様々な個性が集まり、ゆったりとした繋がりの中で作品を創作する劇団あはひ 太古の人類の記憶と、1980年代のサブカルチャーシーンが融合する新作

様々な個性が集まり、ゆったりとした繋がりの中で作品を創作する劇団あはひ 太古の人類の記憶と、1980年代のサブカルチャーシーンが融合する新作

 早稲田大学の学生によって2018年に旗揚げした劇団あはひは、主宰であり脚本・演出家の大塚健太郎による幅広い知識と感性による作品で注目され、早くも2020年には本多劇場に進出。その後、2022年度セゾン文化財団のセゾン・フェローに選ばれるなど、着実な実績を猛スピードで重ねている存在。
 古典を解体し、そこから掘り出した前衛性を再構築する手法で独自の作品を生み出す大塚が、新作の題材として着目したのが“ピテカントロプス・エレクトス”だ。別名として「ジャワ原人」とも呼ばれる太古のヒトの呼称の1つであり、1980年代に原宿に存在した、最先端カルチャーの吹きだまりであったクラブ「ピテカントロプス・エレクトス」、通称“ピテカン”も思い出される。彼は本作を作る上で、この2つを意識しているという。
 今回は大塚の他に、作品創作にいつも構想段階から参加しているというベテラン舞台美術家の杉山至のお二人に話を聞いた。

―――新作『ピテカントロプス・エレクトス』は、太古の昔に存在したヒトの一種ですが、大塚さんはそれに1980年代の原宿にあった伝説のクラブ「ピテカントロプス・エレクトス」もあわせているようですね。“ピテカン”は、当時の最先端が集った“クラブの始祖”みたいな存在ですが、若い大塚さんがその世代だとは到底思えません。

大塚「着想は、一昨年亡くなられた宮沢章夫先生の大学での講義で、ピテカンのことを知ったことでした。自分の演劇活動も宮沢先生の演出助手から始まっていて、影響を受けていますが、ピテカンは当時のサブカルチャーを語る上で欠かせない場所だということで、それを深く知りたいと思いました。
 前回作品の『光環(コロナ)』は流行したコロナウイルスだけでなく、他に漂う太陽コロナ、光の輪など別の意味を持つモチーフを総合的に扱ってみたので、その手法をもう一度やってみようと思いました」

―――舞台美術の杉山さんは世代的に近いですね。

杉山「世代ですが、ハイカルチャー過ぎて出入りはしませんでした。それに僕はどちらかというとパンク派だったので(笑)。
 それにしてもいつも『大塚さんっていつの(時代の)人?』と思ってます。これまでの作品でも落語とか能とかを題材として持ち出すのですが、それを古典としてではなく、今の感覚で切り取る。そこが面白いです。
 今回も1980年代や太古の原人を、どのように現代らしく切り取るのか。大きな時間のなかで人間はどこに居るのかということを扱うようなので、何万年というスケールでの距離感を感じる話でしょうね。」

―――古典に着想を得た作品作りはよくある手法ですが、大塚さんの場合は、能などの古典を大胆に解体して組み上げる、そんな風に見えます。

大塚「跡形は無いかも知れませんが(笑)。そういう感じではあります。
 1本の線で紡がれた従来的な歴史が、インターネット上のデータベースとしては全てがフラットになっています。そのようになにかを一度して別の線で繋げたり、重ねてみると全く違うモノに見えてきたりすることがあってそれがすごく面白い。
 ヒップホップ=サンプリング的な発想ですが、自分の中にナチュラルにそれがあるからだと思います。古典と現代をごちゃ混ぜにして扱いたいという欲望があるんです」

―――ヒップホップ=サンプリング的。音楽の世界では普通に行われる手法ですね。文学で言えば「本家取り」とか?

大塚「ええ、日本の和歌文学を顧みると、本歌取りのようなことはむしろナチュラルな感覚だった気がするんです。今は異端に見えるけど、本来こちらの方が正統かもしれないとも思います」

―――非常にユニークな大塚さんの発想ですが、杉山さんはどんな感じでクリエーションに関わっているのでしょう。

杉山「大塚さんの方で台本が用意されていることもありますが、上演形式としてどういう空間になるのかということを、舞台美術=セノグラフィーの立場からいろいろな提案をしています。まず観客席をどう置くかという“在り方”から話し合います」

―――どのくらいの規模のキャストで挑むのでしょう。

大塚「オーディションで選ばれた12名を含む14名です。これまでで1番大規模ですね」

―――WEBサイトではメンバーとして大塚さんと共同主宰で俳優の松尾敢太郎さんのお二人がクレジットされていますが、お二人による演劇ユニットなのでしょうか。

大塚「そうですね。“あはひ“は“間”の古語読みですが、その名前が最初にあり、落ち着かないので“劇団”をつけたというか……。だから1人の主体性を持ったカリスマのもとに人々が集まるような在り方とはちょっと違うかもしれません」

杉山「かれらはまさに“あわい”という言葉そのものです。自分も関わっていて面白いのは、たまにドラマターグ的な人がいるかと思えば、哲学者がいたり、面白い音楽家がいたり、作品に関わる人の規模も含めて流動的で、集団というよりかは“関係”を作っている感覚ですね」

―――アメーバ生命体みたいですね。

大塚「それはしっくりきますね(笑)」

―――「あはひ」という名前はどこから来たのでしょう。

大塚「過去と現在、エンタメとアート、自己と他者。このように二項対立にして並べると分かり易いですが、現実はそう単純ではなくカオティックなものじゃないですか。そのどちらともつかないところに身を置きたいと思ってこの言葉をつかいました……というのが公式見解で(笑)。
 発端はそもそも共同主宰の松尾敢太郎に誘われて一緒にやることにしたのですが、ユニット名として2人の名前から『かんけん隊』というアイデアが出たもののこれはダサいと(笑)。それで“カン”とも“ケン”とも読める漢字を探して行き着いたのが『間(あはひ)』でした。でも今考えると、そういう意味では、“どちらでもあるもの”という理念は初めから内包されていたのかもしれませんね(笑)」

―――杉山さんは舞台美術家として多くの実績ある方ですね。

杉山「もともと劇団青年団に大学の頃から所属していました。最初は役者もやっていましたが、その後に舞台美術を手がける様になったんです」

―――杉山さんから見ると大塚さんや松尾さん達は極々若手だと思います。どこに接点があったんでしょう。

杉山「広島でやったワークショップに高校生だった松尾さんが参加して知り合ったのがきっかけです。その後、早稲田に進んだ彼が舞台美術家を探しているということでコンタクトを取ってきました。『あはひ』というユニット名を聞いてこの人達ちょっと危ない、面白いなと思いまして。
 当時、僕は能シテ方の安田登さんが書かれた『あわいの力』という本に興味を持ち影響されていて、『あわい』という言葉についてずっと考えていた時期だったんです。だからこんな若者達がなぜ『あわい』にハマったのかとも思いまして」

大塚「2020年に本多劇場で上演する機会があったのですが、それまでちゃんとした舞台美術さんがいたことがなかったんです。それで身の程知らずにお願いしたのが始まりです。
 僕が思うに作品作りの中で脚本って最後なんですよ。観客が体験する空間をイメージするところしか始まらない。だから杉山さんに最初から関わってもらって相談させてもらえるのは有り難いですね」

杉山「平田オリザさんは逆なんです。だから美術家が何出しても受け入れる。脚本が最後というのは興味深いです」

―――ここまで世代が違うクリエーターがそれを越えて対等に話をしているのは珍しいですよね。

杉山「でもそうしないと勿体ないと思います。僕は三浦直之さんのロロの公演も手がけてますが、皆さん僕達とは考え方が凄く違いますからとても面白い。
 僕達の世代で小劇場というと、大学をドロップアウトしたような人が演劇に熱中してやっている。そんなイメージでしたが、今は演劇をちゃんと大学のシステムの中で教えている。それもグローバルな視点で。そういった環境で学んだ人が増えているんですね。
 大塚さんはまさにそのうちのひとりでしょう。日本の古典に興味があるだけで無く海外にも通じているし。僕達の世代とは大きく違います。若いのに凄い知識量です」

大塚「恐縮です、先輩方には尊敬も持ってますし、教えも受けますが、作品で取り上げる数百万年レベルの時間軸で考えると1980年代なんて凄く最近だし、みんな同世代みたいなものだと思うんです。
 そういった視点を題材からもらうと、たかだか100年くらいの歴史しかない近現代の演劇や、日本で一番古い能だってまだ600年程度しかないなかで、それらが別の方向に進化していたらどうなっていただろうと考えられる。それは現代を複層的に見ることにつながると思いますし、それが面白いと思うんです。
 だから既にある“演劇”という言葉のイメージを土足で踏み荒らして(笑)、それにじゃんじゃん修正を迫るような作品をお届けできればなと思っています」

―――話が期待感で広がっていきますね。公演を楽しみにしています。

(取材・文&撮影:渡部晋也)

プロフィール

大塚健太郎(おおつか・けんたろう)
神奈川県出身。劇作家・演出家。早稲田大学在学中に、俳優の松尾敢太郎と劇団あはひを旗揚げ。落語・能といった日本の古典だけでなく、シェイクスピアなど西洋の芸能を、大胆に解体して取り込んだ作品を創作し、CoRich舞台芸術まつり!2019春にてグランプリを受賞するなどの成果を上げている。2020年には下北沢 本多劇場に史上最年少で進出。2022-2023年度セゾン文化財団セゾン・フェロー。2023年刊行の「吉田健一に就て」(川本直ほか編、国書刊行会)に「ソネット」が収録。

杉山 至(すぎやま・いたる)
東京都出身。国際基督教大学(ICU)在学中より、劇団青年団に参加。大学卒業後、早稲田大学建築学校(現・早稲田大学芸術学校)にて建築を学ぶ。2001年度文化庁芸術家在外研修員としてイタリアにて研修。近年は劇団青年団、劇団俳優座、名取事務所、劇団あはひ、演劇ユニットサンプル、カンパニーデラシネラなど、演劇・ダンス・ミュージカル・オペラなど幅広く舞台美術を手掛ける。セノグラフィーと地域を考えるワークショップも多数開催。

公演情報

劇団あはひ『ピテカントロプス・エレクトス』

日:2024年5月24日(金)~6月2日(日)
場:東京芸術劇場 シアターイースト
料:一般4,000円
  U25[25歳以下]3,500円
  高校生以下1,000円
  ※各種割引は要身分証明書提示/枚数限定
  (全席自由・入場整理番号付・税込)
HP:https://gekidanawai.com/works/pithecan/
問:劇団あはひ制作部 tel.03-4400-1756

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