ミュージシャンとダンサーの境界を越える──石山雄三率いるA.P.I.『decr.』稽古場レポート

様々なサウンドやインスタレーション、デジタルデバイスといった要素と、身体の動きを統合した作品で国際的にも評価の高い石山雄三。自らの作品だけで無く新国立劇場バレエ団への振付なども手がける石山が主宰する、アーティスト・コレクティブA.P.I. が新作『decr.』を発表する。そのリハーサルを拝見しに、2月某日、稽古場に伺った。

稽古場に入ってすぐ目に入ったのは、舞台の大きさに区切られたスペース。あちこちにケーブルで繋がれたいくつものフットスイッチやボリュームペダルが配置されている。作品詳細によると「ダンス公演と音楽ライブの『ボーダー』を取り払う、世界でも類を見ないアートパフォーマンス」とあるが、石山は本作だけで無く、これまでもダンサー/パフォーマーの動きによって発した”音”をサンプリングし、それを背景にした作品を発表している。今作もその延長線上と言えるだろう。

その仕組みはというと、まずダンサー(石山)の両手にはワイヤレスマイクのような装置がつけられ、それを勢いをつけて振ることで生まれる空気を斬る音が素材として入力される。それは次にディレイが掛かることでリズムをもったフレーズとなり、さらにルーパー(注記1)で反復することで1つのサウンドトラックとして生まれ変わる。音を出すための身振りは同時にダンサーの身体表現であり、ダンサー即ちミュージシャンでもありうるわけだ。石山による「ダンサーとミュージシャンとの間に在るボーダーは思い込みに過ぎないのでは無いか?」という問いが、そのまま現実に描き出されている。

石山はステージ平面を縦横に移動し、フットスイッチに行き当たったところで操作を行い、音の素材を追加したり、音を変化させたりする。その動きは見えないグリッドに支配されているようにも感じる。音を構築するために演者は動くが、逆に言えばスイッチの場所に行かないと操作ができない。こうした一連の動きも、石山が言うところの「モノとヒトとのコミュニケーション」というところにつながってくるのかもしれない。

こうして生み出されていくサウンドに加えて、我が国のジューク/フットワーク(注記2)・シーンで熱狂的な人気があるトラックメイカー、CRZKNYによるサウンドトラックも用意されている。石山は時にその両方をミックスして、音の背景をさらに積み重ね、深く掘り下げていく。

ダンサーとして登場するのは石山の他に平多理恵子の二人だけ。普段はモダンダンスの世界で活躍している平多は、これまでにも石山の諸作品に参加しているので、石山にとっては気心が知れている相方だろう。そもそもダンサーとしてのスキルが高いので、石山の求める動きをすぐに表現してみせる。準備が出来たところで二人が揃うシーンも披露してくれた。せわしなく動き回り、スイッチ操作で音をコントロールしつつ身体を動かす石山に対して、彼女はスペースに現れてからしばらく微動だにせず、やがてゆっくりと動き出した。対照的な2つの動きが交差してスペースを支配していく。さらに二人が腕に音を発するタイプのデバイスを取り付け、そこから出る音をきっかけに動くシーンも披露してくれた。デバイスから出る音に導かれるように、時にはズレて、そして時にはシンクロする二人の動きが非常に興味深かった。

作品を通して石山が表現したいのは「2020年代の『停滞感/衰退感』」だという。音の背景を創るために休みなく移動する石山は、やがて動く事をあきらめてしまい、「立ち尽くすことしか出来ない出演者の姿」がそこに浮かび上がってくる。タイトルである『decr.』は、音楽用語の「デクレッシェンド」(徐々に小さく)からとられているそうだから、つまりは徐々に枯れていく姿ということなのだろう。

そしてここから先、照明も加わることで二人の表現は更に奥行きを深めていくはずだ。単なるダンス作品でも、コンサートでもないユニークな本作は、観客にこれまで無かった経験をもたらすに違いない。

注記1:ルーパー 入力信号を反復して再生する装置
注記2:ジューク/フットワーク シカゴ・ハウスをルーツに持つ、クラブミュージックの1ジャンル

(取材:渡部晋也)

公演概要

A.P.I.
Dance Performance ”decr.”

2026年
3月14日(土)18:00開演
3月15日(日)15:00開演+18:00開演

会場:R’s アートコート/東京都新宿区大久保1-9-10
JR 新大久保駅より徒歩8分  https://ro-on.tokyo/rsartcourt 

チケット:前売・予約 4,000円/当日 4,500円
*全席自由/整理番号順入場/整理券は開演30分前から配付予定。
前売開始:2026年1月14日(水) 予約:www.info-api.com
チケット取扱:チケットぴあ/イープラス/カンフェティ/A.P.I.

主催:A.P.I. 
コンセプト/ディレクション:石山雄三
オリジナル・サウンドトラック:CRZKNY
ライティング:畠中泰正(Lighting ETHNOS)
サウンド:遠藤幸仁(LSD Engineering)
コスチューム:るう(ROCCA WORKS)
舞台監督:下谷高之
共同演出:坂本貫太
システム制作協力:松尾邦彦
写真撮影:片岡陽太
映像収録:飯名尚人(Dance and Media Japan)
プロデューサー:田畑”10″猛(もらすとしずむ)
スタッフ:田畑優美、芝田 和
出演/共同振付:石山雄三、平多理恵子
特別協力:AlphaTheta株式会社

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