テーブルトークRPGを舞台化する「ヨビゴエ」が始動 2通りのエンディングで『異説・狂人日記』のねっとりとした恐怖を疑似体験

テーブルトークRPGを舞台化する「ヨビゴエ」が始動 2通りのエンディングで『異説・狂人日記』のねっとりとした恐怖を疑似体験

 「TRPG(テーブルトーク・ロールプレイングゲーム)」を原作とした舞台をプロデュースする「ヨビゴエ」が発足。第1回公演として、ヨビゴエvol.1 舞台『異説・狂人日記』を7月12日から上演する。
 本作は、文町による「テーブルトークRPG」のシナリオ『異説・狂人日記』を原案に、精神科医の元にかつての患者・妹尾十三から手紙が届くことから始まる物語。脚本も文町自身が担当し、柏木佑介と上田悠介が主演を務める。
 上田と、本作に出演しながらプロデュースも担当する中舘早紀に、ユニットを立ち上げた経緯やその思い、そして本作の見どころを聞いた。

―――まず始めに、ヨビゴエを立ち上げた経緯を教えてください。

上田「以前からTRPG(テーブルトーク・ロールプレイングゲーム)というゲームシステムをプレイしていて、舞台との親和性があるなと感じていたのですが、ある時、今回舞台化する『異説・狂人日記』の作者の文町さんが舞台向けに脚本も書いているというお話を伺い、それならば舞台化したいと。
 ただ、僕にはプロデュース能力がないので、プロデューサー活動もしている中舘さんにお声がけをして始まりました」

―――『ヨビゴエ』という言葉には、どんな意味があるんですか?

上田「TRPGの中にクトゥルフ神話を使ったTRPGがあるのですが、『ヨビゴエ』ではそれを舞台化しようという思いがあったので、代表的な作品である『コールオブクトゥルフ』から『ヨビゴエ』としました。ゲームと舞台を掛け合わせた作品をという思いからつけた言葉です」

―――では、今後もヨビゴエでは、TRPGの作品を上演していくということなのですね。

上田「基本的にはそう考えています。2.5次元舞台が盛り上がったように、TRPGを舞台化することでまた演劇業界が盛り上がれば幸せなのではないかという願いも込めています」

―――そもそもではあるのですが、「TRPG」というのはどういったゲームなのでしょうか?

上田「キーパーと呼ばれるゲームマスターが物語を進行していくのに従い、大まかなストーリーと簡易的な情報だけを伝えられたプレイヤーが自由に行動したり、お話し(トーク)しながら物語を生きていくというロールプレイングゲームです。それぞれのキャラクターになりきって、物語を進めていきます」

中舘「例えば、『ももたろう』という物語があって、『あなたは桃太郎です。村から出て、猿に会いました。仲間にしますか?』という感じで物語が進んでいく。仲間にするかどうかの選択はプレイヤーそれぞれができます」

―――結末もそのプレイヤーによって変わっていくということですか?

上田「大筋は決まっていますし、あまりにも道を逸れすぎたらキーパーが引き戻すことはありますが、プレイヤーによって結末は変わります。説明をしても多分、なかなか想像しづらいと思うので、ぜひ皆さん、プレイしてみてください!」

―――中舘さんは、以前からTRPGをプレイされていたのですか?

中舘「1年くらい前に上田さんに誘っていただいて、オンラインでのTRPGに参加させていただきました。とても面白くて、俳優とTRPGの相性がいいという上田さんの言葉がすごくよくわかりました。そこからはコンスタントにTRPGをやらせていただいています。
 今回の舞台化も上田さんからお声がけいただき、これは絶対面白い! やるしかない!と思って受けさせていただきました。ちょうど、昨年、舞台のプロデュース業も始めたので、何かこの企画の力になれればと思い、プロデューサーをやらせていただくことになりました」

―――今回、舞台化にあたって原作者の文町さんが脚本を担当されているということですが、おふたりから見た『異説・狂人日記』、そして今回の脚本の魅力を教えてください。

上田「ねっとりとした恐怖、夏の怪談という匂いが感じられることがこの作品の最大の魅力だと思います。そのねっとりした感覚をぜひお客さまにも味わっていただきたいと思い、今回、夏に上演を決めたというくらい、その感覚こそがこの作品の良さだと思います。
 それから、大正時代を背景とした物語なのですが、文町さんがその時代に詳しいこともあり、当時を鮮明に描いているというのが魅力の1つだと思います」

中舘「狂気が耳元にずっと潜んでいる感覚があるんです。TRPGは普段体験できないようなことを体験できるというのが、私は魅力だと思います。実は初めて『異説・狂人日記』をプレイした時、2~3日、この物語の狂気さが体に残りました」

上田「そもそも『クトゥルフ神話』は、恐怖や狂気を扱っている作品がメインで、コズミック・ホラーと呼ばれています。そのような狂気的要素は多くの作品にあり、その中でも『異説・狂人日記』で感じるねっとりした恐怖は、やはり文町さんの文章力と構成力によるものだと思います」

―――そうすると、舞台でもその匂いや空気感というのが重要になってくるということですね。

上田「そうなればと思っています。『なんかゾクゾクした』とか、『よくわからないけど怖かった』という感覚を大切にしたいですね。観劇し終えたお客様にずっしり残る何かを持ち帰っていただけたら、今回は成功なのかなと思います。そのためにも、まずは原作を大事にしたいです」

中舘「今回、演出を担当してくださる藤丸亮さんも人間の恐怖心や狂気を描くのがうまい方です。そういう意味でも、文町さんの脚本とすごく合うのではないかと思いますし、私自身もおふたりのタッグがとても楽しみです」

―――今回、主演を上田さんとともに柏木佑介さんが務めます。柏木さんにオファーしたのは、どういう思いからですか?

上田「これまでしっかりとお芝居で絡んだことはなかったのですが、何度もお話をさせていただいたことがあり、彼の出演する舞台も何作も拝見しているので、器用な人だなという印象を持っていました。同い年ということもあり、生きてきた人生が似ているのであれば、きっと彼もこの作品が好きだろうと思いました。
 それから、柏木さんはハッピーでニコニコしているイメージがあったので、そんな彼が苦しむ姿が見てみたいと思ったのも理由でした」

―――上田さん、そして中舘さんの演じる役柄についてもお伺いしたいのですが。

中舘「申し訳ないのですが、TRPGの性質上、ネタバレ厳禁なので、それを扱っている以上、ほとんどお話することができないんです。登場人物にどんな人物がいるのかもポイントなので……」

上田「今作は特に人が狂っていく姿を描いた物語なので、狂い切ったのか、狂い切れなかったのか。僕がきれいな役に見えるのか、柏木くんがきれいな役に見えるのか。はたまた汚い役なのか。そうしたことを劇場で体感してもらいたいと思います」

―――なるほど。今回は、エンディングが2通り用意されていますね。

中舘「TRPGはプレイヤーたちが選んだ結末を迎えますので、その面白さを舞台にも取り入れたいという思いから2パターン用意しました。基本的なストーリーラインは同じなのですが、最終的にどういうルートに進むのかが変わります。ですので、両方のエンディングをご覧いただけたら、この作品の魅力がより伝わると思います。舞台観劇が好きな方にも、TRPGが好きな方にも、楽しんでいただきたいです。
 私自身、好きな小説が舞台化された時に、小説の世界観が舞台上にあることに感動をして、そこに入りたいと思ったのがきっかけで俳優を始めました。ですので、それと同じような経験をしてもらえる作品を作りたいと思っていますし、この作品ではそれを感じていただけると思っています。画面の中で観た物語を、目の前で人間が演じているのを観るのは、とても感動する体験になると思います」

上田「まさにその通りですね。舞台ファンの方・舞台業界の方にももちろん観ていただきたいですが、TRPG界隈の方にも観ていただきたいです。
 『異説・狂人日記』をプレイしたことがある方は、皆さん、センセを通って、センセの気持ちを持って劇場に来ていただけると思います。そうすると、その世界を劇場で追体験できると僕は思います。センセの気持ちにどっぷり浸かって観ることができるのは、演劇としても新しい楽しさになるんじゃないかなと。
 ですので、もし、まだプレイをしたことがないという方がいらっしゃったら、『異説・狂人日記』を遊んでから来ていただいてもいいと思います。もちろん、ゲームを全くしたことがなくても、素晴らしい世界観を存分に味わえる作品です」

中舘「昨今、いろいろなコンテンツが出てきて、楽しいと思えるものがどんどん増えていて、それぞれが取捨選択をして、各個人の好きなものがたくさんあるという世の中だと思います。
 今、舞台の観客は減っている状態です。舞台は観るのに時間もお金もかかるものですが、舞台を観たことがない方にも舞台を好きになっていただけるきっかけの1つにこの作品がなったらいいなと思います。舞台界隈が少しでも活気を取り戻す一歩になれば嬉しい、そんな思いで企画しました。まずはこの作品を成功させること。そして、今後もこの企画を大切にしていきたいです」

(取材・文&撮影:嶋田真紀)

プロフィール

上田悠介(うえだ・ゆうすけ)
1989年4月2日生まれ、奈良県出身。ミュージカル『ヘタリア』のドイツ役や、舞台『ダイヤのA』The LIVEでは青道高校キャプテン・結城哲也役をシリーズを通して演じるなど、数々の舞台・ミュージカルで活躍中。

中舘早紀(なかだて・さき)
1991年6月26日生まれ、東京都出身。舞台俳優・プロデューサー。劇団えのぐ、旋風計画に所属。2022年6月に自身のプロデュース団体「CfY」を設立し、主宰を努めている。主なプロデュース作品に、CfY presents vol.1『夜と雨の色』。主な出演作に、ENG第15回公演『ロスト花婿』、-ヨドミ-第2回公演『骨、噛み』、劇団6番シード 第74回公演『12人の私と路地裏のセナ』など。

公演情報

ヨビゴエ vol.1
舞台『異説・狂人日記』

日:2023年7月12日(水)~16日(日)
場:CBGKシブゲキ!!
料:S席7,500円 A席6,500円
  B席5,500円(全席指定・税込)
HP:https://yobigoe.mystrikingly.com
問:ヨビゴエ mail:info.yobigoe@gmail.com

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