高校時代に出会った3人が中心になって旗揚げ、公演を積み重ねてきた青春事情が、21回目となる公演を10月に下北沢 駅前劇場で上演する。舞台は都会から遠く離れた田舎町。現実の距離はあるのだが、現代はスマホからAmazonでポチれば、全く同じものがすぐ届くように、今や現実とは異なる距離感、テンポ感があちこちに生まれている。そんなことをモチーフにした作品だと、この数作で作・演出を担当する大野ユウジは話す。まだ第1稿も上がっていないタイミングでのインタビューに、大野と俳優の加賀美秀明に話を聞いた。
―――新作『ちーちゃな世界』のあらすじで、舞台として「駅前の小さなロータリーの片隅」と「タピオカのフードトラック」というギャップのあるアイテムが印象的でした。
大野「都会と田舎とは本来距離があるものですが、現代はそういった実際の距離を感じなくなっていることもあると思うんです」
―――宅配とかAmazonとか。都会で頼んでも田舎で頼んでも、同じように明日届きます。
大野「そう。田舎だからといって手に入らないものは無い。これは昔とは違う感覚ですね。さらにコロナ禍というご時世も手伝って、地方を拠点に活動する人も増えたりしてその距離は縮まっている。そんなことをモチーフの一つにして人と人との距離感を描こうと思ってます」
―――大野さん、加賀美さんを含めてキャストは9人。まだ脚本は仕上がっていないようですが、高校からずっと一緒にやってきた加賀美さんなら、大野さんがどんな脚本を書いてくるか予測できるものですか。
加賀美「作品によってはそういったこともありましたが、今回はちょっとわからないですね。今まではシチュエーションがハッキリしていたんです。保育園、美容室、ケーキ屋さんとか。ところが、今回は田舎にフードトラックが一台……あんまりピンとこなくて」
大野「確かにいつもよりもふわっとしているかも知れないね」
―――考えてみると3人とも都立高校で知り合った。ということは東京都民、つまり都会っ子じゃないですか(笑)。皆さんにとって“田舎町”って凄く遠い存在ではないですか?
加賀美「僕にとっては遠い存在ですね。生まれも育ちも東京ですから」
大野「僕はそれほどでもないんです。現実に親が北海道に住んでいますし、親の実家はそれこそド田舎でしたから。小学校、中学校も東京じゃなかったし。そこは加賀美君とは違うところですね」
―――そうか、都会っ子ってひとくくりにしてはいけませんね(笑)。では大野さんは今作についてどこで思いつかれて書かれたのでしょう。
大野「なんでしたかね。最近、『北の国から』をTVシリーズから全部見直したってのが大きいかもしれません(笑)。元々加賀美君が大ファンの作品なんですけど。あの作品もある意味、都会と田舎町の対比を描いてるじゃないですか。田舎というより自然って感じですけど。で、作品自体は2002年に終わってしまったので、スマホもSNSも当たり前の今も作品が続いていたらどんな作品になるんだろうみたいな想像をした事がきっかけのような気がします。」
―――そんな物語や設定は、大野さんと加賀美さん。そして代表の松本さんの3人の雑談から生まれるのですか。
大野「そういうこともあります。以前は喫茶店に週1回とかで集まっていましたが、最近はリモートですね。話している中で何となく出来上がっていきますから、高校のクラブ活動の延長と言われればそうかも知れません」
加賀美「3人とも結構好みが一緒なんです。誰かが良いアイデアを出すと、他の2人も割に同調することが多いです」
―――ところで今回の『ちーちゃな世界』というタイトルはどこから来ているのでしょう。
大野「今はSNSなどで遠くの人と連絡が取り易い。でもそれ故に苦しんでいる部分もまたあると思います。そうやって世界を拡げ過ぎることがしんどくなる要因になっているなら、それをもっと小さくすればいいんじゃないか、という意味と。最初に話したように実際の距離がある都会と田舎の距離が近くなっているという要素もありますね。その一方でコロナ感染症の影響下だと人と人が物理的な距離を取らないといけなかったりして。そんないろいろな距離感を取り込んでいます」
―――コロナ禍の影響、という話が出ました。この1年半あまり演劇を続ける上でのやりづらさみたいなものは大きかったですか。
大野「代表の松本とも話すのですが、先を決めづらくなりましたね。これから状況がどう変わるかがわからないので先行きが見えない。そのお陰で今回もかなり出遅れた部分があります。いざ予定を入れても感染者数が急に伸びたりすると一気に状況が変わりますし、ご来場頂くお客さんのメンタリティも、感染者数が上り坂の時と下りの時では違いますから。だから気持ちに火がつけにくいですよね。本当にできるのか?という気持ちがついてまわりますから。この状況でどんな作品がお客さんに響くかもあるし、自分たちが今やりたい作品が何なのかも分からなくなります」
―――そんな苦悩を乗り越えての公演、ですね。ではそれを待ち焦がれていたお客さんへのメッセージをお願いします。
大野「暗い気持ちになる芝居は絶対にしません(笑)。基本コメディなので。そしてを頭使わなくても楽しんで帰れる作品にしようと思います。こういう時代にやらせてもらえる以上、絶対楽しめる2時間をお約束します」
加賀美「青春事情のお客さんは劇場を渡り歩く演劇マニアではなく、青春事情だから観に行こう!という方が多いので、コロナ禍ではほぼ劇場に足を運ばれていない気がします。だからそういう皆さんに向けて『僕達、変わらずにやってるよ!』と呼びかけたいです」
大野「でもねぇ、最後になんですけど……頑張っていろいろ話してみましたけど、実はあんまり考えてないんですよね(笑)。ただ、楽しいからやっているし、実はそんなにメッセージ性とかもないです。僕達もお客さんも楽しめるための術を探してるだけで(笑)」
―――そんな自然体。とっても素敵だと思います。ありがとうございました。
(取材・文&撮影:渡部晋也)
プロフィール
大野ユウジ(おおの・ゆうじ)
東京都生まれ。日活芸術学院俳優科卒。
旗揚げから青春事情の全ての公演に出演し、第15回公演以降は作・演出も務める。後藤ひろひと氏が日本全国で開催しているワークショップ『ロイヤルプラント』に参加。近年はワークショップ講師、結婚式の司会など活躍の場は多岐にわたる。
加賀美秀明(かがみ・ひであき)
東京都生まれ。明治大学文学部演劇学専攻卒。
まったく演劇をやったこともないのに青春事情の旗揚げに参加。以降、全ての公演に出演。これまで出会った俳優たちの演技を盗みに盗んで現在に至る。小劇場を中心に、青春事情以外の公演にも数多く出演
青春事情(せいしゅんじじょう)
2000年、東京都立駒場高校に在学中の松本悠が演劇部の後輩である大野ユウジと加賀美秀明に呼びかけて結成。同時に5年間の充電期間に入り2005年から本格的に活動を始動。メンバーが増えたり減ったりしつつ、2016年頃からは大野ユウジが作・演出を務める今の形になる。
公演情報
青春事情 第21回公演
『ちーちゃな世界 ~It’s a small small world~』
日:2021年10月27日(水)~31日(日)
場:下北沢 駅前劇場
料:一般3,800円
学生2,800円 ※要学生証提示
はなきん割[15日のみ]3,300円
(全席自由・税込)
HP:http://www.jijou.jp/
問:青春事情 tel. 03-3260-1177