延期となっていた旗揚げ公演が1年半ぶりにステージへ! 伝説を新解釈、新技術で描く“伝統的新機軸”。人間と妖の共闘の先に待つものは?

延期となっていた旗揚げ公演が1年半ぶりにステージへ! 伝説を新解釈、新技術で描く“伝統的新機軸”。人間と妖の共闘の先に待つものは?

 2019年にプロデューサーの安藤匠郎と主宰・演出・脚本を手掛ける山田英真によって誕生した演劇プロジェクト「アメツチ」。2020年4月に予定されていた旗揚げ公演がコロナ禍による1年半の延期を乗り越えてついに上演される。初期登録3万人超で話題となったゲームアプリ「あやかしむすび」をモチーフに舞台を平安時代に移し、帝の命を受けたヨリミツと酒吞童子討伐という共通目的の為に共闘する妖の者、黒天丸の冒険を描く。伝承を新解釈し、ホログラムやデジタルマッピングなどの最新技術を融合させた意欲作。主演のヨリミツ役の富永勇也、ヨリミツの忠臣で剣の達人、ツナ役の橋本全一と共に本作の魅力に迫った。


正義の対にあるのは果たして悪なのか?

―――延期となっていた旗揚げ公演が1年半ぶりに上演されます。本作が生まれた背景について教えてください。

安藤「アメツチが誕生した当初から和のテイストを意識した公演にしようと思っていました。人気ゲームアプリを原作としていますが、かなりアレンジを利かせてほぼオリジナル作品と言える内容になっています。
 原作は現代を舞台にしていますが、人間と妖(あやかし)という基本要素に目を向けた時に、妖達にまつわる伝承は遥か太古から存在していることに目をつけ、源頼光と四天王による酒吞童子の討伐を描いた大江山伝説を絡めたら面白いと着想を得ました。
 昨年、コロナ禍になってもギリギリまで粘りましたが、旗揚げ公演なのにお客様が来場できないのであれば仕方ないと延期を決めました。その中でも一度稽古をしていたので、お互いに顔を合わせることが出来たのは不幸中の幸いだったと思います。結果的に4月の朗読劇『ドラゴンギアスAnother~再生のための物語~』が上演され、順番は逆になってしまいましたが、改めて旗揚げという気持ちで臨みたいと思います」

山田「ただ史実をなぞるのではなく、こういう平安時代があったかもしれないという切り口から始めました。映像と舞台の融合を目指しつつも、役者の息遣いや熱量などはその場でしか体感できない臨場感は意識しています。作中では桜が象徴的に扱われますが、刹那に散り行く儚さがあるから美しいと思っていて、演劇もその瞬間でしか味わえないという意味で似ているなと感じます。
 大江山伝説をモチーフとしながらも、人間から見た正義と妖から見た正義。正義の対にあるものは果たして悪なのか?といった切り口を入れました。その役割の1つとして、妖として長い間生きてきた烏天狗の『黒天丸』の目に人間たちはどのように映るのか? またその逆でヨリミツら人間から見た場合はどうなのか?という視点を盛り込んでいます。
 酒吞童子を倒すという共通目的はあるものの、それぞれが信じる正義は違う。自分達の常識と外れた存在に出会った時に互いはどのような行動をとるのか?という切り口は意識的に反映したいですね。特に主人公のヨリミツを演じる富永君は一番心情が揺れ動いてもらおうと思います」

―――ゲームでは女性人気が特に高かったとのことですが、ビジュアル面でも期待できそうですか?

山田「そこは十分期待して頂いて大丈夫です! リリースされているビジュアルからも美しさ艶やかさといった部分は伝わるんじゃないでしょうか。でも観に来て頂ければきっと物語の世界に引き込まれていくはずです。お芝居ならではのライブ感を堪能してもらいたいですね」

オリジナルキャラクターだからこそ創りこめる

―――主演のお2人は作品についてどのような印象を持ちましたか?

富永「シンプルに主演として依頼されたことは嬉しかったですね。原作のゲームは遊んだことはないですが、僕の演じるヨリミツや(橋本)全一さん演じるツナは原作にはないいわばオリジナルキャラクターです。2.5次元系の作品では原作のキャラが強ければ強いほどお客様の期待イメージも強くなりますが、本作では僕らがオリジナルなので、僕らが膨らませていけるのはやりがいがありますね。
 山田さんが仰った『ヨリミツの心情の揺れ』は見どころの1つですし、役者としても挑戦できる部分だと思います。ビジュアルの美しさだけでなく、物語性もすごく深いものがあると感じたので今後の稽古の中で磨き上げていけたらと思っています」

橋本「ヨリミツに仕えた実在の武将、渡辺綱(わたなべのつな/本作ではツナ)は四天王の1人として剣術に秀でており、鬼の腕を切り落とした伝説も残っているそうです。正義とは何か?という視点で言えば、ヨリミツへの忠誠こそが正義という立ち位置だと思います。もし、ヨリミツが間違ったことをしていても盲目的に追従してしまうという意味では悪にもなりえるのかなと。そういう所が面白いなと本を読んでいて感じました。ゲームや漫画を原作に持つ舞台にはいくつも出させてもらいましたが、敢えて原作を下調べすることはしません。理由としては原作に引っ張られたくないという思いがあります。台本から創り上げていくのが舞台の面白みであり醍醐味でもある。そういう意味では今回はオリジナルキャラクターなので自由につくり込んでいけるメリットは大きいですね。特に嬉しかったのは、旗揚げ公演に呼んで頂けたこと。これは中々出来ない経験です」

―――他作品では共演もあるお2人ですが、その関係性も生かせそうですね。

富永「そこは楽しみですね。約3年前に全さんとはご一緒させてもらっていて、すごい役者さんですし、とても優しい方だなと思っていました。この3年間の間に色々経験して、今の自分を全さんがどう見るか、また僕が全さんにどんな印象を与えられるかを楽しみにしています。黒天丸を演じる秋沢健太朗さんはじめ他の共演者さんとも久しぶりに顔を合わせる人が多いので、純粋に楽しみですね。延期となったこの1年半の時間も活かしたいです」

橋本「それは嬉しいですね。第一印象は悪い方なので普通に接するだけでハードルが下がるのかな(笑)。偉そうに聞こえるかもしれませんが、富永君はこの3年ですごく成長したと感じるので、自分ももっと頑張らないといけないなと思います」

―――コロナ禍での日々の活動にどんな思いで取り組んでいますか?

安藤「公演側としては本当に難しいですよね。こういう状況なので以前のような集客は見込めませんし、世界が変わってしまいました。でも我々もお客様も感染対策をした上で、観劇を楽しむという新習慣も定着しつつあるので、私達は演劇の文化の灯を消さないようにつくり続けていくことが役目だと感じています。配信という手段もありますが、やはり舞台ならではの音や光で包まれる感覚はライブならではなので、絶対に楽しんで頂ける自信はあります」

表現に合わせた最適解

―――劇団としては本格的始動となりますが、注目点や今後の方向性はありますか?

安藤「最新映像技術も僕らの強みの1つですが、それに固執することは危険なことだと思っています。デジタルやアナログ、先進と伝統を含めた幅広い選択肢を作った上で、自分達が表現したいもの合わせた選択、最適解を導きだせたらいいなと。最新技術だけに振り回されたくはないですね。今回も舞台の冒頭ではホログラムなどを使用していますが、後半はほぼ生身のお芝居で勝負しますし、今後もその部分は大事にしていきたいです。イメージとしては“2.5次元の皮をかぶったガチな芝居”なので(笑)。原作と舞台とでは全く別ですし、その世界観をつくっていく上で戦うのがプロデューサーとしての僕の仕事だと思っています」

山田「単純に想像力を働かせていただき、役者達の生き様を観に来て欲しいですね。舞台は映像作品と違って背景やシーンが頻繁に変わるものではなく、描写されないシーンをお客様の脳の中で補完して頂くものだと思います。芝居もその役者の生き様が出ると思っていて、役者がその役そのものになっていく。だから敢えて人物説明も詳しくは書きません。富永君、橋本君それぞれの生き様が投影されたらそれで作品は成功だと思っています」

―――最後に主演のお2人から読者にメッセージをお願いします。

富永「コロナ禍になって、舞台を愛して劇場に足を運んで頂けるお客様の存在の有難みをより感じることができました。僕達が板の上に立てることは決して当たり前ではないし、より感謝の気持ちが強くなりました。その恩返しとして舞台を観終わったお客様が帰路につくときに何かしらポジティブな感情を持って頂けるよう。来て良かったと思ってもらえるような作品にします。是非ご期待ください!」

橋本「延期となった1年半を待って頂いたお客様に感謝します。これまで気兼ねなく休日や仕事帰りに観劇できた日々と比べると、コロナ禍での観劇はストレスが多いと思いますが、それでもご来場頂ける皆様から僕達も大きな力をもらっています。今はスマートフォン1つで何でも情報が入る時代ですが、自分の目で見て肌で空気を感じることが本当の意味で知る事だと思うので、是非生で観て感じて頂ければ嬉しいです。劇場でお待ちしています!」

(取材・文&撮影:小笠原大介)

プロフィール

富永勇也(とみなが・ゆうや)
1994年11月8日生まれ、神奈川県出身。
2015年『稔』滝本稔役で初舞台出演。以後、2017年から舞台『弱虫ペダル』新インターハイ篇 葦木場拓斗役を経て舞台を中心に活躍。アメツチへの出演は2021年4月、朗読劇『ドラゴンギアスAnother~再生のための物語~』クルス役以来2作目となる。

橋本全一(はしもと・ぜんいつ)
1987年12月17日生まれ、大阪府出身。
テレビドラマを中心に俳優活動を始め、2013年8月、舞台『銀河英雄伝説』ヴェルナー・ハイゼンベルク役に抜擢。以後、2015年3月~2016年4月まで東京ワンピースタワー『ONE PIECE LIVE ATTRACTION “Welcome to TONGARI Mystery Tour”』ロロノア・ゾロ役、2017年『イケメン戦国 THE STAGE〜織田軍VS“海賊”毛利元就編~』明智光秀役など舞台を中心に活躍。アメツチへの出演は今回が初となる。

安藤匠郎(あんどう・たくろう)
2019年、主宰・演出・企画を担う山田英真と共に、映像演出からストレートまで、表現方法に拘らず物語を演出する上での最適解を模索するマルチモーダルエンターテイメントを掲げる演劇ユニット「アメツチ」を立ち上げた。クリエーター集団GAKUYA代表。映像プロデューサー。映画・映像だけでなく、WEB、VR、AR、3Dホログラムなどの技術系全般もプロデュース・ディレクションを行う。Vogue×BOUCHERONのVPは本家BOUCHERONにアジア人制作チームとして初めて採用された。俳優としても数本の商業舞台に出演している。

山田英真(やまだ・えいしん)
2019年、プロデューサーの安藤匠郎と共にアメツチを立ち上げ、主宰・演出・企画を担う。俳優として多数の舞台に出演し、『サイコメトラーEIJI』、『天元突破グレンラガン~炎撃編~其の弐、其の参』、『キャプテンハーロック~次元航海~』などの演出助手を経て、『SANZII』、『オバケストラ』、堀川りょう主演『命の在り処』、『MIRRORION(ミラリオン)』など、エンターテイメント性の強い作品を演出している。

公演情報

マルチモーダル演劇ユニット アメツチ旗揚げ公演 舞台『あやかしむすび』

日:2021年10月13日(水)~17日(日) 
場:渋谷区文化総合センター大和田 伝承ホール
料:S席:10,000円 一般席:7,500円(全席指定・税込)
HP:https://ayastage.com/
問:アメツチ mail:stage_info@ametsuchi-stage.com

Advertisement

インタビューカテゴリの最新記事