海の家を舞台に「後悔」を描くーー  前に進むためになら、後ろを振り返ってもいい

海の家を舞台に「後悔」を描くーー  前に進むためになら、後ろを振り返ってもいい

 「蜜蜂のクビレ」とは、砂時計の中央部にあるすぼまった部分を指すのだという。そのタイトルが象徴する通り、この物語は時間——それも過去がひとつのテーマとなっている。人間一度は誰しも頭をよぎるであろう「あの頃に戻れたらなぁ」という思い。果たして本当に「あの頃」に戻れたとして、はたしてその後悔は消えてくれるのだろうか。
 昭和レトロな海の家『はまや』を舞台に、個性派揃いの登場人物たちが繰り広げる様々な出来事は、そんな答えのない問いへのヒントをくれるかもしれない。出演者の鎌苅健太、土井一海、谷水力から、作品への意気込みやそれぞれの後悔、過去について話を聞いた。


―――さっそくですが、作品に対する意気込みをお願いします。

鎌苅「(プロデューサーの)難波さんや作・演出の堤さんとは以前ご一緒したことがあり、僕にとっては久しぶりの再会でもあります。一番素直な気持ちとしては、なかなか演劇ができないこんな状況下で、役者としてお客様の前で作品ができるのがすでに喜びなんですよ。『後悔』というテーマも興味深いというか……。後悔って、みんなにあることですよね。世の中『後悔絶対しない』と言う人もいるけど、そんな人にでも振り返りたくなることはあると僕は思うので。自分にしても、作品を作りながら考えることは多そうだなって思いますね」

土井「僕自身も、コロナ禍の影響を受けて公演の中止や延期を経験しました。だからこそ、今回出演が決まったのはありがたかった。しかも12日間で14公演って、僕のなかではけっこう長いスパンです。濃密な時間が過ごせると思うので、今から楽しみで仕方がありません。不安も多々ありますが、いろんなキャストの中で自分の表現をあらためて吸収していきたいですね。まだまだ勉強です」

谷水「ふたりも言ってますが、本当にこの状況下で演劇をできること自体がありがたいです。それと僕、ふだんは2.5次元の舞台によく出させていただいていますが、ストレートのお芝居をやるのがほぼほぼ初めてなんです。キャストの方も初めましての人が多いし、新しい環境での新たな挑戦。楽しみでもあるし、僕自身ひとつステップアップできればいいなと思っています。たくさんコミュニケーションをとりながら、作品作りに貢献できれば」

―――2.5次元作品とストレートプレイは、演じる上でどんな違いがあるのでしょう?

谷水「2.5次元は、いい意味でも悪い意味でもある程度キャラクターが決まっているんです。そういう部分が面白さでもあると思うんですけど、ストレートプレイはキャラクターを1から作ることができるというか……」

土井「その人本来のものをもってきて、『ドン!』みたいな感じちゃう?」

鎌苅「観る人にもよりますけど、2.5次元だったら、その作品のイメージを持って作品を見に行くと思うんです。すでにその人の世界があるなかで、その世界を観に行く。でもオリジナルは何も見えない。そういう意味だと(2.5次元とストレートは)違う捉え方になるとは思います。
 ただ2.5次元では、役者はそのキャラを血肉に入れながらどんどん広げていこうとするのでその楽しみもありますし、それがいい意味で壊れたときにはお客さんが喜んでくれる。でもやっぱり、お客さんのなかの枠を壊しすぎると嫌がられることもあります。オリジナルであるストレートはお客さんのなかに枠がないので、より自由です。恐ろしいことでもありますし、楽しいことでもあります。僕らの中での最終的な通り道は違うけど、行こうとしているところは一緒なんですけどね」

―――では続いて、今回みなさんが演じるキャラクターについてお聞かせください。

鎌苅「自分は、真樹斗という役です。ヤンチャと一言で言うのもあれですけど、父親に反発して一度は田舎を出たものの、とある理由で戻ってきて、お姉さんと一緒に実家である海の家『はまや』を守っていくことになります」

土井「僕の真樹斗の昔なじみですが、今では町の不動産屋として、『はまや』の営業権を狙っています。それには訳もあるし、葛藤もあると思うんですけどね」

谷水「僕は都会から来た人です。レンタカーが壊れて、『はまや』にお世話になるのかな」

鎌苅「(谷水の)この役はこのまんまです」

谷水「なんでですか(笑)! でも実際、トラブルメーカーなのかなと思います。行く先々でトラブルを起こしてしまうツキのなさと、要領の悪さを持ち合わせている役だと堤さんから聞いています。つまり、俺ってことですね(笑)」

―――今回は「後悔」がひとつの大きなテーマになりとのことですが、皆さんは後悔されることはよくありますか?

鎌苅「めちゃくちゃあります」

土井「めっちゃありますね、日常でもホンマに」

鎌苅「土井ちゃんありそうやな!」

土井「台湾に行かせてもらうお仕事があったんですけど、過去2回台湾に行ったとき、出発の空港が羽田だったんですよ。で、”今回も羽田発だ”と勝手に解釈して羽田に向かっちゃって。本当は成田で、行方不明騒動になってしまって……」

鎌苅「もう絶対間に合わへんやん」

土井「間に合わなかったです……。仕事は大丈夫でしたけど、絶望でしたね。後悔したことってよく思い出してしまいますし、後々まで響きます。切り替える方法とか聞きたいくらい。何かあります?」

谷水「後悔とは違うかもしれないんですけど、俺、イライラしたときとかってけっこう寝ると忘れるタイプなんですよ。例えば友だちと喧嘩しても次の日はけろっとしたタイプなので」

―――後悔することも、寝ればある程度忘れることができる?

谷水「それだと言い方があれかもしれないですけど(笑)」

鎌苅「馬鹿だって言われてるんだよ!(笑)」

谷水「ちょっと! あ、でも後悔と言えば、一回だけ仕事で寝坊したことがあります。撮影が10時からなのに10時に起きちゃって……。起きた瞬間絶望、ということがありましたね。自分への戒めに8000円くらいのでかい目覚まし時計を自分で買って、そこから遅刻してないです」

鎌苅「寝たら治るって言ってるヤツが寝ることで後悔してる……(笑)」

―――『蜜蜂のクビレ』は真樹斗が地元に戻ってくることで話が動き出しますが、皆さんは地元に戻りたいなと思うことは?

谷水「おふたりとも関西ですもんね。僕が福岡で」

鎌苅「僕はめちゃくちゃあるほうですね。なんせおかんと仲良しなので。おかんも年とってくるじゃないですか。68には見えないしとっても元気なんですけど、『親とあと何回会えるか』みたいな話、あるじゃないですか。例えばおかんが100まで生きたとして、年間5回会うとしてもあと150回しか会われへんのやと思うと、ワー寂しいって思いましたね」

谷水「僕も戻りたい気持ちはありますね。高校のときは『早く出たい、東京行きたい』って感じだったんですけど、会うとやっぱり嬉しいというか。二十歳を超えて初めてお父さんと一緒に飲んだときには、感慨深いものがありました。それこそ、コロナで中々帰省が出来なかったので解除されてすぐ帰りましたね(笑)」

鎌苅「早く(家から)出たいんだよね、若い頃はね」

土井「そうっすね。僕も真樹斗の心理がわかるというか、若いときは早く家を出たい、自立したい人間だったんです。今おふたりの話聞いて考えていたんですけど、僕は親と酒を酌み交わしたことが意外となくて。そう思ったら寂しいなと」

鎌苅「地元の話をすると、やっぱ親の話題になりますよね、男の方がそうなるのかもしれない。なんでなんですかね」

―――ありがとうございました。最後に、お客様へ向けてメッセージをお願いします。

鎌苅「僕は後悔って悪いことではないと思うし、前進するために過去を振り返ることは、全然ありだと思っているタイプなんです。楽なことばかりじゃない時代ですしね。だからこそ、観に来てくださった人が後ろを振り向きながらも、前を向ける原動力になれる作品にしていきたいです」

土井「刺さる人には深く刺さる作品だと思います。作品を通じてその方の感情がどう思うかはその人自身。キャストのひとりとして力になれればと思っています」

谷水「緊急事態宣言がやっと解除されましたが、なにが一番辛かったかを振り返ってみると、人と話す機会が圧倒的に減ったことでした。仕事がとんでひとりでずっと家にいるのはしんどいし、誰かと喋りたかった。そんな中で、自分を振り返る時間も増えました。僕と同じような人はたくさんいると思います。この作品も過去を振り返ることがテーマになっていると思うので、少しでも共感していただけたら」

(取材・文:いつか床子)

そろそろ寒くなり始める季節。冬に向けて準備していること、楽しみにしていることはありますか?

鎌苅健太さん
「ドがつく冷え性なので、朝は白湯、昼には体がぽかぽかするものを食べて、夜に長めの半身浴、と意識高い系で冷えに対応してます。なのですが、冷え性は治りません……誰か、僕に冷え性が完全に治る方法を教えてください(笑)!」

土井一海さん
「冬に向けて準備、楽しみにしていること。まずは目と鼻の先にある『蜂蜜のクビレ』が無事に開幕することが一番の楽しみですし、この作品を通して見て頂いたお客様に何かが届けば良いなと、そして自分の中の価値観だったり物の見え方や捉え方がどう変わるのか、はたまた変わらいのかというのも楽しみの一つです。
 そして寒くなってきましたね。そろそろお鍋の季節ですかね、まだやった事無い1人鍋デビューのレシピとか、ちまちま漁ったりしてますかね。楽しみっちゃ楽しみです。かなり個人的ですが……(笑)。最後まで、読んで頂きありがとうございます。それでは劇場でお会い出来る事を1番の楽しみにしてます」

谷水力さん
「ウィンタースポーツ(スキー、スノボ)。出身が福岡県なのでウィンタースポーツに触れてこなかったのでできるようになってみたい気持ちがあります。初めて3年前に行った時は全然滑れずに終わった記憶があるので、上手な人といって教えてもらいたいです! ちなみに、形から入るタイプなのでとりあえずウェアから揃えて準備しようかなと思ってます(笑)!」

プロフィール

鎌苅健太(かまかり・けんた)
1984年2月17日生まれ、大阪府出身。2005年に舞台『THE☆BUSAIKU』で俳優デビュー。同年ミュージカル『テニスの王子様』宍戸亮役で注目を集め、以降2.5次元を中心に多数の舞台に出演。ミュージカル『エア・ギア』、スーパーミュージカル『聖闘士星矢』、ミュージカル『憂国のモリアーティ』など代表作に事欠かない。tvkテレビ神奈川「猫のひたいほどワイド」火曜MC。堤泰之との作劇は舞台『abc★赤坂ボーイズキャバレー』(2010)以来となる。

土井一海(どい・かずみ)
1989年1月20日生まれ、兵庫県出身。2011年に舞台『少年ハリウッド』広澤大地役で初舞台を踏み、その後もミュージカル『テニスの王子様』、2.5 次元ダンスライブ『ツキウタ。』、ミュージカル『忍たま乱太郎』、ミュージカル『陰陽師~大江山編~』など出演作多数。近作に『リア王&マクベス』がある。映画にも積極的に出演しており、本年は『コネクション』に出演。

谷水 力(たにみず・りき)
1996年10月16日生まれ、福岡県出身。2014年に「ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」ファイナリストに選ばれ芸能界デビュー。2015年ドラマ『セレンディピティ物語~新しい自分に出会う旅~』相沢リョウ役で俳優初挑戦。翌年の『あんさんぶるスターズ! オン・ステージ』衣更真緒役が初舞台となり、好評を博す。同年には舞台『弱虫ペダル』、舞台『刀剣乱舞』や舞台『盾の勇者の成り上がり』など、舞台を中心に精力的に活躍中。

公演情報

エヌオーフォー【NO.4】プロデュース
『蜜蜂のクビレ』

日:2021年11月17日(水)~28日(日)
場:赤坂RED/THEATER
料:7,000円(全席指定・税込)
HP:http://no-4.biz/mitsubachi/
問:エヌオーフォー mail:info@no-4.biz

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