総勢27名のキャストで届ける、創立75周年記念公演  人気漫画を初の人形劇化! 幽霊と人間の心の交流を描く、笑って泣けるエンタメ作品

人形劇団ひとみ座が劇団創立75周年記念公演として、新作人形劇『花田少年史』を上演する。1995年度第19回講談社漫画賞を受賞し、今なお根強い人気を集める一色まことによる『花田少年史』は、幽霊と人間の心の交流を描く、笑って泣けるエンターテイメント作品。アニメ化や映画化もされた本作を初の人形劇として発表する。
劇団代表で脚本・演出を務める中村孝男、脚本と出演の西田由美子、演出協力と出演の松本美里、主人公の花田一路役を担う期待の若手・照屋七瀬の4人に本作に懸ける思いを聞いた。


―――――今回『花田少年史』を題材として選んだ理由や経緯を教えてください。

中村「今回は劇団創立75周年記念事業なので、劇団内で作品を公募しました。すると、いろいろな作品候補が集まりまして。その中で西田由美子がずっと前から『花田少年史』が大好きで、この作品を小学生に見せたいと強い思いを持っていたんです。

70周年のときは、手塚治虫の『どろろ』という作品を上演しまして、30人近い団員が舞台に上がったんですが、今回も同じように劇団の人形遣い総出で上演したいと考えています。コロナ禍でいろいろなことを我慢しなくてはいけない日々が続いてきましたし、正直今もまだ続いていると思うのですが、あの停滞した時期からなんとか精神的に脱却したい。それに75年も続いているひとみ座が「まだまだ頑張っているぞ!」というアピールもしたい。それらの思いが、誰に対してもダイレクトに伝わるのは、やはり笑いと涙であろうと思うんです。

『花田少年史』は少し昔の設定なんですけど、幽霊が見えるようになった主人公の花田一路を中心に起こるドラマを描いています。もちろんその物語のドラマも楽しんでほしいですし、我々ひとみ座の劇団員が作品を作る上で生まれるドラマも感じてほしいなと思っていて。劇団にはいろいろな年齢の団員がいて、それぞれいろいろな人生経験があるわけですが、いい大人たちが人形を操って、ああでもない、こうでもないと真剣にエネルギーをぶつけ合いながら作品を作っているのでね」

西田「『花田少年史』は原作漫画が連載されているときからずっと読んでいました。笑って泣けて、読んでいるときだけは自分のリアルや生活を忘れさせてくれる作品だったんですよね。「涙活」なんていう言葉もありますが、笑って泣いてストレス解消できる作品だと思います。

入団当初からこの作品はいつかひとみ座でやりたいと思っていたものの、入団当初は人形遣いとしてまだまだ勉強しなくてはいけないことも多くて、それどころではなくて(笑)。今回、座長と団員のみんながOKしてくれて、ようやく形になることがとても嬉しいです。

東日本大震災、コロナ禍、そして今年の元旦に起きた能登半島地震……災害などが起こる度に、無念の死を遂げた人たちの気持ちを想像してしまいます。「亡くなっていたあの人はどう思っていたんだろうか?」。そんな死者の声を知れたらどんなにいいだろうと思うんです。幽霊という存在は、私たち生きてる者の希望とも言えると思います。きっと作者の一色(まこと)さんもそんなことを思いながら作品を書かれたのではないでしょうか」

―――――照屋さんは一路役を担うそうですね。今のお気持ちを教えてください。

照屋「私ももともと一色(まこと)先生の作品が好きで、中でも『花田少年史』はとても大好きな作品でした。私はひとみ座に入って4年目ですが、入団してしばらくすると「『花田少年史』をやるらしい」という噂を耳にして(笑)、絶対どんな役でもいいからやりたい!と思ったんです。でもこんなに大好きな作品なのに一路をやらないでいいのだろうかとも思い始めて……今までいろいろな作品に出させていただきましたが、ここまで強く「この役をやりたい!」と思ったのは初めてかもしれません。だからこそオーディションで受かったときはとても嬉しかったですね。

『花田少年史』は人間の強い部分と弱い部分がたくさん詰まっているドラマ。一路はみんながみんな共感できるキャラクターではないかもしれませんが、一路に関わる人たちと一緒に、このドラマを作り上げられていけたらと思います。私がこの作品が好きだというエネルギーも感じてもらえたらなお嬉しいですね」

―――――松本さんにも本作に懸ける思いを伺いたいです。

松本「私は2人(※西田さんと照屋さん)とは違って、これまで『花田少年史』を知りませんでした。西田から「この作品をやりたいんだ!」と旅先の旅館で熱く語られて、そのときに初めて読んで……。だから改めて『花田少年史』が企画として採用されたときに、真っ先に西田に「おめでとう」と連絡をしました。彼女の熱い思いを知っていたからこそ、同じぐらい嬉しい気持ちになりましたよ。

私はりん子という幽霊の役を演じます。今回の物語は大きく分けると、生きている人と死んでいる人という2つの登場人物が出てくるのですが、生きている人の代表が一路だとすれば、死んでいる人の代表的な位置付けがりん子。作品の中でずっと物語を引っ張っている影の存在で、強い思いがあるので長い間成仏できないでいる人物なんですね。

私は幼少期に妹を亡くしていて「妹がいてくれたらいいのに……」と思ったこともありますし、妹の声が聞こえるような気がすると感じることもあったりして。科学的に本当に幽霊がいるのかは分かりませんが、もしいるなら見守ってくれているような気もするし、そう思わないと生きていけない部分もある。幽霊の思いを伝えるなんて、演劇だからこそできることでもある。そんな風に今思っています」

―――――改めてひとみ座に入団した理由と、人形劇の魅力を教えてください。

中村「私は以前、郵便屋さんをやってました。全然演劇には興味なかったんですが、地元のアマチュア人形劇団に誘われるままに入ったことがきっかけで、人形劇と出会いました。

夏休みにお寺の本堂や公民館などで、5、6人の子どもたちに向けて人形劇を上演していたのですが、その人形劇を見ている子どもたちの顔が本当にニコニコしていて……。それで関東に来るタイミングで、人に勧められたひとみ座に入りました。ひとみ座は「来るもの拒まず、去るもの追わず」なので、簡単に入れました(笑)。

人形劇の魅力は、正直入団当初は分かりませんでしたよ。一生懸命やるだけでね。今でも「私たちはなぜ人形劇をやっているのか」ということをいつも考えて、フィードバックしています。人形を作って、変な体勢で、大変な思いをしながら人形を操って、何が面白いのだろうと。

…….私が30年ぐらいやってきて思うのは、表情など人形から発信している情報を、観客が受信して、自分のものにする。動かない表情を動かすのは、見ている人の心なんですよ。それは文楽の人形でも能面でも同じなんですけど、表現者がどう表現するかで、受信する観客側は発信した以上のものを受信しているように思うんです。実際には人形の表情は変わっていないのに「泣いているように見えた」とか、そんなに人形の大きさは大きくないのに「とても大きく見えた」とか。そういう捉えどころのないことをやっている。そこが面白さであり、魅力なのかなと思います」

松本「私は小学6年生のときに演劇鑑賞教室で、日生劇場でミュージカルを観に行ったことが原体験です。そのパンフレットを今も持っているぐらい感動して、「私もいつか舞台に立ちたい!」と思ったものの、妹の死をきっかけに保育の道に進むことになりました。

その中で、人形劇の授業があったのですが、人形劇がすごく楽しくて。卒業する頃大学の教授に連れられて、ひとみ座の『ズッコケ三人組』を観に行ったのですが、それがもうすごく面白くて! 周りの子どもが振り返るぐらい笑ってしまって! ちょっと落ち込んでいる時期だったんですけども、腹から声を出したらもうすごく元気になって……!

何より人形遣いの方々がとても輝いて見えたんです。舞台の道を諦めていたのですが、人形劇をやりたい!という想いが一気に膨らみました。また、普通の舞台と違って、人形を通すことで、物語がバン!と自分の中に入ってくる感覚もあって、それも面白いなと思いましたね。人形劇にしかできないことがたくさんあるなと思っています」

照屋「私も保育の短大に行っていて、保育士の免許を取ろうとは思ったんですけど、大好きな音楽や何か違う表現をしてみたいという気持ちがありました。それを教授に伝えると、ひとみ座を紹介してくれたんです。一度見学に行って、そのときは入団しなかったのですが……その後、子どもの写真スタジオでカメラマンとして働いているときにも、ひとみ座の公演には足を運んでいました。

ひとみ座は、子どもにあんまり媚びていない作品づくりをしているイメージが強くて、それがいいなと思っています。やはり大人が面白いと思わないと、子どもも面白いとは思わないですからね。もちろんその反対に、子どもが面白いと思わないと、大人も面白いと思わないですけども。……それで、気づけばもう一度ひとみ座の戸を叩いていました。

今回『花田少年史』をやるにあたっても、原作にある下品な言葉や描写が削がれてしまったら嫌だなと思っていたのですが、脚本を読むと、そういうところも楽しく表現できそうになっていて。改めて今回も大人もしっかり楽しめる作品を作りたいなと思っています」

西田「小学校で演劇観賞会があって、県内の劇団が学校に来てくれていました。小学5年生のときに『ハーメルの笛吹き男』を観て、その人の役者さんがすごく輝いて、素敵だなと思ったんですね。「私もあれになりたい!」とは思ったものの、田舎者だったので、どうやったらなれるのか分からなくて……中学、高校、大学と進学する度に父に交渉するのですが、「東京なんかに行かせるか!」と言われ続けて……。

就職して演劇への道を諦めかけた矢先、父が病気になりまして。介護のために仕事を辞めたりしたのですが、母が「お父さんが亡くなったら、あなたの好きなことをやりなさい」と言ってくれて……上京してストレートのお芝居をする劇団に入りました。その中で、松本と知り合う機会があって、彼女に「ひとみ座に来ないか」と言われたことをきっかけに入団しました。

人形劇の魅力が分かるまでは時間がかかりました。先輩たちはあまり教えてくれないし(笑)、舞台経験があるからと入団して1ヶ月ぐらいで旅公演に行かされるし、半ベソかきながら3年ぐらい続けていきました。でも、もがく中で少しずつ魅力がわかってきたんですよね。

ストレートのお芝居だと、私がおじいちゃんや赤ちゃんをやることはほとんどないと思うんですけど、人形劇だったら、人形のフォルムがあるだけで性別も年齢もパンと超えられる。なんなら、動物だって演じられる。何の役でも自分の努力でできることが魅力ではないかなと思っています」

―――――今回は劇団75周年の記念事業ですが、これからのひとみ座の目標や展望を教えてください。

中村「ひとみ座に関係する人々が、ここにいる意味・ここでやる意味を感じられるコミュニティでありたいなと思います。いろいろな子どもや大人に作品をみて欲しいし、そのためには社会が平和で、我々が健康であることが大前提ですよね。そのためにも、心身ともに健康である集団であり続けたいなと思っています」

プロフィール

中村孝男(なかむら・たかお)
1966年3月21日生まれ、福島県出身。ひとみ座劇団代表。

松本美里(まつもと・みさと)
1978年3月15日生まれ、東京都出身。2005年にひとみ座入団。

西田由美子(にしだ・ゆみこ)
1972年9月26日生まれ、栃木県出身。2010年にひとみ座入団。

照屋七瀬(てるや・ななせ)
1995年5月18日生まれ、神奈川県出身。2021年にひとみ座入団。

公演情報

人形劇団ひとみ座 創立75 周年記念公演 人形劇 花田少年史

日:2024年3月26日(火)~31日(日)
場:川崎市アートセンター アルテリオ小劇場
料:大人4,500円 子ども[4歳~高校生]2,500円(全席指定・税込)
HP:https://hitomiza.com/
問:人形劇団ひとみ座 tel.044-777-2225(平日10:00~18:00)

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