30人の役を3人で演じる音楽劇が、初演から3年を経てアップデート 今しか書けない社会的テーマに歌と踊りで向き合う

30人の役を3人で演じる音楽劇が、初演から3年を経てアップデート 今しか書けない社会的テーマに歌と踊りで向き合う

 10万年の時空を超えて運命の女性を探す主人公の物語を描いた上田岳弘の小説をベースに、渡辺えりが脚本・演出を手がけた音楽劇『私の恋人』。2019年の初演では小日向文世、のん、渡辺の3人が30役を演じて話題となった同作が、『私の恋人beyond』としてアップデートされる。

渡辺「初演は、一生やっていたいくらい楽しかったです。のんさんは初舞台ということもあって、無茶なことを言っても全部やってくれました。スタッフ感覚もあり、天才肌なのだと思います。小日向さんは、とにかく台詞の緩急があり、リアクションもすごい! 1言ったら10返してくれる人です。役者が小道具や衣装を作ったりすることも楽しんでくれました」

小日向「えりちゃんとの共演はどんな作品でもとても楽しく、少女と少年に戻ったように無邪気にやりとりするのがワクワクします。演出家としても、諦めない心とうまくいったときの笑顔がいつまでも演劇好きな少女のようです。そして、のんちゃんは立ち姿が美しい! なおかつ中性的な色気があります。子供のような瞳が強くて凛々しく、存在感がありました」

のん「おふたりの凄まじさに圧倒されました。動きやセリフ回し全てが楽しくて、たくさん勉強になりました。特に印象に残っているのは、小日向さんが2つの役を早替えしながらその役同士で会話するシーンがあって、それが見事で面白かったです」

 歌と踊りで楽しく見せつつ、再演では今しか書けない社会的問題をさらに加えるという。

渡辺「舞台上の限られた空間を縦横無尽に夢が飛び交うように使い、小日向さん、のんちゃん、演劇をこよなく愛する天使役の4人、スタッフと作品を作れることがとても嬉しい! コロナ禍なので客席から登場できないのが残念ですが、それを利用して新たな演出、舞台美術、衣装を盛り込んでいきます」

小日向「3人で30役、衣装や性別が色々移り変わる様を楽しんでいただきたいです。えりちゃんやのんちゃんの歌も見どころのひとつです」

のん「初舞台で参加した作品と再び向き合うということで、どうにか成長した姿を見せられたらと思います。役にだけ集中を注ぎ、舞台的な軽やかな動きをもっともっと勉強したいです。それぞれの役をより面白がって演じられたらいいな、と楽しみにしています」

(取材・文:西本 勲 撮影:市川唯人)

4/1はエイプリルフール。あなたの“嘘”にまつわるエピソードを教えてください。

渡辺えりさん
「第十八代・中村勘三郎さんに『ラサール石井が首を吊って死んだ』と電話連絡があった。ちょうどラサールさんが演出して、私と勘三郎さんが共演した舞台が終わった直後だったので、本当に驚いて椅子から落ちてしまい、立ち上がれなかった。勘三郎さん一家は毎年家族一丸となってエイプリルフールを楽しむ家族だった。今でもラサールさんとその時の話をして笑っている」

のんさん
「エイプリルフールは好きだけど嘘を考えるのはあまり得意じゃなくて、うまくいった事があまりないです。その日がエイプリルフールだってことも忘れてしまう事が多いです」

小日向文世さん
「高1の時、好きになった女の子がいました。友人が『彼女お前のこと好きなんだってよ』と言うので、勇気を出して告白しようと思ったら直前に嘘だと言われ、あまりのショックに早退しました。その帰り道落ち込んで歩いていると野良犬が一匹私の後をついてくるのです。私が立ち止まると犬も止まり、又歩き出すと歩き始め家までついてきました。お腹が空いているのだと思い、ミルクをあげるとものすごい勢いで飲みました。『飼いたい!』と思い親に告げましたが、父が犬嫌いであったため飼うことは叶わずとても切ない思いをしました。嘘をつかれてさみしい気持ちで帰っていた私を犬が心配してついてきてくれたのだと思います。切ないけれど忘れられない出来事です」

プロフィール

渡辺えり(わたなべ・えり)
1955年生まれ、山形県出身。オフィス3○○(さんじゅうまる)主宰。劇作家・演出家・俳優として多くの話題作に関わるほか、ドラマ・映画・執筆活動など幅広い分野で活躍中。映画『Shall We ダンス?』で第20 回日本アカデミー賞 最優秀助演女優賞を受賞する他、岸田國士戯曲賞、紀伊國屋演劇賞受賞など創作の方も評価されている。

のん
1993年生まれ、兵庫県出身。2016 年公開の劇場アニメ『この世界の片隅に』で主人公・すずの声を演じ、第38回ヨコハマ映画祭 審査員特別賞を受賞。今年2月、自身が脚本・監督・主演を務めた映画『Ribbon』(第24回上海国際映画祭GALA部門 特別招待作品)公開。

小日向文世(こひなた・ふみよ)
1954年生まれ、北海道出身。1977年に入団したオンシアター自由劇場でキャリアを積み、解散後は映像にも活動の場を広げ、数多くの人気ドラマ・映画に出演。舞台『国民の映画』で第19回読売演劇大賞 最優秀男優賞受賞。

公演情報

オフィス3〇〇私の恋人beyond』

日:2022年6月30日(木)~7月10日(日)
場:下北沢 本多劇場
料:S席8,000円 A席4,000円(全席指定・税込)
HP:http://office300.co.jp
問:オフィス3〇〇 tel.03-6450-8603

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