ハロルド・ピンターが描く不条理劇の傑作に若き2人が挑む! 奇妙な状況に追い込まれた2人の殺し屋が問う。「どう生きるのか」

ハロルド・ピンターが描く不条理劇の傑作に若き2人が挑む! 奇妙な状況に追い込まれた2人の殺し屋が問う。「どう生きるのか」

 タカイアキフミと公演ごとに集まった同志たちが妥協なく創造・共創する集団「TAAC」。その最新作は不条理劇の大家、ハロルド・ピンター原作の『The Dumb Waiter(料理昇降機)』だ。ある地下室で仕事の指令を待つ殺し屋のベンとガスは、料理昇降機を通して送られてくる見えない権力者の指示にどんどん奇妙な状況に追い込まれていく。性格も対照的な2人の姿を通して「どう生きるか」を問いかける二人芝居の傑作に挑むのは27歳の大野瑞生と横田龍儀。演出を手掛ける29歳のタカイと共に新しい感性が反映されるに違いない。


身が引き締まる思い

―――本作への出演が決まって率直な思いを聞かせてください。

大野「最初に台本を読んだ感想は『これをやる……のか?』という印象でした。それに加えて理由は分からないけども説明できない面白さがあり、出演が決まってからはずっと作品を意識しながら生活してきました。タカイさんとはTAACの海外演劇ワークショップを通じてご縁を頂き、そこに(横田)龍儀を連れていったことでこの3人の輪が広がりました。
 タカイさんと面識を持つ前からTAACの芝居は観ていてすごい世界だなと思っていたのですが、実際にお会いしてみたら年齢も2歳しか違わず、好きな演劇の世界観が似通っているというか、小さい世界を突き詰めるという感覚に共感を持ちました。タカイさんのお芝居は2度目になりますが、お互いに以前から経験を積んできているのでそういうものも反映しながら新たな気持ちで創り上げていけたらなと思っています」

横田「大野(瑞生)からタカイさんのワークショップに誘ってもらったことが自分としては非常に大きな転機になったと思います。こういう作品に触れていかないと今後の役者としての人生も進んでいかないと感じました。本作はすごく難しい作品ですし、これを演じるには色んな試行錯誤を求められると思いますが、そこに挑戦していかないと成長もないと思っているので、身が引き締まる思いと同時に楽しみでもあります」

―――海外戯曲に挑戦したいという気持ちは元々強かったのでしょうか?

大野「僕は2014年の『ヒストリーボーイズ』(小川絵梨子演出)に出演してから俳優として頑張っていこうと思ったので、海外戯曲にはずっと憧れがありました。でもまさかこれが来るとは(笑)」

見ている景色が移り変わる年齢

―――本作は40代の役者を中心に演じられてきましたが、20代のお2人がどのように作品を描くか非常に注目が集まります。

横田「僕達の年齢だからこそ、これまでと違った『ダム・ウェイター』が出来ると思っています。確かに芝居の説得力は年齢を重ねてついてくるものだと思いますが、この年齢だからこそ表現できるものもきっとあると信じています」

大野「27歳という年齢は青年から壮年に向かう過渡期というか、見えている景色が移り変わっていく特別な時期だと感じています。おそらくそれは殺し屋という仕事の見え方も変わってくる。そういう意味ではこれ以上ないタイミングですし、僕らにしかできない『ダム・ウェイター』になるはず。この年齢が正解というものが出来たらいいなと思います」

ただの二人芝居ではない

―――演出のタカイさんは「二人芝居は社会の対極であり、人間の表裏でもある」と話されています。お2人ならではの化学反応に期待が集まります。

横田「普段から仲が良い2人なので信頼を持って臨めると思いますが、難しい作品なので馴れ合いにせず、お互いに切磋琢磨にしながら出来たらと思います。これまで以上に相手の光と影の部分が見えるかもしれませんね。地下の密室という閉塞感はこのすみだパークシアター倉さんの雰囲気を存分に生かせる設定だと思うので、どれだけ2人で創り込めるか。今から楽しみです」

大野「僕は龍儀と二人芝居が出来るのはすごい良い事だと思っていて、彼といると自分が一番俳優としていられるんです。ワークショップのエクササイズでも全力で相手してくれますし、例え地味な作業でも一緒に楽しんでくれるので、僕はどこまでも自分をさらけ出せる。目と目で感じあえる数少ない一人です。多くの共演者の方はほぼ初めましてから関係を作っていくので、どうしても時間がかかりますが、龍儀とはすでにその感覚が共有できているので、そういう意味ではただ二人芝居をやるのではなく、“龍儀とやる”という感覚です。
 会場のすみだパークシアター倉さんは座席列の角度が高く設定されているせいか、僕らから見ると壁のようにも感じます。それだけお客様の反応が見えやすい。役者は舞台セットを含めてリアクションしていくものなので、その意味ではやりやすい環境ですね」

横田「そこまで褒めちぎられると逆に恥ずかしいわ(笑)。でも瑞生は日頃からお芝居の話をしてくれるので、僕からすれば勉強させてもらっているという感覚ですし、彼の演技を盗みつつ自分の可能性も見つけていきたいと思っています。
 2人で同じ作品で高め合えるのは嬉しいことですし、コロナ禍の難しい時期にお芝居に向き合えることは本当に幸せなことです。お互いが27歳という年齢でこの作品を演じることが出来るのをこれ以上ないチャンスだと思っているので、間違いなく良い作品に仕上がると信じています」

―――さらに今回はお2人が役を入れ替えて演じます。

横田「お互いの性格を良く知っているので、間違いなく同じ演技にはならないと思います。瑞生はしっかりしているけども自分はそうではない。その違いがそれぞれのキャラクターにも反映される可能性はあるでしょうね。役は同じでも内面は全く違うものが出来ると思っているので、俺はこういうガスやベンを作るという気持ちで臨みたいと思います」

大野「負けたくないという感覚はある?」

横田「それはないね。俺は瑞生に対してしっかり応えたいし、瑞生の心を動かす芝居をしたい。負けたくないというよりもより瑞生が生きる演技をしたいと思ってる」

大野「自分も同じことを思ってました。僕らは似たようでちゃんと違う面はあって、それに対して負けたくないという感覚はないです。でも台本を通して感じたことですが、ベンはガスに、ガスはベンになりたいという気持ちがあると考えていて、僕らの関係性も一緒。お互いに憧れている面があります。 
 だから役が変わろうがその気持ちがあれば、2人がどちらを演じてもそれぞれの良さが出ると信じています」

横田「それでもきっとお互いに、『昨日のあいつの言い回し良かったな。俺も真似しよう』ってなるかもね(笑)。でもそこを意識しすぎると演技をなぞってしまうので、きちんと線引きをする必要があると思う」

大野「それは確かにありそうだね。昨日は良かったと思ってもそれは過去のものなので、目の前にいる相手の表情1つ1つに集中して、“今”の演技を大事にしたいよね」

役者人生を賭けて

―――役者としての幅を大きく広げる転機となる作品になりそうですが、何を賭けて臨みたいですか?

横田「僕が賭けるとしたら人生しかないですね。役者をなんとなく続けることは出来ると思うんです。でも同じ時間を過ごすのならば、観ている人の心を動かせる役者になりたい。だからこの作品で自分がどれだけ変われるかを賭けたいと思います。以前、役者としての限界を感じていると瑞生に打ち明けた時に『とことんのめり込んで役を作ったことはないんじゃないか?』と言われたんです。
 確かにこれまでの作品も自分なりに考え抜いて演技したつもりですが、終わってみるとまだ出来たことがあったんじゃないかと。だから『ダム・ウェイター』では終わった時に、全てやり切ったと思えるようにしたいです」

大野「僕ら2人の人生ですね。龍儀をこの作品に導いた責任もありますから。
 役者として壁に当たって真っ暗闇の中にいても、この『ダム・ウェイター』を演じることが小さな光となって希望になっていました。やっとその小さな光を大きなものにするタイミングなので、2人の人生を賭けたいと思います」

―――最後に読者にメッセージをお願いします。

横田「この2人でしかできないことがあります。1公演1公演で見え方が変わってくると思いますし、僕らも全身全霊で臨みます。どうか一瞬も見逃さずに観て頂きたいと思います」

大野「稽古に臨むにあたり私生活の過ごし方も大きく変えました。僕らのファンの方であっても、本作での僕らの印象は大きく変わると思います。全ての動作1つ1つに意味を持たせるようにするので、お客様には受動的でなく、能動的に観て頂きたいです。これまでやってきた集大成をお見せしますので是非、劇場にお越しいただければと思います」

(取材・文&撮影:小笠原大介)

プロフィール

大野瑞生(おおの・みずき)
1994年8月1日生まれ、岡山県出身。
16歳で映画『育子からの手紙』(村橋明郎監督)に出演。以後CMやテレビドラマなどで活躍し、2017年には舞台『黒い羊の仮説』で主演。2019年にはミュージカル『刀剣乱舞 ~歌合 乱舞狂乱~』@さいたまスーパーアリーナにも出演した。
近年の主な出演作品に舞台『世界が消えないように』、『家族のはなし』、テレビ『ボイスⅡ 110緊急指令室』(NTV)、『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』(TBS)などがある。

横田龍儀(よこた・りゅうぎ)
1994年9月9日生まれ、福島県出身。
2013年から地元テレビ局への番組出演を中心に活動開始。2017年3月ミュージカル『刀剣乱舞 ~三百年の子守唄~』物吉貞宗役に抜擢され注目を浴び、MANKAI STAGE『A3!』~SPRING & SUMMER 2018~ 春組・佐久間咲也で初座長を務めた。
近年の主な出演作品に2020年12月ミュージカル『グッド・イブニング・スクール』主演、2020年日本テレビ『ただいま!小山内三兄弟』太地役などがある。

公演情報

TAAC『ダム・ウェイター ― the Dumb Waiter ―』

日:2021年11月3日(水・祝)~10日(水)
場:すみだパークシアター倉
料:5,500円(全席指定・税込)
HP:https://www.taac.co/thedumbwaiter
問:【チケット問合せ窓口】Mitt
  tel.03-6265-3201(平日12:00~17:00)
  【公演問合せ窓口】TAAC
  mail:info@taac.co

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