世界で大ヒットした、ビンボーな演劇人らのドタバタ喜劇 劇場で元気になるのがコメディ! 「楽しかった」と笑ってほしい 

世界で大ヒットした、ビンボーな演劇人らのドタバタ喜劇 劇場で元気になるのがコメディ! 「楽しかった」と笑ってほしい 

「なんとか芝居を上演したい!」その思いは古今東西いつの時代も同じだ。大恐慌の時代に芝居を上演しようと奔走する演劇人たちのドタバタコメディを描いた『THE SHOW MUST GO ON ~ショーマストゴーオン~』が、加藤健一事務所で27年ぶりに上演される。1937年にブロードウェイのコートシアターで初演を迎え、61週、500ステージを記録する大ヒットとなり、ミュージカルや映画やテレビ放送もされた。今作の再演に向けて集まったのは、主演・加藤健一、翻訳・小田島恒志、演出・堤泰之。この3人がひとつの芝居に臨むのは3回目となる。コメディ翻訳劇について、翻訳、演出、演技などそれぞれの視点で語っていただいた。


27年ぶりの幕開け。大変な時こそ共感できるのでは

―――3人がお仕事されるのは3回目ですね。最初は、2014年『ブロードウェイから45秒』でした。

加藤「今回はまさに今から始まるんですよ。これから1回目の美術打ち合わせと衣装打ち合わせがあります」

堤「2014年の時は、翻訳ものの演出をやったことがなかったのがプレッシャーで……どうすればいいのかわからなかったことを覚えています。翻訳の恒志さんとどう話をすればいいんだろう? どこまで台本通りにやった方がいいんだろう?と手探りで。権利の関係で『一字一句このままやってくれ』と言われることもあるだろうなと思っていたら、台本には、出ハケも何も書いてなかった!」

小田島「ニール・サイモンの戯曲でしたから、書いてないですよね(笑)。でもニール・サイモンは厳しくて、一字一句変えずにそのまま訳す契約を結ばされることがあるんです。晩年(2018年死去)はそうでもなかったんですが」

堤「へえ~!」

小田島「でも、一字一句変えないなんて翻訳でできるわけがない。“グッドモーニング”を“良い朝”と訳すわけにはいかない。だから現場次第で調整しますね」

堤「加藤さんも『ここからここまでカットしましょう』と言うので『いいんだ⁉』と驚きました」

小田島「その時の僕はワナワナ震えながら聞いてるんですよ。せっかく訳したのに~!って(笑)」

加藤「そんなにカットしないですよ(笑)。どうしてもわからないところがあればお客様が観づらいのでやめますが、面白いところをカットするのはありえない。この作品もほとんどカットしてないんじゃないかな」

堤「あと『ブロードウェイから45秒』の時は、僕はブロードウェイに行ったことがないことを気にしてたんですよね。やっぱり1回は行かなきゃいけないんじゃないかとヒヤヒヤしていたのに、その時間がなくて行けない。そうしたら実は加藤さんも行かれたことがなかったと知って、物凄く安心したことを思い出しました」

小田島「行かなきゃいけない気にさせる作品なんですよね、『ブロードウェイから45秒』って。でも今回の『ショーマストゴーオン』は全然そういう気にならない。行く必要をまったく感じない。舞台が下北沢でもいいんじゃないかと思う(笑)」

加藤「ははは、そうですね(笑)」

―――この作品が上演されたのは27年前。小田島さんがちょうど加藤健一事務所と仕事をするようになった時期ですね。

小田島「当時からまったく変わってないですね。ただやっぱり27年という月日が長いなと思うのは、この作品のイメージを作ってくれた坂口芳貞さんや松本きょうじさんといった俳優さん達が今はもういないのか、と。だから、今回はこういう舞台になるのかな、なんて目に浮かびますね」

―――前回から変更はされるのでしょうか?

小田島「台本はほぼ27年前に翻訳した時のままです。3か所くらいは直しましたが。読み直したんですが、言い回しが古いものはあるけど、原文も1937年に書かれた古い言葉遣いなので新しくする必要はないかなと。きっとこれから『こうしてくれ、ああしてくれ』と出てくるだろうけど、基本的には『どうぞ』ですよ」

堤「そういうこともあるかもしれないですね。翻訳するとどうしても、日本語ではわかりにくい例えや、歴史的な背景や人種的な問題に馴染みがないとわかりづらい台詞が出てくることがあるので、その場合は加藤さんと話したり、恒志さんに『ここはこうしたいんですけど』と相談することもありました」

小田島「どうぞ!」

堤「(笑)」

小田島「もうちょっとなにか面白くできないか?と言われたら考えます。例えば、登場人物たちが上演しようとしてる芝居のタイトルは、原文だと“Godspeed”で“道中ご無事で”というような意味です。で、とりあえず“ごきげんよう”にしました。もっと面白いタイトルが良いとか、“神(God)”という言葉を入れた方がよければ考えますよ」

―――タイトルといえば、27年前は『It’s SHOW TIME !』でした。今回『THE SHOW MUST GO ON~ショーマストゴーオン~』に変更したのはどうしてですか?

加藤「なんとなくですが、みんなで一生懸命に幕をあげようとして、一生懸命におろさないようにする様子がまさにショーマストゴーオンだなと。そもそも原文のタイトル『ROOM SERVICE(ルームサービス)』だと面白さがピンとこないので、初演の時も変えたんです」

小田島「ルームサービスって日本語になっちゃってるんですよね。食べ物を注文して部屋に届けてもらう、という意味。だけど英語の字面は“ルーム”と“サービス”なので、“部屋を提供する”とか、“部屋でなにができるか”とか、“余裕を与える”とか、色んな意味にとることができる。まあ、とりませんけどね」

加藤「ああ、なるほど」

堤「でもこのコロナの時期に『ショーマストゴーオン』という芝居をやるのは、メッセージ性が強いのかな?と思ったんですが、コロナ禍より前に上演は決まっていたんですか?」

加藤「そうです。時々こういうドタバタコメディをやりたくなるんですよ。自分で開放したくなるのかな。今は、みんなが幕をおろしたり、中止や延期になったりしてる。この芝居が書かれた頃も世界大恐慌でみんなが苦しい状況。その中で、人を騙してでも芝居をうちたいという登場人物たちに共感して、ブロードウェイの初演では500回も上演が続いて大ヒットしたんです! みんなが貧しかったり苦しかったからこそ、バカだけども情熱を持って『絶対に幕はおろさないぞ』と頑張るところに凄く共感が集まったんじゃないかな」

小田島「恐慌にめげずに頑張るぞ、という清い志はいっさい感じられない人達ですけどね(笑)」

堤「ほんとにダメな人たちの話ですよね(笑)」

伏線のやりとりが行き交うパワフルなコメディ!

―――翻訳の視点から、今作の特徴や面白さはどんなところですか?

小田島「アメリカの戯曲なのに、僕の好きなイギリス演劇のテイストに凄く似てるんですよね。登場人物のごまかし方やボケ方が、ストレートに返さずに遠回しに言うんですよ。『なんでこんなこと言うのかな?』と思っていると、あとで『伏線だったのか!』とわかるネタが結構ある」

―――ひねった表現だと、訳すのに工夫がいるのではないですか?

小田島「訳すことよりも、わかってもらえずに現場で修正されてしまうことの方が辛いですね。そのまま演じてくれたらちゃんと成立するギャグだと伝わると思うんですが……。でもここの座組はわからないとちゃんと言ってくれる。基本的に、わからないから変えちゃおう、なんて野暮なことはしないですよね、堤さんは、きっと」

堤「それは僕にプレッシャーをかけたのかな?」

加藤「あはは(笑)」

小田島「……みたいな遠回しの会話をしている作品です(笑)」

―――加藤さんはこの作品のどんな魅力に惹かれているんでしょう?

加藤「全員が元気でパワーがあるのが魅力ですね。 こういう社会状況の中で元気をなくしちゃう人もいるし、だからこそ元気が必要。 登場人物は騙される方も騙す方もみんな元気で、そこが見所ですね。大変な時代に一銭もないのに元気。この凄いパワーがなくなると面白くない。元気に芝居をするのは大変なんですけれども、スポーツをしたような良い疲れがある。堤さんもチーム作りが上手なので、安心して元気に頑張ります。あ、またプレッシャーかけちゃうかな(笑)」

堤「いやいや(笑)。でも加藤さんの元気がないところは見たことないですよ! 登場人物たちもみんな元気だし、お金がないというのは創造性の源だなと思いました。いかにお金をかけずに舞台装置を作るかとか、むしろ舞台装置を作らずに上演できるかという事はやっぱり考えますから、非常に共感できますね」

コメディに必要なリズムを生み出す小田島流翻訳

―――演出するにあたって、翻訳コメディを上演する時に気をつけるポイントは?

堤「一番大事なのはリズムだと思います。外国の言葉で書かれたリズムは、当然、日本語になった時に変わる。 日本人が日本語を聞いて笑える呼吸・リズムに落とし込めるかが重要だと思うんですよ。言葉だけを聞いてると、頭で意味を考えて、英語の言い回しを日本語に翻訳したものを面白がれる。けれど演劇は、肉体的に上手く呼吸が合って笑える状態をちゃんと作っていかないといけないなといつも思っています」

加藤「日本のコメディは、笑わせながらちょっと湿ったところもあるのが良いところだし、受けが良いんですよね。でも、外国のコメディは違っていて、特に今回の作品は湿ったところが凄く少ないですね。だから翻訳劇は、翻訳者が一番重要です」

小田島「加藤さんは僕の父・小田島雄志の代から“うちの”翻訳を使ってくれているんですが、他の翻訳と小田島流の翻訳はリズムの形式が違うんですよ。例えば『ハムレット』の有名なポローニアスとハムレットの会話で、『何をお読みですか(ハムレット)殿下?』『言葉、言葉、言葉』『いや私が聞いたのはその内容なんですが?(What’s the matter, my Load?)』『Between who?』というシーンがあります。 この“matter”という単語は“(本の)中身/内容”の他に当時は“love affair(恋愛関係)”の意味もあった。だから『何をお読みですか、殿下?』『言葉、言葉、言葉』『いや、私が聞いたのは中身のことなんですが?』『誰と誰の仲だって?』と訳せば一応意味は成り立ちます」

―――ああ~、なるほど! 「本の“なか”」と「恋愛の“なか”」というふたつの言葉でミスリードが起きているんですね。

小田島「ただ、ここで『ああ~』と思うかもしれないけど、それは頭で考えて面白がっているんですよ。舞台でしゃべられても面白くない。しかもこれは面白がらせるためのダジャレじゃなくて、ハムレットがポローニアスの“探り”を交わして茶化すシーンなんです。だから父が1972年に訳した時には、これを『何をお読みですか、殿下?』『言葉、言葉、言葉』『いや、私が聞いたのはその内容で』『ないよう? 俺にはあるように思えるが?』としたんです。これは学者には大変不評でふざけ過ぎだと言われたんですが、演劇界では大歓迎でした。というのも、この訳だと、俳優は演じようがあるんですよ。“内容”という言葉の直後に“ないよう?”と返すので、そのスピード感がツッコミになるし、ポローニアスを手玉にとってバカにする芝居が可能になった。……こういうことを父から刷り込まれてきたので、日本語でのリズムについては物凄く考えて訳しています」

加藤「外国のコメディは完全に翻訳にかかっていますね。世界中の作家が良い作品を書いていて、それをどう日本語にしてもらえるか。翻訳がないと僕らはしゃべれませんから」

―――様々な言語に翻訳されることで、私たちも大恐慌時代の演劇の空気を感じることができますね。今作を上演するにあたり、どのようなお気持ちでしょうか?

加藤「初演の時に、劇中に客席から拍手が起こりました。それは登場人物たちのパワーに対して『よくぞ!』という拍手だと思いますが、今回もそれぐらい元気を与えられたら良いですね。他に見せるところは大してなくて、元気になるっていう作品です(笑)。コメディはどれもそうですが、『あ~、観て楽しかった!』というのが一番。また劇場で元気になれる時が来ないといけないので、頑張りたいです」

(取材・文&撮影:河野桃子)

プロフィール

加藤健一(かとう・けんいち)
静岡県出身。
1968年に劇団俳優小劇場の養成所に入所。卒業後は、つかこうへい事務所の作品に多数客演。1980年、一人芝居『審判』上演のため加藤健一事務所を創立。その後は、英米の翻訳戯曲を中心に次々と作品を発表。1982、1994年、紀伊國屋演劇賞 個人賞、1988、1990、1994、2001年、文化庁芸術祭賞、2002年、第9回読売演劇大賞 優秀演出家賞、2004年、第11回読売演劇大賞 優秀男優賞、2013年、第38回菊田一夫演劇賞、他演劇賞多数受賞。2007年、紫綬褒章受章。2016年、映画『母と暮せば』で第70回毎日映画コンクール男優助演賞を受賞。

小田島恒志(おだしま・こうし)
1962年生まれ、東京都出身。
翻訳家、英文学者。翻訳家・小田島雄志の次男として生まれ、早稲田大学英文科卒業後、同大学院博士課程、ロンドン大学修士課程終了。1995年度湯浅芳子賞受賞。妻の小田島則子との共訳による翻訳が多い。小田島雄志と共訳で 『レイ・クーニー笑劇集』、『シェイクスピア劇場』を手掛けたほか、主な翻訳作品として『GHETTO/ゲットー』、『ニュルンベルク裁判』、『コミック・ポテンシャル』、『コペンハーゲン』、『アルカディア』、『ピグマリオン』、『チルドレン』などがある。

堤泰之(つつみ・やすゆき)
1960年生まれ、愛媛県出身。
東京大学教育学部中退。在学中よりネヴァーランド・ミュージカル・コミュニティにてオリジナルミュージカルを創作。 1992年にプラチナ・ペーパーズを設立。 また1995年にスタートさせたオーディションシステム「ラフカット」は、若手役者の登竜門となっている。最近の主な作品に、ジグジグ・ストロングシープス・グランドロマン『フルハウス』、朗読劇『5 years after』などがある。脚本を手掛けた『煙が目にしみる』は、加藤健一事務所で2000、2002、2005年に上演し、2018、2020年には演出も務めた。

公演情報

加藤健一事務所 vol.110
『THE SHOW MUST GO ON ~ショーマストゴーオン~』

日:2021年9月1日 (水) ~12日 (日) 
場:下北沢 本多劇場 ※他、京都公演あり
料:5,500円
  高校生以下2,750円
  ※要学生証提示・当日のみ
 (全席指定・税込)
HP:http://katoken.la.coocan.jp/
問:加藤健一事務所 tel.03-3557-0789

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