かつて“未来”を描いた戯曲が25年以上の時を経て“現実”に? 「僕が手掛けるのは最後」。新演出で蘇る、珠玉の会話劇

かつて“未来”を描いた戯曲が25年以上の時を経て“現実”に? 「僕が手掛けるのは最後」。新演出で蘇る、珠玉の会話劇

 “世界の終わり”という思いがけない現実に直面した人々が交わすさりげない会話、その奥底に潜む心情がリアルに浮かび上がる――。土田英生が書いた戯曲『燕のいる駅』は1997年に初演。普遍的なテーマ性が高く評価され、その後さまざまなカンパニーで繰り返し上演されてきた。今回の上演について、土田は「僕が手掛ける『燕のいる駅』はもう最後」と語る。

 「ご縁があったニッポン放送から本作をやらないかとお声がけをいただいて。正直、僕は戸惑いました。これだけ上演を重ねた作品だし、作家として自分の芝居に飽きた時期だったから。でも新型コロナウイルスの感染拡大があった。これは“未来の話”だったのに、『突然世界が変わる』とか、『街から人がいなくなる』とか、そういうことが“現実”になった。だから今回は、ストーリーは変えませんが、今どこかにあると感じられるような、現代のパラレルワールド的な作品として見せられたらと思っています」

 主人公の「日本村四番」駅の駅員・高島啓治役を演じるのは、和田雅成。2.5次元舞台に多く出演する和田に対して、土田は期待を寄せる。

 「2.5次元舞台と、それ以外の演劇の客層は違う気がする。僕はその垣根を取り除きたい。普段は2.5次元を多く観るお客さまにも、ストレートプレイを楽しんでもらえるいい機会になれば」

 コロナ禍がようやく明けようとしているが、土田は「演劇についても、自分の人生についても、今まで目をつぶってきたことに目を向けた3年間。しらけのような、悟りのようなものがどうしても芽生えちゃった。それは悪いことだけではないと思うんですけど、不景気もあって、お客さんの演劇に対する興奮もどこか冷めてしまった気がしています。好きな劇団は観に行くけど、そのついでに他団体を観に行くという人は明らかに減りましたね。これは競い合っている場合ではなく、演劇界として演劇の楽しさを盛り上げないと。良くも悪くも命運がはっきりしてしまった気がします」と冷静に分析。これからが本当の勝負どきということか。

 最後に観客に対してのメッセージを聞いた。

 「このお芝居は舞台上に流れている空気が独特だと思います。とにかくこの空気を味わいに来てほしい。もう私が手掛ける『燕のいる駅』は最後です。この時間は味わえないですから」

 土田の演出で本作を観ることができるこの機会を、ぜひ劇場で見届けてほしい。

(取材・文:五月女菜穂 撮影:友澤綾乃)

プロフィール

土田英生(つちだ・ひでお)
1967年3月26日生まれ、愛知県出身。劇団「MONO」代表。1989年に「B級プラクティス」(現MONO)を結成。1990年以降、全作品の作・演出を担当する。1999年、『その鉄塔に男たちはいるという』で第6回OMS戯曲賞 大賞を受賞。2001年、『崩れた石垣、のぼる鮭たち』で第56回芸術祭賞 演劇部門優秀賞を受賞。2003年、文化庁の新進芸術家留学制度で1年間ロンドンに留学。近年は劇作と並行してテレビドラマ・映画脚本の執筆も多数。代表作に、映画『約三十の嘘』、『初夜と蓮根』、ドラマ『崖っぷちホテル!』、『斉藤さん』シリーズなど。2020年には、自身が監督・脚本を務めた映画『それぞれ、たまゆら』が公開。

公演情報

舞台『燕のいる駅-ツバメノイルエキ-』

日:2023年9月23日(土・祝)~10月8日(日)
  ※他、大阪公演あり
場:紀伊國屋ホール
料:9,000円(全席指定・税込)
HP:https://event.1242.com/events/tsubamenoirueki/
問:Zen-A tel.03-3538-2300(平日11:00~19:00)

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