両目の眼球を持たず生まれた千璃。家族の闘いの日々が始まる――。重度の障害を抱える少女と家族の実話をオリジナルミュージカルで描く

両目の眼球を持たず生まれた千璃。家族の闘いの日々が始まる――。重度の障害を抱える少女と家族の実話をオリジナルミュージカルで描く

 初めての子供を授かり、誕生を心待ちにする美香と丈晴。だが生まれた子供は両目の眼球がなく、知的障害も抱えていた。その日から夫婦の長い闘いが始まる――。重度の障害を持ち生まれた少女・千璃の実話をもとにミュージカル化。千璃の手術に法廷闘争、夫婦の葛藤、そして希望の物語をオリジナル楽曲と共に描き出す。
 千璃を演じるのは、E-girlsを経て幅広いフィールドで躍進が続く山口乃々華。目も見えず話もできないという難しい役を、ダンスやマイムと得意の身体表現を駆使し体現していく。母・美香役には実力派女優として舞台を中心に活躍する奥村佳恵が、父・丈晴役には2.5次元作品で人気を集める和田琢磨が出演。初共演の三者がどう家族の絆を築き上げるのか、その行方にも注目したい。上演に先駆け、山口乃々華、奥村佳恵、和田琢磨に本作への想いと意気込みを聞いた。


―――それぞれ実在の人物を演じますが、役をどう受け止めましたか?

山口「私が演じる千璃は稀な障害を持つとても難しい役どころ。お話をいただいた時、この役を『やらせてください』と言うまでしばらく時間がかかりました。でも台本を読み進めるうちに、両親の諦めない姿勢に愛情や希望を感じ、この家族になりたいと思えてきて。そこで初めてこの役と向き合う覚悟と責任感が生まれてきた気がします」

奥村「まずはじめに台本を読んだ時、果たして私はここまで向き合えるだろうか、ここまで闘うことができるだろうかと自分自身に問いかけました。美香という女性は決して逃げないんですよね。現実は途方もなく厳しく、押し潰されそうになっても闘い続ける。負けないという強い気持ちが、この役のメッセージとしてあるように感じています」

和田「実在の人物を演じるということで、嘘なく役と向き合っていこうと思っています。本当にどの家族にも起こり得るようなお話で、リアルな会話がたくさん散りばめられている。彼らに起きた出来事は僕らにとっては非日常的ではあるけれど、台本を読んでいて共感できない部分は一切ありませんでした。実年齢も役とほぼ同じで、自分の人生の経験値を存分に広げていけば、自然と役がつかめるような気がして。奥村さん、山口さんと本当の家族になって、真摯に向き合っていけば、自ずと自分の役や伝えたいことが浮かび上がってくるのではないかと考えています」

奥村「やはり実在の方を演じることはお芝居をする上で1つの重圧ではあります。ただどんな作品でも結局お芝居をするのは私の身体で、私の声でお客さまに届くことになる。だから台本に描かれているシーンの通りに自分が生きるしかない。お客さまにきちんと届くよう、舞台の上で必死に生きるところから始めようと思っています」

山口「私は千璃の誕生から6歳までを主に演じるけれど、私自身は目も見えるし言葉もわかる。だから彼女を理解する上で難しいことはたくさんあると思う。でも考えてみたら千璃にとっては見えないのが当たり前で、伝える手段が少ないというだけ。もしかしたら心はずっと豊かに動いてるかもしれない。千璃を少しでも理解できるよう、近々特別支援学校に行く予定でみんなと一緒にかき氷を作って食べてきます(笑)」

―――物語を彩るオリジナル楽曲の数々も本作の魅力の1つ。作中は約30曲のミュージカルナンバーを生演奏と共に披露します。

和田「僕はあまりミュージカルの経験がないので、ハードルの高さを感じています。ただ生演奏ということで通常のミュージカルとも雰囲気が違うし、観たことのない質感の作品になりそうですよね」

奥村「私もこれほどたくさん歌った経験はないので、とても大きな挑戦です。ミュージカルにあまり馴染みない人って“ここで歌うの?”と思いがち。いかに違和感なく歌えるか、芝居とのバランスを取りつつ表現できるよう努力したいと思います。あとこれだけ歌うとなると喉のケアもきちんとする必要がありそう。普段からなるべく喉を休ませたいけれど、お喋りだからちょっと難しいかも(笑)」

山口「私は歌は比較的少なくて、そのぶん身体表現とマイムで千璃の想いを表現していきます。だから私は喉のケアより身体のケア。ダンスのレッスンはもちろん、普段とは違う筋肉を使うので、丁寧に身体をほぐすよう心がけています。あとよく転ぶので、ケガをしないよういつも以上に気を付けなければと思っています(笑)」

―――みなさん初共演ですが、お互いの第一印象はいかがでしたか?

和田「山口さんはとにかく真っ白で見ていてワクワクするような可能性を感じます。奥村さんはクールビューティーというイメージがあったけど、素顔は凄く気さくで僕の中でギャップが大きくて(笑)。笑顔がとても印象的で、良い夫婦感を作れそうな気がしています」

山口「奥村さんは肌も真っ白でオーラもあって最初はちょっと圧倒されたけど、ニコッと笑いかけてくれるのでお話していて凄く楽しい気持ちになりました。和田さんは役とイメージが重なって、優しい中にもどこか頼れる印象です。温かい家族愛が表現できそうで、本当にお二人が両親で良かったなと思っています」

奥村「和田さんは丈晴同様、やわらかくて大らかな方という印象があります。山口さんはピュアで素直で、シンプルに可愛い。仲良くしてもらえたら嬉しいです(笑)」

山口「こちらこそ、よろしくお願いします!」

―――この作品を通して伝えたいものは? メッセージをお願いします。

和田「女性や男性、母親、父親と、観る人や立場によってそれぞれきっと印象が変わると思う。色々な観方ができる作品だと思うので、僕もそこで何かを伝えようとは考えてなくて。台本と音楽に素直に向き合った時、何を感じるか、僕自身も楽しみにしています」

奥村「この家族は色々つらい思いをするけれど、同時に千璃に救われている部分が凄くあるような気がして。全てを諦めてしまおうと考えた瞬間、ふと千璃が笑ってくれて、それが全ての原動力になっていく。夫婦は互いに孤独な思いをするけれど、家族として強く繋がることができたのは、結局千璃の存在があったから。作中は千璃が抽象的に描かれていて、それが希望や救いに見えてくる。観る方によって受け止め方は様々で、幅広い世代の心に響く作品になると信じています」

山口「もし両親に『この子は見えないから希望がない』と言われたら、千璃は苦しかっただろうなと思う。でも“絶対に守り抜く”という2人の覚悟があったから、千璃も救われたような気がします。千璃の障害は特別な例かもしれないけれど、でも実は私たちの物語でもあって。今私たちが日々こうして生きていられるのは、周りに愛してくれる人たちがいるから。私たち一人ひとり、誰かにいつも支えられている。そんな想いを作品を通して伝えられたらと思っています」

(取材・文:小野寺悦子 撮影:山本一人(平賀スクエア))

食欲の秋! オススメの秋の味覚はなんですか?

山口乃々華さん
「秋といえば、栗! 栗ご飯が好きです。甘くて、しょっぱくて、学校の給食で食べた味も、実家で母が炊いたものも大好きです。今年は自分で炊いてみようかな☺」

奥村佳恵さん
「焼き芋が大好きです。おすすめは“紅はるか”しっとりとほくほくのバランスが良くて甘みが強くて最高です。ハムと玉ねぎとマヨネーズでサラダにするのも好きです」

和田琢磨さん
「栗ごはん。山形の実家で暮らしていた頃、農業を営んでいる親戚からいただいたり、実際に栗拾いをしたり、毎年秋になると必ず食べていたので、とても印象深く残っています」

プロフィール

山口乃々華(やまぐち・ののか)
1998年生まれ、埼玉県出身。雑誌「ピチレモン」の「第18回ピチモオーディション」でグランプリを獲得、専属モデルとして活躍。2012年「Follow me」からE-girlsのメンバーとして活動。2013年より女優として舞台や映像でも活躍。主な出演作に、ドラマ 昭和歌謡ミュージカル『また逢う日まで』、映画『私がモテてどうすんだ』、ミュージカル『ジェイミー』、舞台『あなたの初恋探します』など。

奥村佳恵(おくむら・かえ)
1989年年生まれ、大阪府出身。2008年に蜷川幸雄演出、音楽劇『ガラスの仮面』のオーディションでヒロインの1人・姫川亜弓役に抜擢され、女優デビューを果たす。その後数々の舞台や映像作品で活躍。主な出演作に、ドラマ『新・ミナミの帝王』シリーズ、ミュージカル『わたしは真悟』、舞台『桜の園』、『マクベス』、『テレーズとローラン』、『LUNGS』など。

和田琢磨(わだ・たくま)
1986年生まれ、山形県出身。2009年、舞台『流れる雲よ ~DJから特攻隊へ愛を込めて~』に主演。2011年、ミュージカル『テニスの王子様』2ndシーズンに手塚国光役で出演し注目を集める。主な出演作に、ドラマ『腐男子バーテンダーの嗜み』、舞台『逆転裁判』シリーズ、『ダイヤのA The LIVE』シリーズ、舞台『刀剣乱舞』シリーズ、朗読劇『世界から猫が消えたなら』など。

公演情報

conSept Musical Drama #7『SERI(セリ)~ひとつのいのち

日:2022年10月6日(木)~16日(日) ※他、大阪公演あり
場:博品館劇場
料:SS席11,500円 SA席10,500円 A席9,000円 C席7,000円(全席指定・税込)
HP:https://www.consept-s.com/seri/
問:conSept mail:info@consept-s.com

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