愛した男は、父の仇。女任侠物語。 “つか芝居”に挑み続け20 年。「これが私達の作品」と言える芝居へ

愛した男は、父の仇。女任侠物語。 “つか芝居”に挑み続け20 年。「これが私達の作品」と言える芝居へ

 「好きになった男が自分の父を殺していた……その設定だけでもう目が離せなくなる」

 つかこうへいの小説『二代目はクリスチャン』が出版され、映画が公開されたのは1985年。敬虔なシスターがやくざの組長の二代目を襲名するアクションコメディとしてヒットした。2007年にはつか自身から「やってみろ」と言われた渡辺和徳が、つかが半分ほど書いていた舞台脚本をベースに書きあげて上演。シスター今日子役を高野愛がつとめた。

 「つかさんのヒロインは若い人がやるイメージだし、今日子の設定は16歳。当時の私は25歳だったので“周りになんとか納得させなきゃ”と無我夢中でやりきりました。今、さらに14年が経ち“この歳でできるのかな”という気持ちはあります」

 しかし再演は高野が熱望した。この作品で勝負したかったからだ。

 「つか作品を20年もやり続けてきた女優は他にいない。そして立ち回りが私の武器。この二つの強みを活かすには『二代目はクリスチャン』しかないと頼み込みました」

 2007年初演より人物背景をシンプルにし、そのぶん熱量を込める。北区つかこうへい劇団員だった3名で立ち上げた9PROJECTだからこそできる“つか芝居”を目指す。

 「『二代目はクリスチャン』は、つかさんのアイデアをベースにして自分達で作り上げた、いわば公式オリジナル作品。つかさんの芝居だけど、私達の芝居なんです。でも不思議なことに、ずっとつか作品を上演してきた私達が作品を突き詰めると、似せようとしていないのに似てくる。『これだよね! つか芝居!』とお声をいただくんです。やっぱりつか作品の持つ力はすごいですよ。手の平の上で転がされているみたいで悔しいけど(笑)」

 つか作品には女性の登場人物が少なく、ともすると女性的役割を一身に背負わされる。しかし9PROJECT が贈る本作では、女性は他の人物と同じくひとりの人間として迷い、もがき、愛する。ただひとりの人間が懸命に生きる姿が浮かび上がる。そこに“つか芝居”の本質のようなものが感じられるのだろう。

 「つか芝居には、しんどい思いをしながら一生懸命生きる人達が出てくる。苦しさも嬉しさも生き切った先に、観た人が“明日も頑張ろう”と元気をもらえる。だから離れられないのかな。これ以上にやりたいことはこの先の人生ではもうない気がする。大変だけど、そこにしかないことがあるから続けています」

(取材・文:河野桃子 撮影:友澤綾乃)


“忘れられない夏の思い出”を教えてください

高野愛さん
「2008年の夏、つかさんが演出した舞台『幕末純情伝』の稽古をしていた時です。つかさんがシーンの演出をしていて役者相手に怒鳴り声を上げた瞬間、同時に雷が落ちたんですよね……。ものすごい音で、とても近くに落ちました。その後しばらくつかさんも外の天気も大荒れでした。あの時、つか先生は雷までも演出してしまうパワーがあるのだと震え上がったのを今でも鮮明に覚えています。(笑)」

プロフィール

高野 愛(たかの・めぐみ)
2001年、北区つかこうへい劇団に9期生として入団。『飛龍伝』、『熱海殺人事件』、『蒲田行進曲』、『二代目はクリスチャン』など、つかこうへい作品のヒロインを次々と務める。NHK BS時代劇『テンペスト』、土曜時代劇『オトコマエ!2』などの映像作品、また、新橋演舞場『大和三銃士』、明治座『神州天馬俠』、劇団EXILE『レッドクリフ -戦-』など、多様な作品で活躍中。そのほか、得意の殺陣・ダンスの指導や、モーションキャプチャー、音楽ユニットのゲスト出演など多方面で活動。

公演情報

9PROJECT VOL.15 シアターΧ提携公演
『二代目はクリスチャン』

日:2021年10月8日(金)~10日(日)
場:シアターX
料:一般3,500円 学生2,500円(全席自由・税込)
HP:https://www.9-project.net
問:9PROJECT tel.050-5889-5877

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