新派「花柳十種」にも数えられる日本演劇界の名作、“新鮮に”上演! 暗闇に落ちた人間が芸によってつながり光をみつける芸術賛歌

新派「花柳十種」にも数えられる日本演劇界の名作、“新鮮に”上演! 暗闇に落ちた人間が芸によってつながり光をみつける芸術賛歌

 劇団新派所属の俳優・桂佑輔が「呼び覚ます、無限の記憶」を掲げて立ち上げた演劇カンパニー「PRAY▶」。古今東西のあらゆる様式を自在に付け替え、次々と視点を切り替えていく「PLAY LIKE PRAYING」という手法を用いて、観客が夢幻の世界を体験する特別な時間を提供している。

 第三回公演に選んだのは新派「花柳十種」にも数えられる泉鏡花原作の久保田万太郎作『歌行燈』。明治の世、過去の不幸な出来事により運命を変えられた男女が出会い、芸を通して心を通わせていく物語だ。古式の能楽上演方をモチーフにしながら、東海道中膝栗毛をはじめとした、ありとあらゆる国文学の素養が下地になっており、“神品”と言われながらも、その難解さ等から四半世紀に渡り上演記録が確認できていない本作を今こそ復活させる。主宰の桂、そして主演・恩地喜多八役の林佑樹、お三重(お袖)役の春本由香の3人に意気込みを聞いた。


没入感を是非体験して欲しい

――――第三回公演に本作を選ばれた理由と見どころを教えてください。

桂「新派劇という、現代演劇とは全く異なる方法論で作られる、日本独自の非常に魅力的で素敵な演劇があります。それを世界の中に位置付けてみたいという考えが「PRAY▶」の出発点になっていて、今回で3作目です。中でも『歌行燈』は花柳章太郎という稀代の役者、人間国宝によって演じられた傑作選“花柳十種”の1つにも数えられ、様々な要因で上演が困難な作品です。例えば、本作を演じる上で複数の役者達が仕舞・謡・鼓・三味線など沢山の芸能を習得する困難があること等があげられます。貴重な日本の古典が歴史に埋もれていってしまったとしたら悔やみきれないという気持ちもあり、現代に復活させようとなったわけです。

 本作は、芸の力で世の中を照らす、芸道や人の魂を照らすことが根幹に流れていると感じました。芸術や文化が岐路に立たされているコロナ禍の今に光もたらす作品だと確信しています。一見、「恋愛もの」と思われがちですが、たまたま天の導きによって男女が出会い、自らの片割れをみつけたかのように、芸の力で結ばれていく様はまさに芸術賛歌や人間賛歌とも言えます。

 その魅力を一言で表すとすれば、没入感でしょうか。それも、舞台でしかなしえない素晴らしい体験だと思います。僕は舞台を、目に見えないものすら見ることができ、聞こえない音すら聞くことが楽しめる唯一のメディアだと思っています。それを100人が100通りの体験を同時にできるのですから、もうこんなスペシャルなことなんてあるのでしょうか!良い作品を作って是非お届けしたいですね。

 また泉鏡花の書いた言葉自体音楽と捉えることによって、ポエトリーラップやコンテンポラリーダンスといった、和のものでない音楽や芸能の要素も適切に盛り込みます。お客様には、生の舞台だからこその素敵な時間を過ごしていただきたいです。」

春本「今回「PRAY▶」には初めて参加させて頂きます。桂さんは新派の先輩でもありとても緊張しております。『歌行燈』は大変な名作なので不安はありますが、得る物も大きいはずなので、挑戦させて頂くという感覚です。また新派に所属されていた時から仲の良い林佑樹さんと相手役を組めるのも魅力に感じました。中学生の頃に日本舞踊は習っておりましたが、能楽はまた違ったものですし、芸事の頂点に君臨する存在ですよね。むしろ神事に近い感覚です。稽古を通じてどこまでその世界に迫れるかも1つのチャレンジだと思います。

 桂さんのように新しいことを始めるのは大変勇気がいることですし、コロナ禍で公演自体が減っている中で、アクションを起こすことは大変な労力が求められると思います。だからこそ私も持てる力を全て注いでその一助となれば嬉しいです」

林「前作『滝の白糸』では女形でしたが、今回は男役、我々の世界で言う立役に挑戦させてもらいます。『歌行灯』と聞くと、お能の世界が絡むこともあり、難しいイメージをお持ちになる方が大半だと思いますが、実はファンタジーだと思っていて、あまり難しく考えずに観ることが出来るのではと感じています。最高峰のお能と言っても演劇の1つ。所作1つひとつに意味があるという観念はこの芝居を盛り立てていくキーワードになると思います。この動作にはどんな思いが込められているんだろうと考えを巡らすことで、お能自体もファンタジーに感じ取れて、さらに奥が深い楽しみ方ができます。勿論、一筋縄ではいかないことも色々出てくるでしょうが、その中での葛藤、芸と芸の葛藤は作品により深みをもたせると思います。

 喜多八はかつて能楽界の鶴と呼ばれて将来を嘱望されていましたが、若気の至りでお袖の父を自死に追い込んでしまい、そのことで家を破門されてしまいます。家を出されてからも芸の世界で身を立てている喜多八は、同じ芸の道に生かされ、芸なしでは生きていけない自分としても大変共感できる部分があります。

 桂さんが仰ったように、芸の力で引き寄せられることは恋愛的な感情で惹き合うよりももっと大きな力です。何百年と代々受け継がれてきた芸は姿かたちが見えるものではなく、感情でもなく、心の底にあるもの。自分達が気づいていない部分で引き寄せ合うのもファンタジックである理由の1つですし、物凄く魅力的なことです。お客様には間違いなく楽しんで頂ける事をお約束いたしますし、夢を持ってお帰り頂けると思います」

を志す者同士が向き合う尊さ

――――役者にも高いハードルを求められる本作ですが、主演のお二人は劇団新派でともに芸を磨かれた絆があります。

桂「人間と人間が完全に分かり合うことはすごく難しいことで、ほぼ不可能だと思いますが、もしかしたら芸の上でなら可能なのではないかと思えてなりません。というか、信じたいだけかもしれませんが(笑)。俳優・女優という括りではなくて、純粋に同じような心をもった者同士が舞台の上で本気で向き合うことで、一つ目にみえない壁を破れるんじゃないかと。それをこのお二方(春本・林)なら出来るのではないかと思います」

春本「そう言って頂けて非常にプレッシャーがありますが、それをバネにして出来たらと思います」

林「僕は由香さんもお役に近いんじゃないかと思うのですよ。父を自死に追いやり、自分が芸者になる道を作った喜多八に出会いながらも、同じ芸を志す者として喜多八に芸を仕込んで頂く。なんとない感覚ですが、由香さんにとても近いとにらんでいます。やらなきゃいけないことは沢山ありますが、その戦っている姿をそのまま見せてくれたら良いお袖になると思うんです。必然的にそうなりますよ」

桂「僕は陸上競技にも似ているなと思うところがあります。ゴールに向かってひた走る選手に僕達は感動するわけですが、同じ感覚をこの作品には覚えます。何かに向かってひた走る人達を目撃してもらうことに晴れ晴れとした爽快感を覚える意味では共通点も多いと感じました。だから皆様には目撃者になってもらいたいですね」

ローカルの魅力に誰もがアクセスできるチャンス

――――名作でありながらも、継承者がいないことで消えゆく伝統芸能も少なくありません。そういった事への危機感を感じていらっしゃるのでしょうか?

桂「僕個人としては全く感じていません。世界が標準化していく中で、実はローカルゆえの希少性から相対的に魅力が増していると思います。また、プラットフォームがかわり、少なくとも情報を世界に発信する上では、発信元の規模の差は間違いなく縮まっていて、人々の趣味も細分化しています。届くように適切に魅力を発信することは確かに課題になるとは思いますが、チャンスでしかないと捉えています。」

――――最後に読者にメッセージをお願いします。

春本「1960年に上演された市川雷蔵さん主演の映画版『歌行灯』で私の祖父の春本泰男が出演しているので、そういう事も縁もありますし、「新派劇」の新しい魅力を追求した作品でもあるので、是非多くの方に見て頂ければと思います」

林「色んな意味で話題になる作品だと思います。主演で立役は初なので、奮闘する林佑樹を是非目撃しにきて頂ければと思います。まだまだ大変なご時世ですが、夢や希望を持って劇場からお帰り頂けるように一生懸命努めます」

桂「泉鏡花の原作の中に『(謡が)白き虹の如く、衝(つ)と来て、お三重の姿に射した』という一文があるのです。白い虹は存在しませんし、ましてや日差しのように人に射すなんてこともありませんが、僕らの舞台が、目に見えない光となってお客様に日差しのように「射し」たらば嬉しいです。PRAY▶の魅力満載の作品ですので、是非劇場に体験しにいらしてください。皆様のご来場を心よりお待ち申し上げております」

(取材・文:小笠原大介 撮影:山本一人(平賀スクエア))



そろそろ寒くなり始める季節。冬に向けて準備していること、楽しみにしていることはありますか?

桂佑輔さん
「準備していることというか、ふぐの調理師免許をとりたいなと。今年の冬は間に合わないのですが、いや、本当、これで中々本気なんです。根が引きこもり体質で何でもかんでも家でやっちゃいたいもので………おいしいフグをいつでもおうちで捌いて、ドテラ着こんだラフな格好でなんて、冬の寒い日が楽しみで仕方なくなること間違いないきっと(笑)」

春本由香さん
「冬に向けて準備している事、楽しみはやはり衣替えですかね! 今まで半袖だったのをだんだん私の好きなジャケットを着る季節になってきましたので、半袖をしまいジャケットのターンに切り替えられるのは楽しみです! 結構ジャケット好きで持っているんです(笑)。
 あとは食ですね! 寒い時期にしゃぶしゃぶ、すき焼き、鍋系の物が体に染みる季節ですのでそれも楽しみです!」

林佑樹さん
「冬になると困るのが“乾燥”。色々な肌トラブルが起きやすくなるので、ケアをするために化粧水を買い込んでます(笑)。
 楽しみにしている事はやはり食事でしょう! 中でも鍋料理が好きなので、色んな具材で楽しみたいと思います。ほっこり温まって、冬を乗り越えたいと思います!」

プロフィール

桂 佑輔(けい・ゆうすけ)
 1984年4月23日生まれ。慶応義塾大学文学部在学中に文学座付属演劇研究所(49期)に学び、その後小劇場で活躍。2016年劇団新派入団。『京舞』『遊女夕霧』『十三夜』(亥之助役)など新派の個展を始め、外部公演では藤山直美公演や『おばこ』(喜太郎役)などで三越劇場や新橋演舞場、大阪松竹座、国立劇場などに出演。映画『踊る大捜査線Final』(本広克之監督)『浸食』(釘宮直也監督)、TV『ハンチョウ5』(TBS)他、朗読作品など多数出演。
 2019年「呼び覚ます、無限の記憶」をキャッチフレーズに“Play like praying(祈るように演じる)”をテーマにした新しい演劇体験を提供する演劇カンパニー「PRAY▶」を立ち上げ、同年11月に旗揚げ公演『グリークス第1部「戦争」』を浅草九劇にて上演。

春本由香(はるもと・ゆか)
 1992年12月21日生まれ。東京都出身。歌舞伎役者の六代目尾上松助と元新派女優の河合盛恵を両親に持ち、兄は二代目尾上松也。高校卒業後に歌手活動を経て、2016年二代目水谷八重子の部屋子として劇団新派に入団。『婦系図』で妙子役を演じデビューを果たす。2017年1月NHKBSプレミアム時代劇『雲霧仁左衛門3』でテレビドラマ初出演。
 主な出演作に『黒蜥蜴』(2017年6月、三越劇場)岩瀬早苗役、『家族はつらいよ』(2018年1月、三越劇場)間宮憲子役、『犬神家の一族』(2018年1月、大阪松竹座、新橋演舞場)野々宮珠世役などがある。

林佑樹(はやし・ゆうき)
 1995年9月22日生まれ。島根県出身。劇団朱雀を経て、2014年3月新橋演舞場『空ヲ刻ム者』の玄和の弟子など本名で初舞台。4月、三代目市川猿之助門下となり、大阪松竹座『空ヲ刻ム者』で市川 猿珠(いちかわ えんじゅ)を名乗る(屋号は澤瀉屋)。2017年1月に師匠である二代目市川春猿が河合雪之丞と改名して劇団新派に入団する際に付き従い、新派に入団するとともに改めて河合雪之丞門下、河合 宥季(かわい ゆうき)と改名(屋号は白兎屋〔しらとや〕)。劇団最年少の女形として活躍した。
 2020年11月には、新派の同門でもある俳優の桂佑輔が演出・代表を務める演劇カンパニー「PRAY▶」第二回公演では新派の伝統的戯曲『滝の白糸』を大胆にアレンジした舞台において主人公である芸者白糸役を務めた。同月に劇団新派を退団後は芸名を林佑樹に改め活動中。

公演情報

PRAY ▶ 第3 回公演 『歌行燈』

日:2021年12月2日(木)~5日(日)
場:TACCS1179
料:前売・当日5,500円
  アンダー25[25歳以下]3,000円 ※要身分証提示
  (全席自由・税込)
HP:https://twitter.com/PRAY49773116
問:PRAY▶ mail:pray.thatrecompany@gmail.com

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