演者の修行の成果が試される特別な曲が揃い踏みのプレミアな公演 「苦戦しながらも多くを学び、一人前にふさわしい演技を」

演者の修行の成果が試される特別な曲が揃い踏みのプレミアな公演 「苦戦しながらも多くを学び、一人前にふさわしい演技を」

 能楽師にとって、修行の過程で大事な曲を初めて演じることを「披キ」という。狂言方にとって非常に重い習い物である『釣狐』に挑む野村拳之介に意気込みを語ってもらった。

 「披キは登竜門のような位置づけ。狂言ですと『奈須与市語』、『三番叟』、『釣狐』が10代~20代における大事な曲となっており、ありがたいことに今回は一門から3人同じ会で披かせていただきます。同じ会で3つの披キが揃うことはまずありませんし、披キは一生に一度のことなので、プレミア感のある公演だと思います」

 『釣狐』は、一族が皆釣られ自身も狙われている古狐が僧侶に化けて、猟師に狐釣りをやめるよう説得するが、帰路で猟師が捨てた罠の餌(鼠の油揚げ)を見つけて誘惑に負けてしまうという内容だ。稽古をしてみて感じる難しさ、魅力を聞いてみた。

 「普段は足を左から出しますが、狐は右から。普段使わない神経を使います。狐が縮こまっている状態から驚いて飛び上がり、舞台上を休みなく動き回るところは息が上がります。台詞の稽古でも今までの声の出し方では駄目だと言われました。自分なりに研究しているうちに表現の違いに気付き、秘曲ともいわれる理由を実感しました。また、狂言は開放して楽しく明るくというのが常ですが、『釣狐』はすべてがその逆。学びが多いです」

 『靱猿』で初舞台を踏んでから約20年。子供の頃は舞台に出るのはご褒美目当てだったと笑いながら振り返る。

 「高校生の頃、福岡で『二人袴』の聟(新郎)の役をさせていただいた時、舞台が終わらないうちからお客さんが拍手してくださって、それが嬉しくて狂言をもう少し続けてみようと思いました。お客さんあってのことだとしみじみ感じましたね」

 2023年より、初心者や若者に向けた『ふらっと狂言会』を兄と弟の三兄弟で開催。学生や外国人の団体客も多く、「わかりやすいし面白かった」という声もあったという。初心者が『釣狐』を観る上で押さえておきたいポイントも聞いた。

 「お坊さんに化けているけれど随所に狐が出てしまう。前半は人間の姿、後半は狐の姿なので、演じ分けに注目していただけたら」

 少し気が早いが、次に見据える目標はなんだろう。

 「まずは一人前に見合った演技をしっかりできればと思っています。私が『釣狐』を披くことで祖父や父に少し安心してもらえるのかなという気持ちもありますし、今後は兄を支えて狂言をより広めていきたいですね。また、伝承を守りつつ自分らしさを出すことが課題になっていくかと思います」

(取材・文:吉田沙奈 撮影:友澤綾乃)

2023年を総括!と聞いて、一番最初に浮かんだ出来事は?

「自分は海外公演です。今年の9月20日から約1週間、本格的な能楽公演のためパリに滞在しました。海外公演への同行は今回が初めてで、祖父と父と兄、そして能楽界の重鎮の先生方とご一緒させていただける貴重な体験でした。
 言語が違うためお客様に楽しんでもらえるのか不安でしたが、思っていた以上に反応がありホッとしたのを覚えています。日本で舞台をするのとはまた違い、とても刺激になりました。あとは、日本のご飯の美味しさを再認識出来ました(笑)。
 有難い事にまた来年、別の海外公演に出演する機会があり、海外の方にも能狂言を楽しんでいただけるよう、経験を積んでいきたいです」

プロフィール

野村拳之介(のむら・けんのすけ)
九世野村万蔵の次男。祖父は野村萬(人間国宝)。東京藝術大学音楽学部邦楽科能楽専攻卒業。4歳の時『靱猿』にて初舞台。2004年、『伊呂波』にて初シテ。2016年『千歳』、2017年『奈須与市語』、2020年『三番叟』を披く。全国各地で小中高校生向けの狂言教室やワークショップを行う。劇団青年座研究所での狂言指導や、山形県米沢市にある「伝国の杜」で「子供狂言クラブ」を指導するなど、狂言の普及にもつとめる。2024年1月、『披の会 萬狂言新春特別公演』にて『釣狐』を披く。

公演情報

披の会 萬狂言新春特別公演

日:2024年1月21日(日)14:00開演(13:15開場)
場:国立能楽堂
料:松席12,000円 竹席10,000円 梅席7,000円
  学生[梅席]4,000円(全席指定・税込)
HP:https://yorozukyogen.jp
問:萬狂言
  tel.0120-807-305(平日11:00~18:00)

Advertisement

インタビューカテゴリの最新記事