなりましたよね」

岡本「芸能活動に憧れない人が増えたことが肌感覚であります。誰でも発信できる世の中だし。しかも話題性でビュー数を稼げればいいという時代になっていますから」

堀「ちょっと怖い世界です。キャッチーならばそれでいいというかね」

―――では、上演を控えてお二人からのメッセージをいただきます。

堀「とてもショッキングな作品だと思います。ホラーの形を借りているからということもありますが、キャスト・観客共に“怖すぎる作品”と捉えられていましたから。でも”怖い”感情と“感動”で揺さぶられる心境がミックスされ、衝撃を受ける作品だと思っています。ある意味、究極のエンターテインメントになっていますし伝わるものもあります。
 イナヅマコネコの舞台でホラー仕立てと言えるのはこれだけで、いってみれば異色作。映像化もしておらず、この作品を知らないファンも多いので、改めて衝撃を感じていただく作品として期待していただきたいです」

岡本「堀さんが語ったとおりなんですが、まあ怖がらせようと思ってやっているわけではありません。ただ恐怖と感動がここまで混在する作品はないと思います」

堀「初演の楽屋で怪奇現象まがいの出来事があったくらいだものね(笑)」

(取材・文&撮影:渡部晋也)

プロフィール

CR岡本物語(しーあーる・おかもとものがたり)
俳優・声優・脚本・演出・ライター。空想嬉劇団イナヅマコネコ主宰。過去に劇団ぺピン結構設計、さらに劇団ポップンマッシュルームチキン野郎に所属し、ほとんどの作品に出演。イナヅマコネコ旗揚げ以降は座付き作家・演出家として作品を発表している。また効率の悪い稽古や遅れることが既定路線になっているような脚本など、小劇場系劇団のスタイルを是正すべく、自ら実践を続けている。

堀 雄介(ほり・ゆうすけ)
年間に100本前後の演劇作品を観る観客から、役者として活動を拡大。2012年までは某大手企業の駐在員としてニューヨークに赴任。ブロードウェイ・ミュージカルをはじめとしたステージを客席で体験する。空想嬉劇団イナヅマコネコで俳優・プロデューサーとして活躍しているが、企業の社員としても職務を継続している。

公演情報

空想嬉劇団イナヅマコネコ
作品No.2『ノスタルジアの贖罪』

日:2024年6月29日(土)~7日(日)
場:シアターグリーン BIG TREE THEATER
料:6,000円
  平日昼割[7/1~7/5]5,500円
  (全席指定・税込)
HP:https://inaneko.ciao.jp
問:空想嬉劇団イナヅマコネコ
  mail:inaneko@p-hit.net

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