40周年記念公演第1弾! 井上ひさしの傑作音楽劇 上演回数延べ500回以上。こまつ座の名作、10度目の再演決定!

40周年記念公演第1弾! 井上ひさしの傑作音楽劇 上演回数延べ500回以上。こまつ座の名作、10度目の再演決定!

 今年創立40周年を迎える劇団こまつ座が、記念公演第1弾として『きらめく星座』を上演。井上ひさし書き下ろし・演出で1985年に初演され、延べ500回以上にわたり上演を繰り返してきた人気作であり名作だ。
 舞台は太平洋戦争前夜の昭和15年。浅草の小さなレコード店「オデオン堂」に、4人の家族と2人の間借り人たちが仲睦まじく暮らしていた。ところがある日陸軍に入隊していた長男が脱走し、敵前逃亡の大罪を犯したとして追っ手がかかる。一方、長女・みさをの結婚相手は堅物の愛国主義者で、ジャズ好きの住人たちを許しがたく思っていた――。
 初演から10度目の再演を迎える今回、メインキャストを務める松岡依都美と瀬戸さおりの2人に本作への想いを聞いた。

―――2020年の再演に続き2度目の出演となります。初出演時に苦労したこと、特に印象に残っていることはありますか?

松岡「前回はとにかく必死に食らいついていった感じでしたね。何度も上演されてきた作品だから、演出の栗山民也さんの頭の中に構想がすでに出来上がっていて、だから凄く稽古のスピードが速いんです。まず歌稽古から始まって、読み稽古に入ったと思ったら、すぐ立ち稽古が始まって……」

瀬戸「お茶を淹れたり立ったり座ったりと細々とした段取りがたくさんあって、まずそれを覚えるのに必死だった記憶があります。あと私は歌も初挑戦だったので、そこも凄く大変でした。栗山さんに『コーヒーの香りを嗅いで、そこからだんだん歌になっていく。生活の中で歌が生まれるんだ』と言われて、素敵だなと思うのだけれど、実際やるとなると凄く難しい。果たしてどう表現したらいいものかと」

松岡「栗山さんの提示されるものってとにかくどれもレベルが高くて、なかなか『よし』と言ってもらえないんですよね。今回は『よし!』と言ってもらえるように頑張りたいと思います」

瀬戸「大変なこともたくさんあったけど、松岡さんには本当に助けてもらいました。松岡さんのことが大好きで、だからまた共演できて嬉しいです!」

松岡「私はさおりちゃんが可愛くて可愛くてしょうがなくて(笑)」

瀬戸「みさをとふじは血が繋がってないけれど、きっとこういう家族みたいな関係だったんだろうなって感じます(笑)」

―――松岡さんは後妻・ふじを、瀬戸さんは長女・みさをを演じます。3年ぶりの再演で、どうキャラクターを表現していこうと考えていますか?

瀬戸「みさをは自分の意志を貫くブレない強さがあって、同時に誰かを思う優しい心を持つ女性。この物語の中で、みさをは女の子から妻になり、母親になってどんどん成長していくけれど、まだ妻にも母親にもなっていない自分がそれをどう表現できるか前回凄く悩んだし、今回も悩むだろうなと思います」

松岡「ふじは後妻で家族とは血が繋がってないけれど、凄く明るくてみんなの太陽のような存在になっている。苦しい時代の中で、前を向いて歩く彼女の姿に凄く励ましてもらったり、勇気付けてもらうことも多くて」

瀬戸「松岡さん自体が凄く強くて明るくて、何か辛いことがあった時もその優しさで本当の家族のように包み込んでくださる。だからふじという役とすごくリンクして、“彼女についていけば大丈夫!”と頼りにさせてもらっています(笑)」

松岡「そう言ってもらえると凄く嬉しい(笑)。ふじにしてもそうだけど、井上作品の登場人物ってどのキャラクターも本当に愛おしいなって感じます。何より作品自体が素晴らしいので、どう演じようというよりは、あまり余計なことを考えずにいた方がいい気がして。このまま真っ直ぐ素直に作品を受けとめて、その印象のまま作り上げていくのがいいのかなと考えています」

瀬戸「本当に松岡さんの言う通りで、井上さんの作品は役作り的なものはあまり必要ないというか、台本に沿ってシンプルに演じた方がお客さまにも伝わるのではないかと思っていて。この物語の中できちんとみんなと生きていけば、何かがそこで生まれてくると信じています」

―――役者として井上作品の醍醐味をどう感じますか?

松岡「井上さんの言葉って喋る分量も多いし、はじめは覚えるのが凄く大変だけど、1回覚えてしまうと不思議となじんでくるんですよね。自分の言葉として落ちてくるというか……」

瀬戸「覚えるのに凄く時間がかかるけど、ひとたび身体に入るとリズムみたいなものが生まれてくる。独特ですよね」

松岡「この作品に限らず、井上さんの作品はそういう何とも言えない不思議体験が多くて。舞台の上の方が生きている実感が持てる。そんな感覚があります」

瀬戸「わかります! 前回の本番中に、突然周りが見えて、みんなの言葉が鮮明に聞こえて、それに反応して自分の言葉がパッと出てくる、という体験をしたんです。そのとき“ここで私、暮らしているんだ!”という感覚を持てた。稽古中も一生懸命やっていたはずなのに、何なんだろうこの感覚は、と――。またそれが凄く心地よくて、“何これ、面白い!”と心の底から感じられた。そんな経験をしたのはあのときが初めてでした」

松岡「私は以前、久保酎吉さんから『いつかそういう瞬間が来るよ』と言われていて、その言葉が凄く印象に残っていたんです。井上作品で実際にそれを味わって、“わぁ、これか!”という感じでした。久保さんは『やればやるほどそういう体験が増えていくよ』とも言っていて、ちょっと楽しみにしています(笑)」

―――この再演にかける想いをお聞かせください。

松岡「前回の公演で回を重ねれば重ねるほど色々発見があったので、今回はもっと井上さんの言葉が深いところまで落ち、もっと色々なことが見えてくるのではないかと考えていて、そこはまた楽しみなところでもあります。井上作品に出るのは私の1つの夢でした。劇団の代表が『この作品を100年先まで伝えていきたい』と話していて、それが私にとっての次の夢。井上さんの作品をずっと伝え続けていけたらいいなと思っています」

瀬戸「本当にそう思います。前回はちょうどコロナが流行りだした頃で、最後にガスマスク姿で振り返ったら客席のみなさんもマスクをしていて、凄く衝撃を受けたのを覚えています。劇場に来るのが怖い時期だったと思うけど、みなさん本当にこのお芝居を愛されていて、こうして観に来てくださっているんだという想いを強く感じました」

松岡「あのときはまだコロナが得体の知れないものという感じで、観るのも演じるのも命がけという雰囲気だったんですよね。そこで自分たちがコロナに向かっていく感覚と太平洋戦争に向かっていくこの物語にもの凄くリンクするものを感じて。やはりいつの時代にも響いてしまうものがこの作品にはあって、だからこそずっとやり続けていかなければいけないと考えています」

瀬戸「今はまだ大変な世の中が続いていて、早くこれが収束することを願うけど、今だからこそ響くこともたくさんあると思う。普遍的なテーマであり、今を生きているみなさんに観てもらいたい。より多くの方にこの作品を届けられたらいいなと思っています」

(取材・文:小野寺悦子 撮影:平賀正明)

プロフィール

松岡依都美(まつおか・いずみ)
文学座所属。2020年、こまつ座『きらめく星座』と文学座『五十四の瞳』で、第55回紀伊國屋演劇賞 個人賞受賞。主な出演作に、舞台『セールスマンの死』、『再びこの地を踏まず-異説・野口英世物語-』、『女の一生』、『ヘンリー四世』、『城塞』、『散歩する侵略者』、『森 フォレ』、『獣の柱』、『夏の砂の上』など多数。2014年、映画『凶悪』で第28回高崎映画祭 最優秀新進女優賞受賞。こまつ座作品では、本作以外に『紙屋町さくらホテル』、『イーハトーボの劇列車』に出演。

瀬戸さおり(せと・さおり)
1989年生まれ。主な出演作に、舞台『マッシュ・ホール』、『君が人生の時』、『風紋~青のはて2017~』、『夫婦』、『チャイメリカ』、『獅子の見た夢~戦渦に生きた演劇人たち~』、『All My Sons』、『フェードル』、『物理学者たち』、『鷗外の怪談』、『4000マイルズ~旅立ちの時~』、映画『愛の病』、『窓たち』、ドラマ『理想ノカレシ』など。こまつ座作品では、本作以外に『頭痛肩こり樋口一葉』に出演。

公演情報

こまつ座 第146回公演『きらめく星座』

日:2023年4月8日(土)~23日(日)
場:紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
料:一般8,800円 U-30[30歳以下]6,600円 高校生以下2,000円 ※数量限定/団体のみ取扱(全席指定・税込)
HP:http://www.komatsuza.co.jp/
問:こまつ座 tel.03-3862-5941

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