生涯にわたって筆をとり、描き続けてきた葛飾北斎と絵師たちの物語 加藤健一が挑む、久々の時代劇 気っ風のいい江戸弁が劇場に響く!

生涯にわたって筆をとり、描き続けてきた葛飾北斎と絵師たちの物語 加藤健一が挑む、久々の時代劇 気っ風のいい江戸弁が劇場に響く!

 90年の生涯で93回も転居し、一説では30回も改号したと言われる葛飾北斎。膨大な数の作品を発表し、現在でも高い人気を誇る浮世絵師・北斎と、彼をとりまく蹄斎北馬・渡辺崋山・歌川国芳。そして娘でありその才能を受け継いだ応為、といった絵師たちが切磋琢磨し、より高みを目指す様子を描いた『夏の盛りの蟬のように』を加藤健一事務所が上演する。演出に青年座の黒岩亮を、そして歌川国芳役には演劇集団円の岩崎正寛を迎え、久々の時代物に挑むことになる。加藤と黒岩、そして岩崎に話を聞いた。

―――『夏の盛りの蟬のように』は、今年の3月に亡くなられた劇作家・吉永仁郎さんの作品で、1990年に初演されたという記録があります。この作品を取り上げようと思われたきっかけを教えてください。

加藤「吉永先生の作品は全部読んでいますが、その中でもやりたいと思った作品のひとつでした。以前、滝沢馬琴の話(『滝沢家の内乱』)をやりまして、その中にも北斎が挿絵を描いているという話があるんですが、そことこの作品の北斎像が凄く違っていることが面白くて興味を持ちました」

―――加藤健一事務所さんが時代劇、和物を手がけるのは珍しいとの声もあるようですが。

加藤「別に海外の戯曲の方が好きなわけではなく、日本の作品も時代劇もやってみたいのですが、劇団座付きの作家さんによる作品が多くて、上演権の問題でなかなか難しいことがあります。その点、吉永先生は珍しくフリーの作家さんでしたから。井上ひさしさんもこまつ座があるので、うちの事務所では一度もやっていません。だからといって書き下ろしを頼む度胸はないです(笑)」

―――演出は青年座所属の黒岩亮さんですね。

加藤「前から一緒にやってみたいと思っていた方で、なかなかきっかけがなく。今回お願いできました」

黒岩「これまでにも1度チャンスがあったのですが、ちょっとスケジュールなどが合わなくて実現しませんでした。僕にとっての加藤健一さんと言えば、やはりつかこうへい事務所で活躍されていたときのイメージが強いです。大学時代はつかこうへいさんの全盛期でしたから、大阪の毎日ホールで見て感激して、自分も演劇をやっていこうと決心した。そんなきっかけでもありますから」

―――今回、声がかかったことについてお気持ちを聞かせてください。

黒岩「僕は青年座所属で日本の作品が多いですが、時代物は初めてで、江戸時代にいけると思うと嬉しいです。それに作品も堅苦しくない。自己主張が強い絵師たちの話はなかなか魅力的だし、浮世絵師や芸術家を扱う作品は、我々にも共通するようなところがあって興味深いですね」

―――岩崎正寛さんは歌川国芳役ですが、岩崎さんを選んだ理由を教えてください。

加藤「岩崎さんの舞台を拝見して、一緒に遊びたいというか(笑)。いつも一緒に遊んでくれそうな人を探しているんですが、印象に残る人ってそんなに多くないんです。あとこの作品は全編江戸弁ですから、それが話せるかなあ、と思いまして」

―――加藤さんの印象に残ったそうです。岩崎さんいかがですか。

岩崎「ありがとうございます。率直に嬉しいですね。僕にとっては加藤さんと言えば『麻雀放浪記』の“女衒の達”ですね、若い頃に拝見した泥臭くて熱い、そして今でも熱いお芝居をされている姿は僕にとっての目標です。座組の皆さんも温かそうなので、遠慮せずにぶつかって、楽しく出来れば良いなと思います」

―――出演者はシンプルに6人です。もともと地方公演を考えた作品のようですが、そんなことも見込んで少ないんでしょうか。

加藤「理由はわかりませんが、これ以上登場人物をだすと複雑になりすぎるでしょうから」

黒岩「実在の人を使ったフィクションですから、人数は絞った方が構成しやすかったんだろうと思います。実際に北斎・華山・国芳が一緒にやりとりしていたかはわかりませんしね」

―――北斎は画狂人と称されるほど絵に集中した印象が強いですが、そういった姿勢は演劇に対する加藤さんにも通じるところがあるような気がします。

加藤「誰でもひとつの道でやろうと思ったらそうだと思います。でもその当時、まだ一般人が絵を買う時代ではありませんから、その中で、絵で食べていくなんて、現代で新劇をやって食べていくのと同じではないかと。でも演劇で食えるかどうかなんて考えたら出来ないですよ。本人がやりたいかどうかですね」

黒岩「でもまあ、お金持ちにはなれないですね(笑)」

加藤「多少商売っ気も無いといけないかも知れませんね」

黒岩「でも商売にしようと思ったらそうできるものもあったと思いますが、北斎などはそんなことは考えず、描きたいから描いていた、というところじゃないですか。その点、国芳はちょっと商売っ気があって、同じ絵師でも少し違うんですね。そんなところが面白いです。我々演劇人も人や社会に少しでもインパクトを残そうと思うのか、私はこれをやりたいんだという小劇場の人がいるとか、色々なんですね。それとこの4人の話は似ている感じがして面白いです」

岩崎「この作品って時間軸のスパンが長いじゃないですか。だから時が経つと思いも変わっていくのが、今と同じだなと思います」

黒岩「やっているうちに変わってくるからね」

―――岩崎さんもそういったことは意識されますか。

岩崎「意識しまくりですよ(笑)。でも描きたくない絵を描いて生計を立てることは、僕達が舞台以外の仕事をこなして折り合いをつけることと同じですよね。だから想い入れが深くなる部分は多くなりますね。そんな作品だと思います」

―――またちょっと話に出ましたが、江戸弁で物語が進むようですね。

加藤「台本がもう標準語ではないですから。聞いていて気持ちのいい言葉にできれば良いなと思います。そしてコメディですから。どう楽しんでいくかはこれからですね」

―――加藤さんはそもそも北斎や浮世絵への興味はありましたか。

加藤「絵は好きだったので興味はありましたが、未だにこれほどの人気があるとは思いませんでした。勉強のために北斎展にも出かけたのですが、凄く混雑していて、マスクをしていても怖かったので、そのまま帰ってきたほどです。その人気にビックリです。それに『赤富士』とか波の絵(『神奈川沖浪裏』)とかが色々なところに使われていて、それもビックリです。どこかの緞帳も『赤富士』でしたね(※国立演芸場)。うちの宣伝をしてくれているのかなと(笑)」

黒岩「色々目につきますね。この作品に関わるから気になるのかも知れませんが。でも根強い人気があるんでしょう」

―――岩崎さんはどうでしょう。

岩崎「人並みの興味ですね。でも意識すると確かに目にするんです。常設の美術館もありますしね。ビックリしたのは浮世絵ってサイズが小さいものなんですね。ドドーンと大きいイメージだったんです。小さいと見るのが大変だなあと思いました(笑)」

―――では最後に観客へのメッセージをお願いします。

黒岩「江戸時代の話ですが、ファンキーな芝居にしたいと思います(笑)。結構登場人物が泥臭いですからね」

岩崎「そのファンキーに乗り遅れないように(笑)。コメディだからと言うだけでなく、見ていて素直に面白い芝居ができればと思います。」

加藤「久々に時代劇をやりますが、活きが良くて楽しい時代劇をお見せ出来ればと思います。また今までとは違う面も出せれば良いかなとも思ってますので是非劇場においでいただければと思います」

(取材・文&撮影:渡部晋也)

プロフィール

加藤健一(かとう・けんいち)
静岡県出身。68年に劇団俳優小劇場の養成所に入所。卒業後は、つかこうへい事務所の作品に多数客演。80年、一人芝居『審判』上演のため加藤健一事務所を創立。その後は、英米の翻訳戯曲を中心に次々と作品を発表。第17回・第29回紀伊國屋演劇賞 個人賞(82・94年)、文化庁芸術祭賞(88・90・94・01年)、第9回読売演劇大賞 優秀演出家賞(02年)、第11回読売演劇大賞 優秀男優賞(04年)、第38回菊田一夫演劇賞(13年)、など多数受賞。07年、紫綬褒章受章。16年、映画『母と暮せば』で第70回毎日映画コンクール 男優助演賞を受賞。

黒岩 亮(くろいわ・まこと)
大阪府出身。青年座研究所卒業後に青年座へ入団。89年『勇者達の伝説』(ゆいきょうじ 作)でスタジオ公演初演出。94年『カデット』(鐘下辰男 作)で本公演初演出し、注目を浴びる。97年秋には初めて青年座に書き下ろした永井愛氏の『見よ、飛行機の高く飛べるを』を演出。本作は97年度芸術祭大賞を受賞した。

岩崎正寛(いわさき・まさのり)
神奈川県出身。早稲田大学を卒業後、99年に円演劇研究所入所。01年に演劇集団円の会員に昇格する。『子午線の祀り』、『もし終電に乗り遅れたら』、『灯に佇む』などの舞台作品だけでなく、テレビドラマや映画、さらに声優としてテレビアニメ・外国映画の吹き替えなど、幅広く活躍している。

公演情報

加藤健一事務所 vol.113
『夏の盛りの蟬のように』

日:2022年12月7日(水)~18日(日)
場:下北沢 本多劇場
料:前売5,500円 当日6,050円
  高校生以下2,750円 ※要学生証提示/当日のみ(全席指定・税込)
HP:http://katoken.la.coocan.jp
問:加藤健一事務所
  tel.03-3557-0789(10:00~18:00)

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