「わかった!と思っちゃったんです」
坂本龍一が全曲を書き下ろし、アーティストグループ「ダムタイプ」のメンバー高谷史郎とコンセプトを考案して創作した、最新にして最後のシアターピース『TIME』。この作品を2021年オランダで初演するにあたり、坂本から“人類”を踊ってほしいと依頼されたダンサーの田中泯は、傍目には途方もないと思えるオーダーを瞬時に理解できたと言う。
「人間はひとつの種でありながら殺し合いまでしてしまう。共通のルールがまだ出来上がっていない、徐々に人間になっていく過程にいると思うんです。そう考えると“人類”を踊ってくれと言われて『よし、やってみようじゃないか』と答えるしかない気がして。ましてどうしたらいいんだろうとは図々しくも全く思わなかったですね」
『TIME』は「時間」をテーマに、舞台上に揺らぐ水面と、精緻な映像、「こんな夢を見た」の語りで始まる夏目漱石の『夢十夜』(第一夜)、『邯鄲』、『胡蝶の夢』の物語と溶け合うテキストを、“初めて水を見た人”である田中泯、宮田まゆみの笙、石原淋のパフォーマンスで描いていく。「能のようにひたひたと進んでいく」と田中が表現した舞台は、世界初演で大絶賛を集めた。いよいよ待望の日本初演の幕が開く本年3月28日は、奇しくも坂本龍一の一周忌だ。
「なぜ人類は踊りをはじめたんだろうと僕はずっと考えていて、坂本さんも人間は如何にして音楽を奏でるようになったのかを考えられていた。自分たちが本当に好きなものがどんな歴史を経て今に至っているのか、その本質についてお互いに長い時間話してきました。坂本さんは事実としては亡くなっているのですが、僕には彼の言葉がずっと聞こえていて、対話を続けていますから、今回の日本初演に際しても『じゃあ坂本さん、一緒にいこうか』という気持ちになるんじゃないかと思っています。坂本さんも僕も日本で生きて大人になって、風土や習慣が身にしみついている日本人で、政治が言う日本国ではなく、生き物や植物、風景という意味での日本が好きだし、誇りに思っている。ですから『TIME』がその日本でどんなふうに皆さんの中に染みていくのか、或いは拒否されるのか分かりませんが、生き延びて欲しいですし、人間が時と共に生き、生かされていることを感じるきっかけが掴めるかもしれないので、是非足を運んでいただきたいです」
(取材・文:橘 涼香 撮影:山本一人(平賀スクエア))
プロフィール
田中 泯(たなか・みん)
1945年生まれ。クラシックバレエ、モダンダンスを学んだ後、1974年から独自のダンス、身体表現を追求するようになる。1978年、「パリ秋芸術祭『間―日本の時空間』展(ルーブル装飾美術館)」をきっかけに本格的に海外デビューし、ゆるやかで微細な動きで身体の潜在性を掘り起こすパフォーマンスは、ダンスをはるかに越えて、新しい芸術表現として衝撃をもたらした。一方、1985年から今日に至るまで、山村へ移り住み農業を礎とした日常生活をおくることでより深い身体性を追求している。2002年、映画『たそがれ清兵衛』(山田洋次監督)初出演以降、映像への出演も多く独自の演技力によって異彩を放っている。著書に「僕はずっと裸だった」、共著に「意身伝心」、写真集に「LastMovement 最終の身振りへ向けて」(平間至撮影)、「海やまのあひだ」(岡田正人撮影)、「『光合成』MIN b y K EIICHI TAHARA」(田原桂一撮影)がある。2022年、本格的な長編ドキュメンタリー映画『名付けようのない踊り』(犬童一心監督)が公開された。
公演情報
RYUICHI SAKAMOTO + SHIRO TAKATANI TIME
日:2024年3月28日(木)~4月14日(日)
※他、京都公演あり
場:新国立劇場 中劇場
料:S席15,000円 A席12,500円
U-18チケット[観劇時18歳以下対象]3,500円 ※要身分証明書提示/当日指定席券引換
(全席指定・税込)
HP:https://stage.parco.jp/web/play/time/
問:【チケットお問合せ窓口】サンライズプロモーション東京 tel.0570-00-3337(平日12:00~15:00)
【公演お問合せ窓口】パルコステージ tel.03-3477-5858