オーストリアのリゾートにあるホテル「白馬亭」での恋模様 数あるオペレッタのなかでも人気が高く、極めて楽しい名作!

オーストリアのリゾートにあるホテル「白馬亭」での恋模様 数あるオペレッタのなかでも人気が高く、極めて楽しい名作!

 東京・銀座7丁目にある老舗ビヤホール・ライオン。銀座のシンボルのひとつともいえるこのビルの中に、音楽も楽しめる銀座音楽ビヤプラザ・ライオンがあった。32年間多くの人々に愛されてきたこの場所は、残念なことに2020年に閉店したのだが、そこに出演していた声楽家や演奏家が集まったのが「オンプラゾリステン」。普段は藤原歌劇団や二期会、そしてフリーで活躍する彼らが、第2回目の大きな公演を実現させた。演目は数あるオペレッタの中でも人気のベナツキーによる『白馬亭にて』。Wキャストで主役のヨゼファを務める家田紀子と栗田真帆。音楽を取り仕切る瀧田亮子、そして演出の三浦奈綾から話を聞く。


―――――まず、皆さんの「オンプラゾリステン」とはどんな団体でしょうか

瀧田「銀座7丁目に古くからあるビヤホール・ライオンにあった、銀座音楽ビヤプラザ・ライオンに出演していた演奏家メンバーによる団体なんです。「オンプラ」は音楽ビヤプラザの略。「ゾリステン」はドイツ語でソリスト達という意味になります。

栗田「ここは大晦日と三が日以外は無休で生演奏をしていたビヤホールで、そこで一緒に演奏した仲閒同士は凄く親しくて、まるで部室のような場所でしたね。そこで音楽力を培ったともいえます」

家田「私はオンプラが動き出して少ししてから参加したのですが、歌劇団とはまた違う、温かい仲間意識がある場所でした。一緒に成長する仲間ですね。だいぶ前に私は抜けましたけれど、これほどの公演をするようになったのは感慨深いですし、呼んで頂いて嬉しいです」

瀧田「今回はそんなオンプラゾリステンによる2回目の公演になります。もっともそれ以外にガラコンサートや小さいコンサートは沢山やってきていますが」

―――――なるほど。では演目に選ばれた「白馬亭にて」については、演出の三浦さんからご紹介ください。

三浦「湖畔の別荘地にあるホテルの話で、主人公はそこの女主人です。家田さんと栗田さんがWキャストで演じます。その女亭主と給仕長のレオポルドの恋物語を軸に、いろいろな人間模様が飛び交う楽しい物語です。オペレッタにはいろいろな登場人物が出てくるのですが、オペラと違って間にセリフも挟んで進めていきます。さらに今回は日本人に親しみやすいように描かれています」

瀧田「オペレッタでは日常的に他の曲からの引用があったりするのですが、我々のヴァージョンでは原作にはない役やシーンを加えています。まだお店があった9年前に1度上演しているんですが、その際に魅力的な出演者達をもっと出したいと、作ってしまったんです(笑)」

――――オペラとオペレッタ。ちょっと違いがあるんですね。

栗田「どちらかというとオペラは音楽主体で物語を進めていきます。日本でいうと歌舞伎に近いかもしれません」

家田「オペラも歌舞伎もほぼ同じ時期、1600年代に生まれました。オペレッタは「小さなオペラ」という意味ですが、もっと娯楽性が強くて最後はハッピーエンドで終わります。日本語だと「喜歌劇」と呼んだりもしますね。よく演奏されるのは『こうもり』、『メリーウィドウ(陽気な未亡人)』ですが、『白馬亭にて』はそれらと並んでファンがとても多いのに、滅多に上演されないため注目されています。しかも今回はオンプラヴァージョンでもっと面白く仕上がっています」

栗田「歌う側からいうと、オペラとオペレッタだと集中力の方向が違ってきますね。音楽が表すものを全力で表現するオペラに対して、セリフが入ったり、時にはダンスも入るオペレッタ」

家田「オペラは人間の力を超えたテクニックや声、そういった技を披露しますが、オペレッタはお客さまにもっと楽しんでもらう物ですから、私達もリラックスしないとできません。だからといって歌うのが楽なわけじゃ無いんです。音域も広いですから。しかも日本語にしているのでもっと大変(笑)。でも不思議なもので、オペレッタ=喜歌劇は演奏が終わってみると演っている方も楽しくなってしまう。そんな“魔法”を持っていますね」

栗田「お客さまも、特に年配の方から若い頃はオペラが好きだったけれど、今になるとオペレッタの方が誰も死なないし、平和にハッピーエンドだし、日常に共感できる、とおっしゃる方が多いのですが、最近私もそれが解るようになってきました(笑)」

家田「どこかで必ずどんでん返しがあってハッピーエンドになりますからね。2人が結ばれるとか、上手くいかなかった夫婦がよりを戻すとか」

滝田「だから8時45分くらいに観ればいいなんていわれて(笑)」

家田「そう、そしてその後のお食事も美味しくなる(笑)」

――――話されている皆さんが楽しそうですが(笑)。そんなオペレッタ、演出家としてはどう取り組みますか。

三浦「もう皆さん大先輩なのに、そこに演出をつけないといけないので(笑)。それでもあまり荷が重いと思わず、お客さんが面白いと思ってもらえるように、皆さんが持っているベテラン力と私が持っている新しさを組み合わせていきたいですね。あまり固定観念に縛られないようにしたいです。皆さんの魅力をどう引き出していくかが一番の仕事ですね」

家田「演出家は絶対的な立場なんで、それは年齢など関係ないですね」

――――三浦さんは普段からオペラを多く手がけていらっしゃるんですね。

三浦「普段からオペラがメインです。父がオペラの演出家で、その助手をするところから始めました。もっともオペラだけに惹きこまれたのでは無くて、私自身はダンスも深く触れていたので、舞台全般を手がけたくてこの世界に入りました。ただオペラに関わると、音楽の持っている力が凄いことを感じます。曲があるだけで作品の密度が変わってきますから。あとは父の影響は大きいです。そこは有り難かったと思っています」

――――瀧田さんは音楽を取り仕切っていらっしゃいますが、今回は4人編成のアンサンブルで演奏されるんですね。

瀧田「パート譜は用意しません。1冊のピアノ譜を元におのおのが舞台を見ながら自分のパートを自由にアレンジして弾く、そのセッションを重ねて作り上げるんです。みんな銀座で一緒に演奏していたメンバーですから、本番では歌を感じて臨機応変に演奏しますよ」

家田「音楽ビヤプラザでは一日に何曲も演奏するので、どんな曲が来てもパッと演奏ができるメンバーしか参加できないんです。そういった点で皆さんには背中を任せられます。凄いチームワークですよ」

瀧田「さらに今回の公演では、アルプスの民族音楽を奏でるアルプス音楽団団長の竹田年志さんも加わるので、ますます楽しくお送りできそうです」

――――あまり肩肘張らず、気楽に楽しめそうですね。

三浦「はい。だから観たことがない人にこそ足を運んで貰いたいです。個性豊かな出演者ですから、是非昼も夜も両方ご覧頂きたいです」

瀧田「そうですね。音楽もどこを切り取ってもキラキラした曲ばかり。きっと皆さん、おそらく帰りがけには口ずさんでいると思いますよ(笑)」

(取材・文&撮影:渡部晋也)

プロフィール

家田紀子(いえだ・のりこ)
ソプラノ。栃木県出身。東京音楽大学卒業。小澤征爾指揮『スペードの女王』でオペラデビュー。1993年、『ラ・トラヴィアータ』のアンニーナで藤原歌劇団デビュー。その他、日本オペラ協会『春琴抄』、『静と義経』。新国立劇場『カルメン』、『ドン・キショット』。東京室内歌劇場『ドン・キホーテ』。日本オペレッタ協会『ヴェニスの一夜』など多くの舞台に出演。さらに海外でも活躍している。日本オペラ協会会員。藤原歌劇団団員。日本ロッシーニ協会運営委員。

栗田真帆(くりた・まほ)
メゾ・ソプラノ。東京都出身。東京藝術大学声楽科卒業。聖徳大学大学院音楽文化研究科博士前期課程修了。同大学院研究生修了。声楽を高橋大海・島崎智子・田口孝子・永井和子・外山浩爾の各氏に師事。これまでに『ヘンゼルとグレーテル』や『ラ・チェネレントラ(シンデレラ)』のタイトルロール(題名役)などでオペラに出演。またヘンデル『メサイア』やベートーベン『第九』などのソリストを務める。聖徳大学音楽学部講師。葛飾区民合唱団ボイストレーナー。日本声楽アカデミー会員

三浦奈綾(みうら・なあや)
演出家。幼少期より両親の影響でオペラを中心とする舞台芸術に親しみ、一方で学生時代よりジャズダンスを習う。東京外国語大学ラオス語学科を卒業後、オペラを中心に演出・演出助手として活動。主な演出作品そしてNEOLOGISM公演『椿姫』、『愛妙/道化師』(演出・日本語訳)、ミラマーレ・オペラ『てかがみ(岩田達宗演出)』(再演演出)、2022年、風の丘HALL『道化師たち』(演出)などがある。オペラ団体「NEOLOGISM」主宰。

瀧田亮子(たきた・りょうこ)
埼玉県出身。武蔵野音楽大学器楽科ピアノ専攻卒業。読売新人演奏会に出演。ピアノを岩野裕幸・桑原淑子・山崎洋子の各氏に師事。藤原歌劇団、東京フィルハーモニー交響楽団 オペラコンチェルタンテをはじめとするオペラ公演に携わり、多くの指揮者のもとで研鑽を積む。

公演情報

オペレッタ 白馬亭にて

日:2023年6月30日(金)14:00/18:30開演 ※開場は開演の30分前
場:渋谷区文化総合センター大和田 伝承ホール
料:一般7,000円 ※他、恩送りプレミアム席あり。詳細は団体HPにて(全席指定・税込)
HP:https://ameblo.jp/onpla-lion
問:一般社団法人オンプラゾリステン mail:mplazaginza@gmail.com

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