役割が先か、自分が先か。人の存在証明を問う 劇団5454新作『誰々』公演レポート

2012年4月、脚本家・演出家の春陽漁介を主宰に始動した劇団5454。誰もが見聞きする人や事を心理学や社会学、物理学などを使って掘り下げ、舞台公演を通して日常に新たな視点を提案。人間の心理的な部分から作られるヒューマンコメディーを得意としている。そんな劇団5454の約1年半ぶりとなる新作は、「役割」をテーマに描いた『誰々』。ありふれたコミュニティにおける役割という視点から始まり、人の存在証明にまで思考を巡らせるSF作品だ。

舞台上に、無造作に置かれたいくつかの机と椅子。メインとなるのは姉(榊木並)の実家だが、机や椅子をキャストたちが舞台の外に移動させることで、そこがオフィスになったりファミレスになったりと変化し、ストーリーが展開していく。さらには、キャストが椅子を舞台下に乱暴に放り投げたり、四方に張り巡らせられたロープをギュッと縛りつけたりすることで、束縛願望や怒りなどの感情を表現するといった演劇的な演出も、神秘的な劇伴と相まって味わい深い。

舞台と客席という隔たれた空間ではありながら、ハッキリとした境界がないつくりの劇場であることで、目の前で進行していることが、まるで自分の生きる世界で地続きに起こっているかのような感覚に陥るのも心地よい。

劇中では何回か暗転があり、実家やオフィスなど、さまざまなシチュエーションで一斉に朝を迎えるところからスタートする。そのたびに、登場人物それぞれの人間関係の立場や距離感が変化し、自ずと「役割」も変わっている。本作に出てくるのは、母や弟、彼氏、友達、先輩・後輩など、自分をとり巻く環境に存在し得るキャラクターばかり。それだけに、己をさまざまな立場に投影させながら、多角的に見つめることができるだろう。

物語は、弟(榊原美鳳)が失踪するところから始まる。「今までは、姉に決められた人生だった」という弟は、“彼女”や、たまたま公園で出会った男たちには、本心を吐露することができる。その心理もよくわかるし、“彼女”が提示する「人生を点でとらえるか、線でとらえるか」という考え方、そして、そこから導かれる「だから、今は好き」という結論にも大きく頷いた。

やみくもに仕事を引き受けてキャパオーバーになっている社員は、「自分にお願いしてくれているのに断れない」という。それに対して同僚が放った「やりがい中毒」という言葉。弟がたまたま公園で会った男から言われた「記憶に残らないで」という言葉。劇中には個人的にハッとさせられる言葉がいくつもあった。

また、今回、作品の一部をティザーコミックとして事前に公開するという試みが行われた。「叔母の奇妙な話」というタイトルで、阿澄佳奈演じる叔母が話す奇妙な出来事を描いたものだが、実はこの叔母、本作のなかでキーマンともいえる立ち位置。たしかに変な人ではあるのだが、どこかフフッと笑ってしまうかわいらしさが漂っているのは、阿澄自身の佇まいや手腕によるものだろう。

人は知らず知らずのうちに役割を担い、そこに自身の存在意義を見出している。だが同時に、何者でもない自分でありたいとも願っている。弟が姉に「誰にも求められなくなったら終わりだよ」と言われて「俺はそれでいい」と答えるシーンは、相手に合わせて“着替える”ことに疲れた人からは、大きな共感を得るのではないか。そんなふうに、この作品を観る年齢やタイミングによって、刺さる言葉も違うはずだ。

作・演出を手がける春陽漁介は、本作について「自分の性格によって役割が生まれているのか、役割によって自分の性格が構築されているのか。考えなくても健やかに生きていけることですが、ぜひ共に、自分自身が担っている役割を模索してください」とコメントしている。

「卵が先か鶏が先か」と同様に、簡単に答えの出る問いではないだろう。劇中で主人公は終始、力戦奮闘している。それは、何のためなのか。何が動機づけとなっているのか。自分なりに模索することで、今の状況下での最適解が見つかり、少しだけ息がしやすくなるかもしれない。

(文:林桃、写真:劇団5454)

公演概要

劇団5454 2026年本公演『誰々』
公演期間:2026年7月31日(金)~2026年8月11日(火・祝)
会場:すみだパークシアター倉

■出演者
榊木並
森島縁
窪田道聡
及川詩乃
高品雄基
岸田百波
(以上、劇団5454)
阿澄佳奈
伊澤実輝
北久保実佑(カムカムミニキーナ)
榊原美鳳
佐瀬恭代
佐野剛
真辺幸星

■スタッフ
作・演出:春陽漁介(劇団5454)
制作:堀萌々子(劇団5454)/横山真理乃(劇団5454)
企画・制作:劇団5454

■公演スケジュール
7月31日(金)19:30
8月1日(土)13:00/17:30
8月2日(日)13:00★
8月3日(月)15:00★
8月4日(火)14:00★/19:30
8月6日(木)19:30
8月7日(金)14:00/19:30
8月8日(土)13:00/17:30★
8月9日(日)13:00
8月10日(月)15:00★
8月11日(火・祝)13:00

★=終演後、アフタートークを実施いたします。

登壇キャスト等の詳細は公式HPをご確認ください。

■チケット料金
A席:6,000円
B席:5,000円
U22割:3,000円(※指定席引換券)

OPEN割(7月31日(金)19:30、8月1日(土)13:00/17:30 )
A席:5,000円
B席:4,000円

残業しないで観劇割(8月4日(火)17:30、8月6日(木)19:30、8月7日(金)19:30 )
A席:5,500円
B席:4,500円
(全席指定・税込)
※U22割:当日身分証をお持ちの上、受付にてご提示ください。なお、座席選択はできません。
※観劇バトン割以外の併用はできません。

※当日券は各種+500円

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