2020年に第1弾、2021年に第2弾が上演され、江戸川乱歩の美しく、妖しく、残酷な世界観をダークに描き出した朗読劇リーディングシアター『RAMPO in the DARK』第3弾が、6月22日~26日に神田明神ホールで上演される。
今回取り上げられるのは、江戸川乱歩の『疑惑』『陰獣』2つの小説。脚本・演出の野坂実によって紡ぎだされる世界観を、23人の声優・俳優陣による9組のチームが描き出していく。
そのキャストを代表して大河元気と藤原祐規が、それぞれに出演してきたこのシリーズ作品の思い出と、新作への意気込み、更に互いの魅力までを語り合ってくれた。
神聖な場所を通ってきたお客様に、想像以上に怖いものを投げる
───このシリーズに過去出演された時の印象や、思い出、感じた魅力から教えてください。
藤原「僕が出演したのが2020年のvol.1だったのですが、当時コロナが猛威を振るっていて、無観客の配信になったので、普段やっている舞台とも朗読劇とも全然違う、映像の収録のような空気感の中でやったことがとても印象深いですね。客席を潰してカメラが入って『よーい、どん!』で撮るというような、全く違う公演だったことをよく覚えています。スタッフさんしかいない訳ですから、当然ですがお客様の反応もありませんでしたので、とても難しかったという印象があります」
大河「僕は第2弾に出演させていただいたのですが、神田明神ホールでの上演でしたので、お客様が鳥居をくぐり、すごく神聖な場所を通ってきて、ちょっと怖いものを観るんだという、ある意味はじまる前から構えている雰囲気が既にあったんです。そこに想像している以上に怖いものを投げましたから(笑)、お客様がとても怖がってくださっていることが強く伝わってきたのが印象的でした。今回も同じ場所での上演なので、またあのような雰囲気のなかでやるのかな? と想像しています」
───いまのお話を伺っただけで、過去2回の上演が全く違う形でおこなわれたことがわかりますが、今回新しい作品に期待されているところはどこですか?
藤原「僕はお客様がいらっしゃるところでやるのは今回が初めてですし、はじまる前から構えている感じというのは、多分今回もそうなんじゃないかなと思うので、それがどう作用していくのかにはすごく期待もあり、不安もありというところで楽しみです」
大河「祐規さんが第1弾、僕が第2弾に出演させていただいていて、今回第3弾に2人ともまた出していただけるということは、きっと僕らがうまくやったんだろうと(笑)」
───そうですね!
大河「ですから第4弾にも出そうと思っていただけるように、という期待を大いに持ちつつ(笑)、とにかく精一杯やってお客様に楽しんでもらえれば。その気持ちは前回と全く変わりません」
───今回取り上げられるのが、江戸川乱歩の『疑惑』『陰獣』2つの小説ということですが、原作小説の印象については?
藤原「率直にこの2作品は、舞台化・朗読劇化が難しそうだなという印象を受けました。まだ台本をいただいていないので、それがどう料理されて台本として出来上がってくるのかはとても楽しみでもありドキドキワクワクという感じです」
大河「僕は本当に自分の中では、いまフラットな状態です。そこから台本をいただいて得た第一印象を大切にして、皆さんにお渡しできればと思っています」
ここまでダークなのかとびっくりする
───作家・江戸川乱歩について、このシリーズに携わられる前と後で、受け取り方が変わったことはありますか?
藤原「江戸川乱歩には、推理小説の大家、ミステリー作家のイメージがあったんですが、この作品の第1弾で僕がやらせていただいた『白昼夢』『人間椅子』『赤い部屋』の3つの物語は、全部狂気に落ちた人の話だったんですね。あぁ、こんな人たちばかりが出てくるんだという驚きもありましたし、演じる側としては難しくも、楽しくもあったんです。今回取り上げられる作品にも、やはり狂気にかられた人たちが登場するので、またあの世界を演じることができるんだ、というのは楽しみです」
───確かに乱歩というと、名探偵・明智小五郎を生み出した日本の探偵小説の祖というイメージが強いですが、おっしゃるように狂気や妖しさに満ちた作品も多いですね。
大河「まさにこのシリーズのタイトル通りダークなものが多いなという印象はもともとあったんですが、読んでみるとこんなに女性が強い作品なんだ、というのをすごく感じて。作品が執筆された時代を考えても、思っている以上に女性が強い作品が多いので、そこに江戸川乱歩の思うところが見えたりもして、言い方はよくないかもしれませんが、なかなかに変な人だなと(笑)。それは毎回読むたびに思いますし、その辺の違和感がうまく伝えられたらなと思います。しかも、女性の強さが発揮されていくのが、非常にゆっくりとじわじわとなんですよ。あの時代にこの視点を持っていたというところが面白いですね」
───そういう部分は、江戸川乱歩の名前は知っているけれども、作品は読んでいないという方には、特に驚きでしょうね。
藤原「すごくびっくりされると思います。『RAMPO in the DARK』とは言っているけれども、ここまでダークなのか!と」
大河「『名探偵コナン』の江戸川コナン君をイメージする人も、いまは結構多いと思うから、悪の組織のことじゃなかったのかってね(爆笑)! いや、それは冗談としても、本当に子どもさんだったら泣き出すかもしれないというほどダークだから」
藤原「照明効果なども相当におどろおどろしいしね。ですからこの『RAMPO in the DARK』というシリーズそのものが、すごく意欲的だと思います。声優さんを使ってカッコいいとか、可愛い、美しいものをやるのではなくて、こんなダークな世界観を打ち出すというのがね」
大河「演じる側としてはこの上ない幸せですよね。難しいけれども。でもまぁ難しいと言えば、カッコイイものも、美しいものも、みんな難しいから」
藤原「こっちがカッコいいつもりで演じていても、受け取る方がカッコいいと思ってくださらなかったらダメな訳だし、この作品も自分たちではこんなにダークな世界なんだよ!といくら提示しても、そう思っていただけるかどうかはわからない。でもだからこそ1人でも多くの方に作品の世界観を感じ取っていただけるようにしていきたいです」
───逆にここでこんな反応が?という、意外な反応が返ってくることもありますか?
大河「その方が多いくらいかもしれない。稽古場で一切受けなかったところで、どっときたりすると、ドキッとします」
藤原「逆に絶対に受けると思っていたところでシーンとしたままだったり」
大河「それが一番怖い!」
───だからこそ、お客様の反応で作品が育っていくところもありますか?
藤原「お客様に教えてもらうことは本当に多いです。今回僕ははじめてその環境でできるので、どこで空気が変わるのかを感じながら、大事にやれたらいいなと思います」
朗読劇って自分と向き合うことが多い
───朗読劇とひとことで言っても、椅子に座って本を読むというところから、ほとんど普通のお芝居に近い形のものまで、いまは様々にありますが、朗読劇ならではの楽しさ、また難しさはありますか?
藤原「圧倒的に違うのは台本があることですね。芝居で台詞を覚えていると、どうしても覚えにくい台詞が出てくることがあって、もちろん舞台に立つまでにはちゃんと言えるようにしますが、どこかでここは難しいという意識が先行して、自分のなかの理想的なスピードで台詞が言えなかったりすることもあるんです。でも台本がここにあることによって、その操作はきちんとできますから、そこは利点なのかなと思います。あとはどこまで表現するかですね。今回のメンバーは声優さんが多いですから、声優さんはきっとあまり動かずに声1本で勝負すると思うんです。そこに元気や僕のように舞台もやっているメンバーがどう対峙していくかは、楽しさであり難しさでもあります」
大河「台本を持っていて1番良くないのはまあ、手が震えるとすぐバレるっていうね(笑)! あれはどうしたらいいんですか?」
藤原「どうしようもない(笑)! 気にすればするほど震えるから(笑)、集中して忘れたころには収まっているんだけどね」
大河「始まって台本開いて、さあ読むぞってなった途端に震えるからなぁ。でもそういう自分と向き合うことが朗読劇ってすごく多いですね。台本を覚えていないし、お芝居とは違って誰も動いてもいないし、景色も変わらないので、読みながら意外とものを考えてしまったりもするので、そうなった時にどう集中力を途切れないようにさせるかはすごく大変です。台詞だけではなく、ト書きも読まなければいけないし、心象風景も読んでいくので、常に客観的に物を見てなきゃいけない。そういう時こそ本当に集中力がぷつんと切れそうになるので、そこのキープはとにかくしっかりしなきゃいけないと毎回思っています。でもそれが逆にすごく楽しいんですよね。そこまで集中できることってあまりないので」
───動きがない分逆に集中力が必要?
大河「動いた方が楽だなと思うことはあります。自由ですからね」
───これは聞いた話なので、違う場合は違うとおっしゃってくださいね。朗読劇の場合は台詞を覚えてはいけない、と伺ったことがあるのですが。
藤原「それは人によると思います。覚えている人もいますね。ただ全く台本を見ないとしたら、それは朗読劇なのか?ということになるし、演出家サイドから『台本にはちゃんと目を落としてください』と言われることもあります。一番よくないのは半端に覚えてしまうことで、余裕が出てふっと目を離した瞬間に、どこなのかがわからなくなるという」
大河「それは怖いよ! 怖すぎる(笑)! まぁ僕の場合は、朗読劇で台本を渡された瞬間に、覚えることは放棄します! こんな分量を覚えるのは無理だから(笑)!」
───膨大な量ですよね。
大河「それにどんなに自分で準備しても、結局本番で相手からどんな台詞が飛んでくるかわからないし、今回はメンバーも多いし、1回の本番に集中して飛んできたものをどう受けるか? ですべて変わってくると思うので」
藤原「そうだね。稽古もそんなに回数はやれないと思うから。もちろん稽古ってやればやるほど打率は上がっていくんですが、もしかすると意外なホームランみたいなものは減っていくのかもしれない、そういう部分も全くゼロではないんですね。だからこそ1回の本番から何が出てくるのかは未知数だけに、面白さも大きいです」
───23人のキャストの方々で9組の組み合わせと伺っています。
藤原「元気は誰と一緒?」
大河「野島健児さんと、日高里菜さん」
藤原「僕は代永翼君と、小林ゆうちゃん」
大河「うわ、もうこの2組だけでもね!」
藤原「そう、小林ゆうちゃんが何を出してくるか本当に分からないから! 切り口がすごく不思議な女優さんだから」
大河「僕も本番観たいな、その組み合わせすごい!」
藤原「でしょう? だから一度ご覧になったお客様が、別の組み合わせでもう一度観られても、すごく面白いと思います。全然違うものが観られると思うので」
常にアップデートしていかなくてはいけない
───今回、せっかくお二人に揃っていただいたので、お互いにここが素敵だなと感じているところを教えてくださいますか?
藤原「よく”中二病”って言い方をしますよね。でも全くマイナスの意味ではなく『元気の精神は中2じゃなくて、小5だね』と言っていたのですが、最近小3かなと(笑)」
大河「それ自分でも結構思ってきた(笑)!」
藤原「精神年齢がだんだん下がっている(笑)! でも、大人として生活していて、小3の部分って、普通はあまり出せないですよね。それが出せるところが元気のとても素敵なところだなと。最近はあまりできていないのですが、以前はよくゲームをしたりしていて、その時の楽しみ方がやっぱり小学生で。それが物作りにも生かされているので、子供の精神を失わないところはとても大事だし、素敵だなと思います」
大河「祐規さんには尊敬する部分が山のようにあって、これまでも色々なところで言ってきましたが、芝居がなくなったら死んじゃうんじゃないかと心配になる時があります」
藤原「何それ(笑)!」
大河「だって、この人から芝居を取り上げたら死ぬんじゃないかと思うくらい、ずっとやってるから、それは本当にすごいなって。芝居をやっていない時ってないんじゃないですか?」
藤原「まぁありがたいことに、間が空くことがあまりなくやらせていただいていますけど」
大河「そもそも休む気もないでしょう?」
藤原「まぁ、止まったら死ぬという気持ちはあるかな」
大河「やっぱり」
藤原「この年齢になってくると当たり前なんですけど、下の世代がいくらでも出てくるでしょう? なんとか逃げ切りたいんですよ。どの職業でも、男性女性関係なく、同じことをしていたらフレッシュな人に取って代わられることはあるわけじゃないですか。だから常にアップデートしていきたいと思うし、基本的にはズボラで自主トレみたいなことはあまりしないから」
大河「嘘つけ(笑)!」
藤原「いや、嘘じゃない! 稽古場の姿しか見てないからそう思うんだよ。本当に家ではあまりやらないから、常に現場に身を置いておきたいの。それを言ったら元気は家でちゃんとやってくるから、すげえ嫌な奴だなと(爆笑)」
───こうおっしゃっていますが?
藤原「いや、元気は実は家でやっていますとは、絶対に自分からは言わないと思います。ちゃんと提示するものを作って、それをさも何も考えてこなかったように現場でポンと出して、『大河先輩すごいな!』ってみんなが思うようにやる(笑)』
大河「それだとすごく嫌な先輩みたいじゃないですか(笑)!」
藤原「そうじゃなくて(笑)、常に商品価値のあるものを提示してくるから、手がかからないし、現場では好かれると思います」
───お聞きしているとタイプは異なりながら、皆さんが目標にされる存在でいらっしゃるお二人なんだなと感じますし、舞台がますます楽しみになります。では今回の朗読劇、リーディングシアターvol.3『RAMPO in the DARK』を楽しみにされている方たちにメッセージをお願いします。
藤原「前回vol.1をやらせてもらって、それぞれの物語にぞっとするポイントがあったので、今回もそこでお客様の心をしっかりえぐっていきたいです。是非えぐられに来てください。必ずぞっとさせますので、期待してご覧いただきたいと思います」
大河「いまの時代に劇場にまで足を運んでくださるお客様は、きっと何か素敵なものを観たいと思っていてくださる方々だと思いますから、『その素敵なものをお観せしたいよね』とカンパニー全員が口をそろえていました。これは間違いなくその通りだと思います。来ていただいた方に素敵なものを観ていただけるように僕らは精一杯頑張りますので、是非楽しみに観にいらしてください!」
(取材・文&撮影:橘 涼香)
プロフィール
大河元気(おおかわ・げんき)
愛知県出身。2005年デビュー。ミュージカル『テニスの王子様』シリーズ、ミュージカル『PERSONA3』シリーズ、學蘭歌劇『帝一の國』シリーズ、プレミア音楽朗読劇『VOICARION Ⅸ 帝国声歌舞伎~信長の犬~』、音楽朗読劇『モンテ・クリスト伯』などの舞台作品、『魔進戦隊キラメイジャー』『文豪とアルケミスト~審判ノ歯車』『魔入りました!入間くん』などのアニメ作品をはじめ、多くの作品で俳優、声優として活躍している。
藤原祐規(ふじわら・ゆうき)
三重県出身。2002年より舞台俳優、声優としての活動を開始。多くのユニットを結成するなど、多彩な作品で活躍している。近年の主な出演作品に、TVアニメ『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』、舞台『ゲズントハイト』、舞台『12人の怒れる男』、ミュージカル『SUPERHEROISM』、舞台『WELL~井戸の底から見た景色~』などがある。
公演情報
CCCreation Presents リーディングシアターVol.3
『RAMPO in the DARK』
日:2022年6月22日(水)~26日(日)
場:神田明神ホール
料:劇場チケット6,900円
(全席指定・1ドリンク代別・税込)
LIVE配信チケット3,600円
(7日間アーカイブ付・税込)
HP:https://www.cccreation.co.jp/
問:CCCreation
mail:cccreation2019@gmail.com